半身転生

片山瑛二朗

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第6章 公国復興編

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 以下の文には「半身転生」の第463話までのネタバレを含みます。
 第3章、第4章、第5章の先頭にある番外編を順に読んでいただけると、だいぶ補完できるかなと思います。
 では、第5章のネタバレになりますがどうぞ。

※※※※※※※※※※※※※※※

 魂が2つに分かれ、片方だけ異世界転生した主人公の千葉新あらためアラタ・チバ。
 元の世界に帰りたいと願いながら、壮絶な異世界生活にもみくちゃにされてそれどころではない。
 自身も一度死亡し、最愛の人と死に別れ、ようやく少し立ち直ることができたと思ったら今度は戦争。
 彼の滞在しているカナン公国の隣国ウル帝国が宣戦布告をしてきたのだ。

 アラタは冒険者パーティーを組んでいたノエル・クレスト、リーゼ・クラーク、クリス、それから彼の子供と分身体の中間に位置するシルキーのシルを置いて他の仲間と戦場へ。
 彼は以前指揮していた特殊部隊『八咫烏』を再編成し、第1192小隊とする。
 そして同部隊を率いて戦場を駆け抜けていくのだった。

 戦争は終始ウル帝国軍が有利に戦況を進めていく。
 数でも練度でも劣るカナン公国だが、敵の侵略戦争、こちらの防衛戦争ということもあって地の利を味方につけて毎回ギリギリのところで耐えていく。
 時にはコートランド川の戦いのような大勝利を収めることもあり、両軍はカナン公国東部ミラ丘陵地帯とその南を舞台に血みどろの戦いを繰り広げていく。

 しかし司令官アイザック・アボットの戦死から徐々に覆しがたい流れが定まっていってしまう。
 アラタのウル帝国における自称友人? ディラン・ウォーカーは偽名を使っていた。
 彼の本当の名はレン・ジェームズ・ベンジャミン・ジャクソン・マシュー・デイビッド・
ディラン・アイザック・マテオ・アンソニー・リオ・アルフィー・トーマス・アーチー・
アーサー・ルイス・アーロン・ウォーカー。
 他人ひとからはレン・ウォーカーと呼ばれており、魔女アリソン・フェンリルと共に認識阻害系の魔術を常用することで正体を隠していた。
 彼は世界に1人しかいない最上級クラス、勇者のホルダーだった。

 カナン公国軍の補給拠点として重要なレイクタウンを舞台に、帝国軍の攻囲戦が開始される。
 戦争条約なんてものが存在しない両国の戦闘は悲惨そのもの。
 捕虜を肉の盾にして接近したり、捕虜に過度な拷問なんてのは当たり前。
 街の一角ごと吹き飛ばす爆発を防衛側の公国軍が引き起こしたりともう滅茶苦茶。
 最終的にアラタ対レン・ウォーカーは一騎打ちの末アラタのほぼ負けで決着が着く。
 それと同時刻にレイクタウンの陥落は決定的となり、第1192小隊はアラタを逃がすために実に半数が勇者レンの手にかかって死亡した。

 レイクタウンを失った公国軍はミラ丘陵地帯の南を大きく放棄し、砦に立て籠もって戦況の膠着を狙う。
 敵もそれに乗り、残る戦場はミラ丘陵地帯だけになった。
 ここでもカナン公国軍第1師団は必死の奮戦を見せたが、歴戦の戦士たちも次々と討ち取られていく。
 1192小隊の裏切り者2名の手引きもあって、敵の特殊部隊がアラタと彼のよき支えになっていたリーゼの叔父ハルツ・クラークを急襲、ハルツは死亡した。
 しっかりと部下を捕らえて拷問したアラタだが、ハルツはもう帰ってこない。
 他にもBランク冒険者レイヒム・トロンボーンの戦死、戦死戦死戦死。
 第1師団はすでに半壊していた。

 それでも勝利を諦めないアラタたちは、一か八かの敵司令部強襲を敢行。
 敵の特記戦力である剣聖オーウェン・ブラックをアラタとその部下たちで抑え、帝国軍参謀本部所属のエヴァラトルコヴィッチ・ウルメル中将を討ち取ることに成功した。
 帝国の流した血も多く、両軍は完全な消耗戦へと舵を切る。
 そして先に力尽きたのはカナン公国軍の方だった。

 彼らは1万5千の援軍が来ているという情報だけを頼りにミラ丘陵地帯を西へ西へと撤退戦を行いながら逃げていく。
 1192小隊の生き残りに特殊任務を与えつつ、先に帰還させたアラタは自身だけ残り第206中隊に参加する。
 206の元指揮官は戦死したハルツ・クラークであり、第32冒険者大隊に所属している彼らと冒険者アラタは良くなじむことができた。
 撤退戦で最も難しく、最も被害の大きい最後尾の殿しんがりを最早当然のように引き受ける冒険者たち。
 アラタ、ルーク、トマス、カイワレたちの奮戦もあって何とか軍の形を維持しながら撤退を続けていく。

 アラタは何度も限界を迎えて倒れるが、その度に味方に救出されて治癒魔術師タリアの元で治療を受け復活する。
 彼女はアラタのことが好きで戦争中に告白し、アラタは死んだ想い人エリザベス・フォン・レイフォードのことが忘れられずに断った。
 奇妙な距離感が続く中、アラタも部隊も、ついに本当の限界を迎えてしまう。

 タリアはアラタの魔術の師匠アラン・ドレイクから渡されていた、アラタに飲ませる薬をやむを得ず投与した。
 彼がろくなものを作らないのは周知の事実であり、タリアはそのことを後悔している。
 まあ結果はお察しで、アラタは人体改造甚だしい投薬の効果で五感を強化、魔力増加と回復速度向上を達成し、戦士として数段階飛び級する。

 自分の力を試したみたいなんて、と彼自身心境の変化に驚きながらウル帝国軍を圧倒する戦いぶりを見せる。
 敵の醜悪さに心底辟易としながらも、アラタはもうすぐ終わると直感していたこの戦争の出口を見た。
 先に逃げていたはずの第32冒険者大隊の兵士たちは、他の道から突破に成功したウル帝国軍の襲撃を受けて全滅していた。

 辛うじて息のあったルークはすぐに死亡し、タリアだけがまだ生きている。
 腹部には深々と槍が突き刺さり、片目は完全につぶれて見えなくなっている。
 耳の鼓膜が破れたせいで音が聞こえず、アラタの声も聞こえない。
 一方的にアラタへの愛と、幸せになって欲しい、優しいあなたが好きだと伝え、タリアはこの世を去った。

 彼女が死ぬまでの数分間、アラタはもしかしたら使えるかもしれないと彼女の得意としていた治癒魔術の再現を試みる。
 だがそう都合よく奇跡が起きるならそもそも戦争なんて起こらない。
 小国とはいえ、カナン公国全土で確認されている治癒魔術師の数は3名。
 そう簡単に再現されてはアラタのパーティーメンバーのリーゼや孤児院のリリー、死んだタリアの立つ瀬がない。

 …………できた。
 アラタは治癒魔術師になった。
 ただ、タリアが死んでから。
 亡骸はアラタの無尽蔵の魔力でみるみるうちに五体満足になり、綺麗な体に戻った。
 それと同時にアラタの身体も修復され、異世界転生前の右肘の手術痕以外きれいさっぱりと傷が消えた。

 彼は間に合わなかった。
 治癒魔術の習得がもう少し早かったとして、それがタリアの命を繋ぎ留めることができることとはイコールではない。
 ただ、間に合わなかった、間に合っていればという可能性は彼の中から生涯消えない。

 獣の慟哭がミラ丘陵地帯にこだました。
 近くでは彼以外誰も生存者がいないこの戦場で、アラタは立ちあがり天を仰いだ。
 涙が止まらない。
 そして、彼は笑った。
 心の底から、高笑いをした。
 彼の心は疾うに壊れていたのだ。

 丁度その日、カナン公国軍の援軍1万5千がミラ丘陵地帯の西10km地点に到着。
 ウル帝国軍はミラ丘陵地帯の東側を占拠し、これ以上の戦争継続が実質不可能なカナン公国は実効支配状態を認めざるを得なかった。
 結局、ミラ丘陵地の西と東で国境が引かれる状態となり、カナン公国は領土を大きく削り取られた形だ。
 こうして第十五次帝国戦役は終焉を迎え、その2日後にアラタたち一般兵士の帰還が始まった。

 第5章 第十五次帝国戦役編 完

※※※※※※※※※※※※※※※

【作者より】

 ここまで読んでいただき感謝です。
 今回ここまでで3000文字オーバー、他の作品と比べるとこれでも長いんですかね。
 私は私の能力不足で文字数が増えがちなので、書いたうえで分かりやすさと面白さを残しつつ文字数を減らすなんて神業が垣間見える作家さんたちを心底尊敬しています。

 メタい話というかこの作品の状況ですが、カクヨムでしおり(ブクマ)242個になりました。
 100を超えたのも、200を超えたのもこの第5章ということで(どんだけ長いんだ)、意外と思い入れのある章になったと感謝を伝えさせてください。

 第5章はもう少しコンパクトにまとめるつもりだったんですけど、案の定でしたね。
 私は私の書きたいことを書く人間なので、まあこれはこれでという感じ。
 もっと読者を意識するとかやるべきことはあるんですけど、そういうのは商業目指す人にお任せします。
 とにかく過去最長の章になって若干だらけた節もなくはないですが、お付き合い頂き誠にありがとうございました!

 さて、次の話をしましょう。
 絶望的な終わり方をした第5章の続きですが、第5章最終話の末尾にある通り第6章のタイトルは『公国復興編』です。
 もう少し捻れと思ったそこの方、私もそう思ってます。
 ただ、このワードは外せないなと思った次第で、逆に言えば復興がある程度完了すれば第6章は完結します。短くなる予感。

 作品状況ですが、伏線回収しつつ伏線を撒いているのでトータルではプラマイゼロくらいだと自覚しています。
 第7章、第8章でやることはもう決まっていて、第6章も合わせてかなり気合を入れた章になります。いつも言ってる気がするけど。

 200万時以上も1つの話を書いててこの作者頭おかしいんじゃねーの?

 人に言われたことはありませんが、他の作家さんを見てるとたまに自分で思います。
 『半身転生』のサイドストーリーも山ほどありますし、他にも異世界ファンタジーの変わり種的なものもいくつか考えています。
 プロットはもうできているのであとは連載開始するだけなのですが、毎日4000字の投稿との並行は私には無理。
 なので今しばらくはこの作品のみ、もしかしたらたまに短編出すかもと言った予定。
 文章を書くのは楽しいし練習になるし、お話を考えるのは自分の脳内を拡張している感触がして気持ちがいい。
 それで反響を貰えたりするのだから、なろうやカクヨム、アルファポリスといったサービスには感謝です。

 第5章に入って、ようやくカクヨムの方で最新話を追ってくださる方が出てきたので、それも個人的に非常に嬉しいポイント。
 雑多になりますが、なろうに掲載されていてコミカライズもされている『濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記』がめちゃくちゃ面白いです。
 ここで他作品の名前だすの非常に怖いのですが、それでも推します。
 鬼火をアニメで見たい!
 ……なぜ唐突に他作の宣伝を?

 後半にかけてまとまりを欠くのは最早私のお家芸ですので許してください。
 ……気を付けます。

 これからも『半身転生』をよろしくお願いいたします。

 片山瑛二朗
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