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第2章 冒険者アラタ編
第63話 e382a2e38395e383ace382bae3838ee382a6e38384e383af
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「取りあえずてめーは泣かす」
「やってみなよ、無理だから」
アラタは気付いたらあの場所に立っていた。
あの場所はあの場所である、秋葉原で刺され、意識を失った後気が付いたら座っていた所。
前と違う点は自分が1人しかいないということ。
前と同じ点はつけられたはずの傷がなくなっていること、というより右腕も胴体もくっついていること。
あの時、初めてここに来たときは傷口が消えているくらいの認識でしかなかったが、今回は訳が違う。
真っ二つ、上半身と下半身がバイバイしたのだ。
にも拘らず彼は今こうして五体満足で立っている。
どう考えても異常事態、だがそんなことは今のアラタにとってはどうでもよかった。
あの訳の分からない世界に彼を放り込んだ挙句、ろくな再設定もしなかったせいでアラタの受難は始まった。
字は読めない、常識は知らない、極めつけは15歳以上なら誰でも持っているというクラスが無い。
異世界での生活を思い出せば出すほど怒りが際限なく湧き出てくるのだ。
そんなことになった全ての元凶が今こうしてアラタの目の前に立っている。
相変わらず認識が統一できない不思議な感覚だが、アラタの頭の中はただ一つ、『一発ぶん殴ってシバく』、それだけだ。
アラタはこの場所でも異世界の常識が通用するか確認する。
魔力は練れる。
スキルも発動する。
「……よし」
スキル【身体強化】、起動。
アラタは魔力を体に流し一瞬で接近、刀は持っていなかったため至近距離でありったけの雷撃を食らわせる。
手ごたえは感じるがこれは囮に過ぎない。
雷撃の光で視界を奪いつつ背後に回り込み、思い切りぶん殴った。
……気がアラタにはしたのだが、結果彼の拳は空を切り渾身の攻撃は外れた。
「君は~そうだな~あまり面白くないね~」
相手がそう言い終わる前にアラタは再び突進し攻撃したがそれも当たらない。
当たる気さえしない。
2人の状況を外から見るものはいないが、外から見ても、攻撃している当事者からしてもまったく当たる気がしなかった。
アラタから見て、この女は多分何も能力を使っていない。
最初の雷撃も手ごたえは感じたけどそれも違ったのか?
ただ単純に攻撃が当たらない、まるで敵のいない所に攻撃させられているように。
しばらく攻撃が外れ続け、アラタは少し冷静になる。
逆に言えばそれまでかなり怒っていたわけだが、自分の実力では拳1つ入れることが出来ないことを悟ると渋々ながら動きを止めた。
「参った、俺の負けでーす」
渋々、嫌々、本当に心の底からあからさまに不服そうな態度で負けを認める。
彼のその言葉には相手に対する強い嫌悪感も含まれていたが、神を自称する見た目女性はご満悦のようだ。
「負け、ね。そうね、あなたの負け♡」
いちいちムカつく態度にもう一度殴り掛かるべきか逡巡《しゅんじゅん》するが、相手もそれを待っていると考えると相手の思い通りになるのも面白くないからアラタは話し始めることにした。
「いくつか質問していいか?」
「いいわよ」
「どこからお前の差し金だった?」
「どこからって?」
「レイテ村に送られた時から、その前の秋葉原で刺された時から」
「秋葉原で刺されたのは偶然、森に送ったのは適当。どう? これでいい?」
「まあいいや、じゃあ次。俺を殺したあいつはお前と関係がある?」
「いいえ、違うわ」
これもハズレか。
「じゃあ最後に、この後俺はどうなる?」
「えーっと、今のあなたは魂だけの存在なので設定をリセットしてどこかの世界に送ります」
アラタは自分の知識の中で最も近い回答を見つける。
輪廻転生に近いものかな。
まあ予想していた中でも結構ベーシックなものが当たった。
「魂を初期化すれば地球に生まれることもできるのか? あぁ、日本の方の」
「ええ、可能性は。ただ人間に生まれる保証はできないし、仮に人間だったとしても日本人とは限らないわ」
人間だけに魂があるわけじゃない、と。
まあリセットされてしまうのならここで何かを聞く意味もないわけで、つまり俺の自己満だ。
半身だけ魂がリセットされてしまって、もう一人の俺は大丈夫なんだろうか。
魂が半分で体を壊すとかなければいいな。
成人する前に死ぬのか、親不孝どころの騒ぎじゃないな。
父さん、母さん、大成も……元気かな、元気だといいな。
遥香は……向こうの俺の世話を焼いているのかな。
いい加減やりたいことの一つも見つけて、あの子を不安にさせないようにしてほしい、自分のことだけど。
やるべきことをやって死んだんだ、後悔はない。
でも、出来ることなら、もう一度だけでいいから、遥香に会いたかったなぁ。
どうにもならないことだってわかっている。
ただ、自分の手の中から無くなってからじゃないとそれの大切さに気付くことが出来ないんだ、俺は昔から。
肘も、彼女も、命も。
無くなって初めてそのありがたさが、大切さが身に染みる。
けどもう仕方ない、次の人生ではどうなるのかな。
「じゃあ転生する前に、あの刀返して」
「……は? 無いけど」
二人以外誰も、何もいない地の果てまで真っ白な空間に静寂が訪れる。
アラタからすれば、服装はそのままだが所持品はほとんどがなくなっていて、刀だけあるほうがおかしいというもの。
しかし神からすれば、刀は彼の手元にある状態で死んだのならついてくるはずだった。
呆然とした女の顔を見てアラタは何か悪いことをしてしまったのかなと、ほんの少しだけ申し訳なさそうに聞いてみることにした。
「持ってきた方がよかった? 持って来る方法知らないけど」
そんなアラタの言葉など微塵も興味がないようで、女は何やら目を凝らして虚空を見つめている。
「あぁ~、あなたの家にあるわね。それ自体は別にいいんだけど……んー、これは」
「何?」
「う~ん、どうしよう。でもな~自分ルール的にこれはな~」
独り言なので誰かに理解してもらう必要はないのだが、要領を得ない独り言はアラタを置き去りにしていく。
「まあたまにはいっか! 見ちゃお」
女は目を閉じ何かに集中する。
今なら一発グーパンチを入れられるのではないかと密かに拳を握った時、女が目を開いた。
「うん! やっぱり転生は無し! あなたは生き返ります!」
「は!? さっきまで転生する流れだっただろーが!」
「私のせいじゃないし。私そんなことできないし。少ししたら意識が飛ぶと思うからそしたら生き返るんじゃない?」
言っていることが適当すぎる。
それに神を自称する癖に人ひとり生き返らせることもできないなんて、転生させるのと生き返らせるのにどれだけの違いがあるってんだよ。
神のスペックに疑問を覚えつつ、生き返ると言われてアラタは最も重要なことを聞く。
「俺はまたあの世界に行くのか? それとも日本に帰れるのか?」
「異世界に行くわよ」
「……チッ、そっちかよ。じゃあクラスを寄越せ! みんな持ってるのに俺だけなくてすっげー苦労したんだぞ!」
転生初期からクラスがあったとしても苦労しただろうことに変わりはないが、今のアラタの状態で生き返るとするならクラスがあるだけでもだいぶ境遇は変わる。
クラスの恩恵が微々たるものだったとしても、もうヒモのアラタなどという不名誉な呼び名を返上することに繋がるのだ、彼がクラスを要求したのは当然の帰結だった。
しかし、
「え~、今は無理。めんどい」
殺意が湧く。
「でも流石に可哀想だから、ぷくく、ヒモのアラタっていい響きね」
よし、殺そう。
「スキルをあげます。何がいい?」
アラタは考えた。
どんなスキルなら今後もあの世界で生きていける?
こうして死ぬことがない人生を送ることが出来る?
全属性の魔術適正とか?
武器の扱い方が神業レベルになるとか?
どれも違う気がする。
その後アラタの口から出た言葉は、アラタの願いは不思議なほど自然だった。
「伸びしろだ、伸びしろをくれ。スタートが遅れていて成長する余地がないなんて酷すぎる。せめて練習が報われるようにしてくれ」
頑張ることなら、積み上げることなら人並み以上に出来る、そういった趣旨の自信の表れでもあったがそれも揺るぎようのない事実である。
自分に足りないものを欲する青年を見て神は優しく微笑み、頷く。
「おっけー。じゃあエクストラスキル【不溢の器】を付与します。ユニークスキルだから感謝してね?」
「あの世界に送った時点でお前に感謝することは永遠にない」
「はいはい、じゃあそろそろね。お会計は19800円になりまーす!」
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どんなノリだ。
うざいし意味不明だし突っ込むのも面倒くさい。
そう思うと急激に眠くなりアラタは意識を失った。
アラタの魂が異世界に呼び戻されると、再び一人になった空間で少女は笑いをこらえきれず腹を抱えて笑っていた。
「あー楽しみ! あの子は一体どんな物語を見せてくれるんだろう!」
そう叫ぶと自分以外何も存在しない空間で一人、しばらく笑っていた。
「やってみなよ、無理だから」
アラタは気付いたらあの場所に立っていた。
あの場所はあの場所である、秋葉原で刺され、意識を失った後気が付いたら座っていた所。
前と違う点は自分が1人しかいないということ。
前と同じ点はつけられたはずの傷がなくなっていること、というより右腕も胴体もくっついていること。
あの時、初めてここに来たときは傷口が消えているくらいの認識でしかなかったが、今回は訳が違う。
真っ二つ、上半身と下半身がバイバイしたのだ。
にも拘らず彼は今こうして五体満足で立っている。
どう考えても異常事態、だがそんなことは今のアラタにとってはどうでもよかった。
あの訳の分からない世界に彼を放り込んだ挙句、ろくな再設定もしなかったせいでアラタの受難は始まった。
字は読めない、常識は知らない、極めつけは15歳以上なら誰でも持っているというクラスが無い。
異世界での生活を思い出せば出すほど怒りが際限なく湧き出てくるのだ。
そんなことになった全ての元凶が今こうしてアラタの目の前に立っている。
相変わらず認識が統一できない不思議な感覚だが、アラタの頭の中はただ一つ、『一発ぶん殴ってシバく』、それだけだ。
アラタはこの場所でも異世界の常識が通用するか確認する。
魔力は練れる。
スキルも発動する。
「……よし」
スキル【身体強化】、起動。
アラタは魔力を体に流し一瞬で接近、刀は持っていなかったため至近距離でありったけの雷撃を食らわせる。
手ごたえは感じるがこれは囮に過ぎない。
雷撃の光で視界を奪いつつ背後に回り込み、思い切りぶん殴った。
……気がアラタにはしたのだが、結果彼の拳は空を切り渾身の攻撃は外れた。
「君は~そうだな~あまり面白くないね~」
相手がそう言い終わる前にアラタは再び突進し攻撃したがそれも当たらない。
当たる気さえしない。
2人の状況を外から見るものはいないが、外から見ても、攻撃している当事者からしてもまったく当たる気がしなかった。
アラタから見て、この女は多分何も能力を使っていない。
最初の雷撃も手ごたえは感じたけどそれも違ったのか?
ただ単純に攻撃が当たらない、まるで敵のいない所に攻撃させられているように。
しばらく攻撃が外れ続け、アラタは少し冷静になる。
逆に言えばそれまでかなり怒っていたわけだが、自分の実力では拳1つ入れることが出来ないことを悟ると渋々ながら動きを止めた。
「参った、俺の負けでーす」
渋々、嫌々、本当に心の底からあからさまに不服そうな態度で負けを認める。
彼のその言葉には相手に対する強い嫌悪感も含まれていたが、神を自称する見た目女性はご満悦のようだ。
「負け、ね。そうね、あなたの負け♡」
いちいちムカつく態度にもう一度殴り掛かるべきか逡巡《しゅんじゅん》するが、相手もそれを待っていると考えると相手の思い通りになるのも面白くないからアラタは話し始めることにした。
「いくつか質問していいか?」
「いいわよ」
「どこからお前の差し金だった?」
「どこからって?」
「レイテ村に送られた時から、その前の秋葉原で刺された時から」
「秋葉原で刺されたのは偶然、森に送ったのは適当。どう? これでいい?」
「まあいいや、じゃあ次。俺を殺したあいつはお前と関係がある?」
「いいえ、違うわ」
これもハズレか。
「じゃあ最後に、この後俺はどうなる?」
「えーっと、今のあなたは魂だけの存在なので設定をリセットしてどこかの世界に送ります」
アラタは自分の知識の中で最も近い回答を見つける。
輪廻転生に近いものかな。
まあ予想していた中でも結構ベーシックなものが当たった。
「魂を初期化すれば地球に生まれることもできるのか? あぁ、日本の方の」
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人間だけに魂があるわけじゃない、と。
まあリセットされてしまうのならここで何かを聞く意味もないわけで、つまり俺の自己満だ。
半身だけ魂がリセットされてしまって、もう一人の俺は大丈夫なんだろうか。
魂が半分で体を壊すとかなければいいな。
成人する前に死ぬのか、親不孝どころの騒ぎじゃないな。
父さん、母さん、大成も……元気かな、元気だといいな。
遥香は……向こうの俺の世話を焼いているのかな。
いい加減やりたいことの一つも見つけて、あの子を不安にさせないようにしてほしい、自分のことだけど。
やるべきことをやって死んだんだ、後悔はない。
でも、出来ることなら、もう一度だけでいいから、遥香に会いたかったなぁ。
どうにもならないことだってわかっている。
ただ、自分の手の中から無くなってからじゃないとそれの大切さに気付くことが出来ないんだ、俺は昔から。
肘も、彼女も、命も。
無くなって初めてそのありがたさが、大切さが身に染みる。
けどもう仕方ない、次の人生ではどうなるのかな。
「じゃあ転生する前に、あの刀返して」
「……は? 無いけど」
二人以外誰も、何もいない地の果てまで真っ白な空間に静寂が訪れる。
アラタからすれば、服装はそのままだが所持品はほとんどがなくなっていて、刀だけあるほうがおかしいというもの。
しかし神からすれば、刀は彼の手元にある状態で死んだのならついてくるはずだった。
呆然とした女の顔を見てアラタは何か悪いことをしてしまったのかなと、ほんの少しだけ申し訳なさそうに聞いてみることにした。
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そんなアラタの言葉など微塵も興味がないようで、女は何やら目を凝らして虚空を見つめている。
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「何?」
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独り言なので誰かに理解してもらう必要はないのだが、要領を得ない独り言はアラタを置き去りにしていく。
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今なら一発グーパンチを入れられるのではないかと密かに拳を握った時、女が目を開いた。
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クラスの恩恵が微々たるものだったとしても、もうヒモのアラタなどという不名誉な呼び名を返上することに繋がるのだ、彼がクラスを要求したのは当然の帰結だった。
しかし、
「え~、今は無理。めんどい」
殺意が湧く。
「でも流石に可哀想だから、ぷくく、ヒモのアラタっていい響きね」
よし、殺そう。
「スキルをあげます。何がいい?」
アラタは考えた。
どんなスキルなら今後もあの世界で生きていける?
こうして死ぬことがない人生を送ることが出来る?
全属性の魔術適正とか?
武器の扱い方が神業レベルになるとか?
どれも違う気がする。
その後アラタの口から出た言葉は、アラタの願いは不思議なほど自然だった。
「伸びしろだ、伸びしろをくれ。スタートが遅れていて成長する余地がないなんて酷すぎる。せめて練習が報われるようにしてくれ」
頑張ることなら、積み上げることなら人並み以上に出来る、そういった趣旨の自信の表れでもあったがそれも揺るぎようのない事実である。
自分に足りないものを欲する青年を見て神は優しく微笑み、頷く。
「おっけー。じゃあエクストラスキル【不溢の器】を付与します。ユニークスキルだから感謝してね?」
「あの世界に送った時点でお前に感謝することは永遠にない」
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どんなノリだ。
うざいし意味不明だし突っ込むのも面倒くさい。
そう思うと急激に眠くなりアラタは意識を失った。
アラタの魂が異世界に呼び戻されると、再び一人になった空間で少女は笑いをこらえきれず腹を抱えて笑っていた。
「あー楽しみ! あの子は一体どんな物語を見せてくれるんだろう!」
そう叫ぶと自分以外何も存在しない空間で一人、しばらく笑っていた。
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