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第32話
しおりを挟む「よし、それなら、行ってこい。おまえは大丈夫だ」
俺の言葉がどれほどの効果を持つかは分からないが、背中を押すための最後の言葉を伝える。
『はい。今夜、楽しみにしていますね!』
「何言ってんだこんなときに」
いつものが始まった、と思っていたらアイフィが意外そうに目を丸くする。
『え? 夕食の話ですよ? ま、まさかえっちなことを考えていたんですか?』
アイフィはマジでその気はなかったようだ……。
……俺は額に手をやり、恥ずかしさに顔をうなだれるしかない。
「……いや、普通に、ごめん……。いつものが始まったと思っちまったんだ」
『まったく! なんですか! 私が年中脳内ピンクみたいな! 夕食、美味しいもの期待していますね!』
「……そんじゃまあ、焼肉でも奢るよ」
『分かりました! その後のホテルの予約も忘れないでくださいね』
ほら始まったじゃねぇか!
アイフィがそう言って、ボス階層へと向かっていった。
……ただ、結果的にさっきのやり取りで、完全に彼女の緊張はなくなってくれたようだ。
ボス階層。
今、ここに挑戦している冒険者のどれだけがここまで辿り着いたかは分からない。
アイフィは、そんなゴブリンリーダーと対峙していた。
こちらに気づいたゴブリンリーダーは、笑みを浮かべている。
持っている武器は剣。そして、このゴブリンリーダーに技という技はない。
配下召喚と呼ばれる、ゴブリンを召喚する能力はあるが、それはそこまでの脅威にはならない。
剣を抜いたアイフィが、ゴブリンリーダーへと切り掛かる。
アイフィの一撃は、しかし硬化した体に阻まれてしまう。
『がああ!』
ゴブリンリーダーが反撃に剣を振り抜くが、アイフィはそれを最小限の動きでかわし、反撃する。
振り抜いた剣が、ゴブリンリーダーの目を掠め、霧が生まれる。
『ぐ、ああああ!』
ゴブリンリーダーが怒りに狂った方向を上げると、ゴブリンが二体出現する。
……すべて、これまでに見てきた動きの通りだ。
アイフィは完全に、ゴブリンリーダーの動きを網羅し、見切っている。
出現したゴブリンを切りつけて倒し、その懐へと一気に迫る。
ゴブリンリーダーはまだ隙だらけの状態で、アイフィの間合いとなった。
よし……いけ!
俺は出そうになる声を抑える。
不必要な声をあげれば、アイフィを驚かせる。
……何より、俺はあくまで彼女の指導者として、冷静に導く役目があるんだしな。
アイフィと一緒になって喜ぶのはもちろんそうだが、過剰なまでに感情を出してしまうのはまた少し違うだろう。
アイフィが地面を蹴り付け、ゴブリンリーダーへと迫り、剣を連続で振り抜いた。
まったく反応できなかったゴブリンリーダーの体が切り裂かれ、霧となって消えていく。
……後には、ゴブリンリーダーの素材と魔石がドロップし、そして数秒の沈黙。
俺はまだ攻略中の周りの人たちもいるため、その喜びの声は出せず、ぐっと握り拳を固め、喜びを懸命に抑える。
俺の喜びの声が、他の職員のマイクに入り、冒険者たちにまで聞こえてしまい、焦られてしまっては悪いからな。
『……ショウさん!』
画面越しではあるが、アイフィの喜びの声と表情はよく分かる。
嬉しそうに口元を緩めていた彼女に、俺は声をかける。
「ああ、見事だったよ。でも、まだ終わりじゃないからな」
むしろ、これでようやく始まったんだしな。
俺の声に、ぴくりとボルドルが反応した。
……普通ならば気にもならないだろうが、彼はずっとこちらを伺っていたからな。
『そ、そうでしたね! お、奥に行って女神像に祈りを捧げればいいんですよね!?』
「……ああ、そうだよ」
『それじゃあ、行ってきます……』
興奮した声を、抑えきれない様子で叫び、それまでのペース配分も忘れ、駆け出した。
……ま、注意はまた今度だな。
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