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 庭に出たところで、俺たちは少し離れて、睨み合う。
 まさか、決闘を申し込まれるとは思っていなかったが、勝利すれば俺は装備とスキルを手に入れられる。

 俺としては、金と装備が手に入るので嬉しい限りだ。 
 使わないスキルや装備は、最悪売ってしまえばいいからな。

 向かいあう兄は、装備を取り出していく。
 長剣と重厚そうな鎧だ。顔が見えるタイプの兜を身に着けていたが、それでもほとんどその全身を守るような装備たちだ。

 兄の職業は重戦士。

 強力な一撃を繰り出すタイプの職業であり、ボスモンスターの攻略ではタンクと連携し、敵に注目されないようにして戦う職業だ。

 確か、ステータス的にはCランク冒険者ほどの評価だったか?
 今の俺のステータスなら、十分に勝ちを拾えるだろう。

 準備が整ったのだろう。
 兄は鞘から剣を抜き、不敵に微笑む。
 俺も【オートヒール】を発動し、向かい合う。

「……そ、それでは決闘の方を始めます。勝利条件は相手のHPを0にすることです。それでは……決闘を始めてください!」

 審判の宣言と同時に、兄が地面を蹴りつけた。
 その踏みつけだけで、力強さは十分に伝わってくる。

「ぶっ潰してやるよ!!」

 兄は両手に持った長剣を振りかぶり、俺へと迫る。
 風圧とともに迫ってきた兄の一撃を、俺は剣で受け止める。
 両腕にかかる負荷は、骨が折れたのではないかと思うほどだった。
 
 兄は、何かのスキルも発動しているようで、俺は勢いに負けて弾かれる。
 HPは減っていないが、それでも正面から受け続けるのは無謀と言うほかないだろう。

 弾かれた俺は、地面を何度か蹴るようにして、体勢を戻す。
 顔を前に向けると、すでに兄が迫っていた。

「【ラッシュブレイド】!」

 兄が叫んだ瞬間、その動きが加速する。
 同時に、剣が振り下ろされる。
 一撃を弾いたのだが、すぐに続いての攻撃が右腕を掠めた。
 HPは即座に【オートヒール】で回復できた。

 しかし、斬られた場所はじんわりとした熱を帯びていた。
 【オートヒール】で回復したとはいえ、斬られた瞬間の痛みは残っている。
 兄から距離をとると、彼は紙をかきあげ、馬鹿にしたように笑う。

「おいおい、この程度かよ? なのに、オークション会場でわざわざスキルを買うなんて、金がもったいねぇな」

 ……安い挑発だ。それに乗るつもりはなく、俺はナイトソードを構える。
 兄はそんな俺を見て、苛立ったようだ。

「生意気な目をしやがって……っ! とことんいたぶってやるよ!」

 兄は再度剣を構えなおし、スキルを口にする。

「【パワーモード】!」

 口にしたスキルは重戦士の力を強化するスキルだったか。
 兄は再び重圧とともに迫ってくる。
 彼の攻撃を正面から受けないよう、距離をとったのだが、その瞬間に兄の口元が歪む。

「【エリアスラッシュ】!」

 彼が口にしたスキルは、重戦士のものではなかったが、どちらにせよ俺の逃げた先へと魔力の刃が襲い掛かる。
 俺の頬を魔力の刃が掠めていく。
 顔を引いてことで直撃は避けられたが……まともに喰らっていれば、いくらHPがある程度ダメージを軽減してくれるとはいえ、重傷は避けられないだろう。

「ちっ! ちょこまかとしやがって!」

 兄は苛立ったように長剣を振り回す。攻撃範囲と速度、そして力のどれもさすがCランク冒険者だ。
 俺よりも二年も早く冒険者として活動していたことはある。

 兄の振りぬかれた剣を後方に跳んでかわすと、兄が地面を踏みつけた。

「てめぇ! さっきから避けてばっかりじゃねぇかよ! 戦う気あんのかクソが!」
「……そうだな。そろそろいいか」
「ああ? なんだ? そろそろ諦めるってか!?」
「……そうだな」

 俺は軽く息を吐いてから、兄をじっと観察する。
 兄は眉間を寄せてから、【パワーモード】を発動し、地面を蹴りつける。
 俺の方へと迫る兄を見て、俺はため息を吐いた。

「遅いんだよ」

 それだけを言って、俺は兄の側面へと回る。
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