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第5章 第十五次帝国戦役編
第352話 たとえ何があったとしても
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ウル帝国軍1万6千、総出撃。
前線にいる兵士たちを合わせれば1万8千以上。
その景色は、圧巻の一言だった。
あれこれ綿密な指示が出ていない分、兵士たちの動きに迷いがなくスムーズに行動が進んでいく。
川を渡り、敵軍を撃滅すべし。
命令はただそれだけだ。
今日に入ってからあれこれとグダグダしていた影響で、エヴァラトルコヴィッチ中将の指揮する兵2千ほどは実質的に戦闘には参加できそうにない。
もし彼らが現場に到着するとすれば、すでに戦闘は終結しているだろう。
それがどちらの勝利で幕を閉じるかはさておき。
人の波が河川敷に押し寄せて、船を渡したりそのまま泳ぎ始めたり、人間単体では決して抗いようのない巨大な暴力が群を成して押し寄せてきたのだ。
その頃、カナン公国軍の前線部隊は繰り返し変更される命令に右往左往するだけでまともに動けていなかった。
「突撃だ! 敵を迎え撃つぞ!」
「さっき撤退といったではないか!」
「もう変わった!」
「その後の作戦変更は聞きましたか?」
「またかよ」
「もう知らん! 総員迎撃用意!」
これでは流石に勝てないだろうな、とアラタは息を吐く。
予定通りのこととはいえ、罪悪の情念を感じずにはいられない。
あの中にもきっと、作戦の詳細を聞かされたうえであのような行動に従事させられている人間はいるはず。
彼らは自分たちが敵に食われるために、美味そうな餌に見せかけるために味方を欺き続けなければならない。
その結果、部下や仲間、そして自分さえもが死ぬとしても。
この作戦を考え付いた人間は、きっと死後地獄に落ちることだろう。
そこまで考えた彼は、『そういえば地獄は無いんだった』と、あることを思い出した。
彼をこの異世界に転生させた神を自称する存在は、死んだ魂はリセットされて転生する説を説いていた。
仮にそれが真ならば、この世に天国も地獄も無いことになる。
だから、現世で何をしようと、常世のことを考えるだけ無駄なのだ、存在しないのだから。
「アラタ隊長、指示をお願いします」
彼の元に来たのは旧第5分隊にいたシリウスである。
冒険者仲間のサイロスは負傷離脱した。
現在は彼が分隊を率いている。
「残ったのは何人いる?」
「76名です」
「1192小隊の面子は?」
「17名が戦えます」
「うーん……」
腕組みをしたアラタの視線の先で、中洲にいた敵軍が川を渡り始めている。
後続もそろそろ川の中腹に差し掛かるから、場所を空けるのと先行して道を切り拓く役割でも与えられたのだろう。
最低でも彼らくらいは叩き潰しておいた方が後々楽になると、彼は計画を練り始めている。
「よし、小隊のメンバーだった奴を班長に、3人班を作ってくれ。俺を抜いて16人で、全部で48人。戦えそうな人間からピックアップしていって、溢れた奴は後方に送れ」
「その後はどうしますか?」
「少し下がる。衝突した時にはどっちにしろたくさん死ぬからな。うちの部隊から出す必要は無い」
「了解です。班決めをしてきます」
「おう、頼んだ」
シリウスを見送ったアラタの元に、今度はリャンがやって来た。
彼は何かとアラタと行動を共にしてきただけあって、他の隊員に比べて距離が近い。
碧い髪と緑の瞳が異彩を放つものの、本人の気質の穏やかさもあってそこまで目立っていない。
「どうした?」
「さっきは納得しましたけど、やっぱり司令部に行くべきだと思います」
「あー……別にいいよ。大丈夫」
リャンはこれからの作戦を知らない。
知らないから、不安になっている。
今目の前で起きている友軍の混乱が、この戦いにおいて致命傷になりうると思っているから。
彼がそう考えているという事は、作戦が順調に運んでいるという証の一つになる。
だからこそ、アラタは落ち着いていた。
落ち着いて、司令部に行く必要は無いと言い切った。
ただ、両者の持つ情報の違いを鑑みれば、アラタはもう少し焦るべきだったのかもしれない。
「何か知っているんですか」
リャンがアラタのことを疑い始めるのも無理からぬ話だと言える。
「別に」
そして、眼を付けられると案外簡単にボロを出すのがアラタという人間の特徴だ。
『別に』というそっけない態度が怪しすぎることくらい、誰だって理解できる。
彼が今の戦況に関して何かを隠していることがほぼ確定したところで、リャンは答えを知りたがった。
彼だけではなく、部隊の中心メンバーはみんなそうだろう。
アラタに詰め寄らずとも、近くにいる人間は皆聞き耳を立てていた。
班決めが進行していく中で、密かに隊長への注目が集まる。
「特に何もないよ。ただ敵が押し寄せてくるから対応しているだけだ」
大勢の前で、そう言い切った。
しかし、先ほどそれで納得できなかったからリャンはここに来ている。
そんな受け答えでは到底納得できないのだ。
「アラタ、本当のことを教えてください」
「これが本当のことだ」
「……あのですね、流石にそれは無理がありますよ」
「お前らさっさと班分けしろ。おら動け」
いつの間にか集まって来た301中隊の隊員たちは、皆一様にアラタの方を見つめていた。
アラタは散るように言ってみたものの、到底いう事を聞きそうにない。
どうしたものかと途方に暮れている中で、リャンの追及は続く。
「私たちには話せないことですか」
「まあね、作戦の機密保持の観点からこれは譲れない」
「では、私たちはどの命令を信じて戦えばいいんです」
今、彼らに全てを打ち明けたとして、その後どうなるのか。
絶対に他の部隊にも情報は漏れ出し、本当の意味での混乱はきっと消えてしまう。
訓練だと認識している防災訓練と、本物だと思い込んでいる防災訓練の意味はまるで違うのだ。
それと同じ話で、今起きている指揮系統の混乱はわざとなのだと理解していれば、これほど焦ることも無くなる。
ただし、それでは敵が不審がって攻撃を停止する恐れがあった。
ではどうするか、やはり現時点では話すことが出来ない。
アラタは無い頭を必死に振り絞って、何とかみんなが納得して動いてくれるだけの、それでいて秘密は秘密として維持できるようないい訳を考えようと苦心する。
部下がある程度優秀だと、今度はこのような問題が発生することもあるからままならない。
そして彼が出した結論とは。
「いいから俺についてこい」
「いや、それでは……」
「司令部が揉めているのは事実だ。命令が二転三転するのもそのせい。だからと言って、俺は勝ちを諦めるつもりも逃げるつもりもない。だからこそ、お前らに全部を話すわけにはいかない。話したとして、もしどこかから漏れたら、俺はお前らを斬らなくちゃいけなくなる。全員聞いておけ、これから先、たとえ何があったとしても、俺のことを信じてただついてこい。そうすれば勝てる、生き残れる、生きて帰れる。何か言いたいことのあるやつはいるか」
彼は嘘を塗り重ねることを選んだ。
本当は司令部は揉めてなどいない。
一致団結してこの作戦に全てを懸けている。
だが、司令部を悪役にした方が話が進みやすいと、アラタはそう判断した。
司令部はもう使い物にならないが、それでも諦めるつもりは無いから黙ってついてこい。
つまるところそういうことを言っている。
誰も反論を述べることはしない。
ただ黙って聞き入るだけだ。
彼らの中には、今でも一抹の不信感が残っている。
それは司令部に対してのものが大半を占めているが、隊長アラタに対するそれも含まれている。
それでも、先ほどよりは随分軽くなった。
彼の眼が、オーラが、立ち居振る舞いが、経歴が、実績が、覚悟が、ついていきたいと、ついていけば何とかなるかもしれないと思わせてくれる。
結局のところ人間は、誰かに依存しなければ生きていけない。
そして依存先は、強力であればあるほど良い。
今は、隊員たちがすべからずアラタに依存している。
それを良く言い換えると、一致団結していると表すのだ。
「もう一度伝える。班に組み込まれた48名以外の人間は後方に退避、出来るだけ距離を取れ。残りは俺についてこい、敵の足を鈍らせて乱戦に持ち込む。そっから先は斬り合いだ」
既に敵は目と鼻の先に迫っている。
これ以上議論を重ねる余裕は無い。
そして、その必要もない。
隊員たちの覚悟はもう固まった。
「行動!」
アラタの一言で、全員弾かれたように行動を開始した。
「戦闘準備! 装具点検も忘れるな!」
「ポーション摂取!」
「隊長、戦闘部隊構築完了しました」
「おう」
「敵上陸開始! 敵上陸開始!」
「初動は別の部隊が受け持つ。俺たちは少し待機」
あ~、これ後でなんて言い訳しよう。
だから嘘を嘘で重ねちゃダメなんだよなぁ。
内心、もう少しまともな説明は出来なかったものかと今でも考え続けている。
それくらい、アラタから見れば苦しい言い訳だった。
それでも部下がついてきてくれたのは、彼の日頃の行いや実績に助けられた部分が大きい。
実際今まで何とかしてきたし、そのことを301中隊の面々も理解しているから。
アラタについていけば間違いないと、そう思ってくれているという前提条件あってこその先ほどの演説。
やはり先立つものは信用という事らしい。
既に水際で発生している戦闘の余波が彼らにも伝播している。
時折石や矢が飛来してきて、ガードしなければ最悪命を落としかねない。
そして徐々にその頻度が増していく。
自分たちの番が近づいてきていることの証だ。
48名、中隊の半分程度の規模感。
恐らくは、この内の半分生き残ることが出来れば御の字という激戦になるだろうと予測している。
それほどに、アラタの受け持つ仕事の負荷は大きい。
不自然にならないように精一杯抵抗を試みて、撤退時には殿を務め、反転攻勢に出たら最前線で敵を討つ。
途中からは入れ替わりの機会を設けることも可能だとしても、最大火力を求めるのならアラタは欠かせず、その周囲もセットで運用されることは分かり切っている。
徐々に怒号と歓声の阿鼻叫喚が近づいてくる。
自分から向かわなくとも、相手の方から勝手に近づいてくるのだ。
そして、最後の一歩は自分たちで進むべきだと、アラタは刀を振り上げた。
「総員…………」
そして前線が決壊し、敵へと続く道が開いた。
「突撃ィ!」
コートランド川の戦いにおける最激戦に、アラタ率いる第301中隊が突撃した。
前線にいる兵士たちを合わせれば1万8千以上。
その景色は、圧巻の一言だった。
あれこれ綿密な指示が出ていない分、兵士たちの動きに迷いがなくスムーズに行動が進んでいく。
川を渡り、敵軍を撃滅すべし。
命令はただそれだけだ。
今日に入ってからあれこれとグダグダしていた影響で、エヴァラトルコヴィッチ中将の指揮する兵2千ほどは実質的に戦闘には参加できそうにない。
もし彼らが現場に到着するとすれば、すでに戦闘は終結しているだろう。
それがどちらの勝利で幕を閉じるかはさておき。
人の波が河川敷に押し寄せて、船を渡したりそのまま泳ぎ始めたり、人間単体では決して抗いようのない巨大な暴力が群を成して押し寄せてきたのだ。
その頃、カナン公国軍の前線部隊は繰り返し変更される命令に右往左往するだけでまともに動けていなかった。
「突撃だ! 敵を迎え撃つぞ!」
「さっき撤退といったではないか!」
「もう変わった!」
「その後の作戦変更は聞きましたか?」
「またかよ」
「もう知らん! 総員迎撃用意!」
これでは流石に勝てないだろうな、とアラタは息を吐く。
予定通りのこととはいえ、罪悪の情念を感じずにはいられない。
あの中にもきっと、作戦の詳細を聞かされたうえであのような行動に従事させられている人間はいるはず。
彼らは自分たちが敵に食われるために、美味そうな餌に見せかけるために味方を欺き続けなければならない。
その結果、部下や仲間、そして自分さえもが死ぬとしても。
この作戦を考え付いた人間は、きっと死後地獄に落ちることだろう。
そこまで考えた彼は、『そういえば地獄は無いんだった』と、あることを思い出した。
彼をこの異世界に転生させた神を自称する存在は、死んだ魂はリセットされて転生する説を説いていた。
仮にそれが真ならば、この世に天国も地獄も無いことになる。
だから、現世で何をしようと、常世のことを考えるだけ無駄なのだ、存在しないのだから。
「アラタ隊長、指示をお願いします」
彼の元に来たのは旧第5分隊にいたシリウスである。
冒険者仲間のサイロスは負傷離脱した。
現在は彼が分隊を率いている。
「残ったのは何人いる?」
「76名です」
「1192小隊の面子は?」
「17名が戦えます」
「うーん……」
腕組みをしたアラタの視線の先で、中洲にいた敵軍が川を渡り始めている。
後続もそろそろ川の中腹に差し掛かるから、場所を空けるのと先行して道を切り拓く役割でも与えられたのだろう。
最低でも彼らくらいは叩き潰しておいた方が後々楽になると、彼は計画を練り始めている。
「よし、小隊のメンバーだった奴を班長に、3人班を作ってくれ。俺を抜いて16人で、全部で48人。戦えそうな人間からピックアップしていって、溢れた奴は後方に送れ」
「その後はどうしますか?」
「少し下がる。衝突した時にはどっちにしろたくさん死ぬからな。うちの部隊から出す必要は無い」
「了解です。班決めをしてきます」
「おう、頼んだ」
シリウスを見送ったアラタの元に、今度はリャンがやって来た。
彼は何かとアラタと行動を共にしてきただけあって、他の隊員に比べて距離が近い。
碧い髪と緑の瞳が異彩を放つものの、本人の気質の穏やかさもあってそこまで目立っていない。
「どうした?」
「さっきは納得しましたけど、やっぱり司令部に行くべきだと思います」
「あー……別にいいよ。大丈夫」
リャンはこれからの作戦を知らない。
知らないから、不安になっている。
今目の前で起きている友軍の混乱が、この戦いにおいて致命傷になりうると思っているから。
彼がそう考えているという事は、作戦が順調に運んでいるという証の一つになる。
だからこそ、アラタは落ち着いていた。
落ち着いて、司令部に行く必要は無いと言い切った。
ただ、両者の持つ情報の違いを鑑みれば、アラタはもう少し焦るべきだったのかもしれない。
「何か知っているんですか」
リャンがアラタのことを疑い始めるのも無理からぬ話だと言える。
「別に」
そして、眼を付けられると案外簡単にボロを出すのがアラタという人間の特徴だ。
『別に』というそっけない態度が怪しすぎることくらい、誰だって理解できる。
彼が今の戦況に関して何かを隠していることがほぼ確定したところで、リャンは答えを知りたがった。
彼だけではなく、部隊の中心メンバーはみんなそうだろう。
アラタに詰め寄らずとも、近くにいる人間は皆聞き耳を立てていた。
班決めが進行していく中で、密かに隊長への注目が集まる。
「特に何もないよ。ただ敵が押し寄せてくるから対応しているだけだ」
大勢の前で、そう言い切った。
しかし、先ほどそれで納得できなかったからリャンはここに来ている。
そんな受け答えでは到底納得できないのだ。
「アラタ、本当のことを教えてください」
「これが本当のことだ」
「……あのですね、流石にそれは無理がありますよ」
「お前らさっさと班分けしろ。おら動け」
いつの間にか集まって来た301中隊の隊員たちは、皆一様にアラタの方を見つめていた。
アラタは散るように言ってみたものの、到底いう事を聞きそうにない。
どうしたものかと途方に暮れている中で、リャンの追及は続く。
「私たちには話せないことですか」
「まあね、作戦の機密保持の観点からこれは譲れない」
「では、私たちはどの命令を信じて戦えばいいんです」
今、彼らに全てを打ち明けたとして、その後どうなるのか。
絶対に他の部隊にも情報は漏れ出し、本当の意味での混乱はきっと消えてしまう。
訓練だと認識している防災訓練と、本物だと思い込んでいる防災訓練の意味はまるで違うのだ。
それと同じ話で、今起きている指揮系統の混乱はわざとなのだと理解していれば、これほど焦ることも無くなる。
ただし、それでは敵が不審がって攻撃を停止する恐れがあった。
ではどうするか、やはり現時点では話すことが出来ない。
アラタは無い頭を必死に振り絞って、何とかみんなが納得して動いてくれるだけの、それでいて秘密は秘密として維持できるようないい訳を考えようと苦心する。
部下がある程度優秀だと、今度はこのような問題が発生することもあるからままならない。
そして彼が出した結論とは。
「いいから俺についてこい」
「いや、それでは……」
「司令部が揉めているのは事実だ。命令が二転三転するのもそのせい。だからと言って、俺は勝ちを諦めるつもりも逃げるつもりもない。だからこそ、お前らに全部を話すわけにはいかない。話したとして、もしどこかから漏れたら、俺はお前らを斬らなくちゃいけなくなる。全員聞いておけ、これから先、たとえ何があったとしても、俺のことを信じてただついてこい。そうすれば勝てる、生き残れる、生きて帰れる。何か言いたいことのあるやつはいるか」
彼は嘘を塗り重ねることを選んだ。
本当は司令部は揉めてなどいない。
一致団結してこの作戦に全てを懸けている。
だが、司令部を悪役にした方が話が進みやすいと、アラタはそう判断した。
司令部はもう使い物にならないが、それでも諦めるつもりは無いから黙ってついてこい。
つまるところそういうことを言っている。
誰も反論を述べることはしない。
ただ黙って聞き入るだけだ。
彼らの中には、今でも一抹の不信感が残っている。
それは司令部に対してのものが大半を占めているが、隊長アラタに対するそれも含まれている。
それでも、先ほどよりは随分軽くなった。
彼の眼が、オーラが、立ち居振る舞いが、経歴が、実績が、覚悟が、ついていきたいと、ついていけば何とかなるかもしれないと思わせてくれる。
結局のところ人間は、誰かに依存しなければ生きていけない。
そして依存先は、強力であればあるほど良い。
今は、隊員たちがすべからずアラタに依存している。
それを良く言い換えると、一致団結していると表すのだ。
「もう一度伝える。班に組み込まれた48名以外の人間は後方に退避、出来るだけ距離を取れ。残りは俺についてこい、敵の足を鈍らせて乱戦に持ち込む。そっから先は斬り合いだ」
既に敵は目と鼻の先に迫っている。
これ以上議論を重ねる余裕は無い。
そして、その必要もない。
隊員たちの覚悟はもう固まった。
「行動!」
アラタの一言で、全員弾かれたように行動を開始した。
「戦闘準備! 装具点検も忘れるな!」
「ポーション摂取!」
「隊長、戦闘部隊構築完了しました」
「おう」
「敵上陸開始! 敵上陸開始!」
「初動は別の部隊が受け持つ。俺たちは少し待機」
あ~、これ後でなんて言い訳しよう。
だから嘘を嘘で重ねちゃダメなんだよなぁ。
内心、もう少しまともな説明は出来なかったものかと今でも考え続けている。
それくらい、アラタから見れば苦しい言い訳だった。
それでも部下がついてきてくれたのは、彼の日頃の行いや実績に助けられた部分が大きい。
実際今まで何とかしてきたし、そのことを301中隊の面々も理解しているから。
アラタについていけば間違いないと、そう思ってくれているという前提条件あってこその先ほどの演説。
やはり先立つものは信用という事らしい。
既に水際で発生している戦闘の余波が彼らにも伝播している。
時折石や矢が飛来してきて、ガードしなければ最悪命を落としかねない。
そして徐々にその頻度が増していく。
自分たちの番が近づいてきていることの証だ。
48名、中隊の半分程度の規模感。
恐らくは、この内の半分生き残ることが出来れば御の字という激戦になるだろうと予測している。
それほどに、アラタの受け持つ仕事の負荷は大きい。
不自然にならないように精一杯抵抗を試みて、撤退時には殿を務め、反転攻勢に出たら最前線で敵を討つ。
途中からは入れ替わりの機会を設けることも可能だとしても、最大火力を求めるのならアラタは欠かせず、その周囲もセットで運用されることは分かり切っている。
徐々に怒号と歓声の阿鼻叫喚が近づいてくる。
自分から向かわなくとも、相手の方から勝手に近づいてくるのだ。
そして、最後の一歩は自分たちで進むべきだと、アラタは刀を振り上げた。
「総員…………」
そして前線が決壊し、敵へと続く道が開いた。
「突撃ィ!」
コートランド川の戦いにおける最激戦に、アラタ率いる第301中隊が突撃した。
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