38 / 58
第38話
しおりを挟む「すまない。キミたちにすべての責任を押し付けてしまって……」
「いやいや、謝罪はやめてくれよ。勝手にやったことなんだしな」
エルドはもちろん、ルビーやブルーナも頷いている。
ルビーとブルーナは片目と腕をやられているようだ。
……ゲームでも、そうだったな。ルビーとブルーナはそれぞれ片目ずつを眼帯で隠している状態だ。
「……何があったんですか?」
ゲームでも深くは語られていない内容だったので、俺はゴルシュさんに問いかけると、彼は慌てた様子で口を開いた。
「ああ、済まないな。彼らは、この街の冒険者でな。……先日、街中で暴れていた魔族たちを押さえようとして、こうなってしまったんだ」
「……街中で暴れていた、ということは魔族が来ていたんですか?」
「ああ。特に用事はなかったらしいが、負のエネルギーを得るためとかなんとか言って、ブリューナスの部下たちがな。それで、彼らが戦って止めはしたのだが、こうなってしまってな」
……魔族たち、勝手なものだな。
不定期で襲ってくる魔族のイベントも、そういえばあったな。
勇者が指名手配されてからは、あちこちでそのイベントが起こり、勇者は二つの選択肢に迫られるんだ。
助けるか、見捨てるか。それで、勇者の善行ポイントに関係してきて、エンディングでの演出が少し変わってくる。
まあ、とはいえ一週目で助けるのは難しい。単純に魔族たちがめちゃくちゃ強いので、ゲームオーバーになりかねない。
対策をしっかり立てて、ようやくなんとかなレベルだが、この世界でもそのランダムイベントが発生しているんだなぁ。
俺は勇者じゃないので、善行ポイントとかはなさそうだが、どうなんだろうか?
『すべての人間に善行ポイントはありますよ』
『へぇ、俺のポイントはどうなってんだ?』
『100、ありますね』
『……なんでだ?』
『治療したときに跳ね上がっていたので、たぶんそれが関係してます』
ああ、なるほど。
ならば、俺の善行ポイントが極端に下がることはないだろう。
魔族が暴れるイベントは勇者を追ってのものではなく、もともと魔族たちのランダムな来訪があり、その頻度が増しただけなのか。
「そういうわけだ。まっ、気にはしてないから、そんな気にしなくていいからな。……ていうか、お前は誰なんだ? ゴルシュの子ども、とかじゃないんだろう?」
エルドが首を傾げてくる。まあ、向こうも俺のことは知らないんだからその質問は当然だな。
「俺はフォータス家の長男、ルーベスト・フォータスだ」
「フォータス家、ってことはエクリーナの街から来たんだな! オレも何度か行ったことあるよ、いい街だよな」
明るく、人懐こい笑顔を見せるエルドと話していると、部屋の扉が開いた。
アイフィとサーシャが部屋へとやってきた。
サーシャがアイフィの車椅子を押している。
そちらに視線を向けたエルドが、改めて首を傾げた。
「それで? こんなに人数集めてどうしたんだ?」
エルドがそう言ったところで、アイフィは少し悪戯っぽく笑った。
その笑みの意味は、すぐに分かった。
アイフィはエルドたちの前までいくと、車椅子を支えに立ち上がった。
驚いたように目を見開く三人の前で、弾むような足取りで歩いていった彼女は、それから丁寧にお辞儀をする。
エルド、ルビー、ブルーナの三人はそれはもう驚いたように彼女を見ていた。
「うえ!? アイフィ、おまえ歩けたのか!? い、今まで隠していたのか!?」
「いえ、違いますわ。わたくしが歩けるようになったのはつい最近ですわよ」
「え、えーと……どういうことだ? 怪我がいい感じに治った、とかか?」
「彼が、わたくしの治療をしてくれましたのよ」
アイフィは嬉しそうに俺を示し、こちらへ視線を向けてきた。
エルドはしばらく俺を見て必死に考えようとしていたのだが、
「……もしかして、ルーベストって凄い魔法使いなのか?」
「……い、いや凄いで流すなし」
「……どんなに、凄い魔法使いでも……動かない足を治せるほどの人は、いない」
呑気に驚いているエルドに、ルビーとブルーナが突っ込んでいる。
ゴルシュさんは嬉しそうに笑って、頷いている。
「そうだ。彼は凄い魔法使いでな。そこで、キミたちにも話をしたいと思っていたんだ」
「……オレたちに?」
ごくり、とエルドが唾を飲み込んだ。
ゴルシュさんは、真剣な表情とともに彼を見た。
「いずれ……魔族と全面的に戦う日が来るかもしれない。それまでに、我が家も戦力を整えておきたい。そのためにも、キミたちにも協力をお願いしたいんだ」
ゴルシュさんは、そこまで考えていたようだ。
俺は別に誰かに戦いを強制させるつもりはない。
168
お気に入りに追加
479
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる