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第17話

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「はい、そうなんですよ」
「元気な子だよな。いつも、あんな感じなのか?」
「はい。ルミナスさんが落ち込んだところとか、見たことないですよ。いつも、私の前を行って……私はそれに追いつくだけで必死ですよ」
 
 学校の成績としては、セラフの方が上だ。だが、セラフはルミナスの方が優れていると思っている。それは、ルミナスもそうだ。……お互い、友人でありライバルでもある関係だ。
 苦笑交じりにセラフが言った。……彼女が僅かながらに弱音を見せるなんて、やっぱり何か滅茶苦茶好感度が高いようだ。
 やはり、本来とは違うタイミングで契約、ユニオン設立をしたのが関係しているのかもしれない。

 セラフとの好感度が上がると、えっちシーンはもちろんルミナスに対しての思いなどを聞くことができる。
 セラフは全力で必死に努力して、ようやくルミナスに並べる程度の能力しかないと思っているが……まあ、それはルミナスも同じ悩みを抱えている。
 どちらも、相手には努力を隠し、何とか負けないように頑張っているんだ。

 その結果……二人は周りから優秀な天才と言われるようになっていった。

「滝川さんも、ルミナスさんのような可愛らしい人と契約できてよかったですね」

 それはまるで、自分との契約はよくないことのように語るセラフに対して、俺は思わず声をあげる。

「そんなことはない!」  
「……え?」

 言ってからしまった、とは思ったが、もう止まれなかった。
 セラフの魅力を語らないなんて、それは俺にとって不可能なことだった。
 彼女が目の前にいるなら、全力で伝えるべきだ。俺は深く息を吸い込んで、真っ直ぐにセラフを見つめた。

「セラフ、お前だって可愛いだろうが……!」
「い、いきなり……なんですか……っ?」

 驚きながらも少し照れたように頬を赤らめるセラフ。
 セラフは自己評価があまり高くはない。というのも、彼女は誰に対しても八方美人であり……まあ、よく女子たちから苛めや嫉妬の対象にされることが多かったからだ。
 本来であれば、主人公がセラフの心と寄り添っていくのだが……だからといって、魅力ある彼女を否定するような言葉を俺は許せなかった。

 開発者の一人として、セラフには特別な思いがあるからな。
 彼女を通して、より多くのプレイヤーに「癒し」の要素を詰めこみまくり、実際いくつもの嬉しい感想を頂いているしな。
 色々と言いたいことはあったのだが……まだセラフとの関わりが少ない今の段階であれこれと言っても仕方ないので、あくまで俺が伝えられる範囲で伝える。

「ルミナスとセラフはどっちもそれぞれがそれぞれ、魅力的な部分があると思うよ。俺も、魂翼学園の学校見学に行ったとき、二人が優秀な天使や悪魔として紹介されたときにすげぇって思ったよ」
「……そういえば、そんな紹介のされ方をしてましたね」

 恥ずかしそうにセラフは頬をかいている。……セラフとルミナスは、一応学校案内をしたことがある……という設定はあった。
 ゲーム本編ではさらっと回想シーンなどで触れる程度だが、そのこともあってセラフとルミナスの二人は下級なのに知名度はそこそこある。

「……だからまあ、その二人と契約できている俺はとても幸せものなわけでな。これからよろしくな」
「……は、はい。頑張りましょう。……私は寮の荷物をまとめて運んでこようと思います」
「俺も……家にいても仕方ないし、手伝うぞ」
「いえ……その、大丈夫です。……滝川さんが、恥ずかしいことを言ってくるものだから……少し一人で落ち着かせてください」
「……おう」

 そうはっきりと言われると、着いていくわけにもいかないだろう。
 セラフが去っていくと、部屋はすっかり静かになっていた。
 ……どうしよう。
 セラフの好感度を稼いでしまっていたよな……?
 反射的にあんなことを言ってしまった自分を反省する。

 とりあえず、ゲーム本編に二人を戻せるよう……今後は気を付けていかないとな。


 しばらくしてセラフが荷物を持って戻ってきた。俺を見ると、まだ少し頬は赤い。……どうやら俺のセリフをまだ覚えているようだ。

 それに合わせるかのように、ルミナスも帰ってきていた。

「ただいまー! さあ、これで夕飯を作るわよ!」

 彼女は元気よくキッチンに向かい、買ってきた食材を次々とテーブルに並べ始めた。袋の中には新鮮な野菜やお肉、それに何やら調味料が色々と入っている。
 ルミナスが我が家の冷蔵庫に食材をしまっていく。
 ……一人暮らしをするならと、両親が大きい冷蔵庫を買ってくれたのでわりと余裕はあるんだよな。
 冷蔵庫を閉じたルミナスが、ふふんとこちらに笑顔を見せてきた。

「今日はあたしが腕を振るうから、二人ともおとなしく待ってなさい!」
「分かりましたー。それでは、私はシャワーでも浴びてきましょうか。滝川さん、借りてきますね」
「おう、了解だ」

 セラフは一言そう言ってから、浴室へと向かった。
 シャワー、か。
 改めてそう言われると、俺としては少し気になる部分はあるものだ。

 セラフとルミナスの二人とも、浴室でのえっちなシーンなども搭載していたので、二人のその姿を今更意識するようなことはない。
 でも、実際にイラストなどで見るのとはやはり違うものなんだろうか? うーむ、気になるー。
 とはいえ、俺はモブなのでこれ以上不必要な関わり合いを増やすつもりはない。
 そういえば、と俺は料理をしているルミナスに声をかける。
 
「セラフが寮から荷物持ってきてくれてたから、とりあえず部屋に運んでおいたぞ」
「あっ、みたいね。連絡きてたわ。ほんと、あいつって昔っから気が利くわよね……。あたし、あんまりそういう周りを見ることってできないのよねぇ」

 ぼそっとルミナスが自嘲気味にそう言っていた。
 ……まあ、基本的にルミナスは後先を考えず行動するタイプだからな。それに振り回される人もそれなりにいるだろう。

「確かに、ルミナスはかなり元気だもんな」
「……だって、あたしにはこれしか取り柄ないんだもん」

 る、ルミナスが落ちこんでしまっている。彼女が弱音を見せるなんて、珍しい……。
 ルミナスが弱音を見せるのって、好感度が高い時だけなので……やっぱり、ルミナスの好感度もそれなりに上がってしまっている……っ!

「そうなのか……? ルミナスも……色々と凄いってセラフは言ってたぞ」
「そんなこと、ないわよ。あたしはパソコンとかスマホとか詳しくないし……」
「……でも、セラフが苦手な掃除とか料理とか……いつも面倒見てるんだろ? 優しいところ、あるじゃないか」

 このセリフが……ルミナスの心に届くとは思っていない。
 ただ、もしかしたら……ルミナスの好感度を知るための一つの物差しになるかもしれないと思い、俺は「優しいところがある」と指摘した。
 ルミナスがもしも、俺への好感度が一定以上あれば……ここから、さらにセリフが続くかもしれない。

「……優しくなんて、ないわよあたし」

 ……やべぇ、続いちゃったよ。
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