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第8話

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 【ドラゴニックファンタジー】の世界では、レベル1主人公のHPが50ほどだ。対して、【ファイナルクエスト】のレベル1主人公のHPは500程度。

 初期値だけでも、軽く十倍は違う。その数字を見ただけでも、すでに女神様がどれほどやばいことをしたのかが分かるだろう。
 そして、【ファイナルクエスト】にレベル上限もステータス上限もないが、【ドラゴニックファンタジー】はすべてにおいて上限が決まっている。

 つまりまあ、この世界の人とは根本的に構造が違うのだ。仮に俺が【ファイナルクエスト】の最底辺だとしても、【ドラゴニックファンタジー】の頂点の人よりは強い……と思う。

 まあ、女神様も【ファイナルクエスト】の主要キャラクター並のスペックを持ったモブに転生させてくれたらしいので、そこは心配していなかった。
 少なくとも、無力な存在ではないはずだ。

 とりあえず、現時点でできることを確認していくため、家の外へと出た。
 目の前には広大な庭が広がっていて、使用人たちが忙しそうに移動している。俺が移動した先は庭の隅の方にある訓練場。
 兵士たちが使うものではなく、普段俺が父に剣の稽古をつけてもらっているエリアだ。ここは整備されていて、雑草などは生えてなく、むき出しの地面が見える。
 心地よく吹いた風に少しだけ心も落ち着いてくると、改めて現実の困難な問題を理解させられる。

 ……いくら俺が、それなりのスペックだったとしても……俺はこれから勇者の力なしで、理不尽なボス連中を討伐する必要がある。
 気を引き締めろ、俺。

『アイテムボックスも使えるんだな』
『正式名称はインベントリですね。アイテムなどをしまっておく機能があった方がいいでしょう?』
『ま、そうだな』

 ゲームなどでは当たり前のように大量のアイテムを所持しているが、俺もそれはできるようだ。心の中で一つ安堵の息を吐く。
 これがあるだけで、だいぶ変わる。ただ、今の状態でできることはこのくらいだ。

 あとはスキルを獲得していかないと何もできないようだ。まあ、仕方ない。早速魔法を使用するためスキル獲得を行おうと思うのだが……スキルボードを展開できない。

 おい、女神。スキルボードがないのにどうやってスキルを獲得していけというんだ。内心での苛立ちが顔に出てしまう。

『すみません……手違いで……』
『……』
『い、一応欲しいジャンルのスキルを思い浮かべれば獲得していけますから……!』

 俺が内心でクレーム入れよっかな? と思っていると女神様が、慌てた様子で反応してくれた。
 まったく……相変わらず、ミスの多い女神様だ。

 女神様はぽりぽりと何かを食っているようだ。俺が天界を念じて見ると、女神様がこたつで横になりながら俺の様子をテレビに映してお菓子を食っていた。
 完全に休日をくつろぐ父親のようにごろんと横になっていて、俺に見られているのに気づいたのか、慌てて正座で背筋を伸ばしている。

 ……こ、この野郎……!
 リモートで仕事していた時の俺みたいなことしやがって……!

 いかん。もう自由に動けるんだから、ポンコツ女神様に構っている場合じゃない。時間にまだまだ余裕があるとはいえ、無駄にはしたくない。

 俺はひりつくようなギリギリの戦いがしたいんじゃない。圧倒的な力で、魔王たちをねじ伏せてやる。心の中で燃え上がる闘志が、俺の身体を突き動かす。
 すべてはマイラブリーシスターを救うため。
 彼女の笑顔を守るために。




 ひとまずゲームで獲得できるスキルボードを脳内で思い出す。全てのキャラクターがスキルポイントさえ使えば全てのスキルを獲得できたはずだ。少なくとも、主人公が仲間にできるキャラクターたちは。

 俺も同じくらいのスペックはあるわけだし、獲得できるはずだ。俺は雷魔法と回復魔法を習得しようと念を込めてみる。……できた、か?

 分からん。獲得できたのであれば、サンダーとヒールが使えるようになっているはずだ。早速、試してみるとしようか。

 魔法を使うため、庭へと出た俺だったが……魔法の使い方は分からない。父曰く、「魔法というのは、才能がなければ使えない」とのことで、特に教えられることはなく、ひたすら剣の稽古をつけられていた。

 ……ゲームみたいに、魔法名を思い浮かべれば使えるのだろうか?

 俺は周りに人がいないのを確認してから、MPを意識し……サンダーを放ってみる。次の瞬間、俺の体内から何かが抜ける感覚のあと、俺の右手から雷の魔法が放たれた。

 僅かに空気を破るような音が響くと、それはまっすぐに地面へと向かい、地面を抉った。ゲームで見たくらいの雷魔法だ。……ただ、まだ少し威力は控えめか? 熟練度の問題かもしれないが、とりあえず使えるな。

『や、やっぱりちょっと【ドラゴニックファンタジー】の世界だと過剰火力ですね……』
『俺としては嬉しい限りだけどな』
『も、もうちょっと……加減とかしてくれませんか?』
『いや? 全力で使っていくが?』
『……で、ですよねぇ』

 ていうか、加減していられないっての。勇者の力で魔王の力を抑え込めない以上、俺は負けバトル設定の魔王たちを倒していかなければならないんだ。

 原作開始前に物語をクリアする、となればこのくらい頭のイかれたチートキャラでなければ難しいだろう。

 魔法が使えて嬉しかった俺は、それから少しサンダーを連発していると、屋敷の方から慌てたように騎士や父たちが駆け寄ってきた。
 皆、血相を変えていて、慌てている様子だ。

 ……やべぇ。テンション上がって何も考えずに使いすぎてしまった。
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