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第46話
しおりを挟む「……なんだか、ルーベスト様の刀、雰囲気変わりましたね」
「分かるのか?」
「はい。前より凄くなったと思います」
サーシャがじっとみているが、アイフィは首を傾げている。
「そうですの? ……わたくしはあまり違いが分かりませんわね」
「何かこう……ビビビって感じませんか?」
「………………感じませんわね」
……まあサーシャの本能あたりが訴えかけているのかもな。
「とりあえず、二人の武器も強化しておきたい。一度貸してくれないか?」
「分かりました。お願いします」
「わたくしのもわざわざありがとうございます」
地霊刃を最後まで強化し終えた俺は刀を鞘へとしまってから、サーシャとアイフィの武器も同じように進化、強化していく。
地霊剣、地霊のロッドへと強化されたそれらを渡してみると、サーシャは目を輝かせている。
「これは……ルーベスト様の剣と同じくらい輝いていますね……!」
剣身をじっと眺めていたサーシャは今にも頬擦りでもしそうな勢いだ。
絶対するなよ、と胸の中で願いながらアイフィにも地霊のロッドを渡す。
握りしめたアイフィは軽くその場で振ってみてから、じっと地霊のロッドへ視線を向ける。
「……握ってみると、体の底から力が湧き上がる感覚がありますね。これも、良いものですわよね?」
「ああ。かなりのものだから、人に盗まれないように注意してくれ」
……まあ、今のサーシャやアイフィのステータスがあれば、下手にそんな行為を仕掛けたら返り討ちにあうだろうけど。
新しい武器の性能を十分に試した後、俺たちは屋敷へと戻ることにした。
新しい武器は以前から使っているものと同様、魔物相手には一撃で倒せるほどの攻撃力を持っている。
だからまあ、武器が強化されたかどうかはぶっちゃけわからない。
今回は主に切れ味や耐久性を確認していって、問題がないことがわかったのでよしとした。
無事屋敷に到着したのだが。
屋敷内は。どこか空気がぴりついている。
「何かあったのか?」
俺の問いかけに真っ先に反応したのは、アイフィだ。
微かな不安と警戒心の入り混じった表情で口を開く。
「……確証はありませんが、こういった場合は大抵魔族関係の問題ですわね」
彼女はこの屋敷で育ってきたわけで、こういった経験は何度もしているんだろうし、彼女の見解は信頼できるものだった。
魔族、か。面倒事にならなければいいんだが。
俺たちはアイフィの言葉に少し不安を覚えつつも、ゴルシュのもとへ向かう。
アイフィが無事であることと、屋敷の空気について聞くためだ。
廊下を進むと、屋敷の中でもやはり普段とは異なる緊張感が漂っていることがわかった。
使用人たちはいつもよりも早足で動き、表情には焦りが見えた。
穏やかな屋敷の雰囲気が、一変して重苦しいものになってしまっている。
ゴルシュの書斎へとついた。アイフィが声をかけ、すぐに扉を開く。
いつものように事務作業に没頭していたゴルシュは、表情に険しさを帯びていた。
彼はちらとこちらを見て、それでもいくらか落ち着いた笑みを浮かべる。
「おお、アイフィ……今日も無事だったか」
ゴルシュはほっと胸を撫で下ろすようにして、アイフィに声をかける。
俺とサーシャが同行しているとはいえ、やはり父親として不安もあるんだろう。
父親からのそんな心配に、アイフィも嫌がる様子はない。
嬉しそうに微笑んだアイフィは、見惚れるほどの丁寧な礼とともに頷いた。
「はい。私は問題ありませんでした。ただ、屋敷が何やらざわついていましたが、何があったのですか?」
アイフィの質問に、ゴルシュの顔が引き締め直される。
「……魔族たちが頻繁にこの国に現れているらしくてな。この街にもいずれ来るのではないかという不安が市民の間で広がっているんだ」
ゴルシュは重々しい声で答える。その顔には深い皺が刻まれており、彼の心労を察することができた。
魔族が来るということは、何かしらの災いがもたらされるようなもんだしな。
魔族がいるということは人間が被害を受ける可能性が高く……市民たちが不安を抱くのも当然だ。
「……この街にはまだ来ていませんわよね?」
「ああ。……今は北の街ドリアルタに魔族が現れたようだ。ここからも近いし、市民を落ち着かせるのに苦労しているんだ」
「そうですか……」
アイフィは眉をひそめ、思案顔で頷いた。
魔族たちが頻繁に出没しているとなると、またブリューナスが裏で動いている可能性がある。
あいつ、負のエネルギーを集めて魔王に並びたいと思っている野心家だからな。
魔王も好敵手を求めているため、ブリューナスを放置しているからな……。
全く。魔族の勝手な行為に巻き込まれる人間の身にもなってほしいものだ。
なんとかしてやりたいと思うが、魔族は不定期で現れる。
ゲーム本編が開始していて、ある程度イベントがわかっていればなんとかなるのだが、現状では出現場所を予想するのは難しい。
ゴルシュの落ち着かない様子からも、魔族の脅威が彼の頭を離れていないことがわかる。
特に彼の場合、アイフィが過去に傷つけられた経験があるため、その不安はなおさらだろう。
そんなゴルシュだったが、思い出したようにこちらを見て笑みを浮かべた。
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