上 下
29 / 32

第29話

しおりを挟む

 一ヶ月が経過した。
 アシュート様は国の状況を確認しながら、体を鍛え直していた。
 そのおかげもあって、私がよく助けてもらっていた筋肉質なアシュート様が戻っていた。
 アシュート様の筋肉って程よく整っていて、綺麗なんだよね。
 私はそんな彼の二の腕に見とれていたけど、アシュート様がすっと一枚の資料を見て声をいった。

「キミも言っていたが酷い、状況だな。少し確認したが、税が明らかに増えている。それでいて何か国が豊かになるためにした功績はないな」

 そういった面から、アシュート様は国の状況を見ていた。
 ……確かにここ数年で、税は一気に増えている。なのに、そのお金がどこかに使われた形跡はない。
 ってことは、たぶん各貴族たちが懐を肥やすために使っているってことになる。

「……これ、貴族の半分くらいはこんな状況ですよね」
「そうだな。だから、国を立て直すには、比較的マシな貴族たちに頑張ってもらうしかない。……周りがこんな状況だ。これ以上続けば、他の貴族たちも同じように腐っていってしまうかもしれない」

 ……私以上に、国の状況をよく理解している。
 確かに、アシュート様の言葉はわかる部分があるかもしれない。
 私は、聖女候補の三人に凄い馬鹿にされていた。はじめはそれをかばってくれる人たちもいたのに、気づけばみんなして私を馬鹿にするようになっていた。
 
 周りがやっていて、感覚がマヒしてきちゃうんだ。
 それも、貴族たちがやっているのは生活に関わるお金の管理だ。……周りが市民から巻き上げた金を用いて、私腹を肥やしているのを見て、それを誰も咎めなければ――自分だってやろうと思ってくる人は絶対に出てくる。

「そうですね。すぐにでも何かしらの対応をする必要がありますね」
「……まあ、すでに色々と手はうっている」
「え、そうなんですか?」
「ああ。キミだって、市民に聖女と王子の立場についての説明をしていただろう?」「はい」

 私はあちこちで『王子と聖女候補が原因で聖女が国から去った』という噂を流している。
 その噂を先に出していたおかげか、市民たちは『王子や国が悪い』と正しく理解してくれた。

「キミの流してくれた噂と、このおかしいほどの税だ。おかげで市民たちはかなり今の王政に不満を抱いている。……そして、それは貴族たちだって例外ではない」
「そう、ですね」

 王城を歩いていれば、今の王子への不満があちこちで聞こえてくる。

「もうすぐだ。……その時が来たら、オレがケルズ王子と直接話をするつもりだ」
「……え? 大丈夫、でしょうか?」
「ああ。そこにはキミも同席してほしい。そして、全員で『話し合い』を行い、すべてにケリをつけるつもりだ」

 ……話し合い。
 言葉はそうだったけど、かなり強い口調だった。
 たぶん、アシュート様の話し合いは……そんな穏便なものじゃないのかなぁ、って思う。

「わかりました。……私もみんなときちんと、お話し、をしたいと考えていました」
「そうか……それなら、良かった」

 アシュート様が微笑み、私も笑みを返した。


____________________________________________________

あとがき



新作書きました! 気になる方は作者名をクリックして読んでくれたら嬉しいです!

内容としましては、ショタな少年がいじめられているところを青年冒険者に拾ってもらうような感じです!
ジャンルはファンタジーです! 視点は男主人公になっていますので、そこだけ気を付けてください!

『パーティーを追放された雑用係の少年、実は滅茶苦茶有能だった』

https://www.alphapolis.co.jp/novel/468674289/823387361

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。

酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。 いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。 どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。 婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。 これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。 面倒な家族から解放されて、私幸せになります!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

婚約破棄、ですか?なんですか?その訳の分からない理由は

榎夜
恋愛
「マリエッタ!貴様は私の婚約者に相応しくない!」 どういうことでしょう?私と貴方は今日初めて会ったんですよ? ※全部で5話です。《18時更新》

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

処理中です...