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第38話
しおりを挟む「すまない。キミたちにすべての責任を押し付けてしまって……」
「いやいや、謝罪はやめてくれよ。勝手にやったことなんだしな」
エルドはもちろん、ルビーやブルーナも頷いている。
ルビーとブルーナは片目と腕をやられているようだ。
……ゲームでも、そうだったな。ルビーとブルーナはそれぞれ片目ずつを眼帯で隠している状態だ。
「……何があったんですか?」
ゲームでも深くは語られていない内容だったので、俺はゴルシュさんに問いかけると、彼は慌てた様子で口を開いた。
「ああ、済まないな。彼らは、この街の冒険者でな。……先日、街中で暴れていた魔族たちを押さえようとして、こうなってしまったんだ」
「……街中で暴れていた、ということは魔族が来ていたんですか?」
「ああ。特に用事はなかったらしいが、負のエネルギーを得るためとかなんとか言って、ブリューナスの部下たちがな。それで、彼らが戦って止めはしたのだが、こうなってしまってな」
……魔族たち、勝手なものだな。
不定期で襲ってくる魔族のイベントも、そういえばあったな。
勇者が指名手配されてからは、あちこちでそのイベントが起こり、勇者は二つの選択肢に迫られるんだ。
助けるか、見捨てるか。それで、勇者の善行ポイントに関係してきて、エンディングでの演出が少し変わってくる。
まあ、とはいえ一週目で助けるのは難しい。単純に魔族たちがめちゃくちゃ強いので、ゲームオーバーになりかねない。
対策をしっかり立てて、ようやくなんとかなレベルだが、この世界でもそのランダムイベントが発生しているんだなぁ。
俺は勇者じゃないので、善行ポイントとかはなさそうだが、どうなんだろうか?
『すべての人間に善行ポイントはありますよ』
『へぇ、俺のポイントはどうなってんだ?』
『100、ありますね』
『……なんでだ?』
『治療したときに跳ね上がっていたので、たぶんそれが関係してます』
ああ、なるほど。
ならば、俺の善行ポイントが極端に下がることはないだろう。
魔族が暴れるイベントは勇者を追ってのものではなく、もともと魔族たちのランダムな来訪があり、その頻度が増しただけなのか。
「そういうわけだ。まっ、気にはしてないから、そんな気にしなくていいからな。……ていうか、お前は誰なんだ? ゴルシュの子ども、とかじゃないんだろう?」
エルドが首を傾げてくる。まあ、向こうも俺のことは知らないんだからその質問は当然だな。
「俺はフォータス家の長男、ルーベスト・フォータスだ」
「フォータス家、ってことはエクリーナの街から来たんだな! オレも何度か行ったことあるよ、いい街だよな」
明るく、人懐こい笑顔を見せるエルドと話していると、部屋の扉が開いた。
アイフィとサーシャが部屋へとやってきた。
サーシャがアイフィの車椅子を押している。
そちらに視線を向けたエルドが、改めて首を傾げた。
「それで? こんなに人数集めてどうしたんだ?」
エルドがそう言ったところで、アイフィは少し悪戯っぽく笑った。
その笑みの意味は、すぐに分かった。
アイフィはエルドたちの前までいくと、車椅子を支えに立ち上がった。
驚いたように目を見開く三人の前で、弾むような足取りで歩いていった彼女は、それから丁寧にお辞儀をする。
エルド、ルビー、ブルーナの三人はそれはもう驚いたように彼女を見ていた。
「うえ!? アイフィ、おまえ歩けたのか!? い、今まで隠していたのか!?」
「いえ、違いますわ。わたくしが歩けるようになったのはつい最近ですわよ」
「え、えーと……どういうことだ? 怪我がいい感じに治った、とかか?」
「彼が、わたくしの治療をしてくれましたのよ」
アイフィは嬉しそうに俺を示し、こちらへ視線を向けてきた。
エルドはしばらく俺を見て必死に考えようとしていたのだが、
「……もしかして、ルーベストって凄い魔法使いなのか?」
「……い、いや凄いで流すなし」
「……どんなに、凄い魔法使いでも……動かない足を治せるほどの人は、いない」
呑気に驚いているエルドに、ルビーとブルーナが突っ込んでいる。
ゴルシュさんは嬉しそうに笑って、頷いている。
「そうだ。彼は凄い魔法使いでな。そこで、キミたちにも話をしたいと思っていたんだ」
「……オレたちに?」
ごくり、とエルドが唾を飲み込んだ。
ゴルシュさんは、真剣な表情とともに彼を見た。
「いずれ……魔族と全面的に戦う日が来るかもしれない。それまでに、我が家も戦力を整えておきたい。そのためにも、キミたちにも協力をお願いしたいんだ」
ゴルシュさんは、そこまで考えていたようだ。
俺は別に誰かに戦いを強制させるつもりはない。
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