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しおりを挟むなんと押しの強い子だろうか。
真面目で、少し抜けたところはあるけど、悪い子ではない。
……迷宮内で、俺に装備を貸し出すなどの緊急事態での判断も悪くはなかったしな。
ならば、最終確認だ
「俺は……詳しいことは話せないが、今後Sランク迷宮の攻略に参加したいんだ。それに一緒に参加してくれる人じゃなければ、パーティーには誘えない」
「Sランク迷宮の攻略、ですか……」
Sランク迷宮の攻略はかなりの難易度を誇る。
そもそも、滅多にそんな迷宮は出てこないが、それでも過去に何度か発見された時は、Sランク冒険者でさえ何名かの死者を出している。
それほどの難易度の迷宮に参加するといえば、馬鹿か何かと思われるだろう。
今の時代、安定した難易度の迷宮を攻略するのが主流だしな。
冒険しないのが冒険者。ある程度、有名になったらクランリーダーになったり、貴族に雇われたりしてのんびり過ごすのが基本だしな。
俺だって、ラグロフを助けた後はそんな風にまったり生きるつもりだし。
「分かりました! 一緒に頑張りましょう!」
しかし、オルエッタはそんな世間一般の常識とはズレていた。
「……本気で言っているのか?」
「はい! 私、小さい頃からSランク冒険者に憧れているんです! その夢を叶えられるのなら、なんだってやります! 夢は、昔読んだ本に出てきたハンマー男さんみたいに、どんな魔物も叩き潰せるようになることなんです! あの人みたいに、高難易度迷宮を攻略できるようになりたいんです!」
きらきらと輝いた目で俺を見てくる。
……ハンマー男の本って、確か、グロテスクな表現があるとかで、発売が禁止されたんじゃなかったか?
そんな人に憧れるなんて、こいつ結構ヤバいのではないだろうか?
だが、オルエッタはすでにパーティーを組んだ気でいるようだ。
……仕方ない、か。
とりあえずは、一緒に行動するのもありか。先ほどオルエッタが提案したように行動すれば、俺の経験値が減るわけでもないしな。
それで、将来的に成長して一緒にSランク迷宮攻略に参加してくれるのなら、心強いし。
「レウニスさん、オルエッタさん。査定終わりましたのでこちらに来ていただけますか」
ギルド職員が受付から声をかけてきて、俺たちは席を立ちあがった。
「魔結晶の値段が、千二百万ゴールドでしてその他、依頼達成報酬、回収した素材の売却費用などを合わせ、四百五十万ゴールドになります」
ちなみに、俺のスキルは売却したものを俺が買い取ったというわけで、その金額分、オルエッタの方が多くなっている。
俺が冒険者カードを渡すと、そこにお金が振り込まれる。
基本的に、お金の管理は冒険者カードを通じて行っている。
……正確に言えば、冒険者ギルドではなく銀行との連携で可能になっているのではあるが、まあ両者はどちらも国が管理しているので、一緒にされることが多い。
それで、金銭のやり取りは終了したが、俺は正しく振り込まれているかを確認するため、受付横にある魔道具で自分の残高を確認した。
……よし、問題ないな。
今の俺の手持ちが、四百七十万ゴールドほどになっている。
これだけあれば、オークションの参加者次第では、ヒール系のスキルが購入できるかもしれない。
「たくさん、お金入りましたね!」
「……あんまりそういうこと口にするなって」
「だ、駄目でしょうか?」
「誰にいつ狙われるか分からないからな。一緒にパーティーを組むのなら、その辺りもしっかりしてくれ」
「分かりました! ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げてくるオルエッタ。
……まったく。
「オルエッタ、宿はどうするんだ?」
「迷宮攻略があったので、今は宿を取ってないんですよね。一緒に行動しますし、一緒の宿を借りたほうがいいですかね?」
「……そのほうが、たしかに合流はしやすいが……そうだな。探しに行くか」
「はい!」
男と女だと、宿を借りる場合の選ぶ基準が違うことが多い。
男性は、宿にそこまでを求めない。寝床がちゃんとあり、雨風凌げればそれでいい、なんてこともある。
女性は清潔な宿を選びたがるため、それなりに質の良い場所になりがちだ。
まあ、下手な場所に住むと、特に若い女性は厄介ごとに巻き込まれやすいからな。
俺も今は金を持っているので、ある程度質の良い宿にしようと思う。
高い宿は基本的に客のグレードも上がるからな。
それから何件か回っていき、部屋が余っていた宿を見つけたのでそこに決めた。
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