上 下
28 / 37

第28話

しおりを挟む

「フラグ立てないでくださいよー」
「決して、珍しくない話なんだよ。もしも、イレギュラーに遭遇した場合は即座に逃亡すること。いいな?」
「はーい。分かってます」
「それじゃあ、早速迷宮攻略をしていくぞ。事前に渡しておいた地図は持ってるな?」
「はい。スマホと紙で用意していますよ」

 すでに、こういった迷宮は何度も挑戦している人がいるため、内部の完成された地図がウェブからダウンロード可能だ。
 大体の人はスマホのアプリに入れておくのだが、万が一、スマホが使えない状況に陥る可能性もあるので、紙の地図も用意しておく。

 Gランク迷宮ならばそこまで広くないので、ここまでしなくてもいい。
 ただまあ、今回は初めての攻略になるので、そういった基本的な部分を教えるという意味でもすべてマニュアル通りにやっていた。
 慣れてきたら、自分なりにやりやすいようにすればいい。

「それじゃあ、アイフィの思う通りに迷宮攻略をしていってくれ」
「分かりました」

 アイフィが前を歩き、俺がその後をついていく。彼女はスマホで迷宮の地図を確認しつつ、歩いていく。

 スタスタとアイフィが歩き、俺がその後ろを追いかけていくと、俺たちの進行方向に霧のようなものが集まっていく。

「……これが、魔物の出現ですか」
「そうだ。迷宮の魔物はこうやって出てくるから、覚えておいてくれ」
「分かりました」

 アイフィが剣を握りしめ、その霧が形になっていくのをじっと見ている。
 霧はやがて魔物へと変化した。
 ゴブリンだ。
 こちらに気づいたゴブリンは、持っていた棍棒を振り上げるようにして威嚇してくる。

「それじゃあ、久しぶりの魔物との戦いだ。やってみてくれ」
「……分かりましたっ」

 彼女は濃い笑みを浮かべ、地面を蹴った。
 ……これまで、あまり戦闘を行っていなかったのだから、色々と溜まっていたものはあるだろう。

 アイフィが剣を抜き、ゴブリンへと飛びかかる。
 速い。
 だが、その直線的な動きを、ゴブリンはかわした。
 そして、ゴブリンが棍棒を振り抜いてくる。
 その反撃に対して、アイフィはじっと様子を眺める。
 ギリギリまで引きつけ、かわす。

「ごぅ!?」
「……」

 ゴブリンは隙だらけであり、アイフィは軽く剣を振って斬りつける。
 アイフィの剣はゴブリンの皮膚を浅く傷つけるだけに留まる。

 ゴブリンはよろめき、斬られた部位からは霧が漏れ出る。
 警戒するように後退したゴブリンを見て、アイフィは何度か剣を振る。

 体の感覚を確かめるような動作だ。
 ……外と迷宮内だと魔力のノリが違うからな。

 自分の体内で使う魔法も、常に迷宮内に満ちる魔力の影響を受け、制御が難しくなる。

 過剰に強化してしまうこともあれば、強化が未熟な場合もある。
 特に、アイフィのように肉体に影響がでるようなものは、少しのズレが大きなズレとなる。

 それを、初めての戦闘でチューニングしているのだろう。
 そこに気づいて、自分で行動しているあたり、アイフィのセンスはさすがだ。
 この迷宮に入った時に魔力の鎧を調整したように、戦闘中での微妙な魔力の変化を調整しているんだ。
 
 いわばこれが、冒険者にとっての準備運動だ。
 アイフィは何度か攻撃の練習をした後で、ゴブリンを仕留めた。

「大丈夫か?」
「はい。……魔法を使う感覚が随分と違ったので、自分で合わせてみたのですが、これで良かったのでしょうか?」
「ああ、それで大丈夫だ。わざわざ教えなくてもそれに気づくなんて、さすがだな」

 ちゃんと褒めてやると、アイフィは嬉しそうに照れている。
 褒める時はちゃんと褒めないと、成長の機会がなくなってしまうからな。

「……まあ、このくらいはしないとですよね。この調子で進んでいきますね」
「ああ。俺のことは気にしなくていいからな。自分のペースで攻略していってくれ」
「分かりました」

 アイフィがこくりと頷き、地図を確認しながら先を進んでいく。
 途中、ゴブリンが出現するが、アイフィは特に何の問題もなく、戦闘をこなしていく。

 先を進んでいくと、一体だけではなく、二体、三体とゴブリンの数は増えていく。
 だが、アイフィはそれらも問題なく捌いている。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

木嶋隆太
ファンタジー
ブラック企業の社畜だった俺は気が付けば異世界に転生していた。それも大好きだったゲームの悪役に……。このままでは将来主人公に殺されるという破滅の未来を迎えてしまうため、全力で強くなるための行動を開始する。ゲーム内知識を活かしながら、とにかく、筋トレ! 領民に嫌われたままも嫌なので、優しく! そんなことをしていると、俺の評価がどんどん上がっていっていき、気づけばどこに行っても褒められるような人間へとなっていた。そして、正体隠してあちこちで魔物を狩っていたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまい……おや? 様子がおかしいぞ?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

処理中です...