17 / 57
第17話
しおりを挟む「はい、そうなんですよ」
「元気な子だよな。いつも、あんな感じなのか?」
「はい。ルミナスさんが落ち込んだところとか、見たことないですよ。いつも、私の前を行って……私はそれに追いつくだけで必死ですよ」
学校の成績としては、セラフの方が上だ。だが、セラフはルミナスの方が優れていると思っている。それは、ルミナスもそうだ。……お互い、友人でありライバルでもある関係だ。
苦笑交じりにセラフが言った。……彼女が僅かながらに弱音を見せるなんて、やっぱり何か滅茶苦茶好感度が高いようだ。
やはり、本来とは違うタイミングで契約、ユニオン設立をしたのが関係しているのかもしれない。
セラフとの好感度が上がると、えっちシーンはもちろんルミナスに対しての思いなどを聞くことができる。
セラフは全力で必死に努力して、ようやくルミナスに並べる程度の能力しかないと思っているが……まあ、それはルミナスも同じ悩みを抱えている。
どちらも、相手には努力を隠し、何とか負けないように頑張っているんだ。
その結果……二人は周りから優秀な天才と言われるようになっていった。
「滝川さんも、ルミナスさんのような可愛らしい人と契約できてよかったですね」
それはまるで、自分との契約はよくないことのように語るセラフに対して、俺は思わず声をあげる。
「そんなことはない!」
「……え?」
言ってからしまった、とは思ったが、もう止まれなかった。
セラフの魅力を語らないなんて、それは俺にとって不可能なことだった。
彼女が目の前にいるなら、全力で伝えるべきだ。俺は深く息を吸い込んで、真っ直ぐにセラフを見つめた。
「セラフ、お前だって可愛いだろうが……!」
「い、いきなり……なんですか……っ?」
驚きながらも少し照れたように頬を赤らめるセラフ。
セラフは自己評価があまり高くはない。というのも、彼女は誰に対しても八方美人であり……まあ、よく女子たちから苛めや嫉妬の対象にされることが多かったからだ。
本来であれば、主人公がセラフの心と寄り添っていくのだが……だからといって、魅力ある彼女を否定するような言葉を俺は許せなかった。
開発者の一人として、セラフには特別な思いがあるからな。
彼女を通して、より多くのプレイヤーに「癒し」の要素を詰めこみまくり、実際いくつもの嬉しい感想を頂いているしな。
色々と言いたいことはあったのだが……まだセラフとの関わりが少ない今の段階であれこれと言っても仕方ないので、あくまで俺が伝えられる範囲で伝える。
「ルミナスとセラフはどっちもそれぞれがそれぞれ、魅力的な部分があると思うよ。俺も、魂翼学園の学校見学に行ったとき、二人が優秀な天使や悪魔として紹介されたときにすげぇって思ったよ」
「……そういえば、そんな紹介のされ方をしてましたね」
恥ずかしそうにセラフは頬をかいている。……セラフとルミナスは、一応学校案内をしたことがある……という設定はあった。
ゲーム本編ではさらっと回想シーンなどで触れる程度だが、そのこともあってセラフとルミナスの二人は下級なのに知名度はそこそこある。
「……だからまあ、その二人と契約できている俺はとても幸せものなわけでな。これからよろしくな」
「……は、はい。頑張りましょう。……私は寮の荷物をまとめて運んでこようと思います」
「俺も……家にいても仕方ないし、手伝うぞ」
「いえ……その、大丈夫です。……滝川さんが、恥ずかしいことを言ってくるものだから……少し一人で落ち着かせてください」
「……おう」
そうはっきりと言われると、着いていくわけにもいかないだろう。
セラフが去っていくと、部屋はすっかり静かになっていた。
……どうしよう。
セラフの好感度を稼いでしまっていたよな……?
反射的にあんなことを言ってしまった自分を反省する。
とりあえず、ゲーム本編に二人を戻せるよう……今後は気を付けていかないとな。
しばらくしてセラフが荷物を持って戻ってきた。俺を見ると、まだ少し頬は赤い。……どうやら俺のセリフをまだ覚えているようだ。
それに合わせるかのように、ルミナスも帰ってきていた。
「ただいまー! さあ、これで夕飯を作るわよ!」
彼女は元気よくキッチンに向かい、買ってきた食材を次々とテーブルに並べ始めた。袋の中には新鮮な野菜やお肉、それに何やら調味料が色々と入っている。
ルミナスが我が家の冷蔵庫に食材をしまっていく。
……一人暮らしをするならと、両親が大きい冷蔵庫を買ってくれたのでわりと余裕はあるんだよな。
冷蔵庫を閉じたルミナスが、ふふんとこちらに笑顔を見せてきた。
「今日はあたしが腕を振るうから、二人ともおとなしく待ってなさい!」
「分かりましたー。それでは、私はシャワーでも浴びてきましょうか。滝川さん、借りてきますね」
「おう、了解だ」
セラフは一言そう言ってから、浴室へと向かった。
シャワー、か。
改めてそう言われると、俺としては少し気になる部分はあるものだ。
セラフとルミナスの二人とも、浴室でのえっちなシーンなども搭載していたので、二人のその姿を今更意識するようなことはない。
でも、実際にイラストなどで見るのとはやはり違うものなんだろうか? うーむ、気になるー。
とはいえ、俺はモブなのでこれ以上不必要な関わり合いを増やすつもりはない。
そういえば、と俺は料理をしているルミナスに声をかける。
「セラフが寮から荷物持ってきてくれてたから、とりあえず部屋に運んでおいたぞ」
「あっ、みたいね。連絡きてたわ。ほんと、あいつって昔っから気が利くわよね……。あたし、あんまりそういう周りを見ることってできないのよねぇ」
ぼそっとルミナスが自嘲気味にそう言っていた。
……まあ、基本的にルミナスは後先を考えず行動するタイプだからな。それに振り回される人もそれなりにいるだろう。
「確かに、ルミナスはかなり元気だもんな」
「……だって、あたしにはこれしか取り柄ないんだもん」
る、ルミナスが落ちこんでしまっている。彼女が弱音を見せるなんて、珍しい……。
ルミナスが弱音を見せるのって、好感度が高い時だけなので……やっぱり、ルミナスの好感度もそれなりに上がってしまっている……っ!
「そうなのか……? ルミナスも……色々と凄いってセラフは言ってたぞ」
「そんなこと、ないわよ。あたしはパソコンとかスマホとか詳しくないし……」
「……でも、セラフが苦手な掃除とか料理とか……いつも面倒見てるんだろ? 優しいところ、あるじゃないか」
このセリフが……ルミナスの心に届くとは思っていない。
ただ、もしかしたら……ルミナスの好感度を知るための一つの物差しになるかもしれないと思い、俺は「優しいところがある」と指摘した。
ルミナスがもしも、俺への好感度が一定以上あれば……ここから、さらにセリフが続くかもしれない。
「……優しくなんて、ないわよあたし」
……やべぇ、続いちゃったよ。
217
お気に入りに追加
824
あなたにおすすめの小説
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
悪役貴族に転生した俺が鬱展開なシナリオをぶっ壊したら、ヒロインたちの様子がおかしいです
木嶋隆太
ファンタジー
事故で命を落とした俺は、異世界の女神様に転生を提案される。選んだ転生先は、俺がやりこんでいたゲームの世界……と思っていたのだが、神様の手違いで、同会社の別ゲー世界に転生させられてしまった! そのゲームは登場人物たちが可哀想なくらいに死にまくるゲームだった。イベボス? 負けイベ? 知るかそんなもん。原作ストーリーを破壊していく。あれ? 助けたヒロインたちの目のハイライトが……?
※毎日07:01投稿予定!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる