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「え?」

 矢は、近くに迫っていた戦士の腕に突き刺さる。
 前衛二人が驚いたように目を見開いている間に、俺は持っていた短剣を【投擲】する。

「当たるかぁ!」

 迫っていた男の顔を狙った俺の短剣は、かわされた。

「かわして良かったのか?」

 俺が不敵に笑いながら言ってやると、遅れて彼らの背後から悲鳴が上がる。
 俺の投げた短剣は、魔法を構えていた男の胸に突き刺さっていた。
 男が壁になっていたのと、魔法チャージ中で油断していたのだろう。

「く、そが!」

 迫ってきていた男二人が、同時に剣を振り抜いてきた。
 ……連携、というほどの連携じゃないな。
 俺はインベントリから取り出した短剣を握りしめ、それらの攻撃を捌いていく。

「どうした! 防戦一方じゃねぇか、【スラッシュ】――」

 男が放ったスキルに合わせ、俺もスキルを合わせる。
 ――パリィ。

「が!?」

 攻撃を弾いてやった。この程度、初見でも余裕でカウンターできるな。
 やはり、攻撃系のスキルは挙動がわかりやすいな。
 パリィによって弾かれた男が、隙だらけとなったので仕留めようと短剣を構えると、

「こっちに、まだいるぞ!」

 まだ無事な一人が背後から剣を突き出してくる。
 俺はそれをギリギリまで引きつけてから、かわした。
 突き出された剣を、男は慌てて止めようとしたが俺は笑顔とともにその背中を押した。

「ぐあああ!?」

 結果。同士討ち。仲間の剣を胸に受け、パリィで行動不能だった男は倒れた。

「おっ、 PKKおめでとう!」
「てめ……っ!」

 怒りに任せて振り抜かれた剣を、短剣の腹で撫でるように上方へ弾き、左の短剣で喉をかっさばいてやった。
 【致命的な一撃】で見つけた、急所だ。一撃で仕留めると、最初に矢を受けた男が突っ込んできた。
 さらに、矢を構える男がいた。家を構えている方角は、俺ではなく空城院のほうだ。
 あー、対人戦が楽しくてついつい離れちゃったな。

「せめて、あいつだけでも……!」

 そう言いながら、矢が放たれる。
 俺はその軌道に合わせて短剣を放り投げる。
 キンッと金属音が響き、矢を弾き落とす。

「……え!?」

 弓使いの男が驚いたような声をあげている。
 俺がそちらに視線を向けると、突っ込んできた男が剣をかまえる。

「よそみしてんじゃねぇぞ!」

 見てなくても、分かるんだよ。
 動きに無駄がありすぎて、音が聞こえる。足捌き、剣を構えたときの挙動。

 ……この程度、耳さえあればいくらでも対応できる。
 短剣で受け流しながら,インベントリからもう一本短剣を取り出す。
 近場で撃ち合ったのは数秒。男の剣を弾き飛ばし、その首を交差させた短剣で切り裂いた。

 男は倒れ、体が消滅する。
 俺が視線を弓使いに向けて微笑むと、

「ひ、ひぃぃぃ!」

 悲鳴を上げ、背中を向けて走り出す。
 逃すと思っているのか?
 その背中を追いながら、俺はそのふくらはぎに短剣を投げつけた。

「ぐあ!?」

 一撃で仕留めきれなかったが、男は派手に転んだ。
 リアルならば、足の腱にダメージがあるだろう場所を狙ったので……まともに動くことはできないだろう。
 俺は涙を流しながら震えている弓使いににこりと微笑む。

「おまえ、配信してんのか?」
「……は、はい……っ」
「おっ、それならちょっと使わせてくれ。そしたら見逃してやるからよ」

 俺はそう言って弓使いの腹を踏みつけながら、ひょっとこの顔を弓使いに近づける。
 なんか、めっちゃ怖がっているようでガタガタ震えている。

「ああ、どうも視聴者さん。ひょっとこ兄貴です。そのうち俺も配信するから、よろしくな。あと、キリキリマイっていうVTuberがいるんだけど、俺の妹で超絶可愛いから登録しておけよ。んじゃ、宣伝できたんで、じゃあな」
「……え? み、見逃してくれるって!」
「え? そんなこと言ったっけ? じゃあ前言撤回で!」

 にこりと微笑んでから、俺はその首をはねるように短剣を振り抜いた。
 よし、これで宣伝には十分だ。
 俺はドロップしたアイテムとたんまり手に入ったゴールドを回収し、満足していた。
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