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しおりを挟む「まあ、彼はユシー家の長男のようですから金銭に関してはそちらがどうにかするでしょうね。クランの方に責任を取らせようと思ったのですが、すでに彼は除名したそうなので、こちらにとって都合良く使わせてもらう予定です」
「クラン、辞めさせられたのか?」
「クランの資金を勝手に使おうとしたのですから除名理由としては十分ですよ」
……まあ、確かにそうだな。
元々はクランとしてお目当ての物を購入しに来ていたのだろうしな。
出口が見えてきて、久しぶりの日差しに目を細める。
「それでは、またのご利用をお待ちしております」
丁寧に頭を下げた彼女は、兄を蹴りまくっていた人物と同じとは思えない。
軽く伸びをしていると、オルエッタが笑顔とともに覗きこんできた。
「良かったですね。お安く購入できて」
「そうだな。……さて、あとはスキルが発動するかどうか、だな」
「つまり、一度HPを削る必要があるということですね。蹴りましょうか?」
「いや、やめてくれ」
「では拳にしましょうか?」
「俺に恨みでもあるの?」
「ありませんよ! 善意ですよ!」
「……自分でやるから、大丈夫だ」
「なるほど。自傷がいいとっ。分かりました!」
言い方に悪意ない? と思ったがこれ以上付き合っても仕方ない。
スキルの効果を試すため、俺はさっそく【オートヒール】を発動する。
自分自身を【オートヒール】状態にし、これによってHPが削られれば自動で自分に【ヒール】をかけるのだ。
俺は少し力を籠めて、腹を殴ってみた。
痛い。
HPが減って……そして、回復した。
「どうでしたか?」
「ああ、ちゃんと発動してるっ」
「本当ですか? 良かったですね!」
パチパチと拍手をして喜んでくれるオルエッタ。
……とりあえず、これで俺のタンクとしての立場は確立された。
あとは、ひたすらレベルを上げるだけだなっ。
次の日。
宿で休んでいた俺の部屋がノックされた。
一体誰だろうか?
オルエッタか、宿の店員くらいしか訪れることはないだろう。
そう思って扉を開けると、そこには兵士たちがいた。
……ユシー家の家紋をつけていて、一体何事かと思っていると。
「ついてこい」
兵士たちは俺に武器を突きつけ、そういった。
……一体何事だ?
困惑しながら、ひとまず両手を上げる。
「何がどうなってるんだ?」
「昨日、バルーダ様を騙したらしいな。当主様……おまえの元父がお呼びだ」
「……なるほど、な」
そういう風に、話を持っていったのか。
バルーダがそう嘘をついたのか。
あるいは、父がそのようにしてバルーダに対しての風評を払拭したいのか。
どちらにせよ、俺はため息を吐くしかない。
本当に俺が詐欺を行っているのなら、動くのは私兵ではなく、正式な機関だ。
騎士か、あるいは『影の者』。
別に彼らを退けても良かったのだが、今ここで逃げてもどこまでも追いかけてきそうだ。
ならば、一度しっかりと話し合いをしたほうがいいだろう。
「大人しくついていくから、武器はしまってくれ」
「そうか」
あっさりと彼らは武器をしまい、どこか馬鹿にしたような目を向けてくる。
……ああ、そうか。
彼らは俺の成人の儀でのステータスを知っているんだったか。
だから、別に武器を使わずとも制圧できると思っているんだろう。
「あれ? どうしたのですか?」
部屋から出てきて、きょとんとした様子でこちらを見るオルエッタ。
「ちょっと、貴族に呼ばれて出かけてくる。今日は自由にしていてくれ」
「分かりました。それではご一緒しますね」
「……いや、レベル上げにでも行って来たらどうだ?」
「いえ、そうは行きません。何やら深刻そうですし、お力になれることがあるかもしれませんし」
「……」
オルエッタが来たところで、事態が改善するとは思えない。
でも、昨日の状況説明を一応はできるだろうし、本人が嫌でないのなら来てもらうのもありか。
「分かった。面倒になったら帰ってくれて構わないからな」
「はい。よろしくお願いしますね」
ぺこりと、兵士に深く頭を下げる。
兵士たちは、オルエッタの美貌に見とれたようで、どこか緊張した様子で頭を下げていた。
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