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しおりを挟む「なあ、ベヨング。別にスケルトンナイトをぶっ倒して、あいつらも殺しちまえばそれで良かったんじゃねぇか?」
クランメンバーの一人、タイヨクがそう言ってきた。
彼はオレの親しい友人ではあるが、少し頭が回らない。
「またその話か? 直接手をかけるってのは、案外精神的に来るものなんだよ」
「冗談だろ? おまえが一番人殺し好きじゃねぇか」
タイヨクの言葉に、苦笑を返す。
確かに、オレは殺人は好きだけどな。
正面切って言われると、思うところはあるものだ。
「剣を使って殺すしかないだろ? そんで、その剣には魔力や血が絶対に残る。調べられれば、疑われちまう。だから、事故で殺した方があとあとのこと考えると楽なんだよ」
武器は処理してしまえばいいが、処理した、という記録が残るからな。
今回持ってきた装備は、どれもオレのお気に入りだ。
たかだか、荷物持ちたちを殺すためだけにこれを廃棄するのはもったいない。
それに、だ。
「なあ、タイヨク。さっき戦ってみて、どうだった?」
「ああ? スケルトンナイトか?」
「そうだ。タンクとしての意見を聞かせてくれ」
「はっ。そうだな。かなり強かったが、全員でかかれば何とかなるんじゃないか?」
「……まだまだ甘いな」
「どういうことだ?」
「スケルトンナイトは、まだまだ本気じゃなかった。半分ほどの力だったろうぜ」
「……何? いや、おまえの勘は良く当たるからな。だから、戦うのはやめたってことか」
「そうだ。スケルトンナイトはDランク……いや、Cランク相当はあるだろうな。今のオレたちで挑めば、勝てることには勝てるだろうが、死者がでる可能性が高い。今回は魔結晶を回収して帰るのが、一番賢いやり方なんだよ」
オレは持ってきていた時計を確認する。
迷宮のボスモンスターは、何も行動しないまま十分が経過すると、迷宮内へと戻っていく。
荷物持ち共が多少抵抗したとしても、五分もあれば全滅だろう。
となれば、大目に見て十五分あれば、ボスモンスターは消える。
その後には、大量の魔結晶だけが残っているだろう。
ボスモンスターの出現地点は覚えたので、奴が出現する地点周辺をオレの土魔法で覆っておけば、オレたちは比較的安全に魔結晶の回収ができるというわけだ。
「あの女、生きててくれないかな?」
「へへ、いい女だったしな。死体だけ回収して、色々使うのもありかもな」
そんな会話が聞こえてきた。
まったく。
こいつらは変な趣味を持っていやがる。
類は友を呼ぶ、という言葉はあるが、これではまるでオレまでイカレ野郎みたいじゃないか。
そんな彼らに、オレは笑みとともに軽く忠告をしておく。
「別に構わないが、迷宮内で処理しておけよ? 外に持っていったら面倒だからな」
あくまで、今回は事故だからな。
死体はしかるべき場所になければならない。
「へーい。でもよリーダー。連続で事故をおこしちまったら、さすがに疑われるんじゃないか?」
彼の言う通り、オレたちのクランは前回も不慮の事故が発生していた。
……基本的にオレたちは小心者の集まりで、そう連続で事故を起こすことはしない。
疑われたら面倒だからな。
怪しい事件が多発すると、クランを管理するSランククランである『影の者』たちに目をつけられる。
彼らは全員が顔を持っていないと言われているクランであり、情報収集能力に関してはかなりのものを持っている。
それに、悪質な冒険者たちを裁く権利も、国から与えられているしな。
奴らに目をつけられたら面倒なので、あくまでオレたちはたまに事故を起こすだけだ。
だが、今回ばかりはどうしても譲れない。
「なら、あんな無能共に三割の魔結晶を渡すっていうのか?」
「いや、まあそうだけどよぉ……でも、疑われたら今後動きにくくなるじゃん?」
「そうだな。だからしばらくはおとなしくするしかないな」
「うへぇ、しばらくはつまらなそうっすねー」
つまらなそうに部下の一人がそう言っている。
確かにな。
だが、魔結晶で最低でも一千万ゴールドは手に入るのだ。
それらをクラン強化のために使えば、オレたちは確実に強くなれる。
Cランククランだって、夢じゃない。
Cランククランになれば、さらに仕事も増え、今のようなせこい稼ぎ方をしなくとも済むはずだ。
「そろそろ、時間だな。中の様子でも見にいくか」
「へーい!」
「どんな感じに死んでいるのか、楽しみっすね」
「だいたい、絶望的な表情で死んでいることが多いっすからね」
彼らの会話に、オレも笑みを返しながら、土の壁を壊していった。
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