上 下
39 / 178
第二章 陰謀恋愛編

181 落下

しおりを挟む
 水を汲みおわって立ちあがり、数歩移動した時だった。急にダンジョン内の空気が変わった気がした。

 ハッと振り向いた時には、誰かに背中を押されていた。そこに誰もいないのに、だ。

「イツキ!」

 前に目線を戻すと、先程まで地面があったはずのその場所に、ぽっかりと穴が空いていた。

「カイル……っ!」

 カイルが素早く俺の元に駆けつける。追いついた彼の手を必死に掴むが、穴は大きく広がり、カイルごと飲みこんだ。

「イツキ!?」
「えっイツキの旦那っ!? なんだこの穴、さっきまでなかったはずなのに!」
「待って、イツキ! カイルさん!」

 暗い奈落の底に落ちていく。カイルは俺の腕をひき寄せ、腕の中に抱きこんだ。

「ぐっ……!」

 カイルが風魔法を使って浮きあがろうと試みるが、穴の側面に擦りそうになり、壁を蹴って回避している。

 やっべ、いきなりのことに思考が停止していたぞ。俺もカイルを見習って、風魔法で浮きあがってみる。成功した。

 しかし上に向かおうとした瞬間、天井が塞がれてしまった。

「なっ!? おい、待ってくれよ」

 天井に向かって炎や氷の矢を放ってみるが、びくともしない。

「なんだよ、どういうことなんだ」
「イツキ、下を見てみろ」
「下?」

 カイルの視線の先を辿ると、穴の底は広い空間になっていた。誰かいるようだ。

 二人いる人影を目を凝らして見てみると、一人は女性で、一人は男性のようだった。向かいあってなにか話をしている。

 男の立派な体躯と丸太のような腕、素朴な色合いの焦茶色の髪には、見覚えがあった。

「あれは……エイダンじゃないか?」
「どうやら、降りるしかなさそうだな」

 カイルは周囲を見回しながらそう告げた。確かにな、他に道もない。

 俺は慎重に魔力を操って、ゆっくりと地面に着地した。

 そこは洞窟の中と言うよりは、どこかの部屋のようだった。部屋の中央付近には明かりが灯っているが、隅は暗くて見えにくい。

 エイダンは、長く裾を引きずるような黒いローブを着た茶色髪の女性に、必死に訴えかけていた。

「ここから出て自由の身になるんだ!」
「いいえ、エイダン。わたくしは行けません」
「どうして!?」

 なにやらただならぬ雰囲気の二人に近づくと、エイダンはハッと振り向いた。

「誰だ!? ……イツキくんと、カイルくん? 君達もたどり着いたんだね、ダンジョンの最奥に」
「最奥? ここが?」

 とても殺風景な部屋だった。女性の背後で光を発している球体以外に、目につくものはなにもない。

 あの球体から魔力を感じる……凄まじいほどの魔力量だ。光を発しているのに、玉自体は暗く澱んでいるような印象を受ける。

 玉を詳しく視てみたいが、その前に二人がなぜ言い争っていたのかを、確かめた方がよさそうだな。

 この人は誰なんだ? エイダンとどういう関係なんだ。俺は彼女の顔を間近で確認して、目を見開いた。

 この人には、羊のようにとぐろを巻くツノがある。しかし羊耳は存在せず、人のような耳の先がとんがっている……魔人だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獅子騎士と小さな許嫁

yu-kie
恋愛
第3王子獅子の一族の騎士ラパス27歳は同盟したハミン国へ使いで来た。そこで出会った少女は、野うさぎのように小さく可愛らしい生き物…否、人間…ハミン国の王女クラン17歳だった! ※シリアス?ほのぼの、天然?な、二人の恋がゆっくり始まる~。 ※不思議なフワフワをお楽しみください。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

泣き虫狼と優しいウサギ 溺愛BL

BL
優しいスパダリ兎(攻め) × 泣き虫狼(受け) 溺愛BL小説 家族から冷たく接しられ、孤独な狼は売られてしまう。 そんな孤独で可哀想な狼の心を、マフィアのボスである兎が愛し、愛でてゆっくり溶かしていく物語(の予定) ※自己満足作品です。  ※受けが可愛そうです(ちゃんとハッピーエンドなのでご心配なく)

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語

みん
恋愛
【モブ】シリーズ② “巻き込まれ召喚のモブの私だけ還れなかった件について”の続編になります。 5年程前、3人の聖女召喚に巻き込まれて異世界へやって来たハル。その3年後、3人の聖女達は元の世界(日本)に還ったけど、ハルだけ還れずそのまま異世界で暮らす事に。 それから色々あった2年。規格外なチートな魔法使いのハルは、一度は日本に還ったけど、自分の意思で再び、聖女の1人─ミヤ─と一緒に異世界へと戻って来た。そんな2人と異世界の人達との物語です。 なろうさんでも投稿していますが、なろうさんでは閑話は省いて投稿しています。

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話

雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。 樋口(27)サラリーマン。 神尾裕二(27)サラリーマン。 佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。 山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。