上 下
12 / 15

第十二話

しおりを挟む


「本当にいいのか? 別にこのくらい大丈夫だぞ?」

 俺が改めてヒュアに確認すると、彼女は頬を赤くしたまま首を縦に振った。

「気にしないください。わ、私だって大人の女性ですからね。このくらいべ、別にどうってことないですよ」

 そういったヒュアに、ロニャンが目を輝かせ、顔を近づける。

「襲われちゃうかもしれないですよ?」
「な、なんてことを言うのですか! 失礼ですよ失礼です!」

 顔を真っ赤に時々こちらを見てくるヒュア。
 とりあえず、一緒の部屋で休むということで話は進みそうだ。
 俺としても、外で休むよりもずっと体の負担が軽くなるからありがたいことだ。

「それじゃあ、とりあえずよろしく」
「は、はい……よろしくお願いします」

 俺が頭を下げると、彼女はそれより深く頭を下げた。
 顔をあげた俺は、どこか緊張している様子のヒュアに微笑みかけた。

「そんなに心配なら俺の両手足でも縛ってから寝るというのでも構わないからな?」
「お兄さん中々いい性癖していますね」
「安心させるためだ、変なことをいうんじゃない」
「またまたー」

 ロニャンがびしびしと肘でつついてくる。
 まったく。

「だ、大丈夫ですよっ。そんなことしなくても、私はロワールさんを信じていますから!」
「それじゃあ、ロワールさんとヒュアは一緒に部屋に行ってください。私はその間に布団をとってきますから」
「わかりましたっ。ロニャン、色々ありがとうございます!」
「いえいえ。それではごゆっくり」

 ロニャンが片手をひらひらと振って奥へと向かう。

「私の部屋は二階になりますから、ついてきてください」

 俺はヒュアとともに、階段を上がる。
 階段をあがって一番奥の部屋、そこでヒュアは足を止めた。
 中はそれほど広くはない。ただ、最低限の家具は揃っていて、一人で生活するには十分だった。

「いい部屋だな」
「はい。できたばかりですからね」

 ヒュアがベッドに腰かけ、俺は椅子に座る。
 ヒュアは緊張した面持ちで黙りこくってしまった。

「それにしても、本当に良かったのか?」
「……は、はい」
「ま、さっきも提案したが、不安なら手足でも縛ってくれて構わないからな?」
「大丈夫ですっ! ロワールさんは変なことをする人じゃないって信じていますから」
「俺の立場でこんなこと言うのもあれだが……会ってすぐの俺をそんなに簡単に信じていいのか?」

 ……わざわざこんなことをいったのは、ヒュアが少し心配でもあったからだ。
 会ったばかりの男をこんなに簡単に同じ部屋にあげてもいいのか、と。
 この時代がそういったことに大らかなら、別に構わないのだが。

「でも、ロワールさんは……外で助けてくれましたからね。そ、その……え、エッチなこと、しようとするのなら……外でいくらでも、できたはずですし」

 結果的に森での行動が彼女の信頼を勝ち取ったということらしい。
 そもそも、何もする気はないが、ますます彼女の信頼を裏切れないな、と思った。

 それからしばらくして、布団が運ばれてきた。
 床に敷いて、横になってみた。

 それほど良いものではないが、休むには十分だな。
 俺たちは寝支度を整え、今日も一日色々あったので休むことにした。
 部屋の明かりを消して、布団に入る。

「それじゃあおやすみ」
「は、はい。おやすみなさい……」

 まもなく、ヒュアからは寝息が聞こえてきた。
 どうやら、問題なく寝れたようだな。
 俺が原因で寝つきが悪くなってしまったら申し訳ないからな。

 俺も明日からやらなければいけないことがたくさんある。

 さっさと眠ってしまおうか。
 目をとじ、うとうとしたそのときだった。
 何かが動くと同時、俺の方へとそいつが飛びかかってきた。

 反応はできた。だが、油断した。

「ふぐお!?」

 眠り始めた俺へ、ヒュアの見事な肘鉄が決まった。
 それにひるんだ次の瞬間に、俺の体に巻き付いてきた。
 まさか俺を暗殺するつもりか……?
 
 しかし、ヒュアを見ると気持ちよさそうに眠っている。
 少しして、俺から離れ――また戻ってくる。
 それを何度か繰り返したところで、俺にまたぎゅっと抱き着いてきた。

 それからは静かに寝息を立てている。

「……寝相が果てしなく悪いだけか」

 まったく。
 これ朝起きて誤解されないだろうか?
 俺は軽く目を閉じ、休むことにした。


 〇


 朝起きたのは、体が強く抱きしめられたからだ。 
 結局寝ている間ずっとだきまくらにされていたようだ。
 左腕がしびれている。

 薄着の彼女の柔らかな感触がもろに腕に当たる。
 俺も男だし、まったく何も感じないわけではない。昨日はああいったが、若返ったのもあってか結構体が反応してしまっている。

 ……助かったのは、彼女が貧乳だったことだな。
 これが胸が大きかったら、多少は意識してしまっていたかもしれない。

 気持ちよさそうに眠っているヒュアの顔を見ると起こすのも気が引ける。
 別に急ぎというわけでもない。

 それに、胸こそないが彼女の柔らかな体を合法的に体感できている。
 ここは二度寝といこうか。
 それから、しばらく経ったときだった。

「え!?」

 ヒュアの驚いたような声が響いた。
 
「あ、あれ!? 私……確かにベッドで寝たはずなのに、なんで……?」

 たいそう驚いている様子だ。
 ……今、起きるのはまずいな。
 ヒュアの声音はどうにも緊張や恥ずかしさが混ざっているときのようなものだった。

 ヒュアが落ち着くまで、寝たふりをしておこう。
 それから、何も気付かずに起きればいいだろう。
 昨日の寝相についても、一言も言わなければそれで済む話だ。

 気付かれない程度に薄目をあけた。
 ヒュアは……まだ近くにいた。彼女は胸元を片手で押さえながら、赤らんだ頬にもう片方の手を当てている。

「……昨日、助けてくれたとき、かっこよかったなぁ」

 ぽつり、とヒュアは呟くようにそういった。
 慌てて目を閉じる。……今起きているのがばれたら、ヒュアは今日一日まともに俺と顔を合わせられないかもしれない。

 このままもう一眠りしようか、と思っていた俺だったが、なにかがこちらに近づいてくるのがわかる。

 俺を起こそうとしているのだろうか。だとすれば、ちょうどいいタイミングだ。
 ヒュアの手が俺の頭に触れ、頬や首へと触れていく。

 腕や胸元に触れたところで、ヒュアの手が離れた。

「い、いい筋肉ですね……」

 ……あ、あんまりぺたぺた触らないでくれ。
 くすぐったいんだが。

「何をしてるのですか私!? ダメよヒュア! これじゃあ私のほうが変態みたいです!」

 ここで目を開き、何しているんだ? と反応してやりたい気持ちもある。
 ただ、そんなことしたらヒュアが窓から飛び降りるかもしれない。
 俺は黙っていることにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...