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「え……?」

 兄の一閃は誰もいない場所へと振り下ろされる。
 大振りすぎる一撃に、俺への対応なんて間に合わない。
 隙だらけたが、大怪我を負わせるつもりはない。
 俺はナイトソードの腹で兄の左腕を殴りつけた。

「がは!?」

 次の瞬間、兄の体は吹き飛んだ。
 地面を何度も跳ねた兄は、それから家の壁に直撃して止まった。

 場が、静寂に支配される。

 俺は兄との戦いで、自分の能力を分析していた。
 今の俺のステータスは、一体どの程度の冒険者まで戦えるのか、と。
 だから、できる限り兄の手の内を引き出し、本気にさせて戦った。

 その結果、今の俺ならCランク冒険者程度の実力があるというのが分かった。
 これなら、次に向かう予定のCランク迷宮でもなんとかなるだろう。
 
 審判と父は驚いた様子で固まっていた。
 兄はよろよろと体を起こしていたが……すでにHPはなくなったようだった。
 ステータスの恩恵を受けられなくなったからか、身にまとっていた鎧などが重たくて満足に動けなさそうだった。

 少しして、ぱちぱちと拍手が聞こえてきた。こんな状況でそんな気の抜けた拍手をしたのは、オルエッタだ。

「わー、レウニスさん勝ちましたね! 良かったです」

 ほっとしたような声とともに、そんなことを言っていた。
 本当、マイペースな人だ。
 苦笑しながら、俺はナイトソードを鞘へとしまった。

「審判。契約書は持っているよな?」
「え? は、はい……」

 審判がそう言った瞬間、彼が持っていた契約書が光を上げる。
 同時に、兄の体が光を放つ。

「う、うわ……! や、やめろ!!」

 兄が叫びながら、自分の体を動かしていた。
 そして、彼の目の前には、スキルストーンと装備が落ちた。
 ……契約書の効果が発動したのだろう。

 俺は審判の手から契約書を奪いとり、スキルストーンと装備の回収を始める。

「お、おい……レウニス」

 父が引きつった笑みとともに、俺へと近づいてきた。

「……なんだ?」
「いや、な。今までのことは水に流そう。……どうだ? 我が家に戻ってはこないか?」

 にこり、とそれはもうぶん殴りたくなるほどの笑みを向けてきた。
 ……何を言っているんだか、こいつは。
 ただ、俺はため息をつきながら父をじっと見て、契約書を突きつけた。
 
「この契約書に書かれている内容を忘れたわけじゃないよな? 俺に、もう関わるな」
 
 そういうと、父はうぐっと唇を噛んで悔しそうに睨みつけてきた。
 装備とスキルストーンを回収した俺は、オルエッタに視線を向ける。

「オルエッタ。行こう。これ以上は時間の無駄だ」
「はい。何度か攻撃を受けていたようですが、傷は大丈夫ですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「そうですか……。でも、よろしいのですか? 一応、家族ですよね? 今後、二度と会えなくなってしまうかもしれませんよ?」

 家族、か。
 前世でも酷い扱いを受け、今もこれだけのことをされたのだ。
 とっくに、愛情なんてものはなくなっている。

「俺には、もっと大切なものがある。これ以上、どうでもいいことに時間をかけたくはないんだよ」
「……そうですか」

 俺の言葉に、オルエッタはそれ以上問いかけてくることはなかった。
 兄や父に構っている暇などないんだ。
 こんなことをしている間にも、周りは成長している。

 刻一刻と、ラグロフの死だって近づいているんだ。
 その未来を変えるために、俺ももっと強くならなければいけないんだ。
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