上 下
46 / 58

第46話

しおりを挟む


「……なんだか、ルーベスト様の刀、雰囲気変わりましたね」
「分かるのか?」
「はい。前より凄くなったと思います」

 サーシャがじっとみているが、アイフィは首を傾げている。

「そうですの? ……わたくしはあまり違いが分かりませんわね」
「何かこう……ビビビって感じませんか?」
「………………感じませんわね」

 ……まあサーシャの本能あたりが訴えかけているのかもな。

「とりあえず、二人の武器も強化しておきたい。一度貸してくれないか?」
「分かりました。お願いします」
「わたくしのもわざわざありがとうございます」

 地霊刃を最後まで強化し終えた俺は刀を鞘へとしまってから、サーシャとアイフィの武器も同じように進化、強化していく。
 地霊剣、地霊のロッドへと強化されたそれらを渡してみると、サーシャは目を輝かせている。

「これは……ルーベスト様の剣と同じくらい輝いていますね……!」

 剣身をじっと眺めていたサーシャは今にも頬擦りでもしそうな勢いだ。
 絶対するなよ、と胸の中で願いながらアイフィにも地霊のロッドを渡す。
 握りしめたアイフィは軽くその場で振ってみてから、じっと地霊のロッドへ視線を向ける。

「……握ってみると、体の底から力が湧き上がる感覚がありますね。これも、良いものですわよね?」
「ああ。かなりのものだから、人に盗まれないように注意してくれ」

 ……まあ、今のサーシャやアイフィのステータスがあれば、下手にそんな行為を仕掛けたら返り討ちにあうだろうけど。

 新しい武器の性能を十分に試した後、俺たちは屋敷へと戻ることにした。

 新しい武器は以前から使っているものと同様、魔物相手には一撃で倒せるほどの攻撃力を持っている。

 だからまあ、武器が強化されたかどうかはぶっちゃけわからない。
 今回は主に切れ味や耐久性を確認していって、問題がないことがわかったのでよしとした。
 無事屋敷に到着したのだが。

 屋敷内は。どこか空気がぴりついている。

「何かあったのか?」

 俺の問いかけに真っ先に反応したのは、アイフィだ。
 微かな不安と警戒心の入り混じった表情で口を開く。

「……確証はありませんが、こういった場合は大抵魔族関係の問題ですわね」

 彼女はこの屋敷で育ってきたわけで、こういった経験は何度もしているんだろうし、彼女の見解は信頼できるものだった。

 魔族、か。面倒事にならなければいいんだが。
 俺たちはアイフィの言葉に少し不安を覚えつつも、ゴルシュのもとへ向かう。
 アイフィが無事であることと、屋敷の空気について聞くためだ。

 廊下を進むと、屋敷の中でもやはり普段とは異なる緊張感が漂っていることがわかった。

 使用人たちはいつもよりも早足で動き、表情には焦りが見えた。
 穏やかな屋敷の雰囲気が、一変して重苦しいものになってしまっている。

 ゴルシュの書斎へとついた。アイフィが声をかけ、すぐに扉を開く。
 いつものように事務作業に没頭していたゴルシュは、表情に険しさを帯びていた。
 彼はちらとこちらを見て、それでもいくらか落ち着いた笑みを浮かべる。

「おお、アイフィ……今日も無事だったか」

 ゴルシュはほっと胸を撫で下ろすようにして、アイフィに声をかける。
 俺とサーシャが同行しているとはいえ、やはり父親として不安もあるんだろう。
 父親からのそんな心配に、アイフィも嫌がる様子はない。
 嬉しそうに微笑んだアイフィは、見惚れるほどの丁寧な礼とともに頷いた。

「はい。私は問題ありませんでした。ただ、屋敷が何やらざわついていましたが、何があったのですか?」

 アイフィの質問に、ゴルシュの顔が引き締め直される。

「……魔族たちが頻繁にこの国に現れているらしくてな。この街にもいずれ来るのではないかという不安が市民の間で広がっているんだ」

 ゴルシュは重々しい声で答える。その顔には深い皺が刻まれており、彼の心労を察することができた。
 魔族が来るということは、何かしらの災いがもたらされるようなもんだしな。
 魔族がいるということは人間が被害を受ける可能性が高く……市民たちが不安を抱くのも当然だ。

「……この街にはまだ来ていませんわよね?」
「ああ。……今は北の街ドリアルタに魔族が現れたようだ。ここからも近いし、市民を落ち着かせるのに苦労しているんだ」
「そうですか……」

 アイフィは眉をひそめ、思案顔で頷いた。
 魔族たちが頻繁に出没しているとなると、またブリューナスが裏で動いている可能性がある。

 あいつ、負のエネルギーを集めて魔王に並びたいと思っている野心家だからな。
 
 魔王も好敵手を求めているため、ブリューナスを放置しているからな……。
 全く。魔族の勝手な行為に巻き込まれる人間の身にもなってほしいものだ。

 なんとかしてやりたいと思うが、魔族は不定期で現れる。
 ゲーム本編が開始していて、ある程度イベントがわかっていればなんとかなるのだが、現状では出現場所を予想するのは難しい。

 ゴルシュの落ち着かない様子からも、魔族の脅威が彼の頭を離れていないことがわかる。
 特に彼の場合、アイフィが過去に傷つけられた経験があるため、その不安はなおさらだろう。
 そんなゴルシュだったが、思い出したようにこちらを見て笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

エロゲー世界のただのモブに転生した俺に、ヒロインたちが押し寄せてきます

木嶋隆太
ファンタジー
主人公の滝川は気付けば、エロゲーの世界に転生していた。好きだった物語、好きだったキャラクターを間近で見るため、ゲームの舞台に転校した滝川はモブだというのに事件に巻き込まれ、メインヒロインたちにもなぜか気に入られまくってしまう。それから、ゲーム知識を活用して賢く立ち回っていた彼は――大量のヒロインたちの心を救い、信者のように慕われるようになっていく。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

処理中です...