上 下
50 / 58

第50話

しおりを挟む

 ブリューナスは手を振り上げ、闇の魔法を放とうとする。
 俺はそれを察知し、素早く動くと、先ほどまで俺がいた場所を闇のレーザーが抜けていった。
 ……建物へとあたり、それが崩れていく。
 さすがに、今の俺のスキルポイントでは周りを守るような魔法までは獲得できない。

 ただ、かわすよりは迎え撃ったほうがいいだろう。
 ブリューナスの魔法に対して、俺もライトニングバーストを放つ。
 魔法同士がぶつかり合い、激しい衝撃が周囲を巻き込む。
 瓦礫が飛び散り、周囲の建物が揺れる。

「その程度かァ!」

 ブリューナスがさらに力を込めてきた。
 それが、ブリューナスの全力なのだろうか。だとしたら――話にならない。

 俺はブリューナスがやっていたように、煽るように笑みを浮かべる。
 それまで、何度も人間たちに見せていたくせに、いざそれを向けられたブリューナスは、激怒した様子で咆哮をあげる。


 俺はトリプル魔法によって展開したライトニングバーストをブリューナスの頭上から落とした。

「がは!?」

 力に対して、力で押し切るつもりは鼻からない。
 せこいって? ゲームじゃないんだよ、ここは。
 こちとら、妹を助けるために負けるわけにはいかない。

 よろよろと起き上がったブリューナスだったが、その体に何かオーラのようなもの包まれていく。
 ……魔族特有の身体強化系スキルか。
 確か、魔の鎧、というスキルだったか。
 すべてのダメージを半減し、身体能力を強化するというチートスキル。

 おまけに、ブリューナスは体力が減ると行動回数が増えるからな。

 それを象徴するかのように、動きが加速した。
 ……速い。一瞬で距離を詰められ、拳が振り下ろされる。
 鋭く伸びた爪が俺の頬を掠めていく。

 ブリューナスは怒りに満ちた表情で笑みを浮かべる。俺を押し始めたと思ったからだろう。
 近接での攻撃のぶつかりあいだが……思っていたよりも粘られるな。

 ただ、俺の近接攻撃も、ブリューナスよりは上をいく。
 地霊刃がブリューナスの体を掠め、彼は顔を顰めて後退する。距離が離れたところで、ライトニングバーストを放つと、その体が吹き飛ぶ。
 ……だが、倒れない。
 思っていたよりも自然回復量がかなりのものだし、さすが負けイベ状態のブリューナスなだけあって、頭のおかしいHPが設定されているようだ。

 現在かなり削ったとは思うんだが……切り落とした尻尾ももう再生しているし、徐々にだが呼吸も落ち着いてきている。

 ……ゲームはターン制バトルだったので、その回復のタイミングは分かりやすかったが、現実では一定時間ごとに回復しているようだな。

 かなり余裕が出てきたようで、ブリューナスの口元には笑みさえも浮かんでいる。

「貴様……なかなかの魔法を持っているようだが、それは独学で学んだのか?」

 時間稼ぎのための会話というのは分かった。
 ただまあ、こちらとしてもどれだけの回復量なのかを知っておきたかった。

「まあ、そんなところだ」
「そうか。だが、戦闘センスはないようだな」
「何がだ?」
「オレ様の傷が、すべて再生していることに気づかないようだからな……!」

 ブリューナスは満面の笑みとともにこちらへ飛びかかってきた。
 最速の動きとともに突き出された片腕の一撃を、俺は引きつけてかわす。
 その体を切り裂くように地霊刃を振り抜く。

「魔法使いのくせに、なぜここまで動ける……!」

 この世界の人間ならば、そうだろう。前衛キャラ、後衛キャラはそれぞれ得意不得意がはっきりとしている。全ての数値が優秀なのは、勇者くらいだ。

 だが、【ファイナルクエスト】は違う。【ファイナルクエスト】は、見た目魔法使いの格好をしていても、バリバリ戦えるやつもいる。見た目幼女でも等しく数十桁のダメージが出せる世界なんだからな。

 飛びかかってきたブリューナスの攻撃をかわしながら、地霊刃を振りぬき、その背中を切り裂いた。

「がああ!?」

 よろめいた瞬間に合わせ、ライトニングバーストを放ち、吹き飛ばす。
 ゲームではあり得なかった、魔法と剣による連撃。せっかくの現実なのだから、できることを色々試していかないとな
 何より、俺の実戦経験は少ない。誕生日ももうじき近い。

 次に戦う魔族が、ゾルドラの可能性も十分にあるわけで……ここで、戦闘経験を積んでおきたかった。
 だからこそ、あえての近接戦闘を行い、本気を出していなかった。

 ブリューナスは地面に倒れ込み、痛みに悶える。その顔には怒りと驚愕が入り混じっている。

「こ、こんな人間に……」
「……これで終わりだ、ブリューナス」
「ふざ……けるなぁ!」

 ブリューナスは最後の力を振り絞るかのように立ち上がり、再び攻撃を仕掛けてくる。
 しかし、俺はそれを冷静に受け流し、魔法を放った。

「や、やめてくれ……! み、見逃し――」

 静寂に包まれていた戦場に、今日一番の雷が響き渡ると、ブリューナスの背中を撃ち抜いた。
 地面へと縫い付けるように放たれた雷を浴びたブリューナスの目から生気がなくなり、どさり、と瓦礫の上へと崩れ落ちた。

 ……データは、十分に取れた。
 原作通りの負けイベだろうが打破することはできる。

 そして、ゲームと違って負けイベのあとに元のルートに強制的に戻されることもなさそうだ。

 ブリューナスの死体も他の魔族同様に霧となって消えていく。
 ゲーム本編ではそれなりに戦う回数の多いブリューナスだが、もう彼に関するイベントはなくなった。
 仮にそれで世界が多少歪んでしまったとしても、まあ女神様が責任とってくれんだろ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

エロゲー世界のただのモブに転生した俺に、ヒロインたちが押し寄せてきます

木嶋隆太
ファンタジー
主人公の滝川は気付けば、エロゲーの世界に転生していた。好きだった物語、好きだったキャラクターを間近で見るため、ゲームの舞台に転校した滝川はモブだというのに事件に巻き込まれ、メインヒロインたちにもなぜか気に入られまくってしまう。それから、ゲーム知識を活用して賢く立ち回っていた彼は――大量のヒロインたちの心を救い、信者のように慕われるようになっていく。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

処理中です...