6 / 58
第6話
しおりを挟む
女神様はどや顔で胸を張り、まるで自分が大手柄を立てたかのように自信満々だ。その姿が余計に腹立たしい。彼女の自信過剰な態度は、俺の苛立ちをさらに煽る。
それでも、怒ってばかりではいけないと思い、俺は努めてやけくそ気味に叫ぶ。
『気を遣ってくれたのは、ありがとな!』
「はい、頑張りました!」
『でも、どっちも、最悪なんだよ!』
『えええ!? なぜですか!?』
『まず俺! 俺は、主人公たちを騙して敵側の魔族に主人公の勇者を売り飛ばすんだよ! そんで、その後魔族たちに殺されんの! あげく、死体をゾンビのように復活させられて、生きる屍としておもちゃのように使われるんだよ!』
『え? ……あ、あれ? そ、そうなんでしたっけ? あっ、あははは……』
『そんでもってなぁ! この世界の主人公の周りってめっちゃ人死にまくるんだよ! 妹にそんな辛い立場を体験させたくはないんだよ……! あー、もう……!』
俺は頭をかきむしるしかない。
俺だけの問題であれば、もう自殺でもしてもう一度【ファイナルクエスト】の世界に転生すれば良かっただろう。あの世界でなら、何度でもやり直せる気がしていた。
だが、妹にまで自殺を強要できない。彼女の無垢な笑顔を思い浮かべるたび、心が痛む。
主人公は物語の都合上、なんだかんだいつも生き残るのだが、親しくなった同行者やゲストキャラクターたちは主人公を生き残らせるためにバンバン死んでいく。
魅力あるキャラとかもどんどん死んでいくため、初見でプレイする人には、「主人公以外は全員死ぬつもりでいろ」と教えるくらいだ。普通に長期でパーティーにいたヒロイン候補も死ぬからな、このゲーム。
『も、もうすでに世界の予定に組み込まれてしまっていて、そちらも修正はできないんですよね……わ、私仕事早いので』
働き者の無能が組織にとって一番の害である。なぜか今、そんな言葉を思い出してしまった。
『……この世界に勇者の力を持った者がいる、と予言されるのは確か俺が二十歳のとき、六年後だよな?』
正確には、俺が十四歳になってからそれなりに経っているので、もう六年もないんだけどな……?
『そ、そういった……特定の誰かが有利になるような情報を教えるわけには……』
出し渋ってきた女神様に、俺は頬を引きつらせながら切り札を出す。
『分かった。じゃあ、俺天界にクレーム入れるわ。担当の女神様があまりにもポンコツなので、どうにかしてくださいって』
『世界の歴史を見てみると、ルーベストさんが二十歳歳のときに、勇者が十歳になり能力の一部が覚醒し、勇者となり……魔王軍に発見され、あちこちを転々としながら生きていくことになるみたいですよ!』
クレームをチラつかせたら、即座に動いてくれたな。安堵の息を吐く間もなく、情報が流れ込む。
この世界の魔王たちは全体的に利口で、RPGにはあるまじき勇者が育ちきる前に殺す、という作戦をとっている。
お約束であるそれを守らない魔王たちの冷酷な計画は、まあ見事っちゃ見事だ。相手したくはないがな。
ただまあ、結局人間たちの希望である勇者は、あちこちで匿ってもらって何とか成長するまで逃げ切るのだが。
……俺が二十歳の時に、勇者は本格的に狙われだす、か。
なら、やることは簡単だな。
『世界の歴史をぶっ壊してやる……!』
『え?』
『勇者が十五歳になるまで……物語本編が開始する前に、物語をエンディングにしてやるって言ってんだよ!』
『……えええ?! い、いやいや! それはダメですよ! 世界がおかしくなっちゃいます!』
『うるせぇ! 妹に苦しい思いをさせるくらいなら、世界の一つや二つ、ぶっ壊したっていいだろ!』
女神様がごちゃごちゃと言っていたが、俺はそれを無視する。
今の俺は能力値だけは、【ファイナルクエスト】の設定を引き継いでいるわけで、これならば何とかなるだろうと思う。自信と不安が交錯する。
魔王は、勇者の力がないと負けバトルになってしまうのだが、【ファイナルクエスト】のキャラクターの能力ならどうにかなるかもしれない。いや、どうにかするんだ。妹のために、世界を救わないと。
【ドラゴニックファンタジー】世界の力だけでは、無謀だとしても……今なら、何とかなるはずだ。希望の光が見えた気がする。
『……女神様。さっきの言っていた、能力値に関して詳しく教えてくれないか?』
『そ、それは――』
『クレーム』
『……す、すべては教えられませんが、部分的には教えます。ほんと、これ以上は無理ですから……っ! 勘弁してください!』
『了解、それじゃあ――』
『あっ! す、すみません! そろそろ、通信制限が――』
ぶちっとホログラムで出現していた女神様が消えた。肝心なときに、使えない女神様だ……。
それでも、怒ってばかりではいけないと思い、俺は努めてやけくそ気味に叫ぶ。
『気を遣ってくれたのは、ありがとな!』
「はい、頑張りました!」
『でも、どっちも、最悪なんだよ!』
『えええ!? なぜですか!?』
『まず俺! 俺は、主人公たちを騙して敵側の魔族に主人公の勇者を売り飛ばすんだよ! そんで、その後魔族たちに殺されんの! あげく、死体をゾンビのように復活させられて、生きる屍としておもちゃのように使われるんだよ!』
『え? ……あ、あれ? そ、そうなんでしたっけ? あっ、あははは……』
『そんでもってなぁ! この世界の主人公の周りってめっちゃ人死にまくるんだよ! 妹にそんな辛い立場を体験させたくはないんだよ……! あー、もう……!』
俺は頭をかきむしるしかない。
俺だけの問題であれば、もう自殺でもしてもう一度【ファイナルクエスト】の世界に転生すれば良かっただろう。あの世界でなら、何度でもやり直せる気がしていた。
だが、妹にまで自殺を強要できない。彼女の無垢な笑顔を思い浮かべるたび、心が痛む。
主人公は物語の都合上、なんだかんだいつも生き残るのだが、親しくなった同行者やゲストキャラクターたちは主人公を生き残らせるためにバンバン死んでいく。
魅力あるキャラとかもどんどん死んでいくため、初見でプレイする人には、「主人公以外は全員死ぬつもりでいろ」と教えるくらいだ。普通に長期でパーティーにいたヒロイン候補も死ぬからな、このゲーム。
『も、もうすでに世界の予定に組み込まれてしまっていて、そちらも修正はできないんですよね……わ、私仕事早いので』
働き者の無能が組織にとって一番の害である。なぜか今、そんな言葉を思い出してしまった。
『……この世界に勇者の力を持った者がいる、と予言されるのは確か俺が二十歳のとき、六年後だよな?』
正確には、俺が十四歳になってからそれなりに経っているので、もう六年もないんだけどな……?
『そ、そういった……特定の誰かが有利になるような情報を教えるわけには……』
出し渋ってきた女神様に、俺は頬を引きつらせながら切り札を出す。
『分かった。じゃあ、俺天界にクレーム入れるわ。担当の女神様があまりにもポンコツなので、どうにかしてくださいって』
『世界の歴史を見てみると、ルーベストさんが二十歳歳のときに、勇者が十歳になり能力の一部が覚醒し、勇者となり……魔王軍に発見され、あちこちを転々としながら生きていくことになるみたいですよ!』
クレームをチラつかせたら、即座に動いてくれたな。安堵の息を吐く間もなく、情報が流れ込む。
この世界の魔王たちは全体的に利口で、RPGにはあるまじき勇者が育ちきる前に殺す、という作戦をとっている。
お約束であるそれを守らない魔王たちの冷酷な計画は、まあ見事っちゃ見事だ。相手したくはないがな。
ただまあ、結局人間たちの希望である勇者は、あちこちで匿ってもらって何とか成長するまで逃げ切るのだが。
……俺が二十歳の時に、勇者は本格的に狙われだす、か。
なら、やることは簡単だな。
『世界の歴史をぶっ壊してやる……!』
『え?』
『勇者が十五歳になるまで……物語本編が開始する前に、物語をエンディングにしてやるって言ってんだよ!』
『……えええ?! い、いやいや! それはダメですよ! 世界がおかしくなっちゃいます!』
『うるせぇ! 妹に苦しい思いをさせるくらいなら、世界の一つや二つ、ぶっ壊したっていいだろ!』
女神様がごちゃごちゃと言っていたが、俺はそれを無視する。
今の俺は能力値だけは、【ファイナルクエスト】の設定を引き継いでいるわけで、これならば何とかなるだろうと思う。自信と不安が交錯する。
魔王は、勇者の力がないと負けバトルになってしまうのだが、【ファイナルクエスト】のキャラクターの能力ならどうにかなるかもしれない。いや、どうにかするんだ。妹のために、世界を救わないと。
【ドラゴニックファンタジー】世界の力だけでは、無謀だとしても……今なら、何とかなるはずだ。希望の光が見えた気がする。
『……女神様。さっきの言っていた、能力値に関して詳しく教えてくれないか?』
『そ、それは――』
『クレーム』
『……す、すべては教えられませんが、部分的には教えます。ほんと、これ以上は無理ですから……っ! 勘弁してください!』
『了解、それじゃあ――』
『あっ! す、すみません! そろそろ、通信制限が――』
ぶちっとホログラムで出現していた女神様が消えた。肝心なときに、使えない女神様だ……。
239
お気に入りに追加
480
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる