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「どうしたんだ?」
「いえ、その……レイス様って噂とまったく違ったなぁ……って思いまして」
「噂……ああ、ヴァリドー家はロクな噂がないもんな」
「そう……ですね。ただ、最近ではレイス様だけは違う、という噂もありますよ」
「本質は変わらないかもしれないぞ?」
「だとしても、行動がしっかりされているのですからいいと思います」

 イナーシアが嬉しそうに笑う。
 こいつ、ツンデレだったはずなのだが、屋敷に来てからはかなり素直だよな。
 彼女は、本来であれば孤児院を転々とする生活を送っていたはずだ。
 もしかしたら、直接屋敷で引き取って多少なりとも人格の形成に影響があるのかもしれない。
 まあ、素直なのはいいことだ。これからも、その素直さを大事にしてほしいものだ。
 
「屋敷での生活は苦労してないか?」
「はい。問題ありません」
「それなら良かった。まあ、不自由があれば言ってくれ。できる範囲で改善できることもあるかもしれないからな」
「……ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げるイナーシア。
 ……たまに子どもっぽい性格が見えるが、基本的には大人だよな。
 大通りへと抜けると、また街の人たちに声をかけられる。

「あっ、レイス様! 先日は街近くにでた魔物の討伐、ありがとうございました」
「ん? ああ、気にするな。ギルドの依頼にあっただけだからな。それよりも、ちゃんと商品の納品はできたのか?」
「ええ。レイス様のおかげで遅延なく対応できました」
「それなら良かった」
「おお、レイス様じゃないですか!」

 ……そんなこんなで街の人たちに声をかけられていく。
 最初に比べると親しく接してくる人が増えているのだが、それがいいことなのかどうかは分からない。

 しばらく街の人たちと交流してから、ギルドへ向かう。

「……レイス様。本当に人気ですね」
「人気、というのとは違うんじゃないか? たまたま、困っていた問題を片付けたお礼を言っているだけだ」

 イナーシアとそんな話をしていると、ようやくギルドに着いた。
 ギルドの受付へと向かい、俺はいつものように素材を換金していく。
 待っていると、冒険者に声をかけられる。

「おお、レイス様! この前は悪逆の森で助けていただいてありがとうございました!」
「気にするな。それよりも、最近は無茶をしていないか?」
「はい。レイス様に教えていただいた薬も購入できたので、娘の体調もよくなりました……」
「それなら良かった」

 ゲームであったサブイベントににた内容の問題が発生していたので、解決方法を伝えたらうまいこといったのだ。
 冒険者たちとそんなやりとりをしていると、素材の売却も終了する。

 用事を終えたところでイナーシアとともにギルドを離れる。
 改めて、倉庫を目指して歩いていると、イナーシアが声をかけてきた。

「……そうですね。レイス様は、とても……立派です。……レイス様が、次の領主になってくれればいいのに、と……思ってしまいます」
「あまり、そういうことは口にしないほうがいい。どこで誰に聞かれているか分からないぞ」
「…………申し訳ありません」
「第一、俺はそんな立場にはないからな。……どうせ、そのうち、家からも離れることになるだろうからな」

 ヴァリドー家が爵位を失い、両親はフィーリア様を見殺しにした罪で処刑。残った家族は皆散り散りになった。

 レイスくんはというと、それから学園へと入学し、そこで主人公と出会うことになり……その才能に嫉妬して闇堕ちしていくわけだ。

 そして最後は、自ら主人公に手を出し、あっさり敗北し、殺される、と。
 
 俺も同じように学園に入って主人公に合流する予定だがもちろん敵対するつもりはない。

「……そ、そうなったとしても、あたしはあなたについていきたいです」
「え? 言っておくが、そうなったら今みたいな生活はできないぞ?」
「……それでも、構いませんから」

 イナーシアが真剣な目でこちらをみてくる。
 ……イナーシアがパーティーに加わってくれるのは、心強くはある。

「その時は、よろしく頼むよ」
「もちろんよ……っ! もちろん、ですっ」

 イナーシアの表情がぱっと明るくなって頷いた。
 リームはゲームでは、学びのために学園に入学する。
 ルーフは……どうなるか分からないが、それでも交流を続けることは可能だろう。

 これだけ、戦力が揃えばゲーム本編が始まってからも難所を越えるのは難しくないだろう。
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