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第5話

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「お、お客様……こ、こちらでよろしいでしょうか?」

 私は意識がはっと拡声して、鏡を見る。
 うん、だいぶさっぱりしたわね。
 でも、どうしたんだろう? 店員さん凄い驚いた様子でこちらを見ている。

「どうしたんですか?」
「い、いえ……お客様。その、とても綺麗で美人で……自分で整えておいてあれなんですけど、まるで別人でして」
「ああ、そうなんですね? ありがとうございます」

 今のは営業の言葉ね? 私が綺麗で美人なんてありえない。
 生まれはスラム、城内ではお化けとか、生霊とか散々に言われていたんだからね。

「それで次は服を整えてくれるのよね?」
「は、はい! あなたに似合う最高のものにしますね!」
「いや、別に平民に紛れられるような服でいいですからね?」

 そんな派手な服を選ばれても困る。
 それから、店員とともに別館へと行く。あれ、ここは浴場かしら?

「あれ? 服は?」
「髪を切りましたし、一度お体も洗った方が良いと思いましたので。その間にこちらで何着か服を選ばせていただきます!」
「あー、そうですね。それじゃあ先に風呂に入ってきます」
「はい、どうぞ。こちらで待っていただければ一時間後に迎えに来ますので。あっ、お風呂での時間は気にしないでください。自由に入っていて構いませんからね」
「わかりました」

 店員に別れを告げた後、私は浴場へと向かう。
 個室と全員が利用できる二つに分かれている。
 それほど大きくはないけど、ゆっくりできそうなので個室にした。

 魔石に魔力を込めると、シャワーが出てきた。程よい温度のお湯で髪や体を洗っていく。
 ……こんなにゆっくりシャワーを浴びられるなんていつぶりだろう。

 それから私はお湯を張り、そこにゆっくりとつかった。
 ……はぁ、生き返るぅ。

 この国では熱々の湯に体をつけて入る風呂が一般的だ。王城に入ってから多少勉強したんだけど、他の国ではもっと生ぬるい湯に浸かったり、蒸し風呂などが主らしい。

 でも、私はこの熱々の湯につかるのが好きだった。
 まだ、聖女としての仕事を始める前はこれが本当に楽しみだった。

 仕事を始めてからお風呂に浸かる暇なんてなかったんだけどね……。
 私は舞踏会などでよく流れる歌を歌いながら、お風呂での時間をつぶしていく。

 いつもの如くの感覚で災害視で状況を確認する。
 ぽつりぽつり、小さな災害が生まれ始めている。
 でも、もう私はこれに触れなくてもいいんだ。
 
 そうなると、まるで羽が生えたように体が軽かった。
 自由最高!

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