上 下
85 / 107

86

しおりを挟む
「最近、エンドリアの様子はどうだ?」
「え? 特に大きな問題はありませんが……」
「それなら良かった。ただ、最近も街で暴れていた男女を捕らえたと聞いてな。治安の方が問題なのかと思ったんだが……」
「それは……特に大きな問題はありませんね」

 ……少し、表情が変わってきたな。
 ブライトはいちゃもんつけて犯罪者にして、それから無理やり奴隷にするのが趣味だ。自分好みの人間を見つけては、そんなことをやっているらしい。
 今回は、それに関しての牽制とスザクとセイリンの二名をこちらに譲ってもらうつもりだ。
 むしろ、二人が捕まっていたおかげで踏み込んで話ができるので感謝しているくらいだ。

「そうか? では、男女に理不尽な理由をつけて捕まえた、というのはどうだったんだ?」
「……それは、一体どちらから、でしょうか?」

 明らかに表情が変わった。
 晩餐会がなければ、セイリンと奴隷契約を結ぶことも考えていたはずだ。
 ブライトは口を滑らせた人間について考えていたようだが、まあクーラルという情報屋に調べられたとは思っていないだろう。
 もちろん、クーラルの名前を出すつもりはなく、俺は冷たい表情とともにブライトを見る。

「ブライト」

 彼の名前を呼ぶ。なるべく威圧感を込めてだ。
 俺の気持ちは十分に伝わったようで、ブライトは怯んでいる。

「今、お前のところで捕まっている二人は……俺の知り合いなんだ」
「……え!?」

 驚いたようにブライトは叫び、それから顔を青ざめさせていく。
 大変なことをしてしまったということに気づいたようで彼の表情がどんどん険しくなっていく。
 それほど暑くはないというのに、額にもびっしりと汗が浮かんできている。

「だから、できれば二人を解放してほしいと考えているのだが……ダメか?」
「も、もちろん今すぐにでも解放させます!」
「そうか。話が分かるやつで助かったよ。……ただな、ブライトよ。……あまり、やりすぎるなよ?」

 俺は少し殺気を込めてブライトに笑顔を向けると、彼も必死に笑顔を浮かべて頷いた。
 ……これだけ言っておけば大丈夫だろう。
 こちらは明言こそしていないが、これでまだ好き放題やるというのなら、彼の更迭も考えなければならない。
 彼の嗜虐的な趣味を除けば、今のまま続けてもらっても構わない。
 正直言って、俺はメインストーリーの修正の方で忙しいので人材の用意と派遣まで構っていられないからな。

「とにかく。明日にでも二人を屋敷にまで連れてきてくれるか?」
「かしこまりました!」

 ひとまずこれで、スザクとセイリンの身柄は確保できるだろう。
 ……もう、二人が出会ってしまった以上、二人をメインに据えた物語は始まってしまったのかもしれないが、俺の監視下に置いておけば、最悪のエンディングだけは回避させられるはずだ。
 ていうか、回避しないと俺もろとも世界が崩壊するからな。
 なんとしても、修正しないとな……。


 このゲームには、大きく分けて人間と魔族という種族がいる。
 現在、人間と魔族は非常に仲が悪く、北の大陸では今もいつ大戦が始まるかという状況が続いている。
 とはいえ、この大陸では魔族のまの字もないほどに平和ぼけしているが。

 魔族と人間が戦っているのはここから遥か北の大陸だからな……。
 いやまあ、魔族の中には飛んで来れるやつもいるので、海を渡ろうとすればいくらでもいけるのだが……そこまでしてこの大陸に襲撃する魔族はまずいない。
 この大陸をとったところで、魔族側からはうまみもほとんどないからだ。

 我が国も、物資などの支援こそしているが、どこか他人事の感覚は消えていない状況だ。
 このゲームでは、主人公が人間と魔族のどちら側につくかを選ぶことができる。
 多くのプレイヤーは人間を最初に選び、二週目で魔族を選択する。
 それは、主人公の血筋が勇者と魔王の間に生まれたハーフだと、人間側のストーリーをすることで知るからだ。

 ……そして三週目。
 二つのルートをクリアした状態で、最初に選ぶ選択肢をどちらも選ばずに30秒放置することで分岐する。



――――――――――――――――――――――
 新作投稿しましたので、下のリンクから読んでいただけると嬉しいです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...