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 ルーフとの話を終えた俺は、それからザンゲルの元へと向かう。
 ザンゲルは兵士たちに訓練をつけていたのだが、俺に気づくと一度訓練を止めてこちらへやってきた。

「レイス様。戻っておられたのですね」
「ああ。スザクたちの今日の訓練はひとまず終了したからな。ザンゲル……ルーフから話があってな。魔石についた魔族の臭いが感じられたらしい」

 世間話もそこそこに、俺は本題を切り出す。
 ザンゲルは目尻をぴくりとあげてから、その表情を険しくする。

「……魔族、ですか。この街に侵入している可能性があるということですか」
「そういうことになる」
「ですが、またどうしてでしょうか? ……もしかして、レイス様を狙っている……とか?」

 狙いは俺ではなくセイリンだろう。
 ただ、それを伝えることはできなかった。

「……そうかもしれないな。エンドリアの街を壊滅させるつもりが阻止されたんだからな」
「なぜ、魔族がこの大陸を狙っているのでしょうか? 確かに北の大陸に支援こそしていますが、我が国の支援よりも他大陸の方が多いですし……」
「魔族の考えることは分からないが、もしかしたら他の国にもちょっかいをかけている可能性はあるな。とにかく、何があるか分からないし警戒を強めるように兵士たちに指示を出してくれ」
「分かりました。必ず複数名で行動するように伝えます」
「ああ、頼む。万が一発見しても自分の身を守ることを最優先にしてくれ」

 ……どのくらいの魔族が攻め込んでくるか分からない。
 ゲームでいう雑魚魔族がが来ているのか、あるいは……死にゲーレベルのボスが来ているのか。
 雑魚魔族なら、兵士たちでも連携すればどうにかなるかもしれないが、ボスが来ていたら兵士たちでは無駄に命を散らすことになる。

「それでは、早速指示を出してきます」
「ああ、頼む」

 ……あとは、敵がいつ動いてくるか、だな。
 できれば、何かやられる前に先に仕留められればいいのだが。



 魔族によって、オレの家族たちは殺されたらしい。
 ……らしい、というのは自分の目で見ていたわけじゃないからだ。
 あくまで、人を跨いで聞いただけで……詳しいことはよく分からなかった。
 北の大陸で親を失った子どもたちは、別の大陸に移動することになっていて、オレも運よくこの地にきていた。

 それから、なんだかんだ色々あって……今は兵士になって、兵士長という立場についていた。
 ……オレが兵士長になったのは、本当に偶然だ。
 ルーブルが経費削減したことによって、大多数の兵がヴァリドールから離れ、余った中で一番実力があったのがオレだからだ。

 正直辞めたいと思ったことは何度もあったが、今は違う。
 レイス様をお守りしたいという気持ちがあった。レイス様から強くなるための方法を教えてもらい、彼のまっすぐに生きる姿を見て、それを支えたいと。

 そんな今のオレの心の中には様々な感情が渦巻いていた。
 レイス様から教えられた魔族の話を聞いたからだ。渦巻く様々な感情の答えは、分からない。

 オレはそれをぐっと押しこんでから、兵士たちに巡回を強化するように伝えた。

 皆も、レイス様が狙われている可能性があると知ると、やる気に溢れていた。
 ……ここに残っている兵士たちは、皆レイス様のおかげでかなり強くなった。
 そのこともあって、レイス様への恩義を感じているからだ。

 夜の巡回には、オレもルーフとともに出向くようになっていた。

「ザンゲルよ。最近働きすぎではないか?」
「代わりに昼は休んでいるから大丈夫だ」
「……魔族が関係しているのか?」

 ルーフの問いかけに対して、オレはなんとも答えられなかった。

「……分からない、な。モヤモヤとした気持ちがあるのは確かだ」
「あまり、無茶をしないようにな」
「ああ、分かっている」

 ……レイス様も、明言はしていなかったが心配しているように見えた。
 イナーシアや、リーム様もだ。……明日は1日休もうか。
 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
 夜の街を大きな遠吠えが響いた。
 これは、ハイウルフのものだ。
 ルーフの眉間が寄せられた。
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