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13 デートの日が来てしまいました

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 あの雨の日から数日が経った。短い雨季は過ぎ去り、季節は夏に向かおうとしている。

 今日はライシスとデートの予定だ。ディミエルは自室の鏡の前で棒立ちしていた。

 もうかなりの時間、体は固まったままでいたが、心の中はそれはもう忙しかった。

(デートって、なに着ていけばいいのかわからなさすぎるんだけど、ほんっとうにこの格好でいいの……!?)

 ディミエルは、普段着の中でも小綺麗な灰色のブラウスと、ネイビーのロングスカートを履いていた。

(どうせ町ではローブ被っているから、適当でいいやって茶色とか鼠色ばかり着ていて、選択肢なんて他にないけど……)

 せっかく都会に出てきたのに、オシャレにほとんど興味を持たなかったことが仇になった。

(デートらしい服ってなに!? そもそもローブは着ていっていいの、駄目なの? 何着ればいいか、わかんないよ!)

 もはや考えすぎて思考がループしているのにも気づかないほど、ディミエルは動揺していた。

 けれど無情にも、約束の時間は迫ってくるわけで。

 ディミエルはもう一度自分の姿を確かめた後、結局ローブを被り家を出た。


*****


「ディミーちゃん、こっち!」

 ライシスが、銀色の髪に負けないほどに光輝くような笑顔で、手を降っている。

 広場の街灯にもたれかかっていた彼が身を起こすと、周りの女性の視線がそれを追いかける。

 ディミエルは内心悲鳴を上げながら、小走りで駆けよった。

「ごめんなさい、遅れてしまって」
「君のことを考えていたらとても楽しくて、待つ時間すら楽しかったよ。さあ、行こうか」

 自然と差しだされた手に、戸惑いの表情を浮かべるディミエル。

 周りの女性たちから、敵意のこもった視線で射られるのが怖いから、やめてほしいんだけれど。

「ディミーちゃん、今日はせっかくのデートなんだから、余計なことは考えないで、俺のことだけを見てくれよ」
「え、その、えっと……わっ」

 まごついているディミエルの手をとって、ライシスは歩みはじめる。

 ディミエルは引かれるままについていった。

 歩きはじめたライシスは、ディミエルのローブの隙間に視線を落とす。

「その服、見たことないやつだ。俺の為に着てきてくれたの? 嬉しいな。ローブを脱いで見せてよ」
「変な格好だと思うから、見せたくないの」
「そうかな? 見てみないと、似合ってないかどうかわからないよ?」

 とろけそうなほどに甘い瞳で見つめられて、ディミエルは今すぐにここから逃げだしたくなった。

 ライシスは初夏に相応しい、爽やかな水色のシャツを着こなしている。なんだか自分の地味さが、恥ずかしくてたまらない。

「も、もう帰りたい……」
「どうして!? ひょっとして体調が悪い? 抱えて歩こうか?」
「それは絶対にやめて! 元気なので! 歩きます!」
「そうか? 疲れたらいつでも抱えるから、遠慮なく言ってくれ」

(そんなことされたら、もう二度と町に来たくなくなるよ!)

 上機嫌に歩くライシスの横を、気後れしながらついていく。

 銀色の髪をなびかせて歩く彼は自信に満ちていて、よりカッコよく見えた。

(隣を歩くと私まで目立っちゃうな。全然お似合いじゃない、とか思われていそう……)

 いや、別にお似合いでなくたっていいはずだ。別につきあっているわけじゃないのだから。

 だけどデートしていると思うと、どうしてもその先を意識してしまう。

 ライシスと恋人同士になったら、いったいどんな風につきあうことになるんだろう……ディミエルは頭を振って思考を振り払う。

(だから、つきあう気はないんだってば! そりゃ、ちょっとはいいなと思わなくはない、けど……)

 一人で百面相をしていると、通りを走っていた馬車が突然止まった。

 なんだろうと脇に避けると、中から見覚えのある人物が降りてきた。

「ディミエル、今日は町に来ていたんですね。ここで会えるなんて僕は運がいい」

 カーフェレン伯爵子息のセレストが、馬車のタラップを優雅に降りてきた。
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