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第8話

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 ユニオンとは、上級天使や上級悪魔が持つことが許される天使や悪魔と契約した人々が集まった集団だ。
 上級天使をリーダーとし、各ユニオンはそれぞれが魂の回収を行い、この世界の治安維持を行っている。

 天使陣営で最強のユニオンとして知られているミカエルユニオンは、ゲーム本編が始まる前までセラフが所属していたのだからここに運び込まれるのは当然か。

 内心、俺はめちゃくちゃテンションが上がっていた。だってあのミカエルユニオンにいるんだからな。
 ゲームで何度もプレイしたあの場所が……まさかリアルで見られるなんて。
 俺がいつも眺めていた建物が、今、目の前に現実として存在してる。
 もうそれだけで胸が爆発しそうだ。これって夢じゃないよな? つねってもいい?

 ユニオン内の風景を一つ見るだけで「あっ、この角度、ゲームでよく見たやつ!」って思い出しちゃうし、ちょっとした装飾や壁の模様まで全部把握していて、ゲーム内のそれと完全一致しているのを見るだけでテンションが上がる。
 周囲をきょろきょろと見ていると、セラフが心配そうにこちらへやってくる。

「滝川さん、頭大丈夫ですか?」

 何かおかしいですかね? あっ、ゲーム世界に興奮していることを悟られて心配されている?

「あんた、虚獣倒したあと強く頭打ってたわよね? 治療はしてもらったけど、大丈夫?」
「え? あ、ああ……大丈夫だ」

 なんだそのことか。至って、全く問題はなさそうだった。

「それでは、ミカエル様がお会いしたいということでしたので、ついてきていただいてもいいですか?」
「……了解だ」

 セラフの言葉に頷きながら、俺はベッドから立ち上がった。
 み、ミカエル様に会うのか。
 嬉しい気持ちはあるのだが……やはりゲーム本編のキャラクターに関わるという悩みはある。

 ……俺は、あくまでモブとしていたいからな。

 でも、助けてもらったわけだし、何も言わずに去るわけにはいかないだろう。
 ……それに、セラフとルミナスの二人と契約をしたことについての話もあるだろうしな。

「そういえばさっき言っていたが……ユニオンの誰かが、回復魔法を使ってくれたのか?」
「はい。傷は痛みませんか?」
「大丈夫だ」

 回復魔法を使える人は珍しいと言っても、ミカエルユニオンほどの規模となれば、使える人の一人や二人はいるだろう。
 ……それにしても、ミカエル様か。

 本物のミカエル様に会えるなんて、神様ありがとうと感謝しておこう。
 ミカエル様はメイン級のキャラクターではないのだが、開発者の一人である赤崎女子の意見でえっちなシーンがいくつか導入されたキャラクターだ。

 赤崎の一言『母乳を飲みたい』、という提案からじゃあ誰にその役割を担ってもらうかと皆で一週間ほど会議を行い、その結果、ミカエル様にその大役を任せることになった。

 なので彼女は母乳が出る上級天使だ。

 もちろん俺もミカエル様のお胸を拝見したくてこの魂翼学園に入学したんだしな。
 本来の俺の計画としては、ミカエルユニオンの末端くらいの契約者としてのんびりこの世界を楽しむつもりだったんだけどな……。 
 セラフとルミナスとともに歩いていきながら、俺は心配になってルミナスに問いかける。

「そういえば、ルミナスは……悪魔なのに、どうしてここにいるんだ?」
「あたしは、ルシファーユニオン所属の悪魔なんだけど……契約の件で、ルシファー様も話をしたいみたいなのよね」
「そう……なんだな」

 ルシファーユニオンは悪魔側の陣営で、ミカエルユニオンに匹敵する最強のユニオンだ。
 ルシファー様は、それはもう女王様というキャラクターだ。彼女に踏まれたいということで、開発者の一人である藤井の欲望を詰め込みまくったキャラクターだ。
 ……まあ、ミカエルとルシファーのシーンに関して、嬉々としてゴーサインを出したのは俺なんだけども。

「さあ、こちらです。ついてきてください」

 俺たちはミカエルとルシファーが待つ部屋へと向かうため、部屋を出る。
 廊下へと出ると、豪華な屋敷のような通路が広がっていた。
 磨き上げられた大理石の床と、掃除の行き届いた窓が並んでおり、朝日の差し込む光が柔らかく廊下を照らしている。

 ミカエルユニオン。ゲーム本編でもめちゃくちゃ大きな屋敷を拠点として持っていた。
 ……本当、マジで転生したんだな。

「ルシファー様も、ここに着いたみたいよ」
「……そうか」

 スマホを眺めていたルミナスの言葉に、俺はゆっくりと頷く。
 ……ミカエルとルシファー。
 ゲーム本編でもかなりの権力を持つ二人と会うなんてな。
 彼女らと会うのは、今回限りにしたいものだ。
 ……俺はあくまで、モブなんだからな。

 ただ、今の俺の立場だとそうも行かないか。
 ゲーム本編でも天使と悪魔の両方と契約した人間はいなかったわけで、これから何が待ち受けているのかは全く予想できない。
 期待と不安を抱えながら、俺は二人とともに歩いていった。
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