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第4章 灼眼虎狼編
第283話 灼眼虎狼
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「バファローズがいい」
「ダサ」
「却下で」
「他にないのか」
「お前ら全国1億2千万人のファンたちに謝りやがれ!」
「だって、ねえ?」
女性陣はアラタの熱いバファローズ押しに困惑していた。
ダンジョンを制覇したパーティーには、二つ名を付けることが許される。
それを持つパーティーは名持ちとしてその名で呼ばれることも増える。
出来る限り遺恨を残さないように、全員の意見を反映したものを付けたいのは皆同じで、こうして意見を聞いている。
なぜかこの名前に強く執着しているアラタに、ノエルたちは若干引いていた。
「アラタがその名前に思い入れがあるのは分かったが、その、正直よく分からないからナシで」
「うっ」
「ですよね。ちょっと愛着が」
「うぐっ」
「自分の好きなものを人に押し付けるな」
「ぐはぁっ!」
立て続けにド正論を投げつけられたアラタは膝から崩れ落ちた。
某球団のファンクラブ、エクストラプレミアムメンバーBコース(税込み150,000円)に加入している彼の夢はそこで潰えた。
世が世ならその球団を含む複数球団からドラフト指名される世界線もあったかもしれないアラタは、二つ名にこの名前を付けることを諦めざるを得なかった。
それでも精神的ダメージは相当なものがあるようで、彼は端っこの方で小さくなっている。
「どうする?」
ノエルがアラタの方を指さしながら聞く。
「面倒だから放っておけ」
「明日になれば忘れてますから、それより何かいい案はありませんか?」
辛辣2人組は彼を放置してパーティー名の案を練り続ける。
ノエルはへこんでいるアラタを気にしていたが、まあいいかと切り替える。
彼女だって自分の意見が反映された名前を付けたいのは同じだ。
「ドラゴンを討伐したのだから『竜殺し』みたいなのはどうだ?」
「物騒じゃないですか? もう少しふわっとした名前がいいです」
「ふわっととは何だ」
「ふわっとはふわっとです。それ以上でも未満でもないです」
バイオレンスで具体的なクリス、ファンシーで擬音的なリーゼ、二人の意見は決定的に噛み合わない。
ここはもう一人の参加者に意見を聞くのが妥当なところ。
「ノエルはどんなのがいいんですか?」
「へ? 私か?」
「他にノエルという名前の人間はここにいないだろう」
2人から見つめられて、答えに詰まる。
結局のところ、ノエルもこれがいいという具体的な案を持ち合わせていないのだ。
冒険者をやりたい、ドラゴンともう一度戦いたい、そういったものが彼女の願いだったわけで、名付けなんていう副次的なものには初めから興味が無かった。
ただ、強いて言うならばこうして議論しているのは少し冒険者っぽくていい。
「そうだな……アラタ、ちょっと来て」
「バファローズ?」
「そこから離れろ。前の組織の名前なんだったっけ?」
「八咫烏」
アラタは端的に答えた。
まだ落ち込んでいる最中なのだろう。
「その語源は?」
「先生がつけた。真っ黒だしいいだろって」
「そんなこともあったな」
八咫烏に所属していたクリスも同調する。
彼女は特殊配達課、通称ティンダロスの猟犬時代からの仲だ。
「それはやっぱり、黒い服を着ていたから?」
「そうだよ。そういえば黒狼なんてのもあったな」
「他には?」
「さぁ…………」
「金眼の鷲」
これ以上過去の組織名が出てこなそうなアラタに代わってクリスが答えた。
秘密組織と言いながら、誰も彼も映える名前を付けたがるのは同じらしい。
「黒、金、黒、黒」
ノエルは自分、リーゼ、クリス、アラタの順に見ながらつぶやいた。
どうやら髪の色を比較しているらしい。
「虎…………」
「何ですか?」
「虎…………」
また何か変なことを口走り始めたアラタを見て、リーゼはそれ以上の深掘りはやめることにする。
また横道に逸れてはたまらないから。
「狼とか虎は強そうでいいですけどね」
「ふわっとはどこに行った」
「それはそれです」
「それなら竜でもいいだろう」
関西系の球団名に思い入れのあるアラタと同じくらい、流石にそれには及ばないかもしれないがクリスはドラゴンにこだわりがあるようだった。
近畿地方か東海地方か、そんな争いにも見える。
「そういえば竜は赤いんだな」
机に突っ伏したアラタがふとどうでもいいことを話し始めた。
「なんかこう、緑か青だと思ってた」
「アラタの世界ではそういう認識なんですか?」
「まあ、そんな感じ」
某人気漫画も地球の龍は緑だったが、遠くの星の龍は赤である。
竜、龍、ドラゴンという存在に対して、つまり想像上の存在にすぎない元の世界の認識に統一的な指標は無い。
アラタのイメージは願いを叶えてくれるボールが出てくるあれと、愛知県のプロ野球球団のイメージだ。
それに対して、リーゼは分かりやすく赤い色の理由を説明した。
「あれは食べている餌の色なんですよ」
「赤い餌を食べると赤くなる的な?」
リーゼは肯定する。
「ダンジョンに海水が湧くエリアがあってですね、そこに発生する餌を食べた陸エビがドラゴンに食べられちゃうんですよ。そうなると体が赤くなって価値が上がります」
「へぇ~」
「ドラゴンの素材はそもそも希少ですし、その上鮮やかな赤色を保持した鱗などはそれはもう美しくて……あっ、アラタのせいでまた脱線してしまいました」
「俺のせいじゃないだろ」
「いいえアラタのせいです。……ノエル?」
ドラゴンの生態が明かされたところで、何かを考えこんでいる様子のノエルに声を掛ける。
「なぜ私の眼は赤いのだろう」
「カニの食いすぎだろ」
「適当言わないでください」
アラタが新だった世界の常識を語るとするならば、先天的に赤い瞳を持つ人間というのは確認されていない。
白目が赤くなるのは何らかの異常をきたしている可能性を疑うべきなのだが、虹彩が赤いのはおかしい。
メラニン色素の量で虹彩の色は変化することは広く知られている。
が、どうやっても赤色にはならない。
これも異世界の神秘の一つなのかもしれない。
「不思議ですね~」
そう言って青い目を持つリーゼはノエルの顔を覗き込む。
こちらのカラーリングは元の世界でも存在しうる色だ。
「まつ毛も長くて、パッチリしていて、羨ましいです」
「ちょ、ちょっと近い」
吸い込まれそうなほど奥深くまで赤く輝くノエルの眼は、紅玉と非常に似ている。
父方の家系には時折みられる虹彩の色で、彼女の父シャノン・クレストも同じ色の瞳を有している。
シャノンの色は少し暗めだが、ノエルはそれよりも明るく、燃えるような色をしている。
そしてその色は時折こう呼ばれる。
——灼眼と。
「…………灼眼の獣たち」
「なんて?」
ぼそりと言ったクリスの言葉にアラタが反応した。
「だから、灼眼の獣たち、だ」
何となく正解に近づきある気がしたアラタは、もう一声欲する。
「もう少し捻って」
「灼眼は固めるとして……獣を言い換えるか」
「どんな? 例えば?」
ここで決して自分から案が出ないところが彼の語彙力の少なさを表しているようで少し悲しい。
だが、無いなら無いなりにやれることはある。
「うーん、うぅーん」
「頑張れ! あと少し!」
「ちょっと黙っていろ」
「はぃ」
その時クリスの脳裏に、先ほどのやり取りが甦る。
黒、金、黒、黒。
虎。
虎だけでは物足りないから、加える。
少し良くない意味も含まれている言葉だが、それくらいがちょうどいいとも思った。
「灼眼の虎狼、灼眼虎狼、灼眼虎狼というのはどうだろう」
「虎狼ですか。まあナシでは無いですけど……」
「虎狼ってあまりいい意味ではないな」
「それも含めて私たちだ。何せ私とアラタはこんな人間だしな」
クリスは仮面を持ち上げてみせた。
特殊配達課の時から使っているそれは、決して清廉潔白ではなかった自分たちの歩みの証である。
正しくはなかった、ただ一所懸命だった。
ノイマンたち同僚は皆命を落とした。
その後も、八咫烏もかなりの人間が散っていった。
その道の中で、必ずしも胸を張って声高に叫べる内容では無い任務も多々あった。
それでも、例え虎狼だったとしても、その誇りだけは忘れずにいたい。
そんな思いだったのだろう。
「いいんじゃね? 虎が入ってるし」
アラタも同調する。
バファローズを断念した今、虎だけでも入れておきたいのだろう。
これで2対2、他に代案もないリーゼたちが反対する理由もない。
「ルビーがノエルで虎が私、狼が2人ですか?」
「そんなところだ」
「いいですね」
リーゼも了承し、残るはノエルただ一人。
「……これでいこう」
「決まったな」
アラタが立ち上がると、他の3人も席を立つ。
「ノエルから、はい」
「なにが?」
「今までなあなあでやって来たけど、リーダーも決めといた方がいいだろ」
「私が?」
「だれがやったってボロが出るんだから、お前の方がみんなもフォローしやすい」
「そんな理由なのか!? というか、2人もそう思っているのか!?」
キャプテン推薦の理由が理由だけに、ノエルは抗議する。
推薦自体は嬉しいが、動機は納得できないから。
しかし、
「まあ、アラタに同意です」
「理由なんて何でもいいじゃないか。よかったな」
割とストレートにアラタの側に立たれたノエルは絶句した。
確かに至らない部分もあるが、こんな認識をされていたのかと。
だから、ノエルは腹をくくることにした。
こんな評価なら、何をしても加点にしかならないだろうと。
「灼眼虎狼のリーダーを務める、ノエル・クレストだ」
「知ってる」
アラタが口を挟んだ。
「100%納得のいく二つ名なんて、そうそう付けられるものでは無い。でも、これからの取り組みや功績次第で灼眼虎狼という名前は完璧なものになる。みんな、これからも冒険者として、他の誰よりも冒険していこう」
「おう」
「分かりました」
「分かった」
「灼眼虎狼、始動だ!」
そう締めくくると、ノエルはみんなの前に掌を見せた。
ハイタッチを要求している。
「頑張りましょうね」
「うん」
「次の目標を探さなければな」
「そうだな」
「とりあえず装備の修復しなくちゃ」
「ふふ、お金貸してあげようか?」
ノエルからの融資の提案に、アラタはもうこりごりみたいだ。
「勘弁してくれ」
笑い声が屋敷に響いたが、その中でアラタだけ乾いた笑いが止まらなかった。
ロストした装備品をどうしようか問題という、非常に大きな問題を思い出してしまったから。
「ハハ、ハハハ…………ハハ……」
「ダサ」
「却下で」
「他にないのか」
「お前ら全国1億2千万人のファンたちに謝りやがれ!」
「だって、ねえ?」
女性陣はアラタの熱いバファローズ押しに困惑していた。
ダンジョンを制覇したパーティーには、二つ名を付けることが許される。
それを持つパーティーは名持ちとしてその名で呼ばれることも増える。
出来る限り遺恨を残さないように、全員の意見を反映したものを付けたいのは皆同じで、こうして意見を聞いている。
なぜかこの名前に強く執着しているアラタに、ノエルたちは若干引いていた。
「アラタがその名前に思い入れがあるのは分かったが、その、正直よく分からないからナシで」
「うっ」
「ですよね。ちょっと愛着が」
「うぐっ」
「自分の好きなものを人に押し付けるな」
「ぐはぁっ!」
立て続けにド正論を投げつけられたアラタは膝から崩れ落ちた。
某球団のファンクラブ、エクストラプレミアムメンバーBコース(税込み150,000円)に加入している彼の夢はそこで潰えた。
世が世ならその球団を含む複数球団からドラフト指名される世界線もあったかもしれないアラタは、二つ名にこの名前を付けることを諦めざるを得なかった。
それでも精神的ダメージは相当なものがあるようで、彼は端っこの方で小さくなっている。
「どうする?」
ノエルがアラタの方を指さしながら聞く。
「面倒だから放っておけ」
「明日になれば忘れてますから、それより何かいい案はありませんか?」
辛辣2人組は彼を放置してパーティー名の案を練り続ける。
ノエルはへこんでいるアラタを気にしていたが、まあいいかと切り替える。
彼女だって自分の意見が反映された名前を付けたいのは同じだ。
「ドラゴンを討伐したのだから『竜殺し』みたいなのはどうだ?」
「物騒じゃないですか? もう少しふわっとした名前がいいです」
「ふわっととは何だ」
「ふわっとはふわっとです。それ以上でも未満でもないです」
バイオレンスで具体的なクリス、ファンシーで擬音的なリーゼ、二人の意見は決定的に噛み合わない。
ここはもう一人の参加者に意見を聞くのが妥当なところ。
「ノエルはどんなのがいいんですか?」
「へ? 私か?」
「他にノエルという名前の人間はここにいないだろう」
2人から見つめられて、答えに詰まる。
結局のところ、ノエルもこれがいいという具体的な案を持ち合わせていないのだ。
冒険者をやりたい、ドラゴンともう一度戦いたい、そういったものが彼女の願いだったわけで、名付けなんていう副次的なものには初めから興味が無かった。
ただ、強いて言うならばこうして議論しているのは少し冒険者っぽくていい。
「そうだな……アラタ、ちょっと来て」
「バファローズ?」
「そこから離れろ。前の組織の名前なんだったっけ?」
「八咫烏」
アラタは端的に答えた。
まだ落ち込んでいる最中なのだろう。
「その語源は?」
「先生がつけた。真っ黒だしいいだろって」
「そんなこともあったな」
八咫烏に所属していたクリスも同調する。
彼女は特殊配達課、通称ティンダロスの猟犬時代からの仲だ。
「それはやっぱり、黒い服を着ていたから?」
「そうだよ。そういえば黒狼なんてのもあったな」
「他には?」
「さぁ…………」
「金眼の鷲」
これ以上過去の組織名が出てこなそうなアラタに代わってクリスが答えた。
秘密組織と言いながら、誰も彼も映える名前を付けたがるのは同じらしい。
「黒、金、黒、黒」
ノエルは自分、リーゼ、クリス、アラタの順に見ながらつぶやいた。
どうやら髪の色を比較しているらしい。
「虎…………」
「何ですか?」
「虎…………」
また何か変なことを口走り始めたアラタを見て、リーゼはそれ以上の深掘りはやめることにする。
また横道に逸れてはたまらないから。
「狼とか虎は強そうでいいですけどね」
「ふわっとはどこに行った」
「それはそれです」
「それなら竜でもいいだろう」
関西系の球団名に思い入れのあるアラタと同じくらい、流石にそれには及ばないかもしれないがクリスはドラゴンにこだわりがあるようだった。
近畿地方か東海地方か、そんな争いにも見える。
「そういえば竜は赤いんだな」
机に突っ伏したアラタがふとどうでもいいことを話し始めた。
「なんかこう、緑か青だと思ってた」
「アラタの世界ではそういう認識なんですか?」
「まあ、そんな感じ」
某人気漫画も地球の龍は緑だったが、遠くの星の龍は赤である。
竜、龍、ドラゴンという存在に対して、つまり想像上の存在にすぎない元の世界の認識に統一的な指標は無い。
アラタのイメージは願いを叶えてくれるボールが出てくるあれと、愛知県のプロ野球球団のイメージだ。
それに対して、リーゼは分かりやすく赤い色の理由を説明した。
「あれは食べている餌の色なんですよ」
「赤い餌を食べると赤くなる的な?」
リーゼは肯定する。
「ダンジョンに海水が湧くエリアがあってですね、そこに発生する餌を食べた陸エビがドラゴンに食べられちゃうんですよ。そうなると体が赤くなって価値が上がります」
「へぇ~」
「ドラゴンの素材はそもそも希少ですし、その上鮮やかな赤色を保持した鱗などはそれはもう美しくて……あっ、アラタのせいでまた脱線してしまいました」
「俺のせいじゃないだろ」
「いいえアラタのせいです。……ノエル?」
ドラゴンの生態が明かされたところで、何かを考えこんでいる様子のノエルに声を掛ける。
「なぜ私の眼は赤いのだろう」
「カニの食いすぎだろ」
「適当言わないでください」
アラタが新だった世界の常識を語るとするならば、先天的に赤い瞳を持つ人間というのは確認されていない。
白目が赤くなるのは何らかの異常をきたしている可能性を疑うべきなのだが、虹彩が赤いのはおかしい。
メラニン色素の量で虹彩の色は変化することは広く知られている。
が、どうやっても赤色にはならない。
これも異世界の神秘の一つなのかもしれない。
「不思議ですね~」
そう言って青い目を持つリーゼはノエルの顔を覗き込む。
こちらのカラーリングは元の世界でも存在しうる色だ。
「まつ毛も長くて、パッチリしていて、羨ましいです」
「ちょ、ちょっと近い」
吸い込まれそうなほど奥深くまで赤く輝くノエルの眼は、紅玉と非常に似ている。
父方の家系には時折みられる虹彩の色で、彼女の父シャノン・クレストも同じ色の瞳を有している。
シャノンの色は少し暗めだが、ノエルはそれよりも明るく、燃えるような色をしている。
そしてその色は時折こう呼ばれる。
——灼眼と。
「…………灼眼の獣たち」
「なんて?」
ぼそりと言ったクリスの言葉にアラタが反応した。
「だから、灼眼の獣たち、だ」
何となく正解に近づきある気がしたアラタは、もう一声欲する。
「もう少し捻って」
「灼眼は固めるとして……獣を言い換えるか」
「どんな? 例えば?」
ここで決して自分から案が出ないところが彼の語彙力の少なさを表しているようで少し悲しい。
だが、無いなら無いなりにやれることはある。
「うーん、うぅーん」
「頑張れ! あと少し!」
「ちょっと黙っていろ」
「はぃ」
その時クリスの脳裏に、先ほどのやり取りが甦る。
黒、金、黒、黒。
虎。
虎だけでは物足りないから、加える。
少し良くない意味も含まれている言葉だが、それくらいがちょうどいいとも思った。
「灼眼の虎狼、灼眼虎狼、灼眼虎狼というのはどうだろう」
「虎狼ですか。まあナシでは無いですけど……」
「虎狼ってあまりいい意味ではないな」
「それも含めて私たちだ。何せ私とアラタはこんな人間だしな」
クリスは仮面を持ち上げてみせた。
特殊配達課の時から使っているそれは、決して清廉潔白ではなかった自分たちの歩みの証である。
正しくはなかった、ただ一所懸命だった。
ノイマンたち同僚は皆命を落とした。
その後も、八咫烏もかなりの人間が散っていった。
その道の中で、必ずしも胸を張って声高に叫べる内容では無い任務も多々あった。
それでも、例え虎狼だったとしても、その誇りだけは忘れずにいたい。
そんな思いだったのだろう。
「いいんじゃね? 虎が入ってるし」
アラタも同調する。
バファローズを断念した今、虎だけでも入れておきたいのだろう。
これで2対2、他に代案もないリーゼたちが反対する理由もない。
「ルビーがノエルで虎が私、狼が2人ですか?」
「そんなところだ」
「いいですね」
リーゼも了承し、残るはノエルただ一人。
「……これでいこう」
「決まったな」
アラタが立ち上がると、他の3人も席を立つ。
「ノエルから、はい」
「なにが?」
「今までなあなあでやって来たけど、リーダーも決めといた方がいいだろ」
「私が?」
「だれがやったってボロが出るんだから、お前の方がみんなもフォローしやすい」
「そんな理由なのか!? というか、2人もそう思っているのか!?」
キャプテン推薦の理由が理由だけに、ノエルは抗議する。
推薦自体は嬉しいが、動機は納得できないから。
しかし、
「まあ、アラタに同意です」
「理由なんて何でもいいじゃないか。よかったな」
割とストレートにアラタの側に立たれたノエルは絶句した。
確かに至らない部分もあるが、こんな認識をされていたのかと。
だから、ノエルは腹をくくることにした。
こんな評価なら、何をしても加点にしかならないだろうと。
「灼眼虎狼のリーダーを務める、ノエル・クレストだ」
「知ってる」
アラタが口を挟んだ。
「100%納得のいく二つ名なんて、そうそう付けられるものでは無い。でも、これからの取り組みや功績次第で灼眼虎狼という名前は完璧なものになる。みんな、これからも冒険者として、他の誰よりも冒険していこう」
「おう」
「分かりました」
「分かった」
「灼眼虎狼、始動だ!」
そう締めくくると、ノエルはみんなの前に掌を見せた。
ハイタッチを要求している。
「頑張りましょうね」
「うん」
「次の目標を探さなければな」
「そうだな」
「とりあえず装備の修復しなくちゃ」
「ふふ、お金貸してあげようか?」
ノエルからの融資の提案に、アラタはもうこりごりみたいだ。
「勘弁してくれ」
笑い声が屋敷に響いたが、その中でアラタだけ乾いた笑いが止まらなかった。
ロストした装備品をどうしようか問題という、非常に大きな問題を思い出してしまったから。
「ハハ、ハハハ…………ハハ……」
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