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第20話

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 アルベス要塞都市についた私は、そこでワーちゃんとともに街中を歩いていた。
 ……人の行き来が多いので、私たちが特別目立つということはない。
 そもそも、私はワーちゃんにも認識阻害をかけているので、見つかることはない。

 少し歩いては、立ち止まってワーちゃんの顎下を撫でる。
 すると、ワーちゃんはとても嬉しそうに鳴いてくれる。ああ、癒し……。
 ちょっとした旅を満喫しながらも、ここには大事な任務があってきたのだ。
 
 牢獄へと続く入口を見つけ、私はワーちゃんとそこで別れる。

「……ワーちゃん、ちょっとの間ここで待っていてね」
「ガウ……」

 少しだけ寂しそうに鳴いたので、その体を抱きしめるようにして全身を撫でてあげた。
 それから私は、牢獄の入口へと向かった。

 ……一般人が面会のために利用される空間に今私はいる。
 そこからさらに奥へと行けるのは、ここで仕事をしている騎士だけ。
 私はそんな騎士たちの後ろをこっそりとついていく。

 今は姿を隠す、隠遁魔法を使用している。……これも便利ね。認識阻害はその空間に当然のごとくいられるけど、これは完全に姿を隠せる。

 騎士の後をついていきながら、アシュート様が投獄されている最奥までへと向かって移動していく。
 ……うーん、かなり入り組んでいる。
 それに、結構鍵が必要な場所が多いのよね。

 魔法でこじ開けてしまってもいいけど、だいたい常に誰かしらいるから洗脳魔法などの使用も併用しないといけない。
 ちょっと大変だなぁ、と思いながら私が歩いているときだった。
 ぼてっと太った男が騎士とともにこちらへとやってきた。

 ……見たことある人だ。たぶんだけど――

「監獄長、これからアシュートの元へと向かうのですよね?」
「ああ、そうだよ! ひひっ、今日のお仕置きの時間だからね!」

 嬉しそうにそう笑ったのは……この監獄をまとめる監獄長だ、
 私が見たことあるのは、舞踏会に彼が参加していたことがあったからだ。

 そして――思いきり頬を叩かれたことも、ね。
 
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