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しおりを挟む情報屋が拠点にしている町はまだ行ったことがなかったので、ひとまず一番近くの街まで行ってそこからは徒歩での移動だ。
今の俺の格好はリョウとしての姿だ。貴族のまま出歩くと、目立つからな。貴族というだけで非難してくる人もいるので、外でわざわざ貴族の格好をするというのはデメリットの方が多い。
周囲に人がいないのを確認しつつにはなるが、目の届く範囲に転移できるので、移動はかなり短縮できた。
ほんと空間魔法は便利だ。情報屋が拠点にしている街へとついたところで、早速目的の酒場へと向かう。
情報屋は、この酒場『雲底の酒』を運営している。一見すれば普通の酒場なのだが、ここで働いている人たち全員が情報屋の部下である。
……まあ、情報屋というか暗殺なども仕事として受けているからな。
俺が酒場へと入ると、可愛らしい女性店員が元気よく挨拶してくる。
ゲームの時も思ったが、ここにいる人たちの容姿はかなりのものだ。
主要キャラクターとまではいかなくても、サブキャラクターとして皆出てくるからだろう。
席へと案内された俺は、早速情報屋に会うための言葉を口にする。
「今夜の風も心地良いな」
俺がそういうと、店員が笑顔とともに次の言葉を口にする。
「素敵な夜になりそうですね」
「ああ、存分に楽しみたいと思ってる」
……これが、ゲームでの暗号文だった。
店員は俺から特に料理の注文を聞かず、微笑を残した後に去っていった。
この後はトイレに向かえば情報屋と会えるはずだ。
俺は席を立ち、トイレへと向かって歩いていった。
トイレへと向かい、一番奥の個室へと向かう。
そこは常に故障中という張り紙がされているのだが、俺はそこをノックする。
「依頼をしたい、情報屋」
これで、何もなかったら俺がただの恥ずかしい男になってしまうな。
そんなことを考えていると、個室から声が帰ってきた。
「どんな依頼だ?」
扉から帰ってきた声は、ゲームでも聞き覚えのあるかっこいい声。
間違いない、情報屋クーラルのものだ。
ゲームでは忍者のような姿をしていて、その中性的なイケメンは多くの女性プレイヤーに好かれてるんだよな。
さらに言えば、情報屋として活動する際には女装などもしていて、それはそれで男性からも人気があった。
ま、見た目だけならレイスくんも人気ではあった。一部のダメンズ好き女子には好かれているらしいが、本当に極少数だ。
「ある人物について調べて欲しいと思ってる」
「そうか。金はあるのか? それか、おまえの正体を教えてもらうことを交換条件にしてもらってもいいが?」
俺の正体には、気づいていないようだ。
まあ、情報屋だってなんでも知っているわけではない。調べようとしたものの情報をすぐに手に入れることができる、というのが強みなだけだ。
「それについてはまだ秘匿させてくれ。もちろん、金は持ってきている。確認してくれ」
俺はゲームでの依頼料と同じ金額の入った小袋をトイレの上から投げ入れる。
……ゲームでやっていたように、個室扉に背中を預ける形でひょいとかっこつけるように投げてみたのだが、どうやら向こうもちゃんと受け取ったようだ。
しばらく、金を数えるような音が響いた後、向こうから声が返ってきた。
「人物について調べるだけでいいのか? この費用だと暗殺までは受けられないぞ」
「暗殺は不要だ。単純に、本人の居場所を特定したいんだ」
「まあ、リョウほどの実力者なら自分でやるか」
……何か、勘違いされているようだな。
「俺はそいつを殺すために探してもらうわけじゃない」
「ほう……? ではなぜ、そいつを探してほしいんだ?」
不思議そうな声だ。……ゲームのクーラルは話していたが、情報屋として活動しているのだがだいたい暗殺依頼も一緒についてくることがほとんどらしい。
「彼を助けたいと思っている」
俺の言葉に、向こうは口を閉ざした。
ゲームでもクーラルを頼ることがあるのだが、それも誰かを助けるためだった。
それがきっかけで、クーラルは何かと主人公の面倒を見てくれるようになるので、俺も少しだけ主人公と同じムーブをさせてもらった。
これでクーラルに親しく思われれば、儲け物、程度の考えだったのだが、
「……助けたい?」
多少は、興味を持ってもらえたようだ。
主人公補正故のものかと思ったが、同じ展開を起こせば多少融通は効くのかもしれない。
「ああ。スザクという男が……まあ危険な道に進む可能性があってな。亡き人の頼みもあって、彼を探そうと思っているんだ」
……なんかそれっぽく聞こえるふうに誤魔化しておいた。
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