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第3章 大公選編
第172話 僕の冬休み
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「ふんふんふふーん、ふんふふーん」
帝国首都グランヴァインから北に4km行くと、迷宮都市が広がっている。
首都を前にした最終防衛ラインであり、それと同時に帝国の大事な資源採掘場でもある。
迷宮都市エドモンズはその名の通りエドモンズ迷宮を中心に発展してきた街。
ここからウル帝国は興り、やがてその危険度の高さから首都が近くに移設された。
この街では、魔物が頻繁に氾濫する。
アトラダンジョンのような低級迷宮ではいざ知らず、世界有数の難易度を誇るこの迷宮では魔物の発生速度が速く、獰猛なそれらは外にまでエサを、戦いを求めて飛び出して来る。
それ故に定期的な環境調整を行う必要があり、そのような背景から帝国の冒険者は異常なほど数、質共に高いレベルを保持している。
そんな中、タワー型になっている迷宮の階段を鼻歌交じりに登っていく男がいた。
足取りは軽く、合計で千段もある階段のほぼ頂点まで息を切らすことなく到達している。
東京タワーの段数が600段であることを考えると、見上げただけで首が痛くなるような高さだ。
時代に似つかわしくない物品、それをオーパーツと人は呼ぶ。
エドモンズ迷宮はまさしくそれであり、現行のどの建築技術を以てしてもこの高さの塔を建てることは不可能である。
そんなものが最低でも1500年前からあるというのだから、この世界は奇妙なバランスで成立しているのかもしれない。
「今9時だから~、あと30分か~」
血しぶきが飛ぶ。
「この時期はみんな動きが悪いな~」
角が飛び、骨が断ち切られる。
「僕まで鈍っちゃいそうだよ」
円形のフロアに、血の池が作り出された。
地表を遥か下にいただくこの高さでは、風が強くて血は流されて街に降り注ぐ。
今日は朝からこうなることが分かっていたので、街の住民も家に入り、作業が完了次第清掃に移る。
コカトリス亜種などの一部の魔物の血肉には毒がある為、放置することは非常に危険なのだ。
「……あ」
男が剣を一振りすると、同じ数の命が生を終える。
「どうしよう、殺される」
ここまで強い彼が殺されることなどあるのだろうか。
もしあるとするなら、それは国を揺るがす大事件になるだろう。
だが彼とて一人の男、頭の上がらない女性の1人や2人や10人や100人いる。
アラタの知る限り、複数股の最高記録は7股が限界で、尚且つそれが発覚した彼の友達は合気道部の彼女にボコボコにされた。
その点今階段を昇っている彼は気が楽だ。
何せ公認で彼女が複数人いるのだから。
名前は全員把握しているが、全体像を考えたことは無い。
15を超えたところで意味がないと判断した。
そんな男の脳内は、目の前に広がる悪夢のような光景をどう切り抜けるかではなく、午後のデートの約束をキャンセルする埋め合わせを何にするかでいっぱいだ。
今朝急にキングストン商会の先代から呼び出されたのだ、こちらにもプライベートというものはあるというのに。
だが彼とてコラリスを無碍に扱う訳にもいかず、こうして不機嫌になる事が予想される恋人へのフォローに頭を悩ませていた。
「顔がいいメンヘラは困っちゃうよね」
魔物に語りかけた反応として、強力なブレス攻撃が迫る。
炎槍を超える高密度の魔力放出。
ハルツが全力防御して2回は耐えられない強度。
「君には分からないか」
男が左手をさっと払うと、その動きとは全く合っていないほど強大で荒々しい土砂が出現する。
塔の形は変わっていないから、その場にあるものを使用したのではなく土属性魔術で土砂を生成したことになる。
属性は違えどアラタが浴槽一杯の水弾で限界だったことと比べると、この男の魔力量は彼とは比較にならない。
繰り出された土は炎を防ぎ、圧倒的な物量でブレスの主を捕まえる。
彼を攻撃したのは小型の竜、ワイバーンだ。
ドラゴンと呼ばれる魔物とは少し違うが、これも強力な魔物。
単体での危険度はB以上、群れるとAからSに格上げされる。
「ぐしゃっと」
土に血が染み込み、黒く変色する。
土砂で埋め尽くされたフロアを後にした彼は、最後の階段を登り終えた。
「9時3分。2分で終わらせよう」
無機質なその声は、まるでやる気のない冬休みの課題に取り組む小学生のそれだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「旦那様。レンどのがお見えになりました」
「おお、通せ」
レンと呼ばれた男は、通された先で軽食を口にしている老人を見ると、『この人はいつも何か食べているなぁ』とつい先日も食事を共にしたことを思い出す。
「火急の用件と聞き、急いできましたよ」
「すまないな。まあ座ってくれ」
彼の席には使用人が茶と菓子を用意している。
コラリスの趣味で、緑茶と和菓子だ。
「僕、ここに来た代わりにデートすっぽかしたんですから、後で一筆書いてくださいよ」
「それが必要な相手ということは……例のお嬢か」
コラリスのブームは餡子だ。
特に白餡が大好物で、最近そればかり口にしている。
「それより本題は何ですか?」
コラリスこだわりの苺大福を口に入れながら、男は茶に手を伸ばす。
熱いのが苦手なのか、茶飲みに触れたと思ったらすぐに手を離した。
「固有スキルの保持者がこの国にやって来る」
男の表情が変わる。
「内容は?」
「不明だ。攻撃系ではないらしい」
固有スキルという単語を聞いてから、男の様子は少し興奮気味だ。
今までが余所行きの顔だとするならば、今は1人で好きなことをしている時の顔、そんな感じに見える。
「名前は? 姿は? 経歴は? 何故? いつ? どうやって? どこから来るんです?」
席を立ち、身を乗り出しながら早口に質問を口にする。
彼は人間が好きなのだろう。
興味のある人に対する執着が半端ではない。
「順番に答えよう。名はアラタ、姿は黒髪長身、真っ黒な魔道具衣装に身を包んでいる」
「他には?」
「公国で一度死刑となり、表向きは死人だ。目的は大公選のため」
「死人……♡」
言葉の余韻におかしな感じがしたかもしれないが、きっと気のせいだろう。
「明日、西門にやってくる。普通に検問をくぐり抜けようとするはずだが、今の状況では難しいだろう」
「分かりました」
「まだ何も言っていないが」
もう一つの大福をかじると、茶をすする。
皆まで言うな、もう大丈夫だとばかりに男の眼は輝いている。
「キングさんには僕が取り次いだということにしてください」
「それは構わぬが……」
「では、準備に入りますので僕はこれで」
「あ、話はまだ…………行ってしまいよった」
半分だけ残った苺大福が、彼の興味の移り変わりを示していた。
「いや~、人生捨てたもんじゃないなぁ」
キングストン邸を後にした彼は、ルンルン気分で通りを歩いて行った。
金髪金眼、同じ髪色をしている人は珍しくないが、その純粋な色は実は少ない。
大体少し茶が入っていたり、くすんでいたりしていてここまで美しい金色は目立つ。
生まれつきの素養が何より大事な髪色だが、西の国にいる聖騎士は日々のお手入れが大事なのですと言って非常に長時間髪のメンテナンスに時間を割く。
彼は特に気にしたことなどなかったが、サラサラつやつや真っすぐストレートな髪質を見たら、同じ髪色をしていて少しウェーブがかかっているどこぞの聖騎士は血の涙を流すかもしれない。
レン、レンちゃん、レン君、そう声を掛けられ、呼び止められ、あれやこれや持たされる彼はよほどの有名人なのだろう。
「レン」
「アリちゃん」
足首まで隠れるローブを纏い、ザ・魔術師や魔法使いといったデザインの帽子を被っている。
アリちゃんと呼ばれると、彼女は少し嫌そうな顔をする。
「その呼び方止めて。あと髪色」
「あー」
レンは自分の髪を触ると、忘れてたと言いながらひと撫でふた撫でする。
するとどうだろう、限りなく純粋な金髪は少しづつ原色のバランスを崩し、やがて戦隊物の主人公のような真っ赤な色に変わった。
それに付随して眼の色も赤に変わる。
目立つ色から目立つ色に、その変化で何がどう変わるのか疑問なのかもしれないが、それは如実に表れる。
先ほどまで親しげに話しかけてきた街の人が見向きもしない。
正面から歩いてきた人が避けて通るのだから、認識はされているみたいだ。
しかし、今の赤髪の彼は街にいる通行人D。
「明日付き合えよ」
「何で?」
「面白い人に出会えそうなんだ。星霜結界が必要だ」
「分かった」
それだけ言うと、アリちゃんは姿を消した。
フワッと、霞のように消えた。
※※※※※※※※※※※※※※※
「アラタ君、君は一体どんな顔をしているんだろう」
寝室にしては少し広い空間で、男は灯りも点けずに何やらごそごそ動いていた。
黒髪黒目、オーウェンさんみたいだね。
早く会いたい、固有スキル持ち同士仲良くしたいなぁ。
いつ君はそれを手にした?
何を代償に手に入れた?
それはスキルの系譜かな?
それともユニークスキルかな?
武器は何を使うの?
体術は?
魔術は?
まさかまさかの召喚術も使えるかな?
カナン公国にいるのなら、僕より強いということはないだろう。
それなら情報は届くはずだ。
ということは……
「芽、もしくは蕾……いや、種かな」
荒い息遣いが闇に響く。
ギシギシと軋むベッドの上で、男はナニをしているのだろうか。
「鎮めなければ、まだだ、時間はまだ来ない。このままじゃだめだ」
暗闇に蠢く影が一つ増えた。
ベッドに倒れ込む2つの影、映像はここで止まっている。
そこからいったい何が起こったのか、それは知らない方がいいだろう。
人の性癖をとやかく言うものではない。
誰にも迷惑をかけていないのだから、それでいいじゃないか。
※※※※※※※※※※※※※※※
「散れ! 第3集合地点で再会!」
帝都の城門で、一つの騒ぎが勃発した。
強化され、魔術もスキルもクラスの効果も、徹底的に弱体化させて正体を暴く検問を前に逃げ出した一団の姿を男は捉えた。
「勘は良し。アリちゃんよろしく」
「準備開始するわ」
お姫様抱っこでアリを抱えながら走りだした男の視線の先には、騎乗して門番から逃げる1人の黒装束がはっきりと見えている。
髪色は赤だが、目は金色に戻っている。
興奮しているのか、何かの条件なのか。
——星霜結界
仮面を着けているアラタを前に、男の興奮は最高潮だ。
「ストップ。じっとしてて」
早く顔が見たくて待ちきれないなぁ。
それからちょっとしたスキンシップを経て、男は名乗った。
「僕はディラン。ディラン・ウォーカーさ。よろしくね」
屈託のない笑顔の先に隠された変態性に、アラタは僅かながら気付いていたのだから、思えばこの時が一番化けの皮が剥がれかけていたのだろう。
帝国首都グランヴァインから北に4km行くと、迷宮都市が広がっている。
首都を前にした最終防衛ラインであり、それと同時に帝国の大事な資源採掘場でもある。
迷宮都市エドモンズはその名の通りエドモンズ迷宮を中心に発展してきた街。
ここからウル帝国は興り、やがてその危険度の高さから首都が近くに移設された。
この街では、魔物が頻繁に氾濫する。
アトラダンジョンのような低級迷宮ではいざ知らず、世界有数の難易度を誇るこの迷宮では魔物の発生速度が速く、獰猛なそれらは外にまでエサを、戦いを求めて飛び出して来る。
それ故に定期的な環境調整を行う必要があり、そのような背景から帝国の冒険者は異常なほど数、質共に高いレベルを保持している。
そんな中、タワー型になっている迷宮の階段を鼻歌交じりに登っていく男がいた。
足取りは軽く、合計で千段もある階段のほぼ頂点まで息を切らすことなく到達している。
東京タワーの段数が600段であることを考えると、見上げただけで首が痛くなるような高さだ。
時代に似つかわしくない物品、それをオーパーツと人は呼ぶ。
エドモンズ迷宮はまさしくそれであり、現行のどの建築技術を以てしてもこの高さの塔を建てることは不可能である。
そんなものが最低でも1500年前からあるというのだから、この世界は奇妙なバランスで成立しているのかもしれない。
「今9時だから~、あと30分か~」
血しぶきが飛ぶ。
「この時期はみんな動きが悪いな~」
角が飛び、骨が断ち切られる。
「僕まで鈍っちゃいそうだよ」
円形のフロアに、血の池が作り出された。
地表を遥か下にいただくこの高さでは、風が強くて血は流されて街に降り注ぐ。
今日は朝からこうなることが分かっていたので、街の住民も家に入り、作業が完了次第清掃に移る。
コカトリス亜種などの一部の魔物の血肉には毒がある為、放置することは非常に危険なのだ。
「……あ」
男が剣を一振りすると、同じ数の命が生を終える。
「どうしよう、殺される」
ここまで強い彼が殺されることなどあるのだろうか。
もしあるとするなら、それは国を揺るがす大事件になるだろう。
だが彼とて一人の男、頭の上がらない女性の1人や2人や10人や100人いる。
アラタの知る限り、複数股の最高記録は7股が限界で、尚且つそれが発覚した彼の友達は合気道部の彼女にボコボコにされた。
その点今階段を昇っている彼は気が楽だ。
何せ公認で彼女が複数人いるのだから。
名前は全員把握しているが、全体像を考えたことは無い。
15を超えたところで意味がないと判断した。
そんな男の脳内は、目の前に広がる悪夢のような光景をどう切り抜けるかではなく、午後のデートの約束をキャンセルする埋め合わせを何にするかでいっぱいだ。
今朝急にキングストン商会の先代から呼び出されたのだ、こちらにもプライベートというものはあるというのに。
だが彼とてコラリスを無碍に扱う訳にもいかず、こうして不機嫌になる事が予想される恋人へのフォローに頭を悩ませていた。
「顔がいいメンヘラは困っちゃうよね」
魔物に語りかけた反応として、強力なブレス攻撃が迫る。
炎槍を超える高密度の魔力放出。
ハルツが全力防御して2回は耐えられない強度。
「君には分からないか」
男が左手をさっと払うと、その動きとは全く合っていないほど強大で荒々しい土砂が出現する。
塔の形は変わっていないから、その場にあるものを使用したのではなく土属性魔術で土砂を生成したことになる。
属性は違えどアラタが浴槽一杯の水弾で限界だったことと比べると、この男の魔力量は彼とは比較にならない。
繰り出された土は炎を防ぎ、圧倒的な物量でブレスの主を捕まえる。
彼を攻撃したのは小型の竜、ワイバーンだ。
ドラゴンと呼ばれる魔物とは少し違うが、これも強力な魔物。
単体での危険度はB以上、群れるとAからSに格上げされる。
「ぐしゃっと」
土に血が染み込み、黒く変色する。
土砂で埋め尽くされたフロアを後にした彼は、最後の階段を登り終えた。
「9時3分。2分で終わらせよう」
無機質なその声は、まるでやる気のない冬休みの課題に取り組む小学生のそれだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「旦那様。レンどのがお見えになりました」
「おお、通せ」
レンと呼ばれた男は、通された先で軽食を口にしている老人を見ると、『この人はいつも何か食べているなぁ』とつい先日も食事を共にしたことを思い出す。
「火急の用件と聞き、急いできましたよ」
「すまないな。まあ座ってくれ」
彼の席には使用人が茶と菓子を用意している。
コラリスの趣味で、緑茶と和菓子だ。
「僕、ここに来た代わりにデートすっぽかしたんですから、後で一筆書いてくださいよ」
「それが必要な相手ということは……例のお嬢か」
コラリスのブームは餡子だ。
特に白餡が大好物で、最近そればかり口にしている。
「それより本題は何ですか?」
コラリスこだわりの苺大福を口に入れながら、男は茶に手を伸ばす。
熱いのが苦手なのか、茶飲みに触れたと思ったらすぐに手を離した。
「固有スキルの保持者がこの国にやって来る」
男の表情が変わる。
「内容は?」
「不明だ。攻撃系ではないらしい」
固有スキルという単語を聞いてから、男の様子は少し興奮気味だ。
今までが余所行きの顔だとするならば、今は1人で好きなことをしている時の顔、そんな感じに見える。
「名前は? 姿は? 経歴は? 何故? いつ? どうやって? どこから来るんです?」
席を立ち、身を乗り出しながら早口に質問を口にする。
彼は人間が好きなのだろう。
興味のある人に対する執着が半端ではない。
「順番に答えよう。名はアラタ、姿は黒髪長身、真っ黒な魔道具衣装に身を包んでいる」
「他には?」
「公国で一度死刑となり、表向きは死人だ。目的は大公選のため」
「死人……♡」
言葉の余韻におかしな感じがしたかもしれないが、きっと気のせいだろう。
「明日、西門にやってくる。普通に検問をくぐり抜けようとするはずだが、今の状況では難しいだろう」
「分かりました」
「まだ何も言っていないが」
もう一つの大福をかじると、茶をすする。
皆まで言うな、もう大丈夫だとばかりに男の眼は輝いている。
「キングさんには僕が取り次いだということにしてください」
「それは構わぬが……」
「では、準備に入りますので僕はこれで」
「あ、話はまだ…………行ってしまいよった」
半分だけ残った苺大福が、彼の興味の移り変わりを示していた。
「いや~、人生捨てたもんじゃないなぁ」
キングストン邸を後にした彼は、ルンルン気分で通りを歩いて行った。
金髪金眼、同じ髪色をしている人は珍しくないが、その純粋な色は実は少ない。
大体少し茶が入っていたり、くすんでいたりしていてここまで美しい金色は目立つ。
生まれつきの素養が何より大事な髪色だが、西の国にいる聖騎士は日々のお手入れが大事なのですと言って非常に長時間髪のメンテナンスに時間を割く。
彼は特に気にしたことなどなかったが、サラサラつやつや真っすぐストレートな髪質を見たら、同じ髪色をしていて少しウェーブがかかっているどこぞの聖騎士は血の涙を流すかもしれない。
レン、レンちゃん、レン君、そう声を掛けられ、呼び止められ、あれやこれや持たされる彼はよほどの有名人なのだろう。
「レン」
「アリちゃん」
足首まで隠れるローブを纏い、ザ・魔術師や魔法使いといったデザインの帽子を被っている。
アリちゃんと呼ばれると、彼女は少し嫌そうな顔をする。
「その呼び方止めて。あと髪色」
「あー」
レンは自分の髪を触ると、忘れてたと言いながらひと撫でふた撫でする。
するとどうだろう、限りなく純粋な金髪は少しづつ原色のバランスを崩し、やがて戦隊物の主人公のような真っ赤な色に変わった。
それに付随して眼の色も赤に変わる。
目立つ色から目立つ色に、その変化で何がどう変わるのか疑問なのかもしれないが、それは如実に表れる。
先ほどまで親しげに話しかけてきた街の人が見向きもしない。
正面から歩いてきた人が避けて通るのだから、認識はされているみたいだ。
しかし、今の赤髪の彼は街にいる通行人D。
「明日付き合えよ」
「何で?」
「面白い人に出会えそうなんだ。星霜結界が必要だ」
「分かった」
それだけ言うと、アリちゃんは姿を消した。
フワッと、霞のように消えた。
※※※※※※※※※※※※※※※
「アラタ君、君は一体どんな顔をしているんだろう」
寝室にしては少し広い空間で、男は灯りも点けずに何やらごそごそ動いていた。
黒髪黒目、オーウェンさんみたいだね。
早く会いたい、固有スキル持ち同士仲良くしたいなぁ。
いつ君はそれを手にした?
何を代償に手に入れた?
それはスキルの系譜かな?
それともユニークスキルかな?
武器は何を使うの?
体術は?
魔術は?
まさかまさかの召喚術も使えるかな?
カナン公国にいるのなら、僕より強いということはないだろう。
それなら情報は届くはずだ。
ということは……
「芽、もしくは蕾……いや、種かな」
荒い息遣いが闇に響く。
ギシギシと軋むベッドの上で、男はナニをしているのだろうか。
「鎮めなければ、まだだ、時間はまだ来ない。このままじゃだめだ」
暗闇に蠢く影が一つ増えた。
ベッドに倒れ込む2つの影、映像はここで止まっている。
そこからいったい何が起こったのか、それは知らない方がいいだろう。
人の性癖をとやかく言うものではない。
誰にも迷惑をかけていないのだから、それでいいじゃないか。
※※※※※※※※※※※※※※※
「散れ! 第3集合地点で再会!」
帝都の城門で、一つの騒ぎが勃発した。
強化され、魔術もスキルもクラスの効果も、徹底的に弱体化させて正体を暴く検問を前に逃げ出した一団の姿を男は捉えた。
「勘は良し。アリちゃんよろしく」
「準備開始するわ」
お姫様抱っこでアリを抱えながら走りだした男の視線の先には、騎乗して門番から逃げる1人の黒装束がはっきりと見えている。
髪色は赤だが、目は金色に戻っている。
興奮しているのか、何かの条件なのか。
——星霜結界
仮面を着けているアラタを前に、男の興奮は最高潮だ。
「ストップ。じっとしてて」
早く顔が見たくて待ちきれないなぁ。
それからちょっとしたスキンシップを経て、男は名乗った。
「僕はディラン。ディラン・ウォーカーさ。よろしくね」
屈託のない笑顔の先に隠された変態性に、アラタは僅かながら気付いていたのだから、思えばこの時が一番化けの皮が剥がれかけていたのだろう。
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