上 下
40 / 107

40

しおりを挟む



「……なんとかなって良かったな」
「……そうね」
「あのリョウという冒険者がいなければ危ないところだったな」
「……そうね」

 私はお父様の傷を手当しながら、そう答える。
 私の家は子爵であり、大きな屋敷もなければ使用人もいない。

 母は私を生んだ時に亡くなってしまっているので、今はお父様と二人で暮らしていた。

「どうした? さっきから心ここにあらずという感じだが」
「……そうね」
「いや、そこ素直に頷かれても困るのだが……大丈夫か?」

 お父様は心配そうにこちらを見てくる。
 そこで、私は……こくりと小さく頷いておいた。
 私が考えていたのは……あのリョウという男性だ。

 彼は……レイス様だ。
 ……他の人は気づかなくても、私は誤魔化せられない。

 だって、レイス様と同じ匂いがしたのだもの!

 私が毎週胸一杯に嗅いでいるあのレイス様とまったく同じ匂い。
 それがあのときもしたのだから、間違えるはずがない。

 どうして、変装などしているのか。
 それはともかくとして……私のレイス様への気持ちはもはや止めることはできなかった。

「お父様。明日、レイス様に会いに行ってくるわ」
「え? そうか。一昨日にも会いに行っていたと思うが……そんなにいくと迷惑ではないか?」
「でも、そろそろレイス様成分がきれてきてしまいそうだし……」
「……レイス様成分?」

 今はなんとかレイス様に頂いたハンカチを毎日嗅いで耐えているが、段々と匂いの鮮度が落ちてきてしまっている。
 早いところ、新しいものを補給したい。
 ……じゃなくて、なぜリョウとして活動しているのかを聞きたかった。




 先日、リームたちを助けたあとのことだった。
 リームが突然会いたいと話してきた。

 ……脳裏によぎるのは、この前のリームを助けた後のことだ。
 まさか、気づかれた? ……少し焦りはある。
 
 べ、別にリームに正体がバレるのは構わない。彼女ならきっと約束すれば、黙っていてくれるだろう。
 ……だから、たぶん大丈夫なはずだ。

 とりあえず、朝練として悪逆の森の魔物たちを倒してきたあと、俺は空間魔法を展開し、すぐに屋敷へと戻る。
 しばらくすると、部屋の扉がノックされる。
 扉を開けると、使用人がリームを案内してくれていた。

「お久しぶりです、レイス様」

 すっといつものように丁寧に頭を下げるリームに頷く。
 いつも通りの落ち着いた笑顔を浮かべるリームに、俺も同じように笑顔を返す。

「ああ、久しぶり」

 久しぶり、といっても一週間も経っていない。
 部屋に入ってきたリームはいつものドレスとは少し違って動きやすそうな格好だ。
 ……どうしたんだろうか?
 そんなことを考えていると、リームがじっとこちらを見てくる。

「あの、レイス様。少し、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「今日は、いくつか聞きたいことがあって会いにきました」

 ……まさか。

「なんだ?」

 心当たりはあるが、答えない。もしも俺の予想していたものと違った時、自白することになるからな。
 俺は少し緊張しながら、問いかけるとリームは真剣な眼差しで口をひらいた。

「私……その、私もレイス様のお力になりたいと思っているんです」
「……え? どういうことだ」

 突然のリームの言葉に、俺は首を傾げる。
 
「あなたは将来のために、力をつけているのですよね? 私のために……ふふっ……あっではなくて、ですね……とにかく、私も守られてばかりでは嫌です。ですので、剣を学ぼうと思っているのです」

 なんだかリームが少し怖い笑みを浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

処理中です...