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第6章 公国復興編
第476話 臆病者か、それとも
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「なんかこう、変な気分だな。なあアーキム?」
「まあ、そうだな」
アラタたちはカナン公国東部、ナリリカ砦で補給をしつつ、ついにレイクタウン間近というところまでやって来た。
今まで彼らが通ってきた道のりは、彼らの敗北と敗走の一部。
コートランド川で負け、レイクタウンで負け、ナリリカ砦まで退却した。
その逆順を辿ってレイクタウンにまで到達したわけだ。
元1192小隊の面々が得も言われぬ不思議な感情に浸っている間、なにやら前方から喧しい声が聞こえてくる。
「ねえねえ」
「あーもう、うっせえなぁ」
「私を連れてきて良かったでしょ」
「もう分かったから! 少し黙ってて!」
ノエルと来たら、ナリリカ砦を出てからずっとこんな感じだ。
アラタたちがレイクタウンに赴くのは、貴族院からの指令だった。
貴族院が冒険者ギルドに依頼を出し、それをアラタたちが受注した。
受注といっても指名クエストなので、他の誰かがこの任務に就くことはあり得ないのだが、問題だったのは根回しと回りくどい依頼方式だ。
まず初めに、先方への連絡が疎かになっていた。
ナリリカ砦の人間たちはアラタたち1192小隊改め冒険者集団がレイクタウンへの通過に立ち寄ることを知らず、道中の物資補給を一時断られていた。
それどころか無断で国境に近づこうというアラタたちを拘束する流れまであった始末。
さらに、形式上冒険者ギルドのクエストというのもまずかった。
これが貴族院からの直接依頼任務だったなら、まだ話し合いで押し切ることもできたはず。
しかし身元の怪しい冒険者、しかも戦場で名を馳せたアラタはその証である銀星十字勲章をノリで返却してしまっている。
「日頃の行いの悪さよ」
アーキムがそう言いながら、アラタの頭をはたいたのはまあ仕方がない。
最悪実力行使で突破してしまえばいいと思っていたアラタにとって朗報だったのは、この集団にノエル・クレストが同行していたことである。
彼女は大公の娘で冒険者。
箱入り娘ではないので広く顔が知られているし、Bランク冒険者としての信用もある。
同じBランクでも、信用信頼がアラタとはまるで違うのだ。
そんな彼女の鶴の一声で、彼らはナリリカ砦を無事に通過することができた。
それどころか十全な物資調達も完遂することが出来、彼らの旅の行程は一気に楽になった。
ノエルが満面の笑みでアラタに対して正当な評価を要求するのも受け入れるべきだろう。
アラタは砦を出てから何回目になるか分からない褒め言葉を、誠にイヤイヤながらノエルにかける。
「ありがとう。トテモありがとう。あぁありがとうありがとう」
「へへへ、どういたしまして!」
アラタは再三どころではないレベルのノエルのおねだりに心底うんざりしていたが、周りの隊員たちは実のところそんなに悪い気がしていなかった。
アラタは陰気でどうにも一緒に居て気が滅入ることがある。
戦場で陽気にされても困るのだが、清涼剤は必要だろう。
なんだかんだいって、性格の明るさというのは純然たる長所なのだ。
アラタたちが馬を歩かせること数日。
彼らはついに、因縁の地レイクタウンに到着したのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
——クリスを連れてくるんだったな。
アラタは露天になっている椅子に座りながらそう思った。
地面に直接置かれた机と椅子は、お誕生日席を含めて6人が座れるようになっていて、事実6人が着席していた。
アラタの真横にアーキムが座り、それ以外の4席は相手方の人間が座っている。
こんな時、内緒話をするのにクリスのスキル【以心伝心】は最適だ。
しかし、彼女はここにおらず代役もいない。
「いやぁ、しかし公国も銀星のアラタ殿を遣わせてくるとは。中々本気度合いが知れるというもの」
「どうでしょうかね。彼らは従軍した兵士たちを軽視するきらいがありますから」
「まったく同感だ。ま、同じ戦友同士、仲良くやっていきましょう」
目の前の男、エミル元少佐は、糸目の不気味な雰囲気の人物だった。
不気味といっても、暗くはない。
むしろ社交的に見えるし、部下の信頼も厚い。
アラタは知らないが、彼はコートランド川の戦いで1個大隊を率い、帝国軍の反撃の芽を潰して回ったいわば功労者の1人だ。
だからこそ厄介だと、アラタの隣にいるアーキムは考えた。
実力は申し分なく、部下からの信頼が厚く、野心家で、公国中央のことをよく思っていない。
アラタに野心を追加したようなこの男は、はっきり言って危険だった。
「今回の御用向きは……」
「レイクタウン復興の手伝いです」
おや? とアーキムは隣の上司を見た。
武装ゲリラを叩く事が抜けている。
もっとも、貴族院からすれば自分たちの目の前にいるエミル元少佐こそがゲリラの首魁の1人なのだから、至極当然の選択ではある。
彼の評価では、アラタはもう少しバカだと思われていたから、少し驚いたのだ。
アーキムが密かにアラタへの評価を上方修正している頃、エミルは細い眼を少し開いて2人を見た。
普段から少し胡散臭そうな顔をしているが、目を開くとより一層人相の悪さが際立つ。
「お手伝いですか」
含みのある言い方にアーキムの表情が曇った。
アラタは特に言葉の意味を理解していないので、首を縦に振る。
「そうです。この街も攻囲戦で随分派手に壊れましたから。その罪滅ぼしって考えたら、自分たちは割と適任なんだと思います」
曇りなき眼で、20歳の青年は言い切った。
社会の荒波に揉まれる前の、前途洋々とした怖いもの知らずな世代。
時には口が大きくなることだってあるし、年長者にはそれが昔の自分を見ているようで恥ずかしくなる時がある。
だが、アーキムたちは知っている。
彼が底なしの絶望を味わって、それでも尚こうして自分の生き方を貫いていると。
今だって、エミルの嫌味が分からなかっただけだ。
バカにされていることが分からないから、幸せな部分もある。
アラタは軽率だし軽薄だし、たまに自分でも何でこんなことしているのか分からなくなる時がある。
それでも、彼は良くも悪くも真っ直ぐだった。
真っ直ぐだったから、隊員たちは彼に惹かれた。
エミルの表情に僅かながら陰りが見えた。
アラタはそれすらも気付いていないのだが。
「ところで、クレスト様がいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
「ね。自分もそう思います」
「……父君の差し金なんですかねぇ」
「あー、多分あいっ……あの人の勝手な我儘です」
アラタとエミルのやり取りを間近で見ていて、アーキムは段々面白くなってきた。
彼と来たら、エミルが何かしらの本題に入りたいのにさっきから微妙な返答しか返していないし、自分から話を切り出そうともしない。
エミルは貴族院の自分たちに対する評価を図りかねていて、気になっている。
だから首都から来たアラタから情報を引き出したいのに、役立たずなことに彼は何も知らない。
それにノエルのトンチキな行動も相まって、話の糸口すら掴ませてもらえない。
のらりくらりと言葉遊びをしている、そう見えなくもなかった。
少し負の感情が溜まったエミルは、半ば強引に本題に入る。
「所でアラタ殿、ここにはどれくらい滞在する予定で?」
「そうですね……1週間くらいの気持ちですけど」
「それはそれは! 貴殿らの活躍は耳にしていましたので、心強いばかりです」
「もう戦いは無いですけどね」
「いやいや、こう見えてこの辺りを縄張りとしている非合法組織はかなりおりまして。我々も中々手を焼いているのです」
「それは大変だ」
——自己紹介してるだけだろうに。
「私たちも対応に追われていて、この間腹心の部下も1人……」
エルモの悲しそうな目に、アラタの眉がピクリと動いた。
それを見逃すほど、エミルは鈍くない。
「どうでしょうか。精強で鳴らした1192小隊の実力、私たちと合同の警戒任務がてら見せていただけないでしょうか?」
「そうですねー」
「私の部下たちにもいい刺激になると思うのです。どうか!」
「……分かりました、やりましょう」
事が成った際のエミルのかっ開かれた目を、アーキムはたまに夢に見る様になりそうだ。
東北の山奥に居そうな妖怪みたいな、そんな顔を。
※※※※※※※※※※※※※※※
「早速こいつの扱いに困るな」
「こいつって言わないで!」
「はいはい」
エミルの頼みを引き受けた時は忘れていたが、アラタの傍には彼女がいた。
流石に戦闘の可能性がある任務にノエルを組み込むのは気が引けるアラタ。
以前は冒険者として一緒に死線を潜り抜けてきた中でも、戦争を経験すると少し考えも変わる。
魔物や小規模な盗賊を相手にするのとはわけが違う。
人間は姑息だし、集団戦闘はまた違った難しさがあるし、何より狡猾だ。
敵の罠にはまって嵌め殺しに遭った部隊を、アラタたちはいくつも知っていた。
彼らが今日まで生存してこれたのは、そういった敵に対する嗅覚の鋭さもある。
「アラタ」
近づいてくるノエルを手で制止しているアラタの所に、リャン・グエルが近づいてきた。
彼は珍しいスキル【魔術効果減衰】の持ち主で、主に魔術師相手の戦闘で重宝されている。
斬り合いを含めた近距離の殴り合いが得意なアラタとは良いコンビだ。
「また心配事?」
「私の心配事が尽きないのはアラタが不用心だからですよ」
「俺のせいかよ」
「ですね」
「おい」
いつものノリがひと段落したところで、アラタは本格的にノエルを遠ざけた。
彼女も空気が変わったことを感じたらしく、大人しく引き下がる。
「で、どんな感じ?」
「エミル少佐は戦死扱いです。厳密には行方不明ですね」
「いつから?」
「コートランド川の敗走からです。包囲網左翼での奮戦は記録に残っていますが、以降ぱったりと途絶えています。恐らく脱落したのではないかと」
「大隊まるごと?」
「いえ、中隊以下が同時に行方不明になっています。恐らくここに集まっているのは元々彼の部下ではなかった人間がほとんどのはずです」
「……なるほど。アーキムも聞いてたな?」
「もちろん」
アラタは頭をフル回転させてこの後の予測と予定を立てる。
大抵リャンとアーキムによって修正が入るが、叩き台を作るのは彼の仕事だ。
「リャンは俺と来い。アーキムはキィ、バートンと一緒にノエルの護衛。あいつは【剣聖の間合い】でスキルと魔術の効果を掻き消すから、【魔術効果減衰】を使えるような認識でいてくれ」
「分かった。それでアラタは?」
「エミル少佐が臆病者なのか、それとも……まあ確かめるさ」
「かなりの数だ、全体は隠しているだろうしいけるのか?」
「まあいけるだろ。相手も俺たちがこう考えていることくらい想定済みなはず。分断に注意して環境変化に即応を心掛けろ。突然暗転して【暗視】が間に合わなくて死ぬとか笑えねーからな」
「「了解」」
副官2人に作戦を伝えたところで、アラタは腰元の刀に手を掛ける。
「任務開始だぜ」
「まあ、そうだな」
アラタたちはカナン公国東部、ナリリカ砦で補給をしつつ、ついにレイクタウン間近というところまでやって来た。
今まで彼らが通ってきた道のりは、彼らの敗北と敗走の一部。
コートランド川で負け、レイクタウンで負け、ナリリカ砦まで退却した。
その逆順を辿ってレイクタウンにまで到達したわけだ。
元1192小隊の面々が得も言われぬ不思議な感情に浸っている間、なにやら前方から喧しい声が聞こえてくる。
「ねえねえ」
「あーもう、うっせえなぁ」
「私を連れてきて良かったでしょ」
「もう分かったから! 少し黙ってて!」
ノエルと来たら、ナリリカ砦を出てからずっとこんな感じだ。
アラタたちがレイクタウンに赴くのは、貴族院からの指令だった。
貴族院が冒険者ギルドに依頼を出し、それをアラタたちが受注した。
受注といっても指名クエストなので、他の誰かがこの任務に就くことはあり得ないのだが、問題だったのは根回しと回りくどい依頼方式だ。
まず初めに、先方への連絡が疎かになっていた。
ナリリカ砦の人間たちはアラタたち1192小隊改め冒険者集団がレイクタウンへの通過に立ち寄ることを知らず、道中の物資補給を一時断られていた。
それどころか無断で国境に近づこうというアラタたちを拘束する流れまであった始末。
さらに、形式上冒険者ギルドのクエストというのもまずかった。
これが貴族院からの直接依頼任務だったなら、まだ話し合いで押し切ることもできたはず。
しかし身元の怪しい冒険者、しかも戦場で名を馳せたアラタはその証である銀星十字勲章をノリで返却してしまっている。
「日頃の行いの悪さよ」
アーキムがそう言いながら、アラタの頭をはたいたのはまあ仕方がない。
最悪実力行使で突破してしまえばいいと思っていたアラタにとって朗報だったのは、この集団にノエル・クレストが同行していたことである。
彼女は大公の娘で冒険者。
箱入り娘ではないので広く顔が知られているし、Bランク冒険者としての信用もある。
同じBランクでも、信用信頼がアラタとはまるで違うのだ。
そんな彼女の鶴の一声で、彼らはナリリカ砦を無事に通過することができた。
それどころか十全な物資調達も完遂することが出来、彼らの旅の行程は一気に楽になった。
ノエルが満面の笑みでアラタに対して正当な評価を要求するのも受け入れるべきだろう。
アラタは砦を出てから何回目になるか分からない褒め言葉を、誠にイヤイヤながらノエルにかける。
「ありがとう。トテモありがとう。あぁありがとうありがとう」
「へへへ、どういたしまして!」
アラタは再三どころではないレベルのノエルのおねだりに心底うんざりしていたが、周りの隊員たちは実のところそんなに悪い気がしていなかった。
アラタは陰気でどうにも一緒に居て気が滅入ることがある。
戦場で陽気にされても困るのだが、清涼剤は必要だろう。
なんだかんだいって、性格の明るさというのは純然たる長所なのだ。
アラタたちが馬を歩かせること数日。
彼らはついに、因縁の地レイクタウンに到着したのだった。
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——クリスを連れてくるんだったな。
アラタは露天になっている椅子に座りながらそう思った。
地面に直接置かれた机と椅子は、お誕生日席を含めて6人が座れるようになっていて、事実6人が着席していた。
アラタの真横にアーキムが座り、それ以外の4席は相手方の人間が座っている。
こんな時、内緒話をするのにクリスのスキル【以心伝心】は最適だ。
しかし、彼女はここにおらず代役もいない。
「いやぁ、しかし公国も銀星のアラタ殿を遣わせてくるとは。中々本気度合いが知れるというもの」
「どうでしょうかね。彼らは従軍した兵士たちを軽視するきらいがありますから」
「まったく同感だ。ま、同じ戦友同士、仲良くやっていきましょう」
目の前の男、エミル元少佐は、糸目の不気味な雰囲気の人物だった。
不気味といっても、暗くはない。
むしろ社交的に見えるし、部下の信頼も厚い。
アラタは知らないが、彼はコートランド川の戦いで1個大隊を率い、帝国軍の反撃の芽を潰して回ったいわば功労者の1人だ。
だからこそ厄介だと、アラタの隣にいるアーキムは考えた。
実力は申し分なく、部下からの信頼が厚く、野心家で、公国中央のことをよく思っていない。
アラタに野心を追加したようなこの男は、はっきり言って危険だった。
「今回の御用向きは……」
「レイクタウン復興の手伝いです」
おや? とアーキムは隣の上司を見た。
武装ゲリラを叩く事が抜けている。
もっとも、貴族院からすれば自分たちの目の前にいるエミル元少佐こそがゲリラの首魁の1人なのだから、至極当然の選択ではある。
彼の評価では、アラタはもう少しバカだと思われていたから、少し驚いたのだ。
アーキムが密かにアラタへの評価を上方修正している頃、エミルは細い眼を少し開いて2人を見た。
普段から少し胡散臭そうな顔をしているが、目を開くとより一層人相の悪さが際立つ。
「お手伝いですか」
含みのある言い方にアーキムの表情が曇った。
アラタは特に言葉の意味を理解していないので、首を縦に振る。
「そうです。この街も攻囲戦で随分派手に壊れましたから。その罪滅ぼしって考えたら、自分たちは割と適任なんだと思います」
曇りなき眼で、20歳の青年は言い切った。
社会の荒波に揉まれる前の、前途洋々とした怖いもの知らずな世代。
時には口が大きくなることだってあるし、年長者にはそれが昔の自分を見ているようで恥ずかしくなる時がある。
だが、アーキムたちは知っている。
彼が底なしの絶望を味わって、それでも尚こうして自分の生き方を貫いていると。
今だって、エミルの嫌味が分からなかっただけだ。
バカにされていることが分からないから、幸せな部分もある。
アラタは軽率だし軽薄だし、たまに自分でも何でこんなことしているのか分からなくなる時がある。
それでも、彼は良くも悪くも真っ直ぐだった。
真っ直ぐだったから、隊員たちは彼に惹かれた。
エミルの表情に僅かながら陰りが見えた。
アラタはそれすらも気付いていないのだが。
「ところで、クレスト様がいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
「ね。自分もそう思います」
「……父君の差し金なんですかねぇ」
「あー、多分あいっ……あの人の勝手な我儘です」
アラタとエミルのやり取りを間近で見ていて、アーキムは段々面白くなってきた。
彼と来たら、エミルが何かしらの本題に入りたいのにさっきから微妙な返答しか返していないし、自分から話を切り出そうともしない。
エミルは貴族院の自分たちに対する評価を図りかねていて、気になっている。
だから首都から来たアラタから情報を引き出したいのに、役立たずなことに彼は何も知らない。
それにノエルのトンチキな行動も相まって、話の糸口すら掴ませてもらえない。
のらりくらりと言葉遊びをしている、そう見えなくもなかった。
少し負の感情が溜まったエミルは、半ば強引に本題に入る。
「所でアラタ殿、ここにはどれくらい滞在する予定で?」
「そうですね……1週間くらいの気持ちですけど」
「それはそれは! 貴殿らの活躍は耳にしていましたので、心強いばかりです」
「もう戦いは無いですけどね」
「いやいや、こう見えてこの辺りを縄張りとしている非合法組織はかなりおりまして。我々も中々手を焼いているのです」
「それは大変だ」
——自己紹介してるだけだろうに。
「私たちも対応に追われていて、この間腹心の部下も1人……」
エルモの悲しそうな目に、アラタの眉がピクリと動いた。
それを見逃すほど、エミルは鈍くない。
「どうでしょうか。精強で鳴らした1192小隊の実力、私たちと合同の警戒任務がてら見せていただけないでしょうか?」
「そうですねー」
「私の部下たちにもいい刺激になると思うのです。どうか!」
「……分かりました、やりましょう」
事が成った際のエミルのかっ開かれた目を、アーキムはたまに夢に見る様になりそうだ。
東北の山奥に居そうな妖怪みたいな、そんな顔を。
※※※※※※※※※※※※※※※
「早速こいつの扱いに困るな」
「こいつって言わないで!」
「はいはい」
エミルの頼みを引き受けた時は忘れていたが、アラタの傍には彼女がいた。
流石に戦闘の可能性がある任務にノエルを組み込むのは気が引けるアラタ。
以前は冒険者として一緒に死線を潜り抜けてきた中でも、戦争を経験すると少し考えも変わる。
魔物や小規模な盗賊を相手にするのとはわけが違う。
人間は姑息だし、集団戦闘はまた違った難しさがあるし、何より狡猾だ。
敵の罠にはまって嵌め殺しに遭った部隊を、アラタたちはいくつも知っていた。
彼らが今日まで生存してこれたのは、そういった敵に対する嗅覚の鋭さもある。
「アラタ」
近づいてくるノエルを手で制止しているアラタの所に、リャン・グエルが近づいてきた。
彼は珍しいスキル【魔術効果減衰】の持ち主で、主に魔術師相手の戦闘で重宝されている。
斬り合いを含めた近距離の殴り合いが得意なアラタとは良いコンビだ。
「また心配事?」
「私の心配事が尽きないのはアラタが不用心だからですよ」
「俺のせいかよ」
「ですね」
「おい」
いつものノリがひと段落したところで、アラタは本格的にノエルを遠ざけた。
彼女も空気が変わったことを感じたらしく、大人しく引き下がる。
「で、どんな感じ?」
「エミル少佐は戦死扱いです。厳密には行方不明ですね」
「いつから?」
「コートランド川の敗走からです。包囲網左翼での奮戦は記録に残っていますが、以降ぱったりと途絶えています。恐らく脱落したのではないかと」
「大隊まるごと?」
「いえ、中隊以下が同時に行方不明になっています。恐らくここに集まっているのは元々彼の部下ではなかった人間がほとんどのはずです」
「……なるほど。アーキムも聞いてたな?」
「もちろん」
アラタは頭をフル回転させてこの後の予測と予定を立てる。
大抵リャンとアーキムによって修正が入るが、叩き台を作るのは彼の仕事だ。
「リャンは俺と来い。アーキムはキィ、バートンと一緒にノエルの護衛。あいつは【剣聖の間合い】でスキルと魔術の効果を掻き消すから、【魔術効果減衰】を使えるような認識でいてくれ」
「分かった。それでアラタは?」
「エミル少佐が臆病者なのか、それとも……まあ確かめるさ」
「かなりの数だ、全体は隠しているだろうしいけるのか?」
「まあいけるだろ。相手も俺たちがこう考えていることくらい想定済みなはず。分断に注意して環境変化に即応を心掛けろ。突然暗転して【暗視】が間に合わなくて死ぬとか笑えねーからな」
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副官2人に作戦を伝えたところで、アラタは腰元の刀に手を掛ける。
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