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 30レベルになったらできることは、もう一つある。
 それはクランハウスの作成だ。別にクランに興味はないのだが、作っておけば何かしらの称号が手に入るかもしれないからな。
 そういうわけで、再び不動産屋へ来た俺は、出迎えてくれた太った男に声をかける。

「レベルが条件を満たしたんで、クランを作りたいんだけど、いいか?」
「製作には十万ゴールドとクランハウスが必要になります。クランハウスの契約料も追加でいただきますが、よろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。クランハウスはここで頼む」

 俺は一番小さいやつをひとまず契約しておいた。小さい、といってもそこらの一軒家くらいはあるのだが。
 初めはアパートタイプの一室でもいいかと思ったが、一人で騒ぐときには使いにくいと思ったからな。

 こちらも、予想通り称号が手に入った。ステータスポイントがうまうまだ。
 これで……予定は全部達成したな。

 朝までにやりたかったことを全て終えた俺は、舞の用意してくれた朝食をいただくため、一度ログアウトしておいた。



 VRマシンから出てみると、窓からはすっかり朝日が差し込んでいる。
 いい天気だな。
 気持ちの良い朝日だ。
 それにしても、異世界と違って夜の間に誰かに襲われることもないというのは気楽でいいな。

 どこで休憩していても誰かに襲われる不安が付き纏っていた異世界とはやはり違う。
 これだけでも、日本に戻ってきた意味があるというものだ。

 背筋を伸ばした俺は魔法を使用し、体を元気な状態に戻しておいた。まあ、そもそもそんなに疲労していないが、異世界では朝を迎えるたびに使っていたのでクセのようなものだ。

 これは傷なども一瞬で治療する魔法だ。不老不死、ではないこの体ではあるが、魔法を使えば元通りにできるので心臓が止まりさえしなければどうとでもなる。
 まあ、心臓が止まっても自動で魔法が発動するようになっているので死ぬこともないんだけど。

 元気いっぱいになった俺は、それから階段を降りていく。
 すでに朝食の準備はほとんどできていて、両親はいそいそと朝の身支度を行っている。
 朝食は義母が作ったようだ。これはこれで嬉しいものだ。

 俺と舞はまだ春休みだからいいが、学校が始まれば俺たちもこうなるのだろう。

 学校ねぇ。
 俺は一年間不登校だったため、留年になっているそうだ。

 そういうわけで、春からは舞たち新一年生とともに登校することになる。
 気にする人もいるとは思うが、俺は別に気にしない。
 ……それにしても、勉強か。

 勇者特典の一つに、脳自体の強化があった。並列思考や記憶力など、そういった頭を使うことはなんでも簡単にできるようになっている。
 一目で見たものは忘れないし、記憶の容量にも限界がない。脳内で検索をかければ、奥底にある記憶もすぐに思い起こせるようになっている。

 未知の言語でも自動で翻訳できるし、こちらの発する言葉を相手に伝わる形で翻訳することも可能だ。もちろん、それらのオンオフも自由。
 まあ、少なくとも思いついたやりたいことはなんでもできるのが今の俺だ。

 とにかく、あらゆる面で勇者特典で強化されている俺が、今更学校に通う必要はあるのだろうか?

 やろうと思えばいくらでも稼ぐ手段はあるしなぁ……とは思いつつ、舞と一緒の高校生活を送れるのは今だけだ。
 そうだよ。舞と通えるのは今だけではないか。通う価値馬鹿みたいにあるじゃねぇか。
 そんなことをぼんやりと考えていたからか、親父がこちらを見てきた。

「悠斗。ちゃんと寝たのか?」
「ああ、もちろん」

 俺がぼーっと考え事をしていたのを眠いと判断したのかもしれない。
 親父にぐっと親指を返すが、嘘です。一睡もしてません。

「まあ、ゲームが楽しいのはいいけど体調崩さないようにな。それにしても、『リトル・ブレイブ・オンライン』、凄いよな。もう職場の人たちも皆話してるよ」
「義母さんの会社でも話題になってたわよ。なんなら、その日の有給すごい多かったんだからね」

 ……そんなに人気なんだな。
 確かにあれだけのクオリティのゲームが登場したんだし、分かる気もする。
 俺も異世界の経験がなければ、今以上に興奮したかもしれない。

 リアルのような魔法や戦闘体験ができ、今の所バグなども見当たらない。
 今までにもVRMMOは出ていたが、『リトル・ブレイブ・オンライン』ほどの水準のものはないらしい。

 だから、ネットを開けばすぐにたくさんの情報を目にすることができるんだろう。
 スマホを取り出して情報収集をしていると、今度は舞が起きてきた。
 ……ボケーっとした顔でとても眠たそうだ。寝癖も好き放題なっているが、その気の抜けた顔がとても愛くるしい。

「おはようー」

 天使のように可愛い舞は、あまり朝は得意じゃない。
 それに、昨日は遅くまでゲームをしていたこともあって、余計に眠いんだろう。
 眠たそうに目を擦っている彼女は、とぼとぼと洗面所の方へと向かっていく。
 その様子を見ていた親父が、声をかける。

「舞。おまえまさか夜遅くまでやってたんじゃないだろうな?」
「え? や、やってないよー」

 配信は24時までやっていたみたいだよな。俺はゲーム中は配信は見ていなかったが、さっき舞のチャンネルを見てみたらそんな感じだった。
 その後も、しばらくやっていたようで、ログアウト時間は1時くらいだったはず。
 俺がその情報を持っていることを舞も理解しているのだろう。
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