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しおりを挟む意識がふっと緩み、俺は倒れそうになる。
その体が何者かに支えられる。
かすんだ視界に映ったのは、血相を変えたルファンとミーナだった。
「よかった、無事かい!?」
「あ、ああ」
「すぐに止血するからね! 待っていて!」
左腕は怪我をしたままだ。よく見れば、出血もある。
いくら【根性】で耐えられるとはいえ、俺の肉体までも同じように耐えきれるかどうかは別の問題だ。
戦いが終わると、興奮状態もなくなって途端に全身が痛みだす。
俺の体、こんなにボロボロになっていたのか……なんて他人事のように考えていると、ポーションをかけられた。
それで、出血は治まったが、痛みは残っている。
下級のポーションだし、これが限界のようだ。
それから、包帯で縛ってもらう。
「二人も怪我はないか?」
「うん……キミのおかげでね」
「それなら良かった」
俺はそう答えてから、目を閉じた。
僅かに休憩を挟んだ後、俺たちは迷宮を脱出した。
ボスモンスターを倒せば、迷宮内に魔物は出現しなくなるため、帰りはそう時間もかからず戻ることができた。
迷宮から出ると、外は明るかった。時計を見ると、昼だった。
軽く伸びをしていると、こちらに武装した男性たちが向かってきていた。
何者だろうか? そう思っていると、彼らは慌てた様子でこちらを見てきた。
「き、キミたちは……まさか迷宮攻略に共に入った荷物持ちの人たちか!?」
「うん、そうだけど……えーと、あなたたちは誰ですか?」
ルファンが首を傾げると、先頭にいた男性が安堵の息を漏らした。
「僕は、『ハンターブロー』の冒険者のルーベルクです。、ギルドからの依頼で迷宮攻略に来ました。リーダー、イソルベ率いるパーティーが失敗に終わったためなのですが――」
「あっ、そうだったんですね。えーと、そのどこからどう説明すればいいか……」
ルファンは頬をかきながら、一つ一つ丁寧に説明をしていった。
ルーベルクは、驚きながら俺をちらちらと見て、頷いていく。
「……な、なるほど。それにしても、ユニーク化したホブゴブリンをキミが一人で仕留めたとは……にわかには信じがたいな」
「まあ、信じるかどうかはともかくとして……俺もかなり疲れているんでできればあとの話は街に戻ってからでもいいか?」
俺としては早いところ横になりたかった。
俺の提案にルーベルクは頷き、何名かを迷宮に向かわせる。
彼らはスキルを用いて迷宮が攻略されたかどうか調べに行ったのだろう。
どちらにせよ、すぐに合流できると踏んだのかルーベルクは俺たちに並んだ。
ギルドに戻りながら、迷宮内で起きたことについて俺の口からも伝えていく。
その間に迷宮へと調査に戻った冒険者も戻ってきて、完全攻略済みであることも証明された。
「……なるほど。キミのステータスはかなり特別なんだね。それが暗黒騎士とそのスキルとの相性の良さに繋がった、と」
「ああ」
俺がどのようにして、ホブゴブリンを倒したのか聞かれたため、俺のステータスについて伝えた。
別に隠すようなことでもないからな。
スキルやステータスに関しては、他の人に再現できるものでもない。
俺がこのスキル構成で戦えている最大の理由は、HPが2だからだしな。
「なるほど……巡りあわせ、というものはあるようだね」
ルーベルクが柔らかな口調でそう言った。
「巡りあわせ?」
「ああ。職業に適したスキルを獲得できる、という人もいるそうだからね。キミが【根性】のスキルと出会ったのは、きっと運が良かったんだろう」
「あ、あはは……そうだな……」
乾いた笑いを返すしかない。
運なんて理由じゃない。俺がこのスキルを獲得できたのは、前世の知識があったからだ。
いや、でも、こうして前世の記憶を持ったままやり直しができているのだから、運はいいのか?
そんなことを考えていると、こちらにウルフが近づいてきた。
魔物、か。
俺は腰に差した剣に手を伸ばす。ちなみに、傷については『ハンターブロー』のヒーラーが治療してくれたため、今は完全に回復している。
しかし、ルーベルクが俺に片手を向け、制してきた。
「まだ疲労は残っているだろう? ここは僕たちに任せてくれ」
そういうなら、お言葉に甘えようか。
ルーベルクはちらと近くにいた仲間に視線を向けると、こちらにやってきたウルフに魔法を放った。
ウルフは反応してかわそうとしたが……魔法はその体を追尾し、貫く。
さすがに、Sランククランの冒険者だ。
彼らの実際のランクがいくつかは分からないが、スキル一つをとっても練度が違う。
戦闘はあっさりと終わり、ルーベルクが歩き出す。
「……ルーベルク。今の人の冒険者ランクって聞いてもいいか?」
「ん? ああ、彼女はCランクだ。僕はぎりぎりBランクでね。平均Cランク程度のパーティーだよ」
ルーベルクが優しく教えてくれた。
……今のでもまだCランク、か。
Sランクというのは、かなり高い壁のようだな……。
だからといって、諦めるつもりはないが。
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