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第14話

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「アシュート様を助けたい……とはどういうことなんだ?」
「はい。……彼はいわれもない罪で、あの王子が原因で投獄されてしまっています。ですから助けたいと思っています」
「……なるほど。それは理解した。だが……いくら聖女様とはいえ――アシュート様が入れられている牢獄から助けだすのは至難の業ではないですか?」
「そう、ですかね?」

 たぶん、この聖女の力があればどうにかなると思うけど……。
 やろうとすれば、国一つを相手にしてもどうにかなると思う。少なくとも、私は死なないんだから。
 
 けど、そんなやり方では国が疲弊してしまう。この国の貴族の大多数はどうでもいいけど、平民までも傷つけたくはなかった。

「アシュート様は現在……アルベス要塞都市、その最奥にあるアルベル大牢獄の奥地にいるんだ……さすがに聖女の力を持っていても、内部に侵入するのは難しいのではないか?」
「侵入自体は簡単です。先ほど私が入ってきたとき……あなたは違和感をおぼえましたか?」
「い、いや……そういえば、そうだな。普通にキミを受け入れてしまっていたな」
「でしょう? それは私の持つ魔法が原因です。認識阻害、ですね」

 試しにもう一度使用すると、彼は驚いたようにこちらを見た。

「……認識、阻害。凄まじい魔法だね」
「そうですね。とても便利です」

 これさえあれば、恐らくなんでもできると思う。
 だけど……問題はここからなんだよね。

「アシュート様に付き従う信頼できる貴族はどれほどいますか?」
「……あまり、多くはないな。キミも知っているかもしれないが、アシュート様が考えていた改革が原因でね。多くの貴族はそれに反対しているんだ。だから、数は多くないよ」
「やはり……そうですよね」
「何か、考えているのか?」
「はい。アシュート様を助けたあと、アシュート様には革命者として、軍を引っ張ってほしいと考えています」
「……革命者」
「はい。私は……ケルズ王子がこのまま王位につくのに反対しております」
「……そう、だな。それには私も同意だ。彼がこのまま王位につけば、他の貴族たちの傀儡にしかならないだろう。より平民は搾取され、さらに貧富の差は拡大するはずだ」
「ですよね……だから、私は分家として扱われているロベルト家に、この国を引き継いでほしいと考えています」
「……何?」
「ですから、アシュート様を救出してからが問題になります」

 私の言葉に、彼は理解したようすで何度も頷いていた。
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