103 / 107
104
しおりを挟むルーフとの話を終えた俺は、それからザンゲルの元へと向かう。
ザンゲルは兵士たちに訓練をつけていたのだが、俺に気づくと一度訓練を止めてこちらへやってきた。
「レイス様。戻っておられたのですね」
「ああ。スザクたちの今日の訓練はひとまず終了したからな。ザンゲル……ルーフから話があってな。魔石についた魔族の臭いが感じられたらしい」
世間話もそこそこに、俺は本題を切り出す。
ザンゲルは目尻をぴくりとあげてから、その表情を険しくする。
「……魔族、ですか。この街に侵入している可能性があるということですか」
「そういうことになる」
「ですが、またどうしてでしょうか? ……もしかして、レイス様を狙っている……とか?」
狙いは俺ではなくセイリンだろう。
ただ、それを伝えることはできなかった。
「……そうかもしれないな。エンドリアの街を壊滅させるつもりが阻止されたんだからな」
「なぜ、魔族がこの大陸を狙っているのでしょうか? 確かに北の大陸に支援こそしていますが、我が国の支援よりも他大陸の方が多いですし……」
「魔族の考えることは分からないが、もしかしたら他の国にもちょっかいをかけている可能性はあるな。とにかく、何があるか分からないし警戒を強めるように兵士たちに指示を出してくれ」
「分かりました。必ず複数名で行動するように伝えます」
「ああ、頼む。万が一発見しても自分の身を守ることを最優先にしてくれ」
……どのくらいの魔族が攻め込んでくるか分からない。
ゲームでいう雑魚魔族がが来ているのか、あるいは……死にゲーレベルのボスが来ているのか。
雑魚魔族なら、兵士たちでも連携すればどうにかなるかもしれないが、ボスが来ていたら兵士たちでは無駄に命を散らすことになる。
「それでは、早速指示を出してきます」
「ああ、頼む」
……あとは、敵がいつ動いてくるか、だな。
できれば、何かやられる前に先に仕留められればいいのだが。
魔族によって、オレの家族たちは殺されたらしい。
……らしい、というのは自分の目で見ていたわけじゃないからだ。
あくまで、人を跨いで聞いただけで……詳しいことはよく分からなかった。
北の大陸で親を失った子どもたちは、別の大陸に移動することになっていて、オレも運よくこの地にきていた。
それから、なんだかんだ色々あって……今は兵士になって、兵士長という立場についていた。
……オレが兵士長になったのは、本当に偶然だ。
ルーブルが経費削減したことによって、大多数の兵がヴァリドールから離れ、余った中で一番実力があったのがオレだからだ。
正直辞めたいと思ったことは何度もあったが、今は違う。
レイス様をお守りしたいという気持ちがあった。レイス様から強くなるための方法を教えてもらい、彼のまっすぐに生きる姿を見て、それを支えたいと。
そんな今のオレの心の中には様々な感情が渦巻いていた。
レイス様から教えられた魔族の話を聞いたからだ。渦巻く様々な感情の答えは、分からない。
オレはそれをぐっと押しこんでから、兵士たちに巡回を強化するように伝えた。
皆も、レイス様が狙われている可能性があると知ると、やる気に溢れていた。
……ここに残っている兵士たちは、皆レイス様のおかげでかなり強くなった。
そのこともあって、レイス様への恩義を感じているからだ。
夜の巡回には、オレもルーフとともに出向くようになっていた。
「ザンゲルよ。最近働きすぎではないか?」
「代わりに昼は休んでいるから大丈夫だ」
「……魔族が関係しているのか?」
ルーフの問いかけに対して、オレはなんとも答えられなかった。
「……分からない、な。モヤモヤとした気持ちがあるのは確かだ」
「あまり、無茶をしないようにな」
「ああ、分かっている」
……レイス様も、明言はしていなかったが心配しているように見えた。
イナーシアや、リーム様もだ。……明日は1日休もうか。
そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
夜の街を大きな遠吠えが響いた。
これは、ハイウルフのものだ。
ルーフの眉間が寄せられた。
414
お気に入りに追加
2,118
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました
うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。
そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。
魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。
その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。
魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。
手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。
いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる