13 / 58
第13話
しおりを挟む
ゴブリンが少し近づいてきた時だった。その周囲の地面が盛り上がるようにして、さらに数体のゴブリンが生み出された。
……なるほど。
ゲームではフィールド上のシンボルモンスターにぶつかった後に、バトル画面へと移り、複数の魔物が出てきていた。
それがごくごく自然なものだと思っていたが、こんな感じで出現していたのかもしれない。
騎士たちが剣を構えると、ゴブリンたちも持っていた棍棒を構える。
そして、睨み合うこと数秒。
先に地面を蹴ったのは、ゴブリンだ。騎士たちは剣や盾を構え、それを迎え打つように動き出す。
ゴブリンの雑な突進を、盾で弾き、剣で斬りつける。
ゴブリンたちの足を奪うように攻撃を放ち、連携で囲むようにダメージを与えていく。
……さすがに、騎士たちがゴブリン相手に苦戦することはない。
確実に弱らせていき、大きな隙を見つけたところへ剣を叩き落とした。
日々の訓練のおかげなんだろう。
徹底した無駄のない戦い方、ではあったが見ている側としては派手なスキルや魔法が使われることはなかったので、ちょっと退屈だ。
……まあ、迷宮はそれなりに長いからな。ゲームとかだと、プレイヤーはずっと走りっぱなしであったが、リアルだとそういうわけにもいかない。
体力やMPを温存しながら先に進むのは、当然なんだろう。
戦闘のことだけを考えれば良いゲームと、現実との違いだな。
討伐されたゴブリンたちは血を出すこともなく、霧のように消滅していった。
あとには、魔石だけがドロップしている。
戦いを見ていた父が、ちらとこちらを見てくる。
「迷宮の魔物は、このように死体は残らない。もしも、魔物の素材が必要な場合は迷宮の外にいる野生の魔物を狩る必要があるんだ」
「はい。分かりました」
その辺りは事前に学習していたが、父は改めて説明してきた。
いずれは、このフォータス家を継ぎ、次の子どもに引き継いでいくために指導の見本という意味もあるのかもしれない。
「迷宮の魔物は魔石しか落とさない。魔石は様々な場所で使うから、必ず回収するようにな」
「分かりました」
「まあ、集めた魔石はきちんとギルドに渡し、魔王様へと納品しないといけないからな」
「もしも、隠していたとなればバレるものですか?」
「魔石は魔石のままでは使えないからな……加工したときに足がつくだろう」
なら、俺が一人で集めて、一人で加工してしまう分には問題ないということだな。
ちょうど、鍛冶魔法で魔石のみで作れる武器があることを思い出したので、あとで試してみよう。
フィールドの魔物でないと素材はドロップしないので、素材を集めるのは結構大変なんだよな。
そんなことをぼんやりと考えていると、また魔物を発見した。
また、ゴブリンだ。まだこちらには気づいていないようで、父の視線がこちらへ向いた。
「ルーベスト。魔法を使って先制攻撃を仕掛けてくれないか?」
確かに、この距離ならば魔法で攻撃するのが一番だろう。
待ってました、とばかりに俺が頷くと、エディックが首を横に振る。
「……カイ様。魔法には射程がありますのでこれほど離れていると、当てるのは相当難しいはずです。仮に当たったとしても相当威力が抑えられてしまうと思いますので、もう少し近づいた方がいいかもしれません」
エディックが俺の父にそういうと、父は少し迷っていた。
「こ、これ以上近づいてルーベストに何かあったらどうするんだ」
「……い、いえそこまで心配なさらなくても」
……この父、凄い心配性なのかもしれない。
だから、結構お小遣いも多くもらっていて、ルーベストくんはそれで人間の奴隷を買ったのだろう。
せっかくの遠距離攻撃ができるのが魔法の利点なのだから、わざわざそこを潰す必要はないだろう。
なので、一度提案してみることにした。
「一度、ここから魔法を撃ってみてもいいですか? 射程とかの参考にしたいです」
俺が父に問いかけると、父はちらとエディックを見る。俺の意見にも納得したようで、彼はゆっくりと頷いた。
「……確かに、そうですな。どのくらいの距離まで正確に当てられるか。それを覚えるというのも魔法使いにとっては必要です。やってみましょう」
「分かりました」
射程があっても、確実に当てられるだけの精度と威力を鍛えたい。俺がじっとゴブリンを睨みつける。距離はまだある。こちらにはまだ気づいていないのか、あるいは一定距離まで近づかないと魔物たちは発見状態にならないのか。
……まあ、それがこの世界のルールだとしても、俺はこの世界の理の外にいるからな。
MPを消費し、サンダーを放つ。あまり広くはない迷宮内に雷のバチバチという音が響く。
俺の右手に集まった雷撃を放出するようにゴブリンへと向けた。
魔法は、右手からまっすぐにゴブリンへと向かう。閃光が一瞬周囲を強く照らし、ゴブリンの体を射抜き、吹き飛ばした。サンダーが地面へとぶつかると、激しい音をあげ……そしてゴブリンを仕留めた。
ゴブリンが消えると、辺りは再び静寂に包まれ、魔石のみのあかりだけが残った。
無事、討伐完了だ。
……なるほど。
ゲームではフィールド上のシンボルモンスターにぶつかった後に、バトル画面へと移り、複数の魔物が出てきていた。
それがごくごく自然なものだと思っていたが、こんな感じで出現していたのかもしれない。
騎士たちが剣を構えると、ゴブリンたちも持っていた棍棒を構える。
そして、睨み合うこと数秒。
先に地面を蹴ったのは、ゴブリンだ。騎士たちは剣や盾を構え、それを迎え打つように動き出す。
ゴブリンの雑な突進を、盾で弾き、剣で斬りつける。
ゴブリンたちの足を奪うように攻撃を放ち、連携で囲むようにダメージを与えていく。
……さすがに、騎士たちがゴブリン相手に苦戦することはない。
確実に弱らせていき、大きな隙を見つけたところへ剣を叩き落とした。
日々の訓練のおかげなんだろう。
徹底した無駄のない戦い方、ではあったが見ている側としては派手なスキルや魔法が使われることはなかったので、ちょっと退屈だ。
……まあ、迷宮はそれなりに長いからな。ゲームとかだと、プレイヤーはずっと走りっぱなしであったが、リアルだとそういうわけにもいかない。
体力やMPを温存しながら先に進むのは、当然なんだろう。
戦闘のことだけを考えれば良いゲームと、現実との違いだな。
討伐されたゴブリンたちは血を出すこともなく、霧のように消滅していった。
あとには、魔石だけがドロップしている。
戦いを見ていた父が、ちらとこちらを見てくる。
「迷宮の魔物は、このように死体は残らない。もしも、魔物の素材が必要な場合は迷宮の外にいる野生の魔物を狩る必要があるんだ」
「はい。分かりました」
その辺りは事前に学習していたが、父は改めて説明してきた。
いずれは、このフォータス家を継ぎ、次の子どもに引き継いでいくために指導の見本という意味もあるのかもしれない。
「迷宮の魔物は魔石しか落とさない。魔石は様々な場所で使うから、必ず回収するようにな」
「分かりました」
「まあ、集めた魔石はきちんとギルドに渡し、魔王様へと納品しないといけないからな」
「もしも、隠していたとなればバレるものですか?」
「魔石は魔石のままでは使えないからな……加工したときに足がつくだろう」
なら、俺が一人で集めて、一人で加工してしまう分には問題ないということだな。
ちょうど、鍛冶魔法で魔石のみで作れる武器があることを思い出したので、あとで試してみよう。
フィールドの魔物でないと素材はドロップしないので、素材を集めるのは結構大変なんだよな。
そんなことをぼんやりと考えていると、また魔物を発見した。
また、ゴブリンだ。まだこちらには気づいていないようで、父の視線がこちらへ向いた。
「ルーベスト。魔法を使って先制攻撃を仕掛けてくれないか?」
確かに、この距離ならば魔法で攻撃するのが一番だろう。
待ってました、とばかりに俺が頷くと、エディックが首を横に振る。
「……カイ様。魔法には射程がありますのでこれほど離れていると、当てるのは相当難しいはずです。仮に当たったとしても相当威力が抑えられてしまうと思いますので、もう少し近づいた方がいいかもしれません」
エディックが俺の父にそういうと、父は少し迷っていた。
「こ、これ以上近づいてルーベストに何かあったらどうするんだ」
「……い、いえそこまで心配なさらなくても」
……この父、凄い心配性なのかもしれない。
だから、結構お小遣いも多くもらっていて、ルーベストくんはそれで人間の奴隷を買ったのだろう。
せっかくの遠距離攻撃ができるのが魔法の利点なのだから、わざわざそこを潰す必要はないだろう。
なので、一度提案してみることにした。
「一度、ここから魔法を撃ってみてもいいですか? 射程とかの参考にしたいです」
俺が父に問いかけると、父はちらとエディックを見る。俺の意見にも納得したようで、彼はゆっくりと頷いた。
「……確かに、そうですな。どのくらいの距離まで正確に当てられるか。それを覚えるというのも魔法使いにとっては必要です。やってみましょう」
「分かりました」
射程があっても、確実に当てられるだけの精度と威力を鍛えたい。俺がじっとゴブリンを睨みつける。距離はまだある。こちらにはまだ気づいていないのか、あるいは一定距離まで近づかないと魔物たちは発見状態にならないのか。
……まあ、それがこの世界のルールだとしても、俺はこの世界の理の外にいるからな。
MPを消費し、サンダーを放つ。あまり広くはない迷宮内に雷のバチバチという音が響く。
俺の右手に集まった雷撃を放出するようにゴブリンへと向けた。
魔法は、右手からまっすぐにゴブリンへと向かう。閃光が一瞬周囲を強く照らし、ゴブリンの体を射抜き、吹き飛ばした。サンダーが地面へとぶつかると、激しい音をあげ……そしてゴブリンを仕留めた。
ゴブリンが消えると、辺りは再び静寂に包まれ、魔石のみのあかりだけが残った。
無事、討伐完了だ。
185
お気に入りに追加
479
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる