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しおりを挟む壇上には、タキシード姿の男性が魔道具であるマイクを持ち、声を張りあげた。
『さあ! 皆さん! いよいよ午後の部では、スキルが出品されます! 皆さんの望むスキルは果たして出てくるか! まずは、こちら! 【ドラゴンブレス】のスキルストーンです!』
マイクによって周囲へ音は響き、後ろの方にいた俺のもとまでよく届いた。
司会の声に合わせ、色っぽい女性が滑車のついたテーブルを押し、司会のもとまで運ぶ。
現れたスキルストーンは、見た目だけでいえば店の棚に置かれているものと同じだ。
しかし、【ドラゴンブレス】ともなれば強力なスキルだ。
すぐに、あちこちから声が上がる。
「百万ゴールド!」
「二百万ゴールド!」
「三百万ゴールド!」
オークションに参加する人たちは、席を立ち手を挙げて自分の金額を宣言していく。
金額はどんどんと吊り上がっていき、場が静かになっていく。
『さあ! 先ほどの一千万ゴールドを超える人はいますか!? いないようであれば先ほどの方で――』
「い、一千五十万ゴールド!」
「一千百万ゴールド!」
「い、一千二百万ゴールド!」
「一千五百万ゴールド」
「……」
それが、決定打となった。
対抗していた人は、そこで諦めるように席へと座る。
見事買い取った彼が、壇上へと向かい、スキルストーンを受け取った。
そのスキルストーンをすぐに使用した後、彼は満足げな様子で壇上を立ち去った。
『さあ、お次の商品は――!』
そんな風にして、次の商品が運ばれてくる。
俺がオークションを眺めているとつんつん、と腕を突かれる。
「レウニスさんが欲しい商品は【オートヒール】でしたよね?」
「ああ、そうだ」
「買い取れるといいですね。私も、応援していますね」
そうだな。
今回は【ヒール】も出るし、何とかなりそうだけど。
そんなこんなでしばらく眺めているときだった。
【パワーショット】のスキルストーンがオークションに出されたときに見覚えのある顔の男を見つけたのだ。
「三百万ゴールド!」
声を張りあげたその男は俺の兄……バルーダ・ユシーだった。
なんでたまたま同じ日に参加しているんだよ……。
俺は思わず頭を抱えてしまった。
別に、兄がオークションに参加しているのが駄目というわけではないのだが、向こうに気付かれると厄介な事態に発展する可能性は高い。
ただでさえ、兄は俺を目の敵にしていたからな……。
家を追放された後にも面倒な感じで絡んできたのだ。
ここで、一切何もないということはなく、最低でも声をかけてくるはずだ。
幸いなのは、まだ向こうが気づいていないことか。
それに、先ほどの落札で、帰るかもしれないしな。
そんな俺の祈りは、しかし通じない。
兄は無事スキルストーンの購入を終えたのだが、また同じ席へと戻っていた。
……兄は俺より二年早く冒険者になった。
今の冒険者ランクは確かCか。もう少しで、Bランクに到達できると言われていて、なかなかに優秀な人間だ。
ただ、スキルを買いあされるほどお金に余裕があるとも思えない。
家が出したのか、あるいは俺のように魔結晶でも売りさばいたか。
『さあ! 次は【オートヒール】になります! さあ、どうですか!?』
とうとう、俺のお目当てだったスキルの番となる。
「レウニスさん、レウニスさん! スキル来ましたよっ、気づいていますかっ」
「気づいているから、あんまり腕叩くな。……まずは様子を見ているんだよ」
様子見というのは【オートヒール】に対してというよりも兄に対してだな。
しかし、まるで兄は動く気配を見せない。
それに、【オートヒール】には興味がないようだ。
「百二十万ゴールド!」
誰かが立ち上がり、声を上げる。
しかし、続くものはいない。
……これなら、比較的安く買えそうだな。
さっさと買って、この場から立ち去ろう。
兄はどうやら、この後のどれかしらのスキルに興味があるようだし、俺に気づいてもわざわざ席を外してまで声をかけには来ないだろう。
「百三十万ゴールド」
俺が手を上げ、席から立ちあがる。
ライバルは一人だ。
見たところ、別にそれほど金を持っているようには見えない。……それは、向こうから見てもそうか。
何にせよ、俺の手持ちは五百万ゴールドを超えている。
……さすがに、【オートヒール】に五百万ゴールドを使いたくはないが、次いつ手に入るか分からないため、覚悟はしている。
「百五十万ゴールド」
釣り上げてきたか。
俺は矢継ぎ早に答える。
「百六十万ゴールド」
お金に余裕があるのを見せつければ、向こうも無理には乗ってこないだろう。
そう思って相手の金額+十万ゴールドを即座に言っていくと。
「……」
二百万ゴールドになったところで、向こうが席に座った。
俺との金額勝負では勝てないと悟ったようだ。
二百万ゴールドなら、相場とそう変わらないし、悪くないな。
そう思っていた時だった。
「二百五十万ゴールド」
聞きなれた声が聞こえた。
そちらに視線を向けると、勝ち誇ったような顔でこちらを見る兄の姿があった。
……あの野郎。
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