上 下
2 / 12

第2話

しおりを挟む


 聖女とともにエレノアの父と母がやってきました。その時でした。

 ちょうど子どもたちがエレノアの部屋に石を投げていました。

「……何をしているのですか?」

 聖女が訊ねると、慌てた様子で父と母は子どもたちを止めさせます。
 しかし、それですべてを察した聖女は家族に目をくれず、そのまま屋敷へと入っていきます。

 屋敷の中では、エレノアとデレックがいました。
 デレックの膝の上で、エレノアは本を読んでいます。
 エレノアは、初めて見る聖女を見て、びくりと肩をあげます。

 デレックが前に出て、首を傾げた。

「え、えーと……どちら様ですか?」

 デレックも一平民です。屋敷の使用人として拾われただけで、学はありませんでした。

 ちょうどそのとき、聖女は顔を顰めます。デレックの態度に……ではなく、部屋内に充満した強烈な魔力に対してです。

「……あなたが、新たな聖女、エレノアですね」
「……私が聖女?」
「は、はい……そ、それにしても凄まじい、魔力、ですね……聖女の私でさえ、はるかにしのぐほどの、魔力量……ですね」
「……せ、聖女? 魔力量?」

 デレックとエレノアは顔を見合わせ、首を傾げます。

「……で、デレックさんでしたか? よくエレノアと一緒にいて、体調不良になりませんね……?」
「え? あー、そうですね? なんか運が良いみたいですね」
「う、運とかの問題ではないと思いますが……とにかくです。エレノア、あなたは私の次の聖女なのです」

 デレックとエレノアは聖女、と聞いても首を傾げるばかりです。どちらもあまり、詳しくはなかったですから。
 と、そこに両親が笑みを浮かべながらやってきました。

「そういうわけだよ、エレノア。お父さんたちのおかげで、おまえは聖女になれるんだ」
「そうよ、エレノア。私たちの大事なエレノア、今日からあなたは聖女として生きていくの。そして、私たちを幸せにするのよ?」
「……」

 エレノアはびくり、と体をはねあげ、デレックの後ろに隠れました。
 これまで、両親から受けた虐待があり、エレノアは両親のことが大嫌いでした。
 聖女が両親を睨むと、両親は慌てた様子で声をあげます。

「……え、エレノア! 私はおまえの父だぞ! 何を怯えているんだ!」
「こ、来ないで! 私やデレックのことを殴る人は嫌い!」
「……」

 聖女がじっと父と母を見ていました。父と母は慌てた様子で声をあげます。
 しかし、エレノアはそれらを無視するように声をあげました。

「……この人たち、知らない! 私はデレックだけいればいいから!」
「え、エレノア! ふざけたことを抜かすな!」
「知らない! だって、私が寂しいとき傍にいてくれたのはデレックだけだもん!」

 ぎゅっとエレノアがデレックに抱きつきました。
 とたん、魔力が膨れ上がり、デレック以外の皆を吹き飛ばします。
 被害は彼らだけではありません。

 建物近くにいた使用人たちまでにも及びます。
 エレノアの濃すぎる魔力によって、周囲の人々は高熱が出たときのような症状に襲われ、それは聖女でさえも例外ではありませんでした。

「……こ、これほどの魔力を持っているとは……! え、エレノア……! あ、あなたの家族に関しては私の権限で、必ず罰を与えます! ですから、どうか落ち着いて、魔力を抑えてください……!」

 聖女の言葉を聞いて、デレックが慌てた様子でエレノアの頭を撫でました。

 するとエレノアからあふれていた魔力はいくらか落ち着き、聖女であれば何とか近づけるくらいにはなれました。

「エレノア……あなたに私は色々と力の使い方について、教えます。……その上で、何か必要なことがあれば何でも言ってください」
「……それなら、デレックが一緒がいい」
「……分かりました。デレックさん、あなたも一緒に来てもらっても良いですか?」
「え? あー、はい。まあいいですけど……」

 デレックがそう答えると、エレノアはぎゅっとデレックに抱き着きました。
 こうして、聖女エレノアは、無事保護されました。




 そうそう、エレノアの家族は爵位を奪われ……平民として、一生懸命に働いているそうです。
 それでも、これまでのような裕福な生活とはかけ離れ、ゴミを漁ってその日をしのぐこともあるとかないとか。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【完結】囲われサブリナは、今日も幸せ

ジュレヌク
恋愛
 サブリナは、ちょっと人とは違う特技のある公爵令嬢。その特技のせいで、屋敷から一歩も出ず、限られた人とのみ接する読書漬け生活。  一方のクリストファーは、望まれずに産まれた第五王子。愛を知らずに育った彼は、傍若無人が服を着て歩くようなクズ。しかも、人間をサブリナかサブリナ以外かに分けるサイコパスだ。  そんな二人が出会い、愛を知り、婚約破棄ごっこを老執事と繰り返す婚約者に驚いたり、推理を働かせて事件を解決したり、ちょっと仲間も増やしたりしつつ、幸せな囲い囲われ生活に辿り着くまでのお話。 なろうには、短編として掲載していましたが、少し長いので三話に分けさせて頂きました。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

処理中です...