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第6章 公国復興編
第472話 試そうとすること自体が
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カナン公国の首都アトラ。
そこには迷宮がある。
アトラダンジョンと名付けられたその場所は、地上入り口から下に向かって全5層の形式を取っている。
西部未開拓領域と合わせて、公国の魔石産業を成立させる貴重な資源だった。
管理は当然国が行う。
貴族院が軍を使い、一方で冒険者ギルドも冒険者を使って管理する。
ギルドが管理に介入しているのは、ダンジョン黎明期に迷宮を攻略したのが冒険者であり、以降も実質的な探索を冒険者が行っているところからきている。
だから警備も2重で、ギルドと軍の管轄下にあった。
冒険者の等級にして、Dランク以上の実力を認められた人間のみ。
以上と設定されているが、Dランク冒険者が持ち回りで警備を回すのが通例になっている。
彼らでは、黒装束を使ったアラタを捕捉できない。
【気配遮断】と黒装束の組み合わせは非常に強力で、入り口を素通りすることだってできる。
アラタがダンジョンに入ったのは、12月31日の夜のことだった。
「さぁ、始めようか」
第1層、ここはほとんど魔物が発生しない。
発生したとしても低レベルな魔物のみ、すぐに冒険者に狩り尽くされてしまう。
アラタは抜身の刀を引っ提げて道を進む。
久しぶりだが知らない道ではない。
第2層も同じようなもので、これも素通りする。
第3層からは流石に魔物も発生していて、本来ならこの辺から戦闘行為が行われることになる。
だがアラタはこれをスルーする。
たまに勘の鋭い魔物がいて、鬱陶しいので斬り捨てるだけ。
階層を下に進むことで攻略難易度はどんどん上昇するわけだが、アラタの心は下降と同時にどんどん荒んでいった。
第4層、ここを単独で挑戦することは基本的に禁止されている。
単独パーティーはまだ辛うじて認められているのだが、それもパーティーの実力をギルドないしは軍が認めなければならない。
かつてアラタが冒険者パーティー灼眼虎狼の4人で攻略した時も、この手の認定に時間がかかっている。
「前は…………」
不可視兎を刀で捉えることは難しく、周辺丸ごと土属性の罠を張る必要があった。
でも今は違う。
不可視なだけで、【気配遮断】を使っているわけではないのだから、耳で感じることができる。
アラタのことを齧ろうとノコノコ近づいてきたところをバッサリと一刀両断して肉塊に変えてしまう。
第4層もこの程度かと思いながら、アラタは最下層、第5層への階段を降りて行った。
第5層には危険な魔物がうようよいる。
理由は単純で、下層の方が魔力が濃く強力な魔物が発生しやすいこと。
それから下層になればなるほど冒険者の手が入りにくく、相対的に魔物の生存率が高まっていること。
以上2点を主な理由として、第5層の魔物はかなり強力だ。
等級にしてD~Bランク相当か。
クマの筋力にフクロウの視力と飛行能力を持つオウルベア、黒き二本角を持つ不浄の獣バイコーン、大量発生するスライムから確率的に生まれるスライムの変異種、穴の入り口が大好きで周囲を隠すように張り付くが、その体には猛毒が含まれている地面グモ。
そして、アトラダンジョンでも最強を名乗るに相応しい魔物、レッドドラゴン。
近年のレッドドラゴン討伐記録は2回ともノエル・クレストが達成している。
それ以前となると16年前にアレクサンダー・バーンスタインが達成したところまで遡る。
隠密行動で出来る限り余計な戦闘を避けつつ、アラタが第5層の最奥に到達したのは、ダンジョン入場から30分後のことだった。
「クルル…………」
「死と再生を繰り返す竜。この国の魔物の象徴。お前に勝てるのなら俺は……」
「ゴァァァアアア!」
開幕早々、竜がオレンジ色の咆哮を繰り出してきた。
純粋な魔力の塊は非常にシンプルかつ強力な攻撃。
対応するにはこれまた強力な魔術が必要になる。
「……水陣」
刀を逆手に持ち、地面に向けて鋒をトンと突く。
円環状に巡り巡る魔力は水属性に練り上げられて、実態を持った水分子の集合体として顕現する。
滝のような水量を前にして、火竜の咆哮もあえなく止められた。
熱源と水が衝突し、辺りが水蒸気に包まれたところで、アラタが走り始めた。
竜は熱感知をすることで生体反応を検知することも可能だ。
だから目を潰したくらいで喜んでいてはいけない。
アラタが順番的に逆から潰していこうとする。
【暗視】を持つアラタは、湯煙による視界阻害効果を受けにくい。
竜をしっかりと混乱させた後、【気配遮断】と黒装束の併用で気配を消して接近する。
刀に流す魔力を極力絞り、自分の肉体の範疇、つまり黒装束の効果の内側で練り上げる。
竜に気づかれる可能性を極力排除しつつ、一撃で仕留める構え。
かつてのアラタでは、火竜の鉄板のような鱗を突破することができなかった。
だからノエルに全てを託してタンクとデコイ役に徹した。
今は彼1人しかいない。
でも、以前の彼でもない。
「一点集中…………」
鋒を竜に向けて、刺突の発射台設置が完了した。
瞬時に刀に流れ込む魔力に、火竜も気付く。
けたたましく喚きながら近づいてくる。
飛行能力はなくても、体調30mを超える巨体に踏みつぶされればひとたまりもない。
アラタ、逃げず、ただ精神を研ぎ澄ませ、霧が晴れた地の底で竜を向かい合う。
「シッ」
短く息を切りながら繰り出された突き。
刀の間合いではない。
その鋒から繰り出された魔力は一本の槍となり、敵を貫く。
何十枚もの竜鱗を割りながら首を両断することは無理でも、1枚貫通させて急所を破壊することはできる。
アラタの勝ちだ。
赤き竜の巨躯は崩れ落ち、金色の眼が充血したところで死亡を確認した。
正式な手続きと手順を経ていない非公式な記録ではあるが、数十年ぶりのアトラダンジョンソロ制覇である。
アラタはその手に残る僅かな手ごたえと、竜殺しの栄誉を得たのにもかかわらず空っぽのままの心に溜息をついた。
「……おもんな」
そう呟き、竜の魔石を取るために亡骸の方へと歩いて行ったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
大公は忙しい。
それは年が明け、ウル帝国歴1582年になっても同じだった。
元旦、という概念はこの国にはないが、それでも新年を祝うのは万国共通の文化である。
一人娘のノエルも戻ってきていることだし、少しくらいはゆっくりさせてほしいという彼の願い。
それはそんなにも難しいことだろうかと彼は溜息をついた。
今日も今日とて、朝から来客である。
「武装はしておりませんが、警備をつけておきます」
「あぁ、そういう感じ」
1月1日から貴族院に登院して、面会するのは危険人物らしい。
シャノン・クレスト大公が扉を開けると、そこには見知った顔の元兵士が座って待っていた。
彼はシャノンの顔を見ると立ち上がり一礼する。
「君か」
「新年早々にすみません」
「いや、いいよ。君とはいずれ話をしなければと思っていた」
シャノンが席に着き、その後ろに2人、ソファの横に2人、アラタの前に2人、後ろに2人の警備が立った。
アラタの腰元にあった武器の類は全て預けてあり、黒装束も着ていない。
両手首に巻かれているのは魔力を吸収する対魔術師用の拘束具である。
最高権力者と面会しようというのだから、当然の処置である。
「仰々しくてすまないね」
「いえ、信用されていないのは理解しています」
「そういうつもりではないんだが……まあ君の用件から聞こうか」
「では遠慮なく。今朝ダンジョンに入ってドラゴンを狩ってきました。以前お借りしていた竜の魔石の代用としてお納めください」
アラタの言葉と共に、彼から荷物を預かっていた警備員が机の上に白い包みを置く。
布の上からでもはっきりと感じられる強い生命力と魔力。
シャノンがそれをめくり露になると、疑いようのない輝きを放つ魔石がそこにあった。
「確かに。君単独?」
「えぇ」
「単独挑戦なら私の所にも話が来るはずだが」
「勝手に入って勝手に出てきましたから」
「なるほど」
犯罪自慢をされてもと、とシャノンは答えに窮する。
アラタだってそれくらい分かっている、そしてそれを自分に打ち明ける意味も。
「あとで話を聞かせてもらえるね?」
「出来るんですか?」
「はい?」
「仮に自分が断ったとして、大公は力づくで自分に言うことを聞かせられるんですか?」
「……何が言いたいのかな」
「貴族院の掃除、大通りの掃除、掃除掃除掃除。嫌がらせを受けて1192小隊の人間が何も思わないとでも?」
「それはすまないと思っている。現にクエストは全て取り下げさせた」
「魔石を1人で取ってきたことは証明なんです。今この国で俺のことを止められるのは、誇張でも何でもなく先生、アラン・ドレイクしかいない。先生だって貴族が嫌いで、好き好んで手を貸してくれるとは限らない。なのにあんたたちは安全圏から俺たちに指図する。忠誠を見せろ、歯向かわない証拠が欲しいって」
「誠意を欠いたと理解している。本当にすまなかった」
「もう遅いんですよ。ねえ、俺が渡したものをテーブルに」
完全にキレているアラタを前に、警戒感を上げる警備員たち。
その内の1人が、アラタに指示された通りあるものを机の上に置いた。
銀色の十字、アラタの2つ名にもなっている勲章だ。
「返却します。俺にはもう必要の無いものだ」
「アラタ君、落ち着くんだ」
「俺は冷静ですよ。俺もあいつらも、こんな人たちのために命を懸けて戦ったなんて、そんなことを知るくらいなら冷静になんてなりたくなかった」
「クエストを出した人間には然るべき対処をさせる。だからこの場は穏便に済ませてもらえないだろうか」
「だからこうして穏便に済まそうとしているじゃないですか。大公だって先生から聞いているんでしょ? 俺が1192小隊を先に帰還させた理由を」
「それは知っているが……」
「もし1192小隊が今も八咫烏なら、間髪入れずに殺してましたよ。まだそうしてないのは俺なりの譲歩であり、規範意識を示そうとした結果であり、最大限ことを穏便に済ませようとした結果です」
アラタは唐突に席を立った。
自分の言いたいことが言い終わったので、もういいやという事らしい。
自分勝手ではある。
ただ、今の彼はそれを通すだけの力を手にしているし、意趣返しをするだけの仕打ちを受けてきた。
舐められっぱなしで引き下がるほど、アラタは腑抜けていない。
「待ちたまえ。話は——」
「終わりですよ。別に何かしでかすわけではありませんが、今後の身の振り方も含めて少し考えさせてください。そもそも、あれだけ命を懸けて戦ったのに、まだ帰属意識を試そうとすること自体が俺たちに対する裏切りなんですよ」
「分かった、君の考えはよくわかったから」
「帝国に仕官するのも面白そうですね」
アラタはそのまま退出、解除コードが無ければ開かない筈の魔術錠をコード無しでぶちやぶり、刀を返していいのか迷っている施設の人から半ば強引にそれをもぎ取った。
黒装束を羽織り仮面を着けたアラタを追跡することは、貴族院の警備員たちには難しすぎる。
シャノンが大公に就任してから初の年明け、今年も波乱尽くしの年になるだろうことが容易に想像つく。
アラタをはじめとして、精鋭の帰還兵たちの心が離れてしまったのは、大公にとっても貴族たちにとっても大きな痛手となったのだった。
そこには迷宮がある。
アトラダンジョンと名付けられたその場所は、地上入り口から下に向かって全5層の形式を取っている。
西部未開拓領域と合わせて、公国の魔石産業を成立させる貴重な資源だった。
管理は当然国が行う。
貴族院が軍を使い、一方で冒険者ギルドも冒険者を使って管理する。
ギルドが管理に介入しているのは、ダンジョン黎明期に迷宮を攻略したのが冒険者であり、以降も実質的な探索を冒険者が行っているところからきている。
だから警備も2重で、ギルドと軍の管轄下にあった。
冒険者の等級にして、Dランク以上の実力を認められた人間のみ。
以上と設定されているが、Dランク冒険者が持ち回りで警備を回すのが通例になっている。
彼らでは、黒装束を使ったアラタを捕捉できない。
【気配遮断】と黒装束の組み合わせは非常に強力で、入り口を素通りすることだってできる。
アラタがダンジョンに入ったのは、12月31日の夜のことだった。
「さぁ、始めようか」
第1層、ここはほとんど魔物が発生しない。
発生したとしても低レベルな魔物のみ、すぐに冒険者に狩り尽くされてしまう。
アラタは抜身の刀を引っ提げて道を進む。
久しぶりだが知らない道ではない。
第2層も同じようなもので、これも素通りする。
第3層からは流石に魔物も発生していて、本来ならこの辺から戦闘行為が行われることになる。
だがアラタはこれをスルーする。
たまに勘の鋭い魔物がいて、鬱陶しいので斬り捨てるだけ。
階層を下に進むことで攻略難易度はどんどん上昇するわけだが、アラタの心は下降と同時にどんどん荒んでいった。
第4層、ここを単独で挑戦することは基本的に禁止されている。
単独パーティーはまだ辛うじて認められているのだが、それもパーティーの実力をギルドないしは軍が認めなければならない。
かつてアラタが冒険者パーティー灼眼虎狼の4人で攻略した時も、この手の認定に時間がかかっている。
「前は…………」
不可視兎を刀で捉えることは難しく、周辺丸ごと土属性の罠を張る必要があった。
でも今は違う。
不可視なだけで、【気配遮断】を使っているわけではないのだから、耳で感じることができる。
アラタのことを齧ろうとノコノコ近づいてきたところをバッサリと一刀両断して肉塊に変えてしまう。
第4層もこの程度かと思いながら、アラタは最下層、第5層への階段を降りて行った。
第5層には危険な魔物がうようよいる。
理由は単純で、下層の方が魔力が濃く強力な魔物が発生しやすいこと。
それから下層になればなるほど冒険者の手が入りにくく、相対的に魔物の生存率が高まっていること。
以上2点を主な理由として、第5層の魔物はかなり強力だ。
等級にしてD~Bランク相当か。
クマの筋力にフクロウの視力と飛行能力を持つオウルベア、黒き二本角を持つ不浄の獣バイコーン、大量発生するスライムから確率的に生まれるスライムの変異種、穴の入り口が大好きで周囲を隠すように張り付くが、その体には猛毒が含まれている地面グモ。
そして、アトラダンジョンでも最強を名乗るに相応しい魔物、レッドドラゴン。
近年のレッドドラゴン討伐記録は2回ともノエル・クレストが達成している。
それ以前となると16年前にアレクサンダー・バーンスタインが達成したところまで遡る。
隠密行動で出来る限り余計な戦闘を避けつつ、アラタが第5層の最奥に到達したのは、ダンジョン入場から30分後のことだった。
「クルル…………」
「死と再生を繰り返す竜。この国の魔物の象徴。お前に勝てるのなら俺は……」
「ゴァァァアアア!」
開幕早々、竜がオレンジ色の咆哮を繰り出してきた。
純粋な魔力の塊は非常にシンプルかつ強力な攻撃。
対応するにはこれまた強力な魔術が必要になる。
「……水陣」
刀を逆手に持ち、地面に向けて鋒をトンと突く。
円環状に巡り巡る魔力は水属性に練り上げられて、実態を持った水分子の集合体として顕現する。
滝のような水量を前にして、火竜の咆哮もあえなく止められた。
熱源と水が衝突し、辺りが水蒸気に包まれたところで、アラタが走り始めた。
竜は熱感知をすることで生体反応を検知することも可能だ。
だから目を潰したくらいで喜んでいてはいけない。
アラタが順番的に逆から潰していこうとする。
【暗視】を持つアラタは、湯煙による視界阻害効果を受けにくい。
竜をしっかりと混乱させた後、【気配遮断】と黒装束の併用で気配を消して接近する。
刀に流す魔力を極力絞り、自分の肉体の範疇、つまり黒装束の効果の内側で練り上げる。
竜に気づかれる可能性を極力排除しつつ、一撃で仕留める構え。
かつてのアラタでは、火竜の鉄板のような鱗を突破することができなかった。
だからノエルに全てを託してタンクとデコイ役に徹した。
今は彼1人しかいない。
でも、以前の彼でもない。
「一点集中…………」
鋒を竜に向けて、刺突の発射台設置が完了した。
瞬時に刀に流れ込む魔力に、火竜も気付く。
けたたましく喚きながら近づいてくる。
飛行能力はなくても、体調30mを超える巨体に踏みつぶされればひとたまりもない。
アラタ、逃げず、ただ精神を研ぎ澄ませ、霧が晴れた地の底で竜を向かい合う。
「シッ」
短く息を切りながら繰り出された突き。
刀の間合いではない。
その鋒から繰り出された魔力は一本の槍となり、敵を貫く。
何十枚もの竜鱗を割りながら首を両断することは無理でも、1枚貫通させて急所を破壊することはできる。
アラタの勝ちだ。
赤き竜の巨躯は崩れ落ち、金色の眼が充血したところで死亡を確認した。
正式な手続きと手順を経ていない非公式な記録ではあるが、数十年ぶりのアトラダンジョンソロ制覇である。
アラタはその手に残る僅かな手ごたえと、竜殺しの栄誉を得たのにもかかわらず空っぽのままの心に溜息をついた。
「……おもんな」
そう呟き、竜の魔石を取るために亡骸の方へと歩いて行ったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
大公は忙しい。
それは年が明け、ウル帝国歴1582年になっても同じだった。
元旦、という概念はこの国にはないが、それでも新年を祝うのは万国共通の文化である。
一人娘のノエルも戻ってきていることだし、少しくらいはゆっくりさせてほしいという彼の願い。
それはそんなにも難しいことだろうかと彼は溜息をついた。
今日も今日とて、朝から来客である。
「武装はしておりませんが、警備をつけておきます」
「あぁ、そういう感じ」
1月1日から貴族院に登院して、面会するのは危険人物らしい。
シャノン・クレスト大公が扉を開けると、そこには見知った顔の元兵士が座って待っていた。
彼はシャノンの顔を見ると立ち上がり一礼する。
「君か」
「新年早々にすみません」
「いや、いいよ。君とはいずれ話をしなければと思っていた」
シャノンが席に着き、その後ろに2人、ソファの横に2人、アラタの前に2人、後ろに2人の警備が立った。
アラタの腰元にあった武器の類は全て預けてあり、黒装束も着ていない。
両手首に巻かれているのは魔力を吸収する対魔術師用の拘束具である。
最高権力者と面会しようというのだから、当然の処置である。
「仰々しくてすまないね」
「いえ、信用されていないのは理解しています」
「そういうつもりではないんだが……まあ君の用件から聞こうか」
「では遠慮なく。今朝ダンジョンに入ってドラゴンを狩ってきました。以前お借りしていた竜の魔石の代用としてお納めください」
アラタの言葉と共に、彼から荷物を預かっていた警備員が机の上に白い包みを置く。
布の上からでもはっきりと感じられる強い生命力と魔力。
シャノンがそれをめくり露になると、疑いようのない輝きを放つ魔石がそこにあった。
「確かに。君単独?」
「えぇ」
「単独挑戦なら私の所にも話が来るはずだが」
「勝手に入って勝手に出てきましたから」
「なるほど」
犯罪自慢をされてもと、とシャノンは答えに窮する。
アラタだってそれくらい分かっている、そしてそれを自分に打ち明ける意味も。
「あとで話を聞かせてもらえるね?」
「出来るんですか?」
「はい?」
「仮に自分が断ったとして、大公は力づくで自分に言うことを聞かせられるんですか?」
「……何が言いたいのかな」
「貴族院の掃除、大通りの掃除、掃除掃除掃除。嫌がらせを受けて1192小隊の人間が何も思わないとでも?」
「それはすまないと思っている。現にクエストは全て取り下げさせた」
「魔石を1人で取ってきたことは証明なんです。今この国で俺のことを止められるのは、誇張でも何でもなく先生、アラン・ドレイクしかいない。先生だって貴族が嫌いで、好き好んで手を貸してくれるとは限らない。なのにあんたたちは安全圏から俺たちに指図する。忠誠を見せろ、歯向かわない証拠が欲しいって」
「誠意を欠いたと理解している。本当にすまなかった」
「もう遅いんですよ。ねえ、俺が渡したものをテーブルに」
完全にキレているアラタを前に、警戒感を上げる警備員たち。
その内の1人が、アラタに指示された通りあるものを机の上に置いた。
銀色の十字、アラタの2つ名にもなっている勲章だ。
「返却します。俺にはもう必要の無いものだ」
「アラタ君、落ち着くんだ」
「俺は冷静ですよ。俺もあいつらも、こんな人たちのために命を懸けて戦ったなんて、そんなことを知るくらいなら冷静になんてなりたくなかった」
「クエストを出した人間には然るべき対処をさせる。だからこの場は穏便に済ませてもらえないだろうか」
「だからこうして穏便に済まそうとしているじゃないですか。大公だって先生から聞いているんでしょ? 俺が1192小隊を先に帰還させた理由を」
「それは知っているが……」
「もし1192小隊が今も八咫烏なら、間髪入れずに殺してましたよ。まだそうしてないのは俺なりの譲歩であり、規範意識を示そうとした結果であり、最大限ことを穏便に済ませようとした結果です」
アラタは唐突に席を立った。
自分の言いたいことが言い終わったので、もういいやという事らしい。
自分勝手ではある。
ただ、今の彼はそれを通すだけの力を手にしているし、意趣返しをするだけの仕打ちを受けてきた。
舐められっぱなしで引き下がるほど、アラタは腑抜けていない。
「待ちたまえ。話は——」
「終わりですよ。別に何かしでかすわけではありませんが、今後の身の振り方も含めて少し考えさせてください。そもそも、あれだけ命を懸けて戦ったのに、まだ帰属意識を試そうとすること自体が俺たちに対する裏切りなんですよ」
「分かった、君の考えはよくわかったから」
「帝国に仕官するのも面白そうですね」
アラタはそのまま退出、解除コードが無ければ開かない筈の魔術錠をコード無しでぶちやぶり、刀を返していいのか迷っている施設の人から半ば強引にそれをもぎ取った。
黒装束を羽織り仮面を着けたアラタを追跡することは、貴族院の警備員たちには難しすぎる。
シャノンが大公に就任してから初の年明け、今年も波乱尽くしの年になるだろうことが容易に想像つく。
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