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第2話
しおりを挟む聖女は、寿命でしか死ぬことはない。……つまり、老衰だ。
皆はその聖女の死を惜しんでいるようだった。
とはいえ、悲しんでばかりもいられないのだ。
すぐに新たな聖女を作る必要がある。聖女は、その豊かな魔力で国を守っているのだから。
……私も同じだ。
今日が、私の人生においてもっとも大事な日だからだ。
聖女候補たちはすぐに集められ、着替えていく。
だけど、私だけ出遅れてしまう。「日課の掃除を行ってから来い」、と言われたからだ。
神の間を掃除した後、すでに着替え終えた四人とすれ違う。
「あれ? まだ、着替えてなかったの?」
「遅いですわね。何をしていたんですの?」
「まったく、スラム出身者だから今日がどれほど大事な日なのか理解していないのですね?」
「これだから……まあ、参加しなくても良いのではありませんか? どうせ、あなたは聖女にはなれないのですから」
そんな四人を無視して、私は衣装室へと入った。
……衣装室に用意されていたのはずたずたに切り裂かれたドレスだった。
絶対、ジャネット達の仕業よね。
こういう悪戯、日常茶飯事だからよくわかっている。
……服はそれしかないけど、まあ私らしいわよね。
そんな風に前向きに考え、着替えた私は神の間へと向かった。
神の間には有力な貴族たちが集められていた。この部屋は決して広くはないため、国の重鎮、と呼ばれる人たちだけが集まっていた。
そして、遅れて入室した私に視線が集まり、みんながくすくすと笑っていた。
「なんだあの汚い猿は?」
……貴族たちは平民以下の者を猿と呼ぶことが多い。
「今日が一体どんな日か理解しているのか?」
「本当にふざけているな。これだからスラムの猿は」
言い返したって無駄だ。言い訳するなと怒られるだけなので、私は笑い声を浴びながら石像の前まで歩いていく。
そして、私の隣には、着飾った聖女候補の四人がいた。
私が四人の隣に並ぶと、ジャネットがぷっと笑い、他三人も笑う。それを皮切りに、笑い声が伝染する。
こちらへとやってきたケルズ王子が、私を見て思い切り笑った。
「本当に醜い女だな! 言っておくが、ここでジャネットが聖女に選ばれたところで、おまえはこの城から追放だからな?」
「……わかっております」
「理解しているのなら結構。それでは、これより聖女の儀式を始める。……無駄な時間をかけても仕方ない。ジャネット! キミが石像に祈りを捧げ、終わらせてくれ!」
「はい、もちろんですわ、ケルズ王子!」
呼ばれたジャネットが嬉しそうに笑って、石像の前へと移動する。
膝を折り曲げ、両手を合わせ、目を閉じて祈りをささげる。聖女であれば、ジャネットの足元に魔法陣が現れ、周囲が光に包まれるのだが――。
「な、なんだと?!」
ケルズ王子の驚いた声が響く。
そして、周囲の貴族たちも一斉に声をあげていく。
「な、なぜジャネットが選ばれないのだ!?」
「あ、あれほど美しく、血筋も良いというのに!」
「……何がどうなっているんだ!」
周囲のざわめきで、ジャネットもようやく現実を理解したようだ。
「あ、ああ!!」
ジャネットは嗚咽を漏らし、両手で顔を押さえ、涙を流した。
ジャネットは――聖女になれなかったのだ。
私は思わず口元が緩んでしまうのを、必死にこらえた。
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