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第6章 公国復興編
第479話 心の中で
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「一体私はなんのために来たのだろうか……」
「まあまあ、そう気を落とさずに」
「今回は俺たちも仕事なかったしな」
「誰かがかっこつけたせいだよな」
口々に愚痴をこぼす部下に対して、アラタはなぜか勝ち誇ったように胸を張った。
「ま! 今回の報酬の取り分は俺が多めという事で」
「あっ!」
「隊長初めからそれが狙いだったんですね!?」
「いや? 俺は仕事熱心なだけだ」
図星を突かれても何のその、これで金貨100枚の内、ほとんどはアラタのものだ。
日本円にして約1000万円。
安い気もするが、戦争明けで金がない公国にしては頑張った方だろう。
エルモ、カロンなど金欠気味の連中を筆頭にして、上司兼雇用主のアラタに対する賃上げ交渉が始まった。
本来ならこういうのは仕事の前の契約段階で決めておくのが普通である。
でも、そう理想通りにいかないのも現実だ。
彼らは前払いの報酬から経費を除いて等分配した後、成功報酬もしくはその他後払い金を任務の貢献度に応じて非均等に分け合う。
問題が起きそうなこの仕組みは、金にあまり頓着しないアラタがトップだからこそ成り立つ。
上の人がこれしか要求しないのに、それより働いていない自分がこんなに提示するのはなぁ、と周囲が遠慮する。
普段そんな調子で穏便に事が済んでいるからこそ、今回のアラタの発言は物議をかもしたのだ。
「俺たちだって危険な時はあっただろ!」
「はっ、俺の方が危ないですぅ~」
「エミル少佐がクロだったらどうしてたんだ! あんた部下を敵のど真ん中に置き去りにしやがって!」
「そうだそうだ! ノエル様だって置きっぱなしにして、どう責任を取るつもりだったんだ!」
「それはお前たちを信頼していた。俺の部下は皆優秀だからな」
ふざけた顔から一転し、真顔で恥ずかしいセリフを言い切った。
恐らく、これがアラタの本心なのだろう。
「……そんなこと言ったって、なぁ?」
「騙されないですけど……今回は隊長のおかげですし……」
「なに騙されてんだ! お前らちょろすぎるぞ!」
アーキム、カロンの2人組は根っこが善人だからか簡単に丸め込まれる。
エルモはそうではないので食い下がるが、やや分が悪い。
その様子をノエルは少し遠くから見守っていた。
馬に揺られながら、彼らの身内ノリというものを見ている。
「ノエル様、どうされました?」
「いや……リャン殿、アラタはいつもあんな感じなのか?」
逆に質問されたリャンは、顎を触りながら空を見上げた。
夕方に近づくにつれて、徐々に空は明るさを失っていく。
「そうですね、概ねあんな感じですね」
「それはどれくらい前から?」
「私が出会ったのが去年の今より少し前ですから、1年と少し前からですかね」
その頃は、アラタはすでにノエルと袂を分かっていた。
アラタがエリザベスの元に行きたいという個人的な願い。
ノエルの父シャノンの政敵であるレイフォード家にスパイを送り込みたいクレスト家、クラーク家、アラン・ドレイクの思惑。
剣聖の人格の暴走など、クラスの呪いで不安定になっていたノエルからの緊急避難。
自分の知らないアラタの姿は、楽しそうだった。
「私はアラタのことを何も知らないんだ。だからかな、リャン殿たちが少し羨ましい」
アラタとのいざこざは、ノエルという少女に暗い影を落としていた。
仲間と呼ぶべき人を、ここまで明確に傷つけた経験は彼女には無い。
都合よく使った、弱みに付け込んだ、自分勝手な理由で遠ざけた、優しくしなかった、我儘ばかり言った、なにも助けなかった、酷いことを言った、取り返しのつかない切り傷をつけた。
ノエルは、自分のことが嫌いだった。
「あんな風に笑うアラタは久しぶりに見た」
「そんなこと……そうですね。私も久しぶりです」
リャンはできる大人だから、アラタは割といつもヘラヘラしているという言葉を飲み込んだ。
それはノエルが聞きたいことではない。
彼女は自分には見せないアラタの笑顔が眩しくて、寂しいのだ。
「リャン殿と一緒にいるとき、アラタは私のことをなんて言っていた?」
「そうですね……こう、特には…………」
「そうか、すまない。変なことを聞いた」
「いえ」
リャンは何とか言葉を探す。
彼にとって、ノエルはストッパーだ。
アラタという男が悪に振り切れないための、最後の良心。
アラタ自身がどう考えているのかは別にして、リャンから見ればアラタの素が垣間見えるのは自分たちと一緒にいる時よりもむしろ、ノエルやリーゼ、クリスと行動を共にしている時だ。
いくら明るく振舞っても、所詮自分たちは日陰者で、任務もそれに応じて薄暗いものになる。
今回だって本当は、レイクタウンを取り仕切っている現地ゲリラの頭目を殺害し、頭を挿げ替えてしまえという任務だった。
八咫烏だった時のアラタなら、はい分かりましたと任務を完遂しただろう。
今回そうしなかった、敵に情けをかけたのは、恐らくノエルが近くにいたから、そうリャンは分析していた。
まだ彼女には、アラタの傍にいてもらう必要がある。
「ノエル様」
「ん、なんだ?」
「アラタは嘘つきですから、言葉よりも行動を信じなければいけませんよ」
「それ、何となく分かる気がする」
「去年ノエル様が西部の村を回りながら魔物を討伐していた時、私やアラタもいたんです」
「へ? そうなのか?」
「そうです。ドレイク殿より護衛任務を仰せつかりましてね。そこで私はアラタたちを裏切り、ノエル様を害そうとする連中と手を組みました。それがアーキムやバートンです」
「えぇ……ちょっと……」
「結局企みはアラタによって阻止され、私たちはこうして彼の元で働き続けています。情けない話ですが、アラタが完全に私たちに心を許すことなんて、きっと永遠にないですよ」
重ぉ…………
自分から話を切り出してなんだが、ノエルは少し引いていた。
自分は自分のことを殺そうとしてきた連中と知らないうちに行動を共にしていて、というか自分から志願して、アラタはなんだかんだ言って同行を認めてしまった。
もっとこう、気を遣うとかないのかなと思いつつ、自分の行動を振り返ると色々問題がありすぎてどの口が言うかとなってくる。
「少し引きましたね」
「え、あ、いやー……」
少しじゃないよ、ドン引きだよ。
内心そう思いつつ、それを極力出さないように心がけるのは殊勝なことだ。
だが、ノエルが隠し事が出来ると思うのは少し過大評価かもしれない。
ピクピクとひきつった笑顔で対応すると、リャンはしまったと思い話を元に戻す。
「とにかく、アラタはいつもノエル様のことを気にかけていて、そんな彼が彼らしくいられるのはあなたと一緒にいるときなんです」
「そうかな」
「そうですよ。でなければ毎回屋敷に帰ってきたりしないでしょう? クリスたちを住まわせてあげようなんて許さないでしょう?」
「そうかな、そうかも」
「こう見えてもアラタとの付き合いはそこそこありますから。アラタが国外移住や、仕事をやめたり、全てぶち壊そうと思った時、それを踏みとどまらせたのはいつだってノエル様の存在でしたよ」
「本当か?」
「えぇ、本当です」
彼は本来誠実な男だが、目的のためなら自分を曲げられる男である。
さっきからもう収拾がつかなくなって、あることないこと言っている状態だ。
でないとなんでリャンがアラタの心の中を知っているのかという話になる。
そりゃそうだ、だって途中から作り話の嘘だから。
でも、嘘でもノエルが元気になって、アラタの心労が減るのならと、リャンは喜んで虚偽の情報をばら撒く。
実際効果は覿面で、ノエルは少し元気を取り戻した。
「ムフゥ、もうっ、アラタはしょうがないなぁ!」
ここまでくれば一安心、リャンは密かに胸をなでおろした。
彼女が平穏無事にいてくれれば、アラタの精神状態もある程度安定することが期待できるから。
正直リャンは、ノエルのことなんてどうでもいい。
彼にとって一番大事なのは、帝国領の自治区にいる一族のこと。
そして次にキィのこと。
それからアラタや他の仲間のこと。
それ以外は心底どうでもいいから、アラタの役に立つためなら大公の娘だって言いくるめてみせる。
すっかり上機嫌になったノエルを見て、リャンは少し見下すように笑った。
「アラタさん、結局エミル少佐たちはクロだったんですか?」
「多分そうなんじゃね?」
「なのにあれだけの数を任せたんですか!?」
「うん」
「うんってあんた……」
言葉を失うカロンの横から、エルモが割って入ってくる。
「仮にあいつらがゲリラの構成員だったとしても、あそこで裁くのは無理だったしな」
「そういうこと」
エルモの解説にアラタも同意する。
しかしカロンはまだ呑み込めていないようだ。
「どういうことです?」
「公国軍にいまレイクタウンに兵士を回す余裕はねえ。じゃあゲリラを一掃して帰るか? 俺らが家に着く前に帝国軍がレイクタウンに入ってまた任務だぜ。俺は降りるね」
「まあエルモは強制労働させるからいいとして、あの街には住民が戻りつつある。また焼け野原は可哀そうだし、そしたら本当に帝国側に転びかねない」
アーキムも入って来て、開口一番エルモを強制労働させると言う。
まあそこを抜きにしても、彼の言ったことは現実的な話だった。
「アーキムと同じこというけどさ、大事なのは誰が護るかじゃなくて、公国側の人間がレイクタウンを護ることなんだな。だから俺らはアトラに着き次第、エミル少佐に軽度の罰とレイクタウン守備の任務を出してもらう。そうすりゃ全部丸く収まる」
「敵前逃亡した人間たちを頼るなんて、誰かから怒られそうですね」
「ま、任務は完了、レイクタウンも正式に公国のものに返り咲いて万々歳じゃん」
これでお終いとアラタは手を叩いた。
その音に愛馬のドバイが驚いて体を震わせる。
「ごめんごめん。ニンジン食べる?」
「ブルル……」
………………ぃ。
「アラタさん?」
「いや、何でもない」
戦争が終わってから聞こえ始めた耳鳴りと頭痛。
アラタは不調をきたし始めた肉体に一抹の不安を覚えつつも、概ねうまくいった任務に満足して帰還した。
「まあまあ、そう気を落とさずに」
「今回は俺たちも仕事なかったしな」
「誰かがかっこつけたせいだよな」
口々に愚痴をこぼす部下に対して、アラタはなぜか勝ち誇ったように胸を張った。
「ま! 今回の報酬の取り分は俺が多めという事で」
「あっ!」
「隊長初めからそれが狙いだったんですね!?」
「いや? 俺は仕事熱心なだけだ」
図星を突かれても何のその、これで金貨100枚の内、ほとんどはアラタのものだ。
日本円にして約1000万円。
安い気もするが、戦争明けで金がない公国にしては頑張った方だろう。
エルモ、カロンなど金欠気味の連中を筆頭にして、上司兼雇用主のアラタに対する賃上げ交渉が始まった。
本来ならこういうのは仕事の前の契約段階で決めておくのが普通である。
でも、そう理想通りにいかないのも現実だ。
彼らは前払いの報酬から経費を除いて等分配した後、成功報酬もしくはその他後払い金を任務の貢献度に応じて非均等に分け合う。
問題が起きそうなこの仕組みは、金にあまり頓着しないアラタがトップだからこそ成り立つ。
上の人がこれしか要求しないのに、それより働いていない自分がこんなに提示するのはなぁ、と周囲が遠慮する。
普段そんな調子で穏便に事が済んでいるからこそ、今回のアラタの発言は物議をかもしたのだ。
「俺たちだって危険な時はあっただろ!」
「はっ、俺の方が危ないですぅ~」
「エミル少佐がクロだったらどうしてたんだ! あんた部下を敵のど真ん中に置き去りにしやがって!」
「そうだそうだ! ノエル様だって置きっぱなしにして、どう責任を取るつもりだったんだ!」
「それはお前たちを信頼していた。俺の部下は皆優秀だからな」
ふざけた顔から一転し、真顔で恥ずかしいセリフを言い切った。
恐らく、これがアラタの本心なのだろう。
「……そんなこと言ったって、なぁ?」
「騙されないですけど……今回は隊長のおかげですし……」
「なに騙されてんだ! お前らちょろすぎるぞ!」
アーキム、カロンの2人組は根っこが善人だからか簡単に丸め込まれる。
エルモはそうではないので食い下がるが、やや分が悪い。
その様子をノエルは少し遠くから見守っていた。
馬に揺られながら、彼らの身内ノリというものを見ている。
「ノエル様、どうされました?」
「いや……リャン殿、アラタはいつもあんな感じなのか?」
逆に質問されたリャンは、顎を触りながら空を見上げた。
夕方に近づくにつれて、徐々に空は明るさを失っていく。
「そうですね、概ねあんな感じですね」
「それはどれくらい前から?」
「私が出会ったのが去年の今より少し前ですから、1年と少し前からですかね」
その頃は、アラタはすでにノエルと袂を分かっていた。
アラタがエリザベスの元に行きたいという個人的な願い。
ノエルの父シャノンの政敵であるレイフォード家にスパイを送り込みたいクレスト家、クラーク家、アラン・ドレイクの思惑。
剣聖の人格の暴走など、クラスの呪いで不安定になっていたノエルからの緊急避難。
自分の知らないアラタの姿は、楽しそうだった。
「私はアラタのことを何も知らないんだ。だからかな、リャン殿たちが少し羨ましい」
アラタとのいざこざは、ノエルという少女に暗い影を落としていた。
仲間と呼ぶべき人を、ここまで明確に傷つけた経験は彼女には無い。
都合よく使った、弱みに付け込んだ、自分勝手な理由で遠ざけた、優しくしなかった、我儘ばかり言った、なにも助けなかった、酷いことを言った、取り返しのつかない切り傷をつけた。
ノエルは、自分のことが嫌いだった。
「あんな風に笑うアラタは久しぶりに見た」
「そんなこと……そうですね。私も久しぶりです」
リャンはできる大人だから、アラタは割といつもヘラヘラしているという言葉を飲み込んだ。
それはノエルが聞きたいことではない。
彼女は自分には見せないアラタの笑顔が眩しくて、寂しいのだ。
「リャン殿と一緒にいるとき、アラタは私のことをなんて言っていた?」
「そうですね……こう、特には…………」
「そうか、すまない。変なことを聞いた」
「いえ」
リャンは何とか言葉を探す。
彼にとって、ノエルはストッパーだ。
アラタという男が悪に振り切れないための、最後の良心。
アラタ自身がどう考えているのかは別にして、リャンから見ればアラタの素が垣間見えるのは自分たちと一緒にいる時よりもむしろ、ノエルやリーゼ、クリスと行動を共にしている時だ。
いくら明るく振舞っても、所詮自分たちは日陰者で、任務もそれに応じて薄暗いものになる。
今回だって本当は、レイクタウンを取り仕切っている現地ゲリラの頭目を殺害し、頭を挿げ替えてしまえという任務だった。
八咫烏だった時のアラタなら、はい分かりましたと任務を完遂しただろう。
今回そうしなかった、敵に情けをかけたのは、恐らくノエルが近くにいたから、そうリャンは分析していた。
まだ彼女には、アラタの傍にいてもらう必要がある。
「ノエル様」
「ん、なんだ?」
「アラタは嘘つきですから、言葉よりも行動を信じなければいけませんよ」
「それ、何となく分かる気がする」
「去年ノエル様が西部の村を回りながら魔物を討伐していた時、私やアラタもいたんです」
「へ? そうなのか?」
「そうです。ドレイク殿より護衛任務を仰せつかりましてね。そこで私はアラタたちを裏切り、ノエル様を害そうとする連中と手を組みました。それがアーキムやバートンです」
「えぇ……ちょっと……」
「結局企みはアラタによって阻止され、私たちはこうして彼の元で働き続けています。情けない話ですが、アラタが完全に私たちに心を許すことなんて、きっと永遠にないですよ」
重ぉ…………
自分から話を切り出してなんだが、ノエルは少し引いていた。
自分は自分のことを殺そうとしてきた連中と知らないうちに行動を共にしていて、というか自分から志願して、アラタはなんだかんだ言って同行を認めてしまった。
もっとこう、気を遣うとかないのかなと思いつつ、自分の行動を振り返ると色々問題がありすぎてどの口が言うかとなってくる。
「少し引きましたね」
「え、あ、いやー……」
少しじゃないよ、ドン引きだよ。
内心そう思いつつ、それを極力出さないように心がけるのは殊勝なことだ。
だが、ノエルが隠し事が出来ると思うのは少し過大評価かもしれない。
ピクピクとひきつった笑顔で対応すると、リャンはしまったと思い話を元に戻す。
「とにかく、アラタはいつもノエル様のことを気にかけていて、そんな彼が彼らしくいられるのはあなたと一緒にいるときなんです」
「そうかな」
「そうですよ。でなければ毎回屋敷に帰ってきたりしないでしょう? クリスたちを住まわせてあげようなんて許さないでしょう?」
「そうかな、そうかも」
「こう見えてもアラタとの付き合いはそこそこありますから。アラタが国外移住や、仕事をやめたり、全てぶち壊そうと思った時、それを踏みとどまらせたのはいつだってノエル様の存在でしたよ」
「本当か?」
「えぇ、本当です」
彼は本来誠実な男だが、目的のためなら自分を曲げられる男である。
さっきからもう収拾がつかなくなって、あることないこと言っている状態だ。
でないとなんでリャンがアラタの心の中を知っているのかという話になる。
そりゃそうだ、だって途中から作り話の嘘だから。
でも、嘘でもノエルが元気になって、アラタの心労が減るのならと、リャンは喜んで虚偽の情報をばら撒く。
実際効果は覿面で、ノエルは少し元気を取り戻した。
「ムフゥ、もうっ、アラタはしょうがないなぁ!」
ここまでくれば一安心、リャンは密かに胸をなでおろした。
彼女が平穏無事にいてくれれば、アラタの精神状態もある程度安定することが期待できるから。
正直リャンは、ノエルのことなんてどうでもいい。
彼にとって一番大事なのは、帝国領の自治区にいる一族のこと。
そして次にキィのこと。
それからアラタや他の仲間のこと。
それ以外は心底どうでもいいから、アラタの役に立つためなら大公の娘だって言いくるめてみせる。
すっかり上機嫌になったノエルを見て、リャンは少し見下すように笑った。
「アラタさん、結局エミル少佐たちはクロだったんですか?」
「多分そうなんじゃね?」
「なのにあれだけの数を任せたんですか!?」
「うん」
「うんってあんた……」
言葉を失うカロンの横から、エルモが割って入ってくる。
「仮にあいつらがゲリラの構成員だったとしても、あそこで裁くのは無理だったしな」
「そういうこと」
エルモの解説にアラタも同意する。
しかしカロンはまだ呑み込めていないようだ。
「どういうことです?」
「公国軍にいまレイクタウンに兵士を回す余裕はねえ。じゃあゲリラを一掃して帰るか? 俺らが家に着く前に帝国軍がレイクタウンに入ってまた任務だぜ。俺は降りるね」
「まあエルモは強制労働させるからいいとして、あの街には住民が戻りつつある。また焼け野原は可哀そうだし、そしたら本当に帝国側に転びかねない」
アーキムも入って来て、開口一番エルモを強制労働させると言う。
まあそこを抜きにしても、彼の言ったことは現実的な話だった。
「アーキムと同じこというけどさ、大事なのは誰が護るかじゃなくて、公国側の人間がレイクタウンを護ることなんだな。だから俺らはアトラに着き次第、エミル少佐に軽度の罰とレイクタウン守備の任務を出してもらう。そうすりゃ全部丸く収まる」
「敵前逃亡した人間たちを頼るなんて、誰かから怒られそうですね」
「ま、任務は完了、レイクタウンも正式に公国のものに返り咲いて万々歳じゃん」
これでお終いとアラタは手を叩いた。
その音に愛馬のドバイが驚いて体を震わせる。
「ごめんごめん。ニンジン食べる?」
「ブルル……」
………………ぃ。
「アラタさん?」
「いや、何でもない」
戦争が終わってから聞こえ始めた耳鳴りと頭痛。
アラタは不調をきたし始めた肉体に一抹の不安を覚えつつも、概ねうまくいった任務に満足して帰還した。
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