上 下
8 / 58

第8話

しおりを挟む

 【ドラゴニックファンタジー】の世界では、レベル1主人公のHPが50ほどだ。対して、【ファイナルクエスト】のレベル1主人公のHPは500程度。

 初期値だけでも、軽く十倍は違う。その数字を見ただけでも、すでに女神様がどれほどやばいことをしたのかが分かるだろう。
 そして、【ファイナルクエスト】にレベル上限もステータス上限もないが、【ドラゴニックファンタジー】はすべてにおいて上限が決まっている。

 つまりまあ、この世界の人とは根本的に構造が違うのだ。仮に俺が【ファイナルクエスト】の最底辺だとしても、【ドラゴニックファンタジー】の頂点の人よりは強い……と思う。

 まあ、女神様も【ファイナルクエスト】の主要キャラクター並のスペックを持ったモブに転生させてくれたらしいので、そこは心配していなかった。
 少なくとも、無力な存在ではないはずだ。

 とりあえず、現時点でできることを確認していくため、家の外へと出た。
 目の前には広大な庭が広がっていて、使用人たちが忙しそうに移動している。俺が移動した先は庭の隅の方にある訓練場。
 兵士たちが使うものではなく、普段俺が父に剣の稽古をつけてもらっているエリアだ。ここは整備されていて、雑草などは生えてなく、むき出しの地面が見える。
 心地よく吹いた風に少しだけ心も落ち着いてくると、改めて現実の困難な問題を理解させられる。

 ……いくら俺が、それなりのスペックだったとしても……俺はこれから勇者の力なしで、理不尽なボス連中を討伐する必要がある。
 気を引き締めろ、俺。

『アイテムボックスも使えるんだな』
『正式名称はインベントリですね。アイテムなどをしまっておく機能があった方がいいでしょう?』
『ま、そうだな』

 ゲームなどでは当たり前のように大量のアイテムを所持しているが、俺もそれはできるようだ。心の中で一つ安堵の息を吐く。
 これがあるだけで、だいぶ変わる。ただ、今の状態でできることはこのくらいだ。

 あとはスキルを獲得していかないと何もできないようだ。まあ、仕方ない。早速魔法を使用するためスキル獲得を行おうと思うのだが……スキルボードを展開できない。

 おい、女神。スキルボードがないのにどうやってスキルを獲得していけというんだ。内心での苛立ちが顔に出てしまう。

『すみません……手違いで……』
『……』
『い、一応欲しいジャンルのスキルを思い浮かべれば獲得していけますから……!』

 俺が内心でクレーム入れよっかな? と思っていると女神様が、慌てた様子で反応してくれた。
 まったく……相変わらず、ミスの多い女神様だ。

 女神様はぽりぽりと何かを食っているようだ。俺が天界を念じて見ると、女神様がこたつで横になりながら俺の様子をテレビに映してお菓子を食っていた。
 完全に休日をくつろぐ父親のようにごろんと横になっていて、俺に見られているのに気づいたのか、慌てて正座で背筋を伸ばしている。

 ……こ、この野郎……!
 リモートで仕事していた時の俺みたいなことしやがって……!

 いかん。もう自由に動けるんだから、ポンコツ女神様に構っている場合じゃない。時間にまだまだ余裕があるとはいえ、無駄にはしたくない。

 俺はひりつくようなギリギリの戦いがしたいんじゃない。圧倒的な力で、魔王たちをねじ伏せてやる。心の中で燃え上がる闘志が、俺の身体を突き動かす。
 すべてはマイラブリーシスターを救うため。
 彼女の笑顔を守るために。




 ひとまずゲームで獲得できるスキルボードを脳内で思い出す。全てのキャラクターがスキルポイントさえ使えば全てのスキルを獲得できたはずだ。少なくとも、主人公が仲間にできるキャラクターたちは。

 俺も同じくらいのスペックはあるわけだし、獲得できるはずだ。俺は雷魔法と回復魔法を習得しようと念を込めてみる。……できた、か?

 分からん。獲得できたのであれば、サンダーとヒールが使えるようになっているはずだ。早速、試してみるとしようか。

 魔法を使うため、庭へと出た俺だったが……魔法の使い方は分からない。父曰く、「魔法というのは、才能がなければ使えない」とのことで、特に教えられることはなく、ひたすら剣の稽古をつけられていた。

 ……ゲームみたいに、魔法名を思い浮かべれば使えるのだろうか?

 俺は周りに人がいないのを確認してから、MPを意識し……サンダーを放ってみる。次の瞬間、俺の体内から何かが抜ける感覚のあと、俺の右手から雷の魔法が放たれた。

 僅かに空気を破るような音が響くと、それはまっすぐに地面へと向かい、地面を抉った。ゲームで見たくらいの雷魔法だ。……ただ、まだ少し威力は控えめか? 熟練度の問題かもしれないが、とりあえず使えるな。

『や、やっぱりちょっと【ドラゴニックファンタジー】の世界だと過剰火力ですね……』
『俺としては嬉しい限りだけどな』
『も、もうちょっと……加減とかしてくれませんか?』
『いや? 全力で使っていくが?』
『……で、ですよねぇ』

 ていうか、加減していられないっての。勇者の力で魔王の力を抑え込めない以上、俺は負けバトル設定の魔王たちを倒していかなければならないんだ。

 原作開始前に物語をクリアする、となればこのくらい頭のイかれたチートキャラでなければ難しいだろう。

 魔法が使えて嬉しかった俺は、それから少しサンダーを連発していると、屋敷の方から慌てたように騎士や父たちが駆け寄ってきた。
 皆、血相を変えていて、慌てている様子だ。

 ……やべぇ。テンション上がって何も考えずに使いすぎてしまった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...