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しおりを挟むユシー家を出て少し歩いたときだった。
向かいから何名かの冒険者を引き連れた一団がやってきた。
「……だから、そこまでしてくれなくても」
「ラグロフさんに何かあれば、大問題なんです! もっと外を出歩くときも気をつけてください!」
……ラグロフだ。
彼は数人の冒険者に囲まれ、どこか疲れた様子でいた。
ラグロフの視線がこちらに向くと、表情が緩んだ。
「レウニス! レウニスじゃないか!」
それを見て、ラグロフに話しかけていた女性が首を傾げる。ラグロフの視線を追うようにして、彼女がこちらを向いた。
てくてく、とラグロフが近づいてきたところで、女性がぼそりと声を上げた。
「……ラグロフさん。彼は誰ですか?」
「彼はレウニスで、オレの友人だ。すまない。少し一人にしてくれないか? レウニスとは二人で話をしたいんだ」
ラグロフが女性にそう言うと、彼女は厳しく目を吊り上げた。
「あなたを一人になんてさせられません。まして、どこの馬の骨とも分からない人となんて――」
女性がそう言った時だった。
ラグロフの目つきが鋭くなった。
「彼はオレの昔からの友人だ。彼を侮辱するというのなら、さすがにオレも怒るぞ」
ラグロフは、口調こそ冗談めかしたものだったが、その迫力は本物だった。
さすがに女性も、ラグロフを刺激したくなかったのだろう。おずおずといった様子で頷いた。
「……し、失礼しました。で、ですが心配ですし……その、近くで見守らせてください……っ」
「……はあ、まったく。オレは友人とも気楽に話ができないのだな」
「ラグロフさん……。もう自覚してください。あなたは今、世界中が注目しているんですよ? 数年ぶりのSランク冒険者が誕生するかもしれない……って。それに、あなたの行動次第では、命を狙われる可能性だってあるんです。もう少し、警戒をして――」
Sランク冒険者の誕生を皆が素直に喜ぶばかりではない。
ラグロフが所属するクランが力をつければ、自分のクランが脅かされる可能性もあるからな。
有望な冒険者が不慮の事故でなくなることもあり……怪しい事件というのは過去にもいくつかある。
ラグロフはため息をつきながら、女性を押しのけるように肩を掴んだ。
「分かった分かった。すまないな、レウニス」
ラグロフは疲れた様子で女性の話を打ち切り、こちらへと顔を向けてきた。
「大変そうだな。さすが、新聞の一面を飾るだけはあるな」
「……レウニスまでそういう扱いをするのか?」
ラグロフは少し拗ねたように顔を横に向ける。
「冗談だ。オルエッタ。少し友人と話したいから、先に迷宮に行っててくれるか?」
「別に、待っていますよ?」
「色々とやりたいことがあるから、ここからは別行動にしてくれ」
「分かりました。それでは、またあとで」
ゆったりとした様子で片手を振った彼女は、のんびりとした足取りで歩いていった。
彼女の背中を見送っていると、ラグロフがじっとオルエッタを見ていた。
「……あの人は、ダムマイアー家の次女か?」
「知っているのか?」
基本周りに興味を持たないラグロフが珍しい。
「ああ。……オルエッタ・ダムマイアーだったはずだ。オレの一つ前に成人の儀を受けていたから記憶に残っている」
「そうなのか。ダムマイアー家って……確かクラン持っていたよな?」
「Cランククラン、『仮面の英雄』だったはずだ。それにしても、あの子とは知り合いだったのか?」
ラグロフが所属しているクランは『ブライトアーミー』というAランククランだ。
ラグロフの父がクランリーダーを務めていて、ラグロフがいずれはそこを引き継ぐという計画だろう。
……前世では、ラグロフの死とともに消滅したクランだ。
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