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しおりを挟む成人の儀のときがそうだったし。
成人の儀は、新人をスカウトできる絶好の機会であるため、大手クランのスカウト担当がたくさん来ている。
家系のこともあって、俺に注目してくれていたクランもあったと思うんだけど、暗黒騎士と分かってからはまったく声をかけられなかったな。
「まあ新人の冒険者なんだし、大目に見ていこうじゃないか」
「まあ、そうかもしれないけど……あれ、キミもほとんど新人だよね?」
ルファンが不思議そうに首をかしげた。
確かに、さっきの発言は変な誤解を与えてしまうよな。
この体で迷宮に入るのは初めてだけど、前世では何度も荷物持ちとして参加していたからなぁ……。
荷物持ちならば、ある程度高ランクの迷宮攻略にも参加できていたので、小遣い稼ぎには悪くなかったものだ。
そんなことを丁寧に説明しても、頭のおかしな奴と思われるので、濁しておくことにした。
「もともと貴族で教育を受けていたんだ。まあ、ステータスと職業のせいで追放されちゃったけどな」
自嘲的に微笑むと、隣にいたミーナがずいっと顔を寄せてきた。
「でも、攻略班も苦戦していたゴブリンたちを一撃で仕留めたよね? レウニスさん、凄い強いと思うけど」
彼女の両目は無邪気な子どものように輝いている。
……先ほど守ったのがよほど良く見えたようだ。
「たまたま当たり所がよかったんだよ。とにかく、ゴブリンくらいなら二人を守りながら戦えるからここから先は怯えないでくれ」
苦笑とともにそう伝え、俺たちは攻略班とともに歩いて行った。
出現したゴブリンと、攻略班が交戦する。
第二層……それも第三層が近づいていることもあってか、魔物の出現頻度も増えてきた。
迷宮に入ってからかなりの時間が経過している。
途中昼休憩をとったり、水分補給程度はしたりはしていたのだが、さすがに皆の疲労は目に見える形になってきた。
「ああ、クソ! おまえもっと早く倒せよな!」
「うるせぇよ! てめぇが弱いのが悪いんだろ!」
「なんだと!?」
……攻略班は疲労もあってか、喧嘩が増えている。
こういったとき、リーダーが間に入って仲裁するのだが……残念ながら今喧嘩を吹っ掛けたの、イソルベなんだ。
絶望的な状況だ。
俺はギルドから支給された中にあった時計で時間を確認する。
……午後六時、か。
この迷宮は昼夜問わず、常に薄暗いため時間の感覚が狂ってきてしまう。
しかし、もうすぐ夕食にして休んでもいい時間なんだよな。
イソルベは恐らく、ボスフロアの前あたりまで進んでから休みを挟むつもりだったのかもしれないが、第二層でさすがに苦戦しすぎだ。
今の状態で第三層に入っても、満足に攻略できないどころか怪我人が出る可能性もある。
もうここで休憩にしてしまってもいいと思うのだが、イソルベは汗を拭いながら歩き出した。
それに休みの提案をする者はいなく、ヨタヨタと頼りない足取りでついていく。
さながら、ゾンビを従えるゾンビのようにも見える。
それに、疲労は攻略班だけではない。
ルファンとミーナも、明らかに疲労していた。
……それもそうだよな。
貴族の時からそれなりに体を鍛え、最近では毎日走り込みをしている俺でもちょっと疲れ始めているんだ。
普段から運動する人間がそう感じるのだから、例えば冒険者になって始めて戦う人たちなんかは、すでに限界が近いはずだ。
ここは、どうにかして休みを取る方向に話を持っていく方がいいよな。
そう思っていた時だった。攻略班の一人が声を上げた。
「おい、イソルベ! もうそろそろ今日の攻略は終わりにしないか!? さすがに疲れてきたぜ!」
おっ、ナイス提案だ。
そのままイソルベが乗ってくれれば、俺が変に頭を使う必要もない。
ワクワクとした気分で見守っていると、イソルベが目を吊り上げる。
その瞬間に駄目だと思ったね。
「ああ? なら、てめぇは置いてくぞ?」
「あぁ? んだよ。おまえどこまで行く気だよ?」
「今日中に迷宮攻略するんだよ」
!?
イソルベの発言に俺は呆れる他ない。
こんな疲労している状態でここのボスモンスターを討伐できるはずがない。
「はああ!? おまえ、頭おかしいんじゃねぇのか!? そんな急ぐ必要ねぇだろ!」
「急ぐ必要あんだよ! 今回の結果次第でオレは大手クランに入れるんだからな! 迷宮攻略を余裕で達成、なんてしたら箔がつくだろ?」
イソルベは楽しそうにアホな計画について語っていた。
それを聞いていた攻略班たちは、顔を見合わせた後、イソルベに近づいた。
「大手、ってどこだよ?」
「『ハンターブロー』だよ」
その名前にどよめきが起こる。
『ハンターブロー』か。俺も聞いたことがある名前だ。
この国にはいくつものクランがあり、各クランは冒険者同様ランクによって評価されている。
数少ないSランク評価を受けているクランの一つが、『ハンターブロー』だ。
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