1 / 57
第1話
しおりを挟む中学三年の夏。
じりじりとした日差しが窓ガラス越しに差し込み、外の暑さが視覚的に感じられる。
夏を伝えるように蝉の鳴き声が響く教室に俺はいた。
志望校を決めるための二者面談を行うために待機していた教室で。
俺は、唐突に思い出した。
この世界が、俺が自分で作った『ファントム・エクリプス』というエロゲーの世界であることを。
そして俺が――物語とは何も関係のない一般モブであることを。
だから俺は、先生に言ってやったんだ。
「おっぱい」
「え?」
「俺は、ミカエル様のおっぱいを見るために第一魂翼学園に行きます!」
ゲーム本編に登場する俺の好きなキャラクターの一人であるその名前を口にすると、担任は明らかに驚いていた。
「え!? い、いきなりなんで!? あそこって、モンスターとかを倒す人が行く場所でしょ!? なんで!?」
「推しキャラたちが魂翼学園に通うからに決まってるでしょうが!」
「はいい!?」
今だから思う。
あの時の俺は、少しだけ頭がおかしく見えていたはずだ。
それから半年。
家族からは俺の夢を応援すると言ってもらい受験させてもらった。
もちろん、ミカエル様のおっぱいが見たいなんて言っていない。
憧れの人に会いたいという前向きな理由だ。嘘は言ってないだろう。
ミカエル様のお胸が見たいのとは別に、ゲームの物語を間近で見たいという夢もある。
モブなので、あくまで遠くから見守る程度に留めるつもりだ。そもそも、ゲーム本編に関わっていたら命がいくつあっても足りんしな。
そんなこんなで、ミカエル様のお胸を原動力に頑張った結果、無事ゲーム本編の舞台である魂翼学園に合格できた。
これからは一人暮らしになるので、現在。春休みを利用して学園がある第一天魔都市への引っ越しを行っていた。
その引っ越し作業を終えた俺は昂る気持ちが抑え切れず……夜の天魔都市へと繰り出した。
ドアを開け、一歩外へと出た俺は、全身でその空気を感じとっていた。
「おお……! ここが、天魔都市の学園区か……!」
ここに来るまで、バスや電車などを乗り継いできたので多少は景色を見ていた。
だが俺は、この新鮮さを味わうため、道中はなるべく周りを見ないようにしてきた。
すべては、聖地巡礼を楽しむために!
「うわあああ! ゲームの街そのものじゃねぇか! マジで転生したんだな……!」
『ファントム・エクリプス』。
PCで発売した、R18指定のゲームだ。
自慢じゃないが、そのクオリティは尋常ではない。
俺が宝くじであてた金を注ぎ込み、どう考えても採算はとれないような無駄に金がかかった俺好みの最高のエロゲ―。
自慢できるところはたくさんある。
何が凄いって、まずマップの作り込みが半端じゃない。
広大なフィールドに、緻密に描かれた建物や風景。
3Dグラフィックも当時としては群を抜いていて、町の路地裏から雑草まで、できる範囲で作りこんだ。
……エロゲーにここまでの予算と時間をかけるとか頭おかしいだろ、とはネットではよく言われていたものだ。
そんな大好きだった『ファントム・エクリプス』の街中を、俺は今歩いていた。
……このゲームは日本を舞台にしたRPG要素のあるゲームだ。
夜は魔物のような存在が活発化するので危険ではあるが、だからといって衝動は抑えられない。
まあ、表通りならば大丈夫だろうという気持ちで夜の街を歩いていたのだが。
「……あっ! ここは!」
足が止まった。
目の前に広がる風景――そこはゲームのプロローグで主人公が巻き込まれるあの事件の現場だった。
……おおおお!
本当にゲームで見た世界が目の前に広がっているという事実に、俺は歓喜感激。
薄暗く、危険な場所であることを理解していても、その路地裏に吸い込まれるように足を踏み入れた。
俺の心は高鳴っていた。
この路地裏で、ゲームの主人公がメインヒロインであるセラフかルミナスに出会うんだよな。
ゲーム本編が始まるのは、俺が高校二年生になる来年だ。今から、その時が来るのが楽しみで仕方なかった。
「ちょうど、このあたりだよな。空から、セラフかルミナスが降ってきて――」
俺がそんな気持ちとともに頭上を見上げた瞬間だった。
「「きゃああ!?」」
二つの悲鳴が同時に聞こえた。
見えたのは、可愛らしい白と黒のパンティー――じゃねぇ!
332
お気に入りに追加
824
あなたにおすすめの小説
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
悪役貴族に転生した俺が鬱展開なシナリオをぶっ壊したら、ヒロインたちの様子がおかしいです
木嶋隆太
ファンタジー
事故で命を落とした俺は、異世界の女神様に転生を提案される。選んだ転生先は、俺がやりこんでいたゲームの世界……と思っていたのだが、神様の手違いで、同会社の別ゲー世界に転生させられてしまった! そのゲームは登場人物たちが可哀想なくらいに死にまくるゲームだった。イベボス? 負けイベ? 知るかそんなもん。原作ストーリーを破壊していく。あれ? 助けたヒロインたちの目のハイライトが……?
※毎日07:01投稿予定!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる