54 / 56
54
しおりを挟む「え……?」
兄の一閃は誰もいない場所へと振り下ろされる。
大振りすぎる一撃に、俺への対応なんて間に合わない。
隙だらけたが、大怪我を負わせるつもりはない。
俺はナイトソードの腹で兄の左腕を殴りつけた。
「がは!?」
次の瞬間、兄の体は吹き飛んだ。
地面を何度も跳ねた兄は、それから家の壁に直撃して止まった。
場が、静寂に支配される。
俺は兄との戦いで、自分の能力を分析していた。
今の俺のステータスは、一体どの程度の冒険者まで戦えるのか、と。
だから、できる限り兄の手の内を引き出し、本気にさせて戦った。
その結果、今の俺ならCランク冒険者程度の実力があるというのが分かった。
これなら、次に向かう予定のCランク迷宮でもなんとかなるだろう。
審判と父は驚いた様子で固まっていた。
兄はよろよろと体を起こしていたが……すでにHPはなくなったようだった。
ステータスの恩恵を受けられなくなったからか、身にまとっていた鎧などが重たくて満足に動けなさそうだった。
少しして、ぱちぱちと拍手が聞こえてきた。こんな状況でそんな気の抜けた拍手をしたのは、オルエッタだ。
「わー、レウニスさん勝ちましたね! 良かったです」
ほっとしたような声とともに、そんなことを言っていた。
本当、マイペースな人だ。
苦笑しながら、俺はナイトソードを鞘へとしまった。
「審判。契約書は持っているよな?」
「え? は、はい……」
審判がそう言った瞬間、彼が持っていた契約書が光を上げる。
同時に、兄の体が光を放つ。
「う、うわ……! や、やめろ!!」
兄が叫びながら、自分の体を動かしていた。
そして、彼の目の前には、スキルストーンと装備が落ちた。
……契約書の効果が発動したのだろう。
俺は審判の手から契約書を奪いとり、スキルストーンと装備の回収を始める。
「お、おい……レウニス」
父が引きつった笑みとともに、俺へと近づいてきた。
「……なんだ?」
「いや、な。今までのことは水に流そう。……どうだ? 我が家に戻ってはこないか?」
にこり、とそれはもうぶん殴りたくなるほどの笑みを向けてきた。
……何を言っているんだか、こいつは。
ただ、俺はため息をつきながら父をじっと見て、契約書を突きつけた。
「この契約書に書かれている内容を忘れたわけじゃないよな? 俺に、もう関わるな」
そういうと、父はうぐっと唇を噛んで悔しそうに睨みつけてきた。
装備とスキルストーンを回収した俺は、オルエッタに視線を向ける。
「オルエッタ。行こう。これ以上は時間の無駄だ」
「はい。何度か攻撃を受けていたようですが、傷は大丈夫ですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「そうですか……。でも、よろしいのですか? 一応、家族ですよね? 今後、二度と会えなくなってしまうかもしれませんよ?」
家族、か。
前世でも酷い扱いを受け、今もこれだけのことをされたのだ。
とっくに、愛情なんてものはなくなっている。
「俺には、もっと大切なものがある。これ以上、どうでもいいことに時間をかけたくはないんだよ」
「……そうですか」
俺の言葉に、オルエッタはそれ以上問いかけてくることはなかった。
兄や父に構っている暇などないんだ。
こんなことをしている間にも、周りは成長している。
刻一刻と、ラグロフの死だって近づいているんだ。
その未来を変えるために、俺ももっと強くならなければいけないんだ。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。
いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】
採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。
ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる