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しおりを挟む整備自体は俺がヴィリアスにお願いしてみてもらっているが、何せ数が多いからな。必要最低限しか整備できていない。
燃料は……軍事費が割かれていないのでもちろんほとんどない。
そこまで、父も計算したのだろう。
その顔が一気に青くなっていく。
しばらく、沈黙が続いてしまい、兵士が口を開いた。
「……話の邪魔をして申し訳ありません。転移石ですが、悪逆の森の魔物たちの影響か魔力が不安定になり、使用不可能な状況だそうです」
……やっぱ、そうなのね。
ゲーム中でも、重要なイベントが発生したりすると、移動系の魔法や転移石が使えなくなることがよくあった。
ゲームの都合ではあるのだろうが、一応きちんとした理由があるんだな。
「そ、それでは避難もできないのか……」
「え、ええ……街の人たちを逃すとしても、我々で魔物たちを食い止める必要があります」
俺は魔力を用いて魔物たちの居場所を特定する。
それほど進行速度は速くないので、街までの到着は二時間ほど、か。
……悪逆の森の方角から魔物たちは向かってきている。
反対側の門から急いで避難すれば、魔物に気づかれることもないとは思うが……どうするか。
街全体に避難勧告を出し、そこからすぐに行動してもらったとしても……二時間だと少し厳しいか。
全員での大移動になるし、街中もかなりの渋滞となるだろう。
人によっては避難したくない人もいるだろうし、それらを説得して回る余裕はない。
第一、避難者には一般市民もいる。戦闘能力のない街の人たちを護衛するためには、それだけ兵士も割く必要がある。
……そっちに兵士を割いて、さらに魔物の進行を足止めする、のはさすがに無謀だ。
足止め役には、全滅してください、という前提ならなんとかなるかもしれないが。
家族たちは顔面蒼白。
その中で、父はきっと顔をあげる。
「……西門にて、魔物たちを迎え撃つ。すぐに戦闘準備を整えよ!」
「承知しました!」
決意を固めたように父が叫び、ザンゲルが敬礼する。
そして父は、ちらとフィーリア様を見る。
「フィーリア様。こちらは危険ですので、息子たちともに避難の馬車に乗ってはくれませんか?」
……兄たちは、避難させるんだな。ということは、父は自分一人が犠牲になって残る作戦なのかもしれない。
それは確かに正しいかもしれない。
しかし、フィーリア様は首を横にふる。
「いえ、私も残ります。これでも、それなりには戦えます。兵士たちの足を引っ張るつもりはありません」
「ですが、もしもあなたに何かあれば、我がヴァリドー家の沽券に関わります! どうか、共に避難を!」
「ですが、あなたが指揮をとってくれるのでしょう? できる限り魔物たちの足止めをし、それから結界を張り、時間を稼ぎ、その間に別の街の援軍がくれば問題はないのではないでしょうか?」
フィーリア様の描いている作戦はおそらくこうだ。
大都市には結界装置と呼ばれる魔道具がある。燃料として多くの魔石を使うことになるが、大都市ならば一日程度は展開できるだけの貯蔵がある。
だから、できる限り魔物たちの進行を遅らせ、ギリギリまで粘ってから結界装置を展開する。
結界装置の中からでも魔道具による攻撃は可能だ。
魔導砲などを駆使すれば、第三層や第四層の魔物にも通用するだろう。
それで倒しきれなくても、ここから次に近い街からの援軍が一日もあれば駆けつけられる。
粘っていけば、確実に魔物たちを押さえつけられる……と算段しているはずだ。
ふっ、甘いな。
我が街の結界装置の貯蔵は持って半日だ。これでも、俺がちょこちょこ魔石を仕入れるように伝えて少ないお金の中から捻り出しての貯蔵だ。
もちろん結界装置に魔石を使用すれば、魔導砲の燃料がなくなる。
フィーリア様は、我が家族たちを舐めている。
「……わかりました。ですが、危険があればすぐに下がってください」
「もちろんです」
フィーリア様はそう言って、父に頷いた。
俺はその様子を見ながら、フィーリア様が死ぬのはやはりこの戦いではないか、と考えていた。
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