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24.ある歪んだ恋の顛末
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「ディアナ、君、よくないよ」
伯爵が主催する夜会で、眉間に皺を寄せて、兄クラウスは言った。
「伯様と変な噂になってる。先生の赴任が近いのに、フラフラしている場合じゃないだろう」
「……口出ししないでくれる」
ディアナは不機嫌に答える。日が近いから、焦っているのだ。力になってくれない外野など、好きに言っていればいい。
「私よりエーファに気をつけていないと、お父様に叱られるわよ」
ほら、とディアナは手で示してみせる。小柄な妹はペールブルーのドレスを着て、紳士と笑み交わしている。ディアナと同じく、たいして酒に強くないくせに、いつのまにかグラスを受け取っていた。
「ああ、もう! 僕だってオリヴィアといたいのに。君ね、嫁いでから反抗期なんて勘弁してよ」
そこにいてね、と子供に命じるように言い置いて、クラウスはエーファの元へ向かった。
見計らったように、今夜のホストである若い伯爵が、取り巻きを置いて、近寄ってきた。
「ディアナ、今宵も麗しい」
「光栄ですわ」
ディアナは口元を引き上げて、軽く笑んでみせる。恭しくとられた指先に、口付けを受けた。
視界の端に、扇で半ば顔を隠し、非難がましい視線を送ってくる女性たちが見えた。正妻の身重をいいことに、自身も既婚のくせに伯爵に取り入ろうとしていると、陰口を叩かれているのは知っている。
ディアナの纏う深藍のドレスの、広く開いた胸元に真珠と銀が煌めくのに熱っぽい視線をやって、伯爵は言う。
「どうか、一曲」
「……ええ、喜んで」
踊る程度、ただの社交だ。多少の思わせぶりだってしてみせる。ディアナの心にあるのはステファン一人だ。全部、彼のためだ。
「伯様、ご相談している件……」
ディアナは彼に身体を預け、囁きかけた。
「サロンで話しましょう。案内させますから、先に入ってお待ちください」
「わかりましたわ」
明かりは彫刻が施された三叉の燭台がいくつか置かれるのみの部屋だった。
ローテーブルにある、籠盛りの南国の果物はよく熟れて、甘い香りを漂わせている。
傍に茶器のセットが揃えられていた。
「御酒は苦手でしたね?」
伯爵はテーブルを挟んだ向かいで微笑み、ポットから透明感のある翠の液体を注いだ。
「東方のお茶です。少し面白い風味ですよ、どうぞ」
「ありがとうございます」
逸る気持ちを隠して、口にした。清涼感と、独特の苦味がある。
パーティーホールはすぐ横だ。
個室だが、ドアの横には侍従が二人、影のように控えている。
「あの……」
「ああ、大丈夫。彼らはわきまえていますから」
ディアナは、厚生省の高級官僚である伯爵に、夫の苦境を数度にわたって訴えていた。
実家の書庫に立ち入って、ステファンが研究支援の寄付に対し定期的に提出していた報告書を持ち出して渡した。
清廉で世渡り下手な彼は、出世欲の権化のような副所長に目をつけられてしまったが、これだけ有用な成果を出して寄与してきたものを、軍籍にして国外に出してしまうなど、ありえない。
ステファン・ロレンツは、もっと優遇されていい。北国行きなど即刻取り消し、王都で研究に打ち込めるよう、しかるべき地位を与え直してほしい――
「夫君は、来月頭にはあちらで着任でしたか。まだ山越えは厳しい季節ですから、移動も日数がかかるでしょう」
「ええ、このままでは来週にでも発ってしまうんです。早く、差し止めを……」
「残念ながら、厳しいですね。全ての裁可が降りていますし、北国駐在の軍医の空席は事実で、誰かが行かなければいけない。バーンズ副所長の推薦文も、自薦他薦はともかく、形式上問題はありませんでした」
「でしたら、せめて、短期で戻れるように取り計らってくださいませ」
伯爵は立ち上がり、ディアナが座る椅子の後ろに来た。
「……貴女は、心から夫君を慕っているんですね」
うなじから背に、指が一本滑っていく。ぞっとしたが、耐えた。牽制するつもりで言った。
「伯様とて、奥様をお迎えになった身ですもの、わかってくださいますでしょう? 神の御前で誓い合った伴侶ですわ」
「妻ね……王族に連なる、この上なく貴なる姫君ですよ。気位の高い彼女なら、私を傅かせてくれると期待したのに。初夜の床で、実はずっと私を慕っていたなんて喜び泣いて、哀れなものでした。婚姻の魔力とは恐ろしい。貴女だってそうだ」
伯爵の声が、不穏な陰を帯びていく。
「夫のために、必死に慣れない媚を売って……愛しい貴女の目の奥の嫌悪に、気付かない私とお思いですか?」
ディアナは身を硬くした。見透かされている。
「……私は、真に職務に励むものが報われないのはおかしいと、お伝えしたいだけですわ」
「ふふ、貴女は一本気が過ぎて……他愛ないなあ……」
背後の男は、ディアナの耳に口を寄せる。
「バーンズはね、本当に惜しんだのですよ。下の成果を掠め取って出世してきた男ですから。ステファン・ロレンツはバカがつくお人好しで、論文の主筆者を、一言書き添えただけのバーンズに変えても文句も言わなくて、重宝していたらしい。見るものが見れば瞭然なんですが」
「なんですって……!」
ディアナは振り向く。伯爵は目を弧にして、歪んだ笑みを浮かべている。
「まあ、それも、次期所長の椅子を約束してやったら、即日で部下を売り飛ばす推薦を書きましたけどね」
ディアナは歯噛みした。黒幕はこの男だ。
「ロレンツに、何の恨みがありますの!」
「勿論、貴女を娶ったからですよ。誰のものにもならない天の月と思って諦めたのに……結婚してから、ますます艶めかしく匂いやかになっていく貴女を見かけるたび、気が狂いそうになった。……遠慮しなくてよかったのに。わざわざあんなくたびれた男を選ばずとも、私なら喜んで貴女の下僕になったものを」
「勘違いしないでください。私、夫を虐げて悦ぶ趣味はございません!伯の称号をお受けになった方が、公私をわきまえず……恥を知るべきですわ!」
「あはは、公私か! 私情まみれで私に近づいた貴女が、面白い! ああ、その目! そう、下手な媚よりその方がいい! ……怒りに燃えて、射抜くような……! 玩具を取り上げられるのが、そんなに不愉快ですか?」
「くっ……」
睨んでも、悶えんばかりに喜ばせるだけだ。救い難かった。
「ディアナ、そんなにお気に入りの奴隷なら、離婚しなさいなんていいませんよ。私とて妻帯してしまったしね。割り切って、愛人として関係を持ってくれるなら……あれ、貴女の手元に戻してあげましょう」
ディアナは、心の中でステファンに謝った。彼が追われるのは、自分のせいだった。でも、こんな卑怯な手に屈するものか。
「お断りします。そんな穢らわしい真似をするくらいなら、喜んで、夫と、戦場だろうが地の果てだろうが参ります!」
「ああ、ふふふ、勇ましいなあ……それでこそ、私は貴女に焦がれたんです……!」
ディアナは席を立った。もう、こんな男と話す必要などない。
しかし、足が、かくりと折れた。
「え……」
椅子とテーブルの間に、身体が崩れる。男の手に片腕を掴まれ、ぶら下がった。
「ちゃんと効きましたね。お茶、不思議な味だったでしょう?」
伯爵は、近寄ってきた二人の侍従にディアナを渡した。
手が空を泳ぐ。
「貴女、私が何をするはずもないって、思っていたでしょう? そうですよ、理想の女主人を無理に手折るなんて、自らは畏れ多くて、とてもとても。……ですから、ね? よく訓練した男娼を用意しましたよ。今宵はどうぞ、被虐の悦びをお試しなさい」
ディアナは長椅子に引き上げられる。一人が頭の上に両手首を押さえ、もう一人がドレスの肩をずらす。
「……触れるな、無礼者!」
「愛しいディアナ、あんな平凡な夫など、どうでもよくなるくらい、狂ってしまえ。一度壊して、染め替えたら、今度こそ私のもの」
伯爵は、いまや射精の寸前のように昂ぶった表情で、捕らえた女を見つめている。
力なくばたつく脚に、男の身体が割り込む。
手が足首から腿にかけて滑り、深藍の布をたくし上げて、真白い肌と美しい脚線を露わにしていく。
「嫌っ、離しなさい!」
男の顔が近づいてくる。唇を奪われまいと顔を背けた。首筋に生温かくぬめった感触が落ちる。それは胸元に降り、何度も何度も柔肌に無遠慮に強く吸い付く。イブニングドレスの薄布ごと、乳房が掴まれる。
おぞましい。
夫でない男に触れられるなど、屈辱以外の何物でもなかった。
こんな目に遭うくらいなら、死んだ方がましだ。
ディアナは歯の間に舌を挟む。躊躇いは、男の手を腰骨に感じた瞬間に吹き飛んだ。
ぶっ、と弾性のある抵抗を歯に感じた刹那、激痛が身体を貫いた。背が反った。
「おい、口を!」
男が声を上げる。布が口内に押し込まれようとするとき、手を押さえる力がふと緩んだ。
ディアナは腕を伸ばす。噴火する怒りと、凄まじい痛みの中で、薬物から身体の支配権を取り戻す。
手が硬い棒状のものを掴んだ。
ディアナは石造りの三叉の燭台を、男の顔面に叩きつけた。
絶叫が響き渡った。
「ディアナ、やめて、落ち着いて! 殺しちゃうよ!」
兄の声がした。剥き出しの肩に、上着をかけられた。
フーッ、フーッと獣のような荒い息を吐いているのは、自分だと気づいた。
ボタボタと床に落ちる紅が、ディアナの、その夜の最後の記憶になった。
伯爵が主催する夜会で、眉間に皺を寄せて、兄クラウスは言った。
「伯様と変な噂になってる。先生の赴任が近いのに、フラフラしている場合じゃないだろう」
「……口出ししないでくれる」
ディアナは不機嫌に答える。日が近いから、焦っているのだ。力になってくれない外野など、好きに言っていればいい。
「私よりエーファに気をつけていないと、お父様に叱られるわよ」
ほら、とディアナは手で示してみせる。小柄な妹はペールブルーのドレスを着て、紳士と笑み交わしている。ディアナと同じく、たいして酒に強くないくせに、いつのまにかグラスを受け取っていた。
「ああ、もう! 僕だってオリヴィアといたいのに。君ね、嫁いでから反抗期なんて勘弁してよ」
そこにいてね、と子供に命じるように言い置いて、クラウスはエーファの元へ向かった。
見計らったように、今夜のホストである若い伯爵が、取り巻きを置いて、近寄ってきた。
「ディアナ、今宵も麗しい」
「光栄ですわ」
ディアナは口元を引き上げて、軽く笑んでみせる。恭しくとられた指先に、口付けを受けた。
視界の端に、扇で半ば顔を隠し、非難がましい視線を送ってくる女性たちが見えた。正妻の身重をいいことに、自身も既婚のくせに伯爵に取り入ろうとしていると、陰口を叩かれているのは知っている。
ディアナの纏う深藍のドレスの、広く開いた胸元に真珠と銀が煌めくのに熱っぽい視線をやって、伯爵は言う。
「どうか、一曲」
「……ええ、喜んで」
踊る程度、ただの社交だ。多少の思わせぶりだってしてみせる。ディアナの心にあるのはステファン一人だ。全部、彼のためだ。
「伯様、ご相談している件……」
ディアナは彼に身体を預け、囁きかけた。
「サロンで話しましょう。案内させますから、先に入ってお待ちください」
「わかりましたわ」
明かりは彫刻が施された三叉の燭台がいくつか置かれるのみの部屋だった。
ローテーブルにある、籠盛りの南国の果物はよく熟れて、甘い香りを漂わせている。
傍に茶器のセットが揃えられていた。
「御酒は苦手でしたね?」
伯爵はテーブルを挟んだ向かいで微笑み、ポットから透明感のある翠の液体を注いだ。
「東方のお茶です。少し面白い風味ですよ、どうぞ」
「ありがとうございます」
逸る気持ちを隠して、口にした。清涼感と、独特の苦味がある。
パーティーホールはすぐ横だ。
個室だが、ドアの横には侍従が二人、影のように控えている。
「あの……」
「ああ、大丈夫。彼らはわきまえていますから」
ディアナは、厚生省の高級官僚である伯爵に、夫の苦境を数度にわたって訴えていた。
実家の書庫に立ち入って、ステファンが研究支援の寄付に対し定期的に提出していた報告書を持ち出して渡した。
清廉で世渡り下手な彼は、出世欲の権化のような副所長に目をつけられてしまったが、これだけ有用な成果を出して寄与してきたものを、軍籍にして国外に出してしまうなど、ありえない。
ステファン・ロレンツは、もっと優遇されていい。北国行きなど即刻取り消し、王都で研究に打ち込めるよう、しかるべき地位を与え直してほしい――
「夫君は、来月頭にはあちらで着任でしたか。まだ山越えは厳しい季節ですから、移動も日数がかかるでしょう」
「ええ、このままでは来週にでも発ってしまうんです。早く、差し止めを……」
「残念ながら、厳しいですね。全ての裁可が降りていますし、北国駐在の軍医の空席は事実で、誰かが行かなければいけない。バーンズ副所長の推薦文も、自薦他薦はともかく、形式上問題はありませんでした」
「でしたら、せめて、短期で戻れるように取り計らってくださいませ」
伯爵は立ち上がり、ディアナが座る椅子の後ろに来た。
「……貴女は、心から夫君を慕っているんですね」
うなじから背に、指が一本滑っていく。ぞっとしたが、耐えた。牽制するつもりで言った。
「伯様とて、奥様をお迎えになった身ですもの、わかってくださいますでしょう? 神の御前で誓い合った伴侶ですわ」
「妻ね……王族に連なる、この上なく貴なる姫君ですよ。気位の高い彼女なら、私を傅かせてくれると期待したのに。初夜の床で、実はずっと私を慕っていたなんて喜び泣いて、哀れなものでした。婚姻の魔力とは恐ろしい。貴女だってそうだ」
伯爵の声が、不穏な陰を帯びていく。
「夫のために、必死に慣れない媚を売って……愛しい貴女の目の奥の嫌悪に、気付かない私とお思いですか?」
ディアナは身を硬くした。見透かされている。
「……私は、真に職務に励むものが報われないのはおかしいと、お伝えしたいだけですわ」
「ふふ、貴女は一本気が過ぎて……他愛ないなあ……」
背後の男は、ディアナの耳に口を寄せる。
「バーンズはね、本当に惜しんだのですよ。下の成果を掠め取って出世してきた男ですから。ステファン・ロレンツはバカがつくお人好しで、論文の主筆者を、一言書き添えただけのバーンズに変えても文句も言わなくて、重宝していたらしい。見るものが見れば瞭然なんですが」
「なんですって……!」
ディアナは振り向く。伯爵は目を弧にして、歪んだ笑みを浮かべている。
「まあ、それも、次期所長の椅子を約束してやったら、即日で部下を売り飛ばす推薦を書きましたけどね」
ディアナは歯噛みした。黒幕はこの男だ。
「ロレンツに、何の恨みがありますの!」
「勿論、貴女を娶ったからですよ。誰のものにもならない天の月と思って諦めたのに……結婚してから、ますます艶めかしく匂いやかになっていく貴女を見かけるたび、気が狂いそうになった。……遠慮しなくてよかったのに。わざわざあんなくたびれた男を選ばずとも、私なら喜んで貴女の下僕になったものを」
「勘違いしないでください。私、夫を虐げて悦ぶ趣味はございません!伯の称号をお受けになった方が、公私をわきまえず……恥を知るべきですわ!」
「あはは、公私か! 私情まみれで私に近づいた貴女が、面白い! ああ、その目! そう、下手な媚よりその方がいい! ……怒りに燃えて、射抜くような……! 玩具を取り上げられるのが、そんなに不愉快ですか?」
「くっ……」
睨んでも、悶えんばかりに喜ばせるだけだ。救い難かった。
「ディアナ、そんなにお気に入りの奴隷なら、離婚しなさいなんていいませんよ。私とて妻帯してしまったしね。割り切って、愛人として関係を持ってくれるなら……あれ、貴女の手元に戻してあげましょう」
ディアナは、心の中でステファンに謝った。彼が追われるのは、自分のせいだった。でも、こんな卑怯な手に屈するものか。
「お断りします。そんな穢らわしい真似をするくらいなら、喜んで、夫と、戦場だろうが地の果てだろうが参ります!」
「ああ、ふふふ、勇ましいなあ……それでこそ、私は貴女に焦がれたんです……!」
ディアナは席を立った。もう、こんな男と話す必要などない。
しかし、足が、かくりと折れた。
「え……」
椅子とテーブルの間に、身体が崩れる。男の手に片腕を掴まれ、ぶら下がった。
「ちゃんと効きましたね。お茶、不思議な味だったでしょう?」
伯爵は、近寄ってきた二人の侍従にディアナを渡した。
手が空を泳ぐ。
「貴女、私が何をするはずもないって、思っていたでしょう? そうですよ、理想の女主人を無理に手折るなんて、自らは畏れ多くて、とてもとても。……ですから、ね? よく訓練した男娼を用意しましたよ。今宵はどうぞ、被虐の悦びをお試しなさい」
ディアナは長椅子に引き上げられる。一人が頭の上に両手首を押さえ、もう一人がドレスの肩をずらす。
「……触れるな、無礼者!」
「愛しいディアナ、あんな平凡な夫など、どうでもよくなるくらい、狂ってしまえ。一度壊して、染め替えたら、今度こそ私のもの」
伯爵は、いまや射精の寸前のように昂ぶった表情で、捕らえた女を見つめている。
力なくばたつく脚に、男の身体が割り込む。
手が足首から腿にかけて滑り、深藍の布をたくし上げて、真白い肌と美しい脚線を露わにしていく。
「嫌っ、離しなさい!」
男の顔が近づいてくる。唇を奪われまいと顔を背けた。首筋に生温かくぬめった感触が落ちる。それは胸元に降り、何度も何度も柔肌に無遠慮に強く吸い付く。イブニングドレスの薄布ごと、乳房が掴まれる。
おぞましい。
夫でない男に触れられるなど、屈辱以外の何物でもなかった。
こんな目に遭うくらいなら、死んだ方がましだ。
ディアナは歯の間に舌を挟む。躊躇いは、男の手を腰骨に感じた瞬間に吹き飛んだ。
ぶっ、と弾性のある抵抗を歯に感じた刹那、激痛が身体を貫いた。背が反った。
「おい、口を!」
男が声を上げる。布が口内に押し込まれようとするとき、手を押さえる力がふと緩んだ。
ディアナは腕を伸ばす。噴火する怒りと、凄まじい痛みの中で、薬物から身体の支配権を取り戻す。
手が硬い棒状のものを掴んだ。
ディアナは石造りの三叉の燭台を、男の顔面に叩きつけた。
絶叫が響き渡った。
「ディアナ、やめて、落ち着いて! 殺しちゃうよ!」
兄の声がした。剥き出しの肩に、上着をかけられた。
フーッ、フーッと獣のような荒い息を吐いているのは、自分だと気づいた。
ボタボタと床に落ちる紅が、ディアナの、その夜の最後の記憶になった。
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