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第11話

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 すっかりロベルト家の遣いが黙りこむと、ケルズ王子は満足そうにしていた。
 アシュート様が捕らえられている限り、彼はケルズ王子の命令に従うしかない。
 ……つまり、アシュート様をどうにか脱獄させてしまえば、すべての準備が整うというこになるのよね。

 でも、今ロベルト家とその領地は、あまり戦力が整っていない。アシュート・ロベルトが追いやられてから、税率なども挙げられてしまい、満足に軍備を整えられていない。

 何より、アシュート様は……他の貴族との仲がそこまで良くなかった。
 というのも、血筋主義を打ち切り、実力主義に切り替えようと、ケルズ王子の父とアシュート様は動いていたのだ。

 ……王子の父が死んだのは、実は毒殺だったのでは、といわれる程度にはこの改革は反対されている。
 そして、多くの貴族は無能で、現状維持を好むケルズ王子を持ち上げている。

「とにかく、すぐに奴に似顔絵を描かせ、全国に指名手配をしろ! 捕らえた者には爵位を褒美として与えると言ってな!」
「で、ですが王子、問題があります」
「何だ?」
「城にいる絵描きも、あの神の間に参加していまして……猿に姿を変えさせられてしまいました!」
「なんだと!? なぜ、あそこに連れてきた!」
「け、ケルズ王子が神の間にて自分とジャネットが正式に結ばれる瞬間をと言って描かせたのではないですか……っ」
「くっ……万が一を想定して進言しなかった貴様の責任だ。僕の責任じゃない」
「そ、そんな!」
「そいつを牢獄にぶち込んでおけ、いいな」

 人間の騎士がすっとやってきて、猿を連行していった。
 ……相変わらず、ケルズ王子は横暴ね。
 ケルズ王子はすぐに力をひけらかす。だから、うまく取り入らないとあっという間に牢獄に送り込まれてしまう。
 
 彼は腕を組んで小さく息を吐いた。

「とりあえずだ……っ! 宮廷魔法使いにもこの呪いを解除、あるいは和らげられないかの研究を緊急に進めさせろ!」
「分かっております」

 すっと猿が丁寧に頭を下げる。
 会議はそこで終了し、そこからは私への不満がつらつらと挙げられていく。

「……まったく! 聖女の自覚がないのだな奴は!」
「そうですなっ! これだからスラムの猿は……っ!」

 猿が言わないでよ。

「……まったく。神様はどうしてあのような女を選んだのだろうな。こんなことするような性格のねじ曲がった奴を選ぶとはな」

 私だって正義だとは思っていない。けれど、その歪んでいる私よりも他の候補者が歪んでいたんじゃないかしら?
 だから神様は消去法的に私を選んだのかもしれないわね。

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