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第二章 陰謀恋愛編
181 落下
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水を汲みおわって立ちあがり、数歩移動した時だった。急にダンジョン内の空気が変わった気がした。
ハッと振り向いた時には、誰かに背中を押されていた。そこに誰もいないのに、だ。
「イツキ!」
前に目線を戻すと、先程まで地面があったはずのその場所に、ぽっかりと穴が空いていた。
「カイル……っ!」
カイルが素早く俺の元に駆けつける。追いついた彼の手を必死に掴むが、穴は大きく広がり、カイルごと飲みこんだ。
「イツキ!?」
「えっイツキの旦那っ!? なんだこの穴、さっきまでなかったはずなのに!」
「待って、イツキ! カイルさん!」
暗い奈落の底に落ちていく。カイルは俺の腕をひき寄せ、腕の中に抱きこんだ。
「ぐっ……!」
カイルが風魔法を使って浮きあがろうと試みるが、穴の側面に擦りそうになり、壁を蹴って回避している。
やっべ、いきなりのことに思考が停止していたぞ。俺もカイルを見習って、風魔法で浮きあがってみる。成功した。
しかし上に向かおうとした瞬間、天井が塞がれてしまった。
「なっ!? おい、待ってくれよ」
天井に向かって炎や氷の矢を放ってみるが、びくともしない。
「なんだよ、どういうことなんだ」
「イツキ、下を見てみろ」
「下?」
カイルの視線の先を辿ると、穴の底は広い空間になっていた。誰かいるようだ。
二人いる人影を目を凝らして見てみると、一人は女性で、一人は男性のようだった。向かいあってなにか話をしている。
男の立派な体躯と丸太のような腕、素朴な色合いの焦茶色の髪には、見覚えがあった。
「あれは……エイダンじゃないか?」
「どうやら、降りるしかなさそうだな」
カイルは周囲を見回しながらそう告げた。確かにな、他に道もない。
俺は慎重に魔力を操って、ゆっくりと地面に着地した。
そこは洞窟の中と言うよりは、どこかの部屋のようだった。部屋の中央付近には明かりが灯っているが、隅は暗くて見えにくい。
エイダンは、長く裾を引きずるような黒いローブを着た茶色髪の女性に、必死に訴えかけていた。
「ここから出て自由の身になるんだ!」
「いいえ、エイダン。わたくしは行けません」
「どうして!?」
なにやらただならぬ雰囲気の二人に近づくと、エイダンはハッと振り向いた。
「誰だ!? ……イツキくんと、カイルくん? 君達もたどり着いたんだね、ダンジョンの最奥に」
「最奥? ここが?」
とても殺風景な部屋だった。女性の背後で光を発している球体以外に、目につくものはなにもない。
あの球体から魔力を感じる……凄まじいほどの魔力量だ。光を発しているのに、玉自体は暗く澱んでいるような印象を受ける。
玉を詳しく視てみたいが、その前に二人がなぜ言い争っていたのかを、確かめた方がよさそうだな。
この人は誰なんだ? エイダンとどういう関係なんだ。俺は彼女の顔を間近で確認して、目を見開いた。
この人には、羊のようにとぐろを巻くツノがある。しかし羊耳は存在せず、人のような耳の先がとんがっている……魔人だった。
ハッと振り向いた時には、誰かに背中を押されていた。そこに誰もいないのに、だ。
「イツキ!」
前に目線を戻すと、先程まで地面があったはずのその場所に、ぽっかりと穴が空いていた。
「カイル……っ!」
カイルが素早く俺の元に駆けつける。追いついた彼の手を必死に掴むが、穴は大きく広がり、カイルごと飲みこんだ。
「イツキ!?」
「えっイツキの旦那っ!? なんだこの穴、さっきまでなかったはずなのに!」
「待って、イツキ! カイルさん!」
暗い奈落の底に落ちていく。カイルは俺の腕をひき寄せ、腕の中に抱きこんだ。
「ぐっ……!」
カイルが風魔法を使って浮きあがろうと試みるが、穴の側面に擦りそうになり、壁を蹴って回避している。
やっべ、いきなりのことに思考が停止していたぞ。俺もカイルを見習って、風魔法で浮きあがってみる。成功した。
しかし上に向かおうとした瞬間、天井が塞がれてしまった。
「なっ!? おい、待ってくれよ」
天井に向かって炎や氷の矢を放ってみるが、びくともしない。
「なんだよ、どういうことなんだ」
「イツキ、下を見てみろ」
「下?」
カイルの視線の先を辿ると、穴の底は広い空間になっていた。誰かいるようだ。
二人いる人影を目を凝らして見てみると、一人は女性で、一人は男性のようだった。向かいあってなにか話をしている。
男の立派な体躯と丸太のような腕、素朴な色合いの焦茶色の髪には、見覚えがあった。
「あれは……エイダンじゃないか?」
「どうやら、降りるしかなさそうだな」
カイルは周囲を見回しながらそう告げた。確かにな、他に道もない。
俺は慎重に魔力を操って、ゆっくりと地面に着地した。
そこは洞窟の中と言うよりは、どこかの部屋のようだった。部屋の中央付近には明かりが灯っているが、隅は暗くて見えにくい。
エイダンは、長く裾を引きずるような黒いローブを着た茶色髪の女性に、必死に訴えかけていた。
「ここから出て自由の身になるんだ!」
「いいえ、エイダン。わたくしは行けません」
「どうして!?」
なにやらただならぬ雰囲気の二人に近づくと、エイダンはハッと振り向いた。
「誰だ!? ……イツキくんと、カイルくん? 君達もたどり着いたんだね、ダンジョンの最奥に」
「最奥? ここが?」
とても殺風景な部屋だった。女性の背後で光を発している球体以外に、目につくものはなにもない。
あの球体から魔力を感じる……凄まじいほどの魔力量だ。光を発しているのに、玉自体は暗く澱んでいるような印象を受ける。
玉を詳しく視てみたいが、その前に二人がなぜ言い争っていたのかを、確かめた方がよさそうだな。
この人は誰なんだ? エイダンとどういう関係なんだ。俺は彼女の顔を間近で確認して、目を見開いた。
この人には、羊のようにとぐろを巻くツノがある。しかし羊耳は存在せず、人のような耳の先がとんがっている……魔人だった。
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