448 / 544
第5章 第十五次帝国戦役編
第444話 奇策は下策
しおりを挟む
次の日も、その次の日も、アラタたち冒険者大隊の快進撃は続いた。
連戦連勝、敵も夜通し戦うつもりは無いみたいで、日が暮れるとほとんどが引き返していく。
連日の戦闘による疲労と被害は相当なものがあるが、それ以上の打撃を敵に与えているという感触が彼らを元気づけていた。
一方、ウル帝国軍中盤の士気は惨憺たる有様だった。
寡兵にいいようにやられて連戦連敗、相手は鬼のように強い上位冒険者たち。
脱走兵が出るのはまあ分かるが、公国軍が夜間戦闘も辞さない動きを取っていることでノイローゼになる者まで出る始末。
挙句の果てには味方同士で乱闘騒ぎまで頻発するのだから、もう散々といった様子だ。
そもそも、彼らは彼らの仕事をもう終えた気になっていたのだ。
彼らはコートランド川沿いに布陣していた部隊が大半で、すでにかなりの数の戦闘に参加していた。
疲弊度、仕事量を見てもそれは明らかで、それを鑑みて亡きエヴァラトルコヴィッチ中将は彼らを後方に下げていた。
彼らの力を使うまでもなく、元から公国軍第1師団と対峙していた2万6千の生き残りを投入すればいいだけ、シンプルな考えだった。
それがここに来て冒険者たちによる中盤への攻撃。
これが実によく刺さった。
実際の所、リーバイもアダムもレイヒムも、公国の指揮官たちはそこまで細かく考えていない。
ただ普通に撤退戦を展開するだけではもたないという試算が出たから無茶な作戦を取らざるを得なかっただけで、これが戦況を決定づけるなんてまるで考えていなかった。
レイヒム率いる冒険者たちには悪いが、ある意味捨て石と言っても過言ではない。
だが世の中不思議なもので、当てにいくと当たらないくせに当てようとせずに投げると案外当たってしまうものなのだ。
だからこうしてアラタたちは今日も敵を斬る。
「騎兵突っ込め! 貫通して旋回までいくぞ!」
レイヒムは隊長自ら先陣を切って敵を蹴散らしていく。
帝国兵の身体能力は確かに高い。
しかしこと馬術に限って言えば公国に分があった。
それはお国柄や地形、環境要因が複雑に組み合わさった結果であり、一朝一夕で覆せるものでは無い。
アドバンテージを活かしつつ、苦手な歩兵戦を引っ張るのはBランカーたち。
「カイワレ」
現場指揮を執るトマスは隣にいるパーティーメンバーに声を掛けた。
トマスと違って戦術指揮を執ることが出来ない彼の役目は、単純な斬り合いだ。
「150秒解放。残りは温存しておくこと」
「分かった」
ひっじょ~に軽い返事だった。
中身をくりぬいてヘリウムでも入れているのかと疑うくらい軽い返事。
もっと気合を入れて、心を込めて、覚悟を決めて、熱意と共に、そんなことを言いたくなる昭和生まれのおじさんが沸いてきてもおかしくない。
「まったく。だがまぁ……」
カイワレが最前線に向かうと道が開く。
道を譲っているようにも見えるし、単に彼のことを避けているようにも見える。
返事同様足取りも軽やか、とても命のやり取りをしに行くようには見えない。
だが、これでいいのだ。
カイワレにとって、戦争もクエストも、食事も睡眠も関係ない。
ただの日常動作の延長線上に過ぎない。
平常心とよく唱える人がいる。
彼は非日常でも日常と同じように振舞おうと気を揉んで、結果的に自己暗示をかけるため平常心と唱えるのだ。
カイワレにそんな呪文は必要ない。
ある意味アラタよりも頭のおかしいCランク冒険者は、限定的な戦闘能力ならアラタと張るし、何なら勝つ。
それは彼がカンストするまで育て上げたスキル【狂化】の力だ。
「えーっと、時計は……まぁいいや」
時間を守れないカイワレにと、仲間がプレゼントしてくれた懐中時計。
この時代、カナン公国で時計は非常に高価な品物だ。
アラタは金が無くて買えないし、クリスも必要としていない。
リーゼも貴重だから普段持ち歩くようなことはせず、常に携帯しているのはノエルくらいのものだ。
そんな貴重で想いの込められた時計を、カイワレはどこにやったか忘れてしまった。
背嚢の中にあるのは確かで、失くしたわけではない。
ただ、時間を図るために取り出せないのなら、それはなくしたと言って差し支えない。
「通せ! 早くしないと巻き込まれるぞ!」
怒鳴られた公国兵は、そんなこと言われてもと頭を抱える。
今まさに自分の目の前に敵がいるわけで、こうして武器を振り回し合っている。
そんな中道を開ければ、なだれ込まれる云々の前に自分が死にかねない。
無理無理、何とかしてくれよと男は天に願った。
——力を寄越せ。
——いつものように【狂化】だけ使えばいいじゃないか。コントロールは得意だろう?
——いいから早くしろよ。えっと150……180だっけ? 180秒寄越せ。
——代価は貰うぞ。
——うん。
強いバネのような動き。
エネルギーとパワーに溢れ、ダイナミックな動きを想起させるだろう。
カイワレは全身の筋肉をフル活用して剣を振った。
もちろん【身体強化】を発動した上での話だ。
さらに、彼は理性を引き換えに他の能力を底上げしている。
筋力も動体視力も敏捷性も、全てが大幅に強化されていた。
「ゔゔゔ…………」
野生の獣のようなうなり声、狂犬病を疑うほど常軌を逸した形相。
公国兵の肩を踏み台にして、彼は敵陣に踏み込んだ。
まずは先頭の兵士の頸動脈を撫で斬り、返す剣で首を飛ばす。着地と同時にくるりと半回転、周囲の敵の足を薙いだ。
恐怖、純粋に恐怖体験だ。
押し合いへし合いをすることで、ある意味均衡が取れていた歩兵戦。
そのバランスを立った1人で破壊しようとしているのだから、そりゃ戦慄もするだろう。
同様のことをしてみろと命じられれば、アラタも似たような成果を上げることは出来る。
しかし彼をもってしても成功率はそう高くないだろう。
カイワレは、100回やって100回この攻撃を成功させる自信がある。
それがアラタとカイワレの違いであり、メンタルが結果を分けるシビアな世界のお話だ。
「ゔゔ……ゔあぁぁぁあああ!」
その日アラタ以上の働きを見せたカイワレは、大いに味方の命を救い、敵には精神疾患を持つ敵の記憶が刻まれた。
※※※※※※※※※※※※※※※
コートランド川やミラでアラタたちがそうだったが、連戦連敗となると気が滅入るしイライラもする。
それを部下に当たるようでは信頼が得られないと、帝国士官たちは平静を装って静かにしていた。
だがやはり、内心穏やかではない。
自分含めて味方はもう十分戦って、残りは最前線の部隊が全部片づけて終戦だと思っていたのだ。
そこにまるで自分たちを狙い撃ちに来たかのような冒険者の襲来。
「どうしたものか……」
連隊の指揮所で、西部方面隊の尉官が溜息をついた。
男は地方出身者、その割には軍属として成功している。
大所帯の家族を養っているし、同年代の中ではエリートに分類される。
だから、ここで評価を落とすわけにはいかなかった。
勝ちがほぼ決まっているこの戦争で、自分は武功を上げられなかったとなると軍の内でも外でも風当たりが厳しくなる。
それは嫌だと彼も仕事を頑張るのだが、どうにも周囲と歩調が合わずに空回ってしまう。
それもこれも、全て連隊長殿のやる気の無さが原因だと男は断定して心の中で糾弾した。
「中尉、何か意見でも?」
「あ、いえ……何でもありません」
「そうか」
帝国軍第4連隊長グレゴリウス・オニキス大佐。
中尉と違って帝都グランヴァインの出身、家も軍人の家系で、いわゆる金持ちボンボンのハイパーエリート。
よほどの馬鹿でもなければ初めから将官の座を目指すキャリア形成をするような家庭の子である。
思うような戦果を挙げられず、味方の損害ばかりが目に付く中尉とは対照的に、グレゴリウスの様子は落ち着いたものだった。
それが虚勢か真実かはさておき、意図的だとしたら大したものである。
大勢の命を預かるのなら、迷う姿を部下に見せてはいけない。
本当は首がねじ切れるくらい熟考に熟考を重ねていたとしても、凛としながら部下と接することで尊敬と信頼は生まれる。
「みな口に出す必要は無い。じきに状況は一変する」
木の椅子で舟を漕ぎながらそう言い切る。
あまりに自然と口にしたものだから、一部の人間は環境音として処理してしまったくらいだ。
「大佐殿、それはどういう……?」
周囲の注目が集まる中、グレゴリウスはハンドブックサイズにまとめられた戦況報告を見ながら言う。
「脱走兵は仕方ないとして、連日の戦いで大きな損害を被った」
彼の口から出る事実は、言葉の軽さとは裏腹に周囲の人間へ重くのしかかる。
だが、それを知ってか知らずかグレゴリウスは平気な顔をしている。
「これだけ戦ったのだ、敵はさぞ疲弊しているだろうし、今日は良い夢を見れることだろう。諸君、軍を3分割し昼夜1部隊休憩と予備部隊を兼任させるのだ。そろそろ反転して敵を叩く」
「はっ!」
彼の部下が勢いよく返事をすると、周りの士官たちもそれにつられて返事を返す。
「大佐、さきほどの作戦の意味をお聞きしても?」
「別に大したことじゃない。敵が勢いよく突っ込んでくるものだからまずは受け止めて、疲れて帰ろうとする背を突いてやるだけの話さ。この規模の相手を全力ですり潰すのは品がないが、かと言って奇策を用いるような必要もない。ただひたすらに正攻法で敵を削る、今までの戦いと同じだよ」
そう自信ありげに断言するグレゴリウスの脳内には、はっきりとした勝利までのロードマップが描かれている。
これより8時間稼働3交代制で24時間の戦闘へ移行すると、グレゴリウス大佐はそう宣言した。
対するアラタたちは日中の戦闘で疲れていて、今は休息に努める必要がある。
奇策を用いるは下策、グレゴリウス大佐の座右の銘が、冒険者大隊に襲い掛かろうとしていた。
連戦連勝、敵も夜通し戦うつもりは無いみたいで、日が暮れるとほとんどが引き返していく。
連日の戦闘による疲労と被害は相当なものがあるが、それ以上の打撃を敵に与えているという感触が彼らを元気づけていた。
一方、ウル帝国軍中盤の士気は惨憺たる有様だった。
寡兵にいいようにやられて連戦連敗、相手は鬼のように強い上位冒険者たち。
脱走兵が出るのはまあ分かるが、公国軍が夜間戦闘も辞さない動きを取っていることでノイローゼになる者まで出る始末。
挙句の果てには味方同士で乱闘騒ぎまで頻発するのだから、もう散々といった様子だ。
そもそも、彼らは彼らの仕事をもう終えた気になっていたのだ。
彼らはコートランド川沿いに布陣していた部隊が大半で、すでにかなりの数の戦闘に参加していた。
疲弊度、仕事量を見てもそれは明らかで、それを鑑みて亡きエヴァラトルコヴィッチ中将は彼らを後方に下げていた。
彼らの力を使うまでもなく、元から公国軍第1師団と対峙していた2万6千の生き残りを投入すればいいだけ、シンプルな考えだった。
それがここに来て冒険者たちによる中盤への攻撃。
これが実によく刺さった。
実際の所、リーバイもアダムもレイヒムも、公国の指揮官たちはそこまで細かく考えていない。
ただ普通に撤退戦を展開するだけではもたないという試算が出たから無茶な作戦を取らざるを得なかっただけで、これが戦況を決定づけるなんてまるで考えていなかった。
レイヒム率いる冒険者たちには悪いが、ある意味捨て石と言っても過言ではない。
だが世の中不思議なもので、当てにいくと当たらないくせに当てようとせずに投げると案外当たってしまうものなのだ。
だからこうしてアラタたちは今日も敵を斬る。
「騎兵突っ込め! 貫通して旋回までいくぞ!」
レイヒムは隊長自ら先陣を切って敵を蹴散らしていく。
帝国兵の身体能力は確かに高い。
しかしこと馬術に限って言えば公国に分があった。
それはお国柄や地形、環境要因が複雑に組み合わさった結果であり、一朝一夕で覆せるものでは無い。
アドバンテージを活かしつつ、苦手な歩兵戦を引っ張るのはBランカーたち。
「カイワレ」
現場指揮を執るトマスは隣にいるパーティーメンバーに声を掛けた。
トマスと違って戦術指揮を執ることが出来ない彼の役目は、単純な斬り合いだ。
「150秒解放。残りは温存しておくこと」
「分かった」
ひっじょ~に軽い返事だった。
中身をくりぬいてヘリウムでも入れているのかと疑うくらい軽い返事。
もっと気合を入れて、心を込めて、覚悟を決めて、熱意と共に、そんなことを言いたくなる昭和生まれのおじさんが沸いてきてもおかしくない。
「まったく。だがまぁ……」
カイワレが最前線に向かうと道が開く。
道を譲っているようにも見えるし、単に彼のことを避けているようにも見える。
返事同様足取りも軽やか、とても命のやり取りをしに行くようには見えない。
だが、これでいいのだ。
カイワレにとって、戦争もクエストも、食事も睡眠も関係ない。
ただの日常動作の延長線上に過ぎない。
平常心とよく唱える人がいる。
彼は非日常でも日常と同じように振舞おうと気を揉んで、結果的に自己暗示をかけるため平常心と唱えるのだ。
カイワレにそんな呪文は必要ない。
ある意味アラタよりも頭のおかしいCランク冒険者は、限定的な戦闘能力ならアラタと張るし、何なら勝つ。
それは彼がカンストするまで育て上げたスキル【狂化】の力だ。
「えーっと、時計は……まぁいいや」
時間を守れないカイワレにと、仲間がプレゼントしてくれた懐中時計。
この時代、カナン公国で時計は非常に高価な品物だ。
アラタは金が無くて買えないし、クリスも必要としていない。
リーゼも貴重だから普段持ち歩くようなことはせず、常に携帯しているのはノエルくらいのものだ。
そんな貴重で想いの込められた時計を、カイワレはどこにやったか忘れてしまった。
背嚢の中にあるのは確かで、失くしたわけではない。
ただ、時間を図るために取り出せないのなら、それはなくしたと言って差し支えない。
「通せ! 早くしないと巻き込まれるぞ!」
怒鳴られた公国兵は、そんなこと言われてもと頭を抱える。
今まさに自分の目の前に敵がいるわけで、こうして武器を振り回し合っている。
そんな中道を開ければ、なだれ込まれる云々の前に自分が死にかねない。
無理無理、何とかしてくれよと男は天に願った。
——力を寄越せ。
——いつものように【狂化】だけ使えばいいじゃないか。コントロールは得意だろう?
——いいから早くしろよ。えっと150……180だっけ? 180秒寄越せ。
——代価は貰うぞ。
——うん。
強いバネのような動き。
エネルギーとパワーに溢れ、ダイナミックな動きを想起させるだろう。
カイワレは全身の筋肉をフル活用して剣を振った。
もちろん【身体強化】を発動した上での話だ。
さらに、彼は理性を引き換えに他の能力を底上げしている。
筋力も動体視力も敏捷性も、全てが大幅に強化されていた。
「ゔゔゔ…………」
野生の獣のようなうなり声、狂犬病を疑うほど常軌を逸した形相。
公国兵の肩を踏み台にして、彼は敵陣に踏み込んだ。
まずは先頭の兵士の頸動脈を撫で斬り、返す剣で首を飛ばす。着地と同時にくるりと半回転、周囲の敵の足を薙いだ。
恐怖、純粋に恐怖体験だ。
押し合いへし合いをすることで、ある意味均衡が取れていた歩兵戦。
そのバランスを立った1人で破壊しようとしているのだから、そりゃ戦慄もするだろう。
同様のことをしてみろと命じられれば、アラタも似たような成果を上げることは出来る。
しかし彼をもってしても成功率はそう高くないだろう。
カイワレは、100回やって100回この攻撃を成功させる自信がある。
それがアラタとカイワレの違いであり、メンタルが結果を分けるシビアな世界のお話だ。
「ゔゔ……ゔあぁぁぁあああ!」
その日アラタ以上の働きを見せたカイワレは、大いに味方の命を救い、敵には精神疾患を持つ敵の記憶が刻まれた。
※※※※※※※※※※※※※※※
コートランド川やミラでアラタたちがそうだったが、連戦連敗となると気が滅入るしイライラもする。
それを部下に当たるようでは信頼が得られないと、帝国士官たちは平静を装って静かにしていた。
だがやはり、内心穏やかではない。
自分含めて味方はもう十分戦って、残りは最前線の部隊が全部片づけて終戦だと思っていたのだ。
そこにまるで自分たちを狙い撃ちに来たかのような冒険者の襲来。
「どうしたものか……」
連隊の指揮所で、西部方面隊の尉官が溜息をついた。
男は地方出身者、その割には軍属として成功している。
大所帯の家族を養っているし、同年代の中ではエリートに分類される。
だから、ここで評価を落とすわけにはいかなかった。
勝ちがほぼ決まっているこの戦争で、自分は武功を上げられなかったとなると軍の内でも外でも風当たりが厳しくなる。
それは嫌だと彼も仕事を頑張るのだが、どうにも周囲と歩調が合わずに空回ってしまう。
それもこれも、全て連隊長殿のやる気の無さが原因だと男は断定して心の中で糾弾した。
「中尉、何か意見でも?」
「あ、いえ……何でもありません」
「そうか」
帝国軍第4連隊長グレゴリウス・オニキス大佐。
中尉と違って帝都グランヴァインの出身、家も軍人の家系で、いわゆる金持ちボンボンのハイパーエリート。
よほどの馬鹿でもなければ初めから将官の座を目指すキャリア形成をするような家庭の子である。
思うような戦果を挙げられず、味方の損害ばかりが目に付く中尉とは対照的に、グレゴリウスの様子は落ち着いたものだった。
それが虚勢か真実かはさておき、意図的だとしたら大したものである。
大勢の命を預かるのなら、迷う姿を部下に見せてはいけない。
本当は首がねじ切れるくらい熟考に熟考を重ねていたとしても、凛としながら部下と接することで尊敬と信頼は生まれる。
「みな口に出す必要は無い。じきに状況は一変する」
木の椅子で舟を漕ぎながらそう言い切る。
あまりに自然と口にしたものだから、一部の人間は環境音として処理してしまったくらいだ。
「大佐殿、それはどういう……?」
周囲の注目が集まる中、グレゴリウスはハンドブックサイズにまとめられた戦況報告を見ながら言う。
「脱走兵は仕方ないとして、連日の戦いで大きな損害を被った」
彼の口から出る事実は、言葉の軽さとは裏腹に周囲の人間へ重くのしかかる。
だが、それを知ってか知らずかグレゴリウスは平気な顔をしている。
「これだけ戦ったのだ、敵はさぞ疲弊しているだろうし、今日は良い夢を見れることだろう。諸君、軍を3分割し昼夜1部隊休憩と予備部隊を兼任させるのだ。そろそろ反転して敵を叩く」
「はっ!」
彼の部下が勢いよく返事をすると、周りの士官たちもそれにつられて返事を返す。
「大佐、さきほどの作戦の意味をお聞きしても?」
「別に大したことじゃない。敵が勢いよく突っ込んでくるものだからまずは受け止めて、疲れて帰ろうとする背を突いてやるだけの話さ。この規模の相手を全力ですり潰すのは品がないが、かと言って奇策を用いるような必要もない。ただひたすらに正攻法で敵を削る、今までの戦いと同じだよ」
そう自信ありげに断言するグレゴリウスの脳内には、はっきりとした勝利までのロードマップが描かれている。
これより8時間稼働3交代制で24時間の戦闘へ移行すると、グレゴリウス大佐はそう宣言した。
対するアラタたちは日中の戦闘で疲れていて、今は休息に努める必要がある。
奇策を用いるは下策、グレゴリウス大佐の座右の銘が、冒険者大隊に襲い掛かろうとしていた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―
浅山いちる
ファンタジー
この作品は改稿版があります。こちらはサクサク進みますがそちらも見てもらえると嬉しいです!
大事なモノは、いつだって手の届くところにある。――人も、魔法も。
幼い頃憧れた、兵士を目指す少年ジャック。数年の時を経て、念願の兵士となるのだが、その初日「行ってほしい部署がある」と上官から告げられる。
なくなくその部署へと向かう彼だったが、そこで待っていたのは、昔、隣の家に住んでいた幼馴染だった。
――モンスターから魔法を作るの。
悠久の時を経て再会した二人が、新たな魔法を生み出す冒険ファンタジーが今、幕を開ける!!
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット!」にも掲載しています。
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
都市伝説と呼ばれて
松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。
この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。
曰く『領主様に隠し子がいるらしい』
曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』
曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』
曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』
曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・
眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。
しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。
いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。
ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。
この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。
小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる