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第2話
しおりを挟む聖女とともにエレノアの父と母がやってきました。その時でした。
ちょうど子どもたちがエレノアの部屋に石を投げていました。
「……何をしているのですか?」
聖女が訊ねると、慌てた様子で父と母は子どもたちを止めさせます。
しかし、それですべてを察した聖女は家族に目をくれず、そのまま屋敷へと入っていきます。
屋敷の中では、エレノアとデレックがいました。
デレックの膝の上で、エレノアは本を読んでいます。
エレノアは、初めて見る聖女を見て、びくりと肩をあげます。
デレックが前に出て、首を傾げた。
「え、えーと……どちら様ですか?」
デレックも一平民です。屋敷の使用人として拾われただけで、学はありませんでした。
ちょうどそのとき、聖女は顔を顰めます。デレックの態度に……ではなく、部屋内に充満した強烈な魔力に対してです。
「……あなたが、新たな聖女、エレノアですね」
「……私が聖女?」
「は、はい……そ、それにしても凄まじい、魔力、ですね……聖女の私でさえ、はるかにしのぐほどの、魔力量……ですね」
「……せ、聖女? 魔力量?」
デレックとエレノアは顔を見合わせ、首を傾げます。
「……で、デレックさんでしたか? よくエレノアと一緒にいて、体調不良になりませんね……?」
「え? あー、そうですね? なんか運が良いみたいですね」
「う、運とかの問題ではないと思いますが……とにかくです。エレノア、あなたは私の次の聖女なのです」
デレックとエレノアは聖女、と聞いても首を傾げるばかりです。どちらもあまり、詳しくはなかったですから。
と、そこに両親が笑みを浮かべながらやってきました。
「そういうわけだよ、エレノア。お父さんたちのおかげで、おまえは聖女になれるんだ」
「そうよ、エレノア。私たちの大事なエレノア、今日からあなたは聖女として生きていくの。そして、私たちを幸せにするのよ?」
「……」
エレノアはびくり、と体をはねあげ、デレックの後ろに隠れました。
これまで、両親から受けた虐待があり、エレノアは両親のことが大嫌いでした。
聖女が両親を睨むと、両親は慌てた様子で声をあげます。
「……え、エレノア! 私はおまえの父だぞ! 何を怯えているんだ!」
「こ、来ないで! 私やデレックのことを殴る人は嫌い!」
「……」
聖女がじっと父と母を見ていました。父と母は慌てた様子で声をあげます。
しかし、エレノアはそれらを無視するように声をあげました。
「……この人たち、知らない! 私はデレックだけいればいいから!」
「え、エレノア! ふざけたことを抜かすな!」
「知らない! だって、私が寂しいとき傍にいてくれたのはデレックだけだもん!」
ぎゅっとエレノアがデレックに抱きつきました。
とたん、魔力が膨れ上がり、デレック以外の皆を吹き飛ばします。
被害は彼らだけではありません。
建物近くにいた使用人たちまでにも及びます。
エレノアの濃すぎる魔力によって、周囲の人々は高熱が出たときのような症状に襲われ、それは聖女でさえも例外ではありませんでした。
「……こ、これほどの魔力を持っているとは……! え、エレノア……! あ、あなたの家族に関しては私の権限で、必ず罰を与えます! ですから、どうか落ち着いて、魔力を抑えてください……!」
聖女の言葉を聞いて、デレックが慌てた様子でエレノアの頭を撫でました。
するとエレノアからあふれていた魔力はいくらか落ち着き、聖女であれば何とか近づけるくらいにはなれました。
「エレノア……あなたに私は色々と力の使い方について、教えます。……その上で、何か必要なことがあれば何でも言ってください」
「……それなら、デレックが一緒がいい」
「……分かりました。デレックさん、あなたも一緒に来てもらっても良いですか?」
「え? あー、はい。まあいいですけど……」
デレックがそう答えると、エレノアはぎゅっとデレックに抱き着きました。
こうして、聖女エレノアは、無事保護されました。
そうそう、エレノアの家族は爵位を奪われ……平民として、一生懸命に働いているそうです。
それでも、これまでのような裕福な生活とはかけ離れ、ゴミを漁ってその日をしのぐこともあるとかないとか。
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