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第30話
しおりを挟む「ケルズ様!」
オレは突然自分の名前を呼ばれて驚いてベッドからはね起きた。
その声は、ジャネットから放たれたものであり、オレはそちらをじっと見た。
ジャネットは……まあ、その相変わらずの姿であり正直言ってあまり見ていたいものではなかった。それでも――あの聖女を捕まえれば戻ると信じていた。
「ど、どうしたんだジャネット?」
ジャネットに声をかけると、彼女はちらとこちらを見てきた。
「た、ただいまし、城の外が暴徒たちで溢れているんです!」
「ぼ、暴徒たちであふれかえっているって何がどうなっている!?」
オレはすぐに部屋を出て、それから城の外が見渡せる廊下まで出て行った。
そこには……ジャネットが言うようにたくさんの人がいた。
市民たちはそれぞれ武器になりそうなものを持っている。窓を開けると、彼らの怒号のようなものが響いていたのが良く分かった。
廊下には驚いた様子でほかの貴族たちもそちらを見ている。
「何をじっとしているんだ! 騎士を派遣して、奴ら全員を押さえつけろ!」
「そ、それが……その、あ、あそこを見てください!」
猿がうきーっと指を差した先――そこを見て、オレは目を見開いた。
市民たちの先頭に立つようにいたのは、レベッカと……アシュートだ。
レベッカへの怒りが一瞬で沸き上がりながらも、オレはアシュートの姿に驚いていた。
「なぜアシュートがここにいる? 奴は牢獄にいたはずだろう」
「わ、分かりません。ですが、その――あの二人はケルズ王子に話をしにきたと申していました」
「話、だと……?」
「は、はい」
……一体、何をたくらんでいる? 今さら謝罪でもして、国に戻ってきたいとでもいうのだろうか?
まあ、それに関しては条件付きで認めてやってもいい。ただし――これまで散々な目にあわされたオレたちの怒りを受けてもらうがな。
アシュートがいるのもちょうどよい。親父が残したわけのわからん手紙のせいで、いまだにオレは王座につけなかった。
ちょうど、ここで認めさせてやろうじゃないか。
「全員、準備しろ。……これは戦争のようなものだ。奴らがふざけた真似をしようものなら、すぐにでも叩き潰してやる。ジャネット、アイン、ツヴァイ……全員で奴に立場ってものを教えるぞ」
オレは姿を変えられていた皆を呼びつけ、彼ら、彼女らを従えて王城から外へと出た。
まっすぐに向かっていくと、レベッカとアシュートもまたこちらへと近づいてきた。
その後ろからは、怒りをあげる市民たちの声が響く。彼らは手に持っていたものを投げつけてきた。
……奴らは、レベッカにでも対処してもらうとしようか。
「レベッカ。まさか今更国に戻ってきたいとでもいうつもりか?」
「国に戻るかは考えていませんが、あなたには話がありましたので戻ってきました」
「そうか。ふん、まあそれならばおまえを王城に招いてやろう。その前に、だ。この体をもとに戻せ。それが戻ってくる上での最低条件だ」
「……なんでそんな上から目線なんですか?」
「あぁ?」
そりゃあ、そうだろう。国に仕えたいから戻ってきたんだろ? オレが首を傾げていると、アシュートが前に出てきた。
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