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第26話

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 これからのことを打ち合わせするため、俺はサーシャとともに自分の部屋へと向かう。

 ……サーシャ、か。
 ゲームでは近接戦闘を得意としていたアタッカーだ。

 剣をメインに使い、様々な攻撃スキルで魔物たちを倒していた。
 ステータス的にもかなり恵まれているので、仲間として一緒に行動してくれるのなら心強い。

 ただ、問題がないわけでもない。

「一緒に行動するのはいいんだけど……サーシャの腕とかが治ったことはなるべく隠しておきたいんだよな」
「どうしてですか? ルーベスト様の素晴らしい功績ですし、公表してもいいのではないでしょうか?」
「そうしたら、魔王にまで伝わっちゃうんじゃないか?」
「はっ!? な、なるほど……そういうことですか」

 サーシャはクールな見た目をしているし、かなり真面目な性格なのだが戦闘一辺倒な人生を歩んできたのでかなりバカというか、ポンコツだ。

 まあでも、こういう人の相手は結構慣れている。なぜかって、女神様で予習済みだからだ。
 女神様から不満を訴える唸り声のようなものが聞こえてきたが、それらはすべて無視させてもらう。

「まあ、今すぐ出発するわけじゃないし……それまでにサーシャに変装をしてもらうか」
「変装、ですか? 男装とかしましょうか?」

 ふふん、とサーシャは胸を張る。その立派なお胸がある状態では難しいのではないだろうか。
 仮にできるといっても、相当押さえつけることになるわけで、体に負担もあるだろう。

「いや……そこまではしなくてもいい。髪を伸ばして少し化粧をしたらたぶん多くの人は気づかないと思うからな」

 親しい人なら分かるかもしれないが、少なくとも俺は分からない。
 会社の人と私生活ですれ違うときがあったのだが、いつもと雰囲気が違うだけで全く分からなかった。

 向こうが声をかけてきて、一瞬誰だこいつ、となったことがあったからな。
 ……俺が周りにあまり興味がないだけかもしれないが、とにかくその程度でも十分変装にはなるだろう。
 しかし、俺の提案にサーシャは深刻そうに顔を歪めた。

「け、化粧……ですか」
「何か、問題でもあるのか? アレルギーとか?」

 そういったものもあるらしいからな。
 【ドラゴニックファンタジー】の世界観ならば、化粧品とかも別に高価ではなかったはずだ。
 パーティー会話でそういった話が聞けるのだが、女性陣で使っている人は多いとかそんな話をしていた。

 なので、問題があるとすればアレルギーくらいしか思いつかない。

「私、したことないので……まったく、分かりません」
「……したことなくて、そんだけ綺麗なんだな」
「き、きれ……!? き、綺麗ですか……私……えへへ」

 恥ずかしそうにしながらも、単純な性格をしている彼女は嬉しそうに笑っていた。
 ……体が治ったからか、少し心に余裕があるように感じるな。

 別に口説くつもりはなく、純粋な気持ちから浮かんだ疑問を口にしたわけであり、それで嬉しそうにしてくれているのでこれからも素直に褒めてあげよう。
 なんとなく、女神様と同じで褒めて伸びる単純っぽいしな。

「そういうわけで、化粧とかを組み合わせれば、より印象も変わると思うから、無理じゃなかったらやってみてくれ」
「わ、分かりました。やってみます」
「旅に出るのは一ヶ月後だ」
「一ヶ月後、ですか」
「ああ。今回の旅で、俺はサーシャのような人たちを治療して回るつもりだ。ただまあ、サーシャに話したように、現時点だとあんまり目立つように治療はできないからな。正体を隠して治療するか、サーシャのように情報を秘匿できる人に治療を行うつもりだ」

 すべて終わった後ならば、自由に回復魔法を使えるがまだ俺が育ちきっていない現状ではな。
 あまり派手に動いて、魔族に目をつけられても面倒だ。
 姿を隠せばいくらでも逃げられるかもしれないが、それで行動に制限がかかるのも嫌だしな。

「……優しいのですね、ルーベスト様は」
「……優しい?」

 予想外の言葉が返ってきて、俺は思わず問い直してしまう。

「本来、傷の治療を行うだけでもかなりのお金がかかるものです。それなのに……私に対しても何の見返りも求めていないではないですか。そうやって、皆を治療してまわるのですね」

 ……そうか。
 俺は大量に経験値がもらえる! くらいにしか考えていなかったが、サーシャたちからしたらそうなのか。
 傷の治療を行ってもらうには、本来対価がかかることなのだ。

 それを無償で行うのは、色々とまずいな。
 今後、多くの人を治療するようなことがあっても、俺にしか治療できない傷、に限定した方がいいだろう。

「あくまで、サーシャのような重傷者だけだ。普通の回復魔法で治せるのなら、そっちにあたってもらうつもりだ」
「その方がいいと思います。普通の傷であれば、ルーベスト様の時間をわざわざ割く必要はありませんからね」

 ちょっと、サーシャの認識と俺の考えはずれているが、まあいいだろう。
 そうしないと、この世界の回復魔法の使い手たちの仕事を奪ってしまうからな。
 その線引きだけはしっかりとしておこう。

「それじゃあ、また旅に出る時にな」
「はい。変装がんばります」

 サーシャがぴしっと背筋を伸ばして礼をして去っていったところで女神様に問いかける。
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